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とにかく、頑張るしかないわ!
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「これはダメだな。ここの商会の会頭は人使いが荒い。“雑務”と書いてあるが本当に粗野な雑用ばかりさせられて実質肉体労働だ。リル、キミ向けの仕事じゃない」
メイドのサラとギルドに行った次の日、
どういうわけかルベルト様は泰然たる笑みを浮かべながら我が家へやって来た。
そして私がサラと二人で頭を悩ませながらチョイスして持ち帰った数枚の求人票の選別を始めた。
「貴族院議会議員の公設秘書官補佐か……勤め先を求める下位貴族令嬢をマスコットとして侍らせる議員が続出していると聞く。挙げ句、愛人になれと強要してくるそうだ。よってこれは却下だな」
「王立図書館の職員募集か……これなら堅実だ。と言いたいところだが、リルは司書の資格は持っていないよな?この求人票にはほら、ここに※要図書館司書資格と書いてあるよ?残念だ」
「もうっ!なんなのよさっきからダメ出しばっかり!しかも全部納得のいく内容なのが余計に腹立たしいわっ!」
アレもダメ、コレもダメと求人票をバッサバサと斬り捨てていくルベルト様に私は憤慨した。
だけど彼は涼しい顔をして私に言う。
「愛する婚約者の勤め先を吟味するのは当然のことさ。それに、バーキンス子爵からくれぐれも娘を頼むと任されたんだ、信頼を裏切るような真似はできないよ」
「でも、だからといって難癖ばかりつけられたのでは一向に仕事が決まらないわっ」
「難癖じゃない。確かな情報による判断だよ」
「もう!ああ言えばこう言う!」
ホントに食えない人なんだからっ!
そもそも彼と私とでは頭の出来が違うんだから、理路整然と理詰めで返されると反論できないじゃない!
悔しいわ!
第一、私がギルドへ行ったってどうしてわかったの?
弁護士にもなると鼻も利くのかしらっ?
ぷんぷんと頬を膨らませて怒る私を見て逆に頬を緩ませるルベルト様が、私を宥めるように言った。
「まぁまぁそう怒らないで。ほら、コレなんていい条件でリルにぴったりな仕事だと思うよ?」
「え?なにどれどれ?」
いい求人があると聞き、私は嬉しくなってルベルト様が持つ求人票を覗き込んだ。
肩が触れるほど近くなった私の頭の少し上から笑みが零れる声がする。
その求人票には“魔法店 事務員募集”と書かれていた。
「あら事務員?いいわね!でもこんな求人票を取った覚えがないのだけれど……サラがセレクトしてくれていたのかしら?」
住所を見れば王都の一等地に立つ雑居ビルの一階に店を構える魔法店で、採用条件の概要に【常識的な事務や経理ができる人材募集”と記載されていた。
ん?常識的な事務と経理って?
「この店はオープンしてまだ数ヶ月なんだけど、魔術師のオーナーとその夫人が切り盛りしている店なんだ。二人ともとても良い人柄で経営も堅実だ。だけど魔術師という人種に多く見られる独特な感性と個性を持っていて……」
「言い方を変えると常識に欠けている、ということね」
「まぁそうなるね。常識的な事務や経理と書かれてあるけど要は一般的な事務ができればそれでいいんだ」
「なるほど。……って、やけに詳しいわね」
スラスラと店の内情を語るルベルト様を不審に思い、彼にそう尋ねてみる。
するとルベルト様は彼の高い顔面偏差値に慣れてい私でも見蕩れるような紳士スマイルで答えた。
「だってその魔法店とウチの事務所が一緒のビルだからね」
「え、」
ルベルト様の言葉を聞き、私は改めて店の住所を確認した。
それは確かにルベルト様が勤める魔法律事務所が入るビルと同じものだった。
「こ、これは……「凄い偶然だね」」
偶然なの?と問いただしたくなる私の言葉に被せるようにルベルト様がそう言った。
本当に偶然なのかしら……?
「ほらリル、他の内容も見てごらんよ。勤務時間は午前十時から午後十五時まで。土日祝休みで賞与アリ、だよ。こんないい条件の職場はそうは見つからないと思うなぁ?」
「くっ……た、確かにいい条件だわっ……でも、でもなんか釈然としないのよねっ……」
「リル、一時の感情で物事を見誤ってはいけないよ。瑣末なことに気を取られて好機を見逃すのはもったいない」
「それはそうなんだけどっ……」
なんだか全てが彼の思うツボになっているようで悔しいわ。
でも背に腹はかえられない。
私は一日でも早く職を得て自立したいの。
そうね、贅沢は言っていられないわ。
せっかく私にぴったりな条件の仕事場が見つかったんだもの。
とにかく、頑張ってみるしかない!
