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まさかの再会
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可愛いシュシュ、
シュシュのパパはねぇ、ママが最初にお勤めした役所の先輩だった人なの。
ママは平民で、シュシュのパパは子爵家の令息っていうやつで。
価値観も違うし考え方も……だからよく衝突したのよ。
でもその度に言葉を尽くして問題を解決しようとする彼の姿に次第に絆されちゃっていったのね。
気付けば恋人同士になっていたわ。
気付けば大好きになっていて……
でもパパはきっとママの事は“大好き”ではなく“好き”程度だったのね。
パパのお兄さんが亡くなって次期子爵とならなければならなくなった時、ママではない他の人と結婚する事を決めたのだから。
ママは別れたくないって泣いてお願いしたけれど、シュシュのパパは「ごめん」とだけ言って、ママの前から居なくなったわ。
ママ、沢山泣いちゃった。
でも泣いて泣いて、泣き疲れちゃった時にシュシュがお腹にいると知ったの。
もうね、ビックリして嬉しくて。
それからは一切泣かなくなったわ。
只々もう幸せで。
なんてこんな話を、いつかあなたにする日が来るんでしょうね………。
と、引っ越したばかりのアパートで娘の寝顔を見ながら
そんなポエミーな事を考えたのがいけなかったのだろうか……。
勤める事になった王宮の公文書作成課でウェンディ=オウル(23)の前に、その“シュシュのパパ”というイキモノが出現した。
デニス=ベイカー(25)。
三年ぶりとなるかつての恋人は、当然ながら三年前よりも更に大人びて精悍な顔立ちになっていた。
相変わらずくそムカつくほど整った顔。
ただ少しやつれただろうか。
苦労してるの?ちゃんと食べてる?
そんな考えが一瞬ウェンディの脳裏を蹂躙したが直ぐにそれを追い出して無感情を装った。
本当は驚きすぎて心臓が口から飛び出しそうになった事など決して気取られぬように。
だって、向こうはなんの表情も変えずにこちらを見ているのだから。
まるで知らない他人のように。
ーー……他人か。そうだ、もう他人なんだから。
ならこちらもそれに倣えばいい。
ウェンディを彼に引き合わせた人事を担当する上官がデニス=ベイカーに言った。
「今日から祐筆として配属される事になったウェンディ=オウル君だ。オウル君、こちらが君の直接的な上官となるデニス=ベイカー卿だ。卿は子爵位を有する方だから、そこのところを弁えて接するように」
人事の文官はトラブルを未然に防ぐ目的か、デニス=ベイカーの身分を告げた。
「承知しました。はじめましてベイカー卿、今日からよろしくお願いします」
ウェンディは淡々とした口調でそう言い、深々と頭を下げた。
「……よろしく」
デニスは端的にそう告げただけで、近くにいた他の文官を呼び寄せた。
そしてその文官にウェンディに細かな仕事内容等を教える旨を指示し、自分のオフィスへと入って行った。
ウェンディはその後も何食わぬ顔をして様々な説明を受け、実際に仕事をして早く慣れるようにと簡単な公文書の清書書きを担当してその日の業務を終えた。
何事も起きなくて良かった。
それはそうだろう。
向こうにとっては何事か起きたら困るに決まっているのだから、このまま素知らぬふりをして仕事をしてゆけばいい。
そう思ったウェンディが帰宅するために部屋を出ようとしたその瞬間、
ガチャりと突然開いた扉から伸びてきた手に腕を掴まれ、そのまま部屋の中へと引き込まれた。
「ヒッ!?」
叫ばずに我慢したのは、その部屋がデニス=ベイカーの個人オフィスだと知っていたから。
大声を出して騒ぎになってはいけないと思えるくらいに冷静でいられたのは腕を引く力が思いの外優しかったからだ。
そして壁と彼の腕の中に捕らえられる形になる。
ウェンディは激しい鼓動を鎮める為に努めて冷静に相手に告げる。
「……突然こんな……何かご用でしょうか?ベイカー卿」
彼に聞かせた事のない硬質なウェンディのその声に、デニスは眉間に深い皺を刻んでこう言った。
