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齎された衝撃

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ーーどうしたんだろう……。
気の所為か?いや、おそらく気の所為ではない。


デニスはかつての恋人ウェンディ=オウルを見て、そう思わずにはいられなかった。

ーー生活が困窮している……?

暮らしが荒れている訳ではなさそうだ。
古く草臥れてはいるが清潔な衣類に、毎日履いている手入れの行き届いたローファー。

そう。彼女は毎日同じ靴を履き、見たところによると三着のワンピースをローテーションして着ている。

あのオシャレが大好きなウェンディが。

無駄に散財する着道楽ではない。
だが毎月一着、給金の中から衣類や装飾品を購入するのを何よりも楽しみにしている彼女がたった三着しか持っていないようなのだ。

当然バックもいつも同じもの。
ヘアスタイルもいつも工夫を凝らしていたのに今はサイドに一つ結びをしているだけだ。

それに本人はダイエットと午後からの眠気を防ぐ為だと言っていたが明らかに食事の量が少なすぎる。

華奢な体のどこに入るんだと感心するくらいよく食べていたウェンディがだ。
どう見てもダイエットなんて全く必要ない。
元々細かった手首が折れそうなほど儚い。

この男はいちいち細かい事を……とは言ってやってくれるな。
それほどまでにデニスは恋人時代からウェンディの事をよく見て、よく理解していたのだ。

そして今も何かにつけて彼女を目で追ってしまっている。

そんなデニスだからこそ今のウェンディの状態に疑問を抱かずにはいられない。

何か彼女の身に困った事でも起きているのだろうか。
生活苦に追いやられるような。

そう思うとデニスは居ても立っても居られなかった。

今さら自分が彼女に何を言えよう。
だがしかし、だからといって見て見ぬふりは出来なかった。

表立って力になる事はきっと彼女も望んでいないだろう。
だからせめて影から彼女を支える事が出来たら……デニスはそう思った。


そこでデニスはまず、かつて自分も勤めていた地方都市の役所の女性上司に連絡を取った。
その女性上司がウェンディの事をとても可愛がっていたからだ。

デニスとウェンディが別れた経緯も知っている上司には、ウェンディに無断で話すわけにはいかないと言われた。

彼女の言う事は尤もで、デニスもそれは重々承知の上であった。
だがそれでもと今のウェンディの様子を説明し、ようやく言い渋る上司の重い口を開かせたのだ。

何が起きたのか部分的に掻い摘んで話すだけで良いのなら……という条件で。

その上で上司は言った。
話すからには必ずウェンディの力になって欲しいと。
この問題の解決には、ベイカー子爵であり、第二王子の友人でもあるデニスの貴族としての肩書きが必要となるはずだからと。

そして聞いた内容に、デニスは怒りを感じた。

で損壊した美術品の弁償をウェンディがさせられているという事。
しかも証拠はないがそれはウェンディを愛妾にと望む商人ヤコブの仕組んだ罠であったかもしれないというのだ。

ベケスド=ヤコブ、悪い噂しか聞かない商人だ。
そいつの所為でウェンディは貧しい暮らしを余儀なくさせられているというのか。

デニスがあれほど、ベイカー子爵家の負債とは関係ない幸せな人生を送って欲しいと願ったというのに……。

ウェンディがなぜ美術品を壊してしまうに至ったかの原因は上司は詳しくは教えてくれなかったが、何が起きたかだけ知れたのならそれで充分だ。


ーー俺はもう貴族と言っても名ばかりだが、こういう時の為の爵位とコネというパイプラインがある。

デニスはさっそく学友で悪友の第二王子にアポを取った。


その返答待ちの為に終業後もオフィスに残っていたデニスに総務の文官が訪ねて来た。

「あ、良かったぁ…ベイカー卿がまだ残って下さっていて。忙しくて中々手が回らず……。これ、クルト君の貴族学院入学に必要な書類です」

「ああ。ありがとう。近頃はこういう手続きを王宮で出来るから有難いよ」

「王宮勤めであるからこその便宜でもありますよ。福利厚生の一環ですかね?」

「なるほど」

それから総務の文官はまた別の書類を取り出し、デニスに訊ねた。

「ウェンディ=オウルさんのデスクはどこですか?彼女にも渡したい書類があるのですがデスクに置かせて貰おうと思いまして」

「オウル君に?彼女のデスクはあの端だが、何の書類だ?急ぎとかではないのか?」

「いえ?急ぎではないですね。彼女のお子さんが利用している託児所の託児料金免除の書類ですから。満三歳児までのお子さんの場合、申請が必要になってくるんです。オウルさんのお子さんは確か……二歳になったばかりだから、充分時間に余裕があります」

「…………………………………そうか」


デニスは驚き過ぎて声を発する事が出来なかったが、なんとかそれだけは告げる事が出来た。


ーーウェンディの……子ども………?

二歳と言ったか?
二歳になったばかりだと。

デニスは子どもの年齢を逆算して考える。


そして何度計算してもその結論に至った。


齎された衝撃に体が震える。


「俺の………子か………?」



今はもう一人だけ残された部屋の中で、

デニスの声が響いた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


次回、デニスsideです。

今のデニスの現状がわかりますよ。
(クルトっておま、誰やねーん)








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