と、いうわけで、
私はさっそくその魔法店の面接を受け、あれよあれよと就職が決まったのだった。
───────────────────
ちなみに……その魔法店が開店するにあたり、法的な届け出等の仕事を請け負ったのはルベルトだった……らしい。
メイドのサラとギルドに行った次の日、
どういうわけかルベルト様は泰然たる笑みを浮かべながら我が家へやって来た。
そして私がサラと二人で頭を悩ませながらチョイスして持ち帰った数枚の求人票の選別を始めた。
「貴族院議会議員の公設秘書官補佐か……勤め先を求める下位貴族令嬢をマスコットとして侍らせる議員が続出していると聞く。挙げ句、愛人になれと強要してくるそうだ。よってこれは却下だな」
「王立図書館の職員募集か……これなら堅実だ。と言いたいところだが、リルは司書の資格は持っていないよな?この求人票にはほら、ここに※要図書館司書資格と書いてあるよ?残念だ」
「もうっ!なんなのよさっきからダメ出しばっかり!しかも全部納得のいく内容なのが余計に腹立たしいわっ!」
アレもダメ、コレもダメと求人票をバッサバサと斬り捨てていくルベルト様に私は憤慨した。
だけど彼は涼しい顔をして私に言う。
「愛する婚約者の勤め先を吟味するのは当然のことさ。それに、バーキンス子爵からくれぐれも娘を頼むと任されたんだ、信頼を裏切るような真似はできないよ」
「でも、だからといって難癖ばかりつけられたのでは一向に仕事が決まらないわっ」
「難癖じゃない。確かな情報による判断だよ」
「もう!ああ言えばこう言う!」
ホントに食えない人なんだからっ!
そもそも彼と私とでは頭の出来が違うんだから、理路整然と理詰めで返されると反論できないじゃない!
悔しいわ!
第一、私がギルドへ行ったってどうしてわかったの?
弁護士にもなると鼻も利くのかしらっ?
ぷんぷんと頬を膨らませて怒る私を見て逆に頬を緩ませるルベルト様が、私を宥めるように言った。
「まぁまぁそう怒らないで。ほら、コレなんていい条件でリルにぴったりな仕事だと思うよ?」
「え?なにどれどれ?」
いい求人があると聞き、私は嬉しくなってルベルト様が持つ求人票を覗き込んだ。
肩が触れるほど近くなった私の頭の少し上から笑みが零れる声がする。
その求人票には“魔法店 事務員募集”と書かれていた。
「あら事務員?いいわね!でもこんな求人票を取った覚えがないのだけれど……サラがセレクトしてくれていたのかしら?」
住所を見れば王都の一等地に立つ雑居ビルの一階に店を構える魔法店で、採用条件の概要に【常識的な事務や経理ができる人材募集”と記載されていた。
ん?常識的な事務と経理って?
「この店はオープンしてまだ数ヶ月なんだけど、魔術師のオーナーとその夫人が切り盛りしている店なんだ。二人ともとても良い人柄で経営も堅実だ。だけど魔術師という人種に多く見られる独特な感性と個性を持っていて……」
「言い方を変えると常識に欠けている、ということね」
「まぁそうなるね。常識的な事務や経理と書かれてあるけど要は一般的な事務ができればそれでいいんだ」
「なるほど。……って、やけに詳しいわね」
スラスラと店の内情を語るルベルト様を不審に思い、彼にそう尋ねてみる。
するとルベルト様は彼の高い顔面偏差値に慣れてい私でも見蕩れるような紳士スマイルで答えた。
「だってその魔法店とウチの事務所が一緒のビルだからね」
「え、」
ルベルト様の言葉を聞き、私は改めて店の住所を確認した。
それは確かにルベルト様が勤める魔法律事務所が入るビルと同じものだった。
「こ、これは……「凄い偶然だね」」
偶然なの?と問いただしたくなる私の言葉に被せるようにルベルト様がそう言った。
本当に偶然なのかしら……?
「ほらリル、他の内容も見てごらんよ。勤務時間は午前十時から午後十五時まで。土日祝休みで賞与アリ、だよ。こんないい条件の職場はそうは見つからないと思うなぁ?」
「くっ……た、確かにいい条件だわっ……でも、でもなんか釈然としないのよねっ……」
「リル、一時の感情で物事を見誤ってはいけないよ。瑣末なことに気を取られて好機を見逃すのはもったいない」
「それはそうなんだけどっ……」
なんだか全てが彼の思うツボになっているようで悔しいわ。
でも背に腹はかえられない。
私は一日でも早く職を得て自立したいの。
そうね、贅沢は言っていられないわ。
せっかく私にぴったりな条件の仕事場が見つかったんだもの。
とにかく、頑張ってみるしかない!
と、いうわけで、
私はさっそくその魔法店の面接を受け、あれよあれよと就職が決まったのだった。
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ちなみに……その魔法店が開店するにあたり、法的な届け出等の仕事を請け負ったのはルベルトだった……らしい。
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