「ここに……来たのは偶然か?……ウェンディ」
シュシュのパパはねぇ、ママが最初にお勤めした役所の先輩だった人なの。
ママは平民で、シュシュのパパは子爵家の令息っていうやつで。
価値観も違うし考え方も……だからよく衝突したのよ。
でもその度に言葉を尽くして問題を解決しようとする彼の姿に次第に絆されちゃっていったのね。
気付けば恋人同士になっていたわ。
気付けば大好きになっていて……
でもパパはきっとママの事は“大好き”ではなく“好き”程度だったのね。
パパのお兄さんが亡くなって次期子爵とならなければならなくなった時、ママではない他の人と結婚する事を決めたのだから。
ママは別れたくないって泣いてお願いしたけれど、シュシュのパパは「ごめん」とだけ言って、ママの前から居なくなったわ。
ママ、沢山泣いちゃった。
でも泣いて泣いて、泣き疲れちゃった時にシュシュがお腹にいると知ったの。
もうね、ビックリして嬉しくて。
それからは一切泣かなくなったわ。
只々もう幸せで。
なんてこんな話を、いつかあなたにする日が来るんでしょうね………。
と、引っ越したばかりのアパートで娘の寝顔を見ながら
そんなポエミーな事を考えたのがいけなかったのだろうか……。
勤める事になった王宮の公文書作成課でウェンディ=オウル(23)の前に、その“シュシュのパパ”というイキモノが出現した。
デニス=ベイカー(25)。
三年ぶりとなるかつての恋人は、当然ながら三年前よりも更に大人びて精悍な顔立ちになっていた。
相変わらずくそムカつくほど整った顔。
ただ少しやつれただろうか。
苦労してるの?ちゃんと食べてる?
そんな考えが一瞬ウェンディの脳裏を蹂躙したが直ぐにそれを追い出して無感情を装った。
本当は驚きすぎて心臓が口から飛び出しそうになった事など決して気取られぬように。
だって、向こうはなんの表情も変えずにこちらを見ているのだから。
まるで知らない他人のように。
ーー……他人か。そうだ、もう他人なんだから。
ならこちらもそれに倣えばいい。
ウェンディを彼に引き合わせた人事を担当する上官がデニス=ベイカーに言った。
「今日から祐筆として配属される事になったウェンディ=オウル君だ。オウル君、こちらが君の直接的な上官となるデニス=ベイカー卿だ。卿は子爵位を有する方だから、そこのところを弁えて接するように」
人事の文官はトラブルを未然に防ぐ目的か、デニス=ベイカーの身分を告げた。
「承知しました。はじめましてベイカー卿、今日からよろしくお願いします」
ウェンディは淡々とした口調でそう言い、深々と頭を下げた。
「……よろしく」
デニスは端的にそう告げただけで、近くにいた他の文官を呼び寄せた。
そしてその文官にウェンディに細かな仕事内容等を教える旨を指示し、自分のオフィスへと入って行った。
ウェンディはその後も何食わぬ顔をして様々な説明を受け、実際に仕事をして早く慣れるようにと簡単な公文書の清書書きを担当してその日の業務を終えた。
何事も起きなくて良かった。
それはそうだろう。
向こうにとっては何事か起きたら困るに決まっているのだから、このまま素知らぬふりをして仕事をしてゆけばいい。
そう思ったウェンディが帰宅するために部屋を出ようとしたその瞬間、
ガチャりと突然開いた扉から伸びてきた手に腕を掴まれ、そのまま部屋の中へと引き込まれた。
「ヒッ!?」
叫ばずに我慢したのは、その部屋がデニス=ベイカーの個人オフィスだと知っていたから。
大声を出して騒ぎになってはいけないと思えるくらいに冷静でいられたのは腕を引く力が思いの外優しかったからだ。
そして壁と彼の腕の中に捕らえられる形になる。
ウェンディは激しい鼓動を鎮める為に努めて冷静に相手に告げる。
「……突然こんな……何かご用でしょうか?ベイカー卿」
彼に聞かせた事のない硬質なウェンディのその声に、デニスは眉間に深い皺を刻んでこう言った。
「ここに……来たのは偶然か?……ウェンディ」
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