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職業婦人になってみせます!
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前日に私が予言(ではないわね)した通りになったことにより、ルベルト様は仕事帰りに我が家へ飛んで来た。
いつも冷静な彼にしては珍しく、訪いの先触れと同時に来てしまうほど大慌てな様子で。
(先触れの意味が無いでしょう)
そして居間に通されて私が来るのを待っていたルベルト様が、私の姿を見るなり詰め寄って来る。
「リル、キミが言った通りになってしまった……!とにかくこれは尋常なことじゃないよ。だから頼むリル、迂闊な行動は控えて大人しくしていてくれ……闇雲に動いては危険だ」
見れば彼は額に汗を滲ませ、酷い顔色をしながら焦燥感を顕にしている。
「どうして?どうせ婚約者でもなんでも無くなるんだから私のことなんて放っておけばいいじゃない」
「前世の俺が最低なクズ野郎だったとしても、今の俺はキミを手放すつもりはないよ」
「でも数ヶ月後の貴方は手放すのよ。アラベラさんと結ばれたいからと、そう言って……」
いやだわ……自分で言っていて悲しくなってくる。
この気持ちは前世の記憶ではなく、彼を愛している今の私の感情ね。
どんなに望んでもルベルト様とは結ばれない。
彼が選ぶのは別の人だから。
ルベルト様の反応から窺うと、今現在の彼はアラベラさんにそこまで特別な感情は抱いていないのかしら。
でも人の心とは移ろいやすいものだと前世で嫌というほど学んだわ。
前世の記憶が無いルベルト様が突然過去の事実を突きつけられて混乱に陥るのはよくわかる。
気の毒だと思うし、いきなり拒絶するばかりの対応をとって申し訳なくも思う。
……だけど私は、今の私の心と命を守ることで精一杯なの。
早く今後の身の振り方を決めて、来るべき日に備えたいし、
早く……早くルベルト様への恋心を捨ててしまいたいの。
今世の私はもう自ら死を選ぶような愚かな選択はしないけれど、それでもやっぱり心は悲鳴をあげている。
どうして?どうして私ではダメなの?
こんなにもルベルト様が好きなのに。
ずっと、ずっとお嫁さんになれる日を楽しみにしていたのに。
このままでは時間の経過と共にお互い辛い思いをするばかりになる。
だから早々に私は嫉妬の苦しみから、そしてルベルト様は私から解放しようとしているのに。
「リルは俺がもうじき別の女性に心を移すと言っているが、俺の心の中にはギッチギチにキミが詰まっているんだ。それなのにそんな簡単に心変わりをすると思うか?」
「そんなこと私に訊かないでよ。こっちが知りたいくらいだわ……それに何よギッチギチって」
なんだかおデブになった気分だわ。
「ギッチギチはギッチギチだ。もう他の人間が入る余地がないほどなのに……俺がマルソーさんを好きになるなんて有り得ない」
「有り得なくても、今はそうでも、いずれそうなるのよ……」
もうダメ。泣きそう。
「リル、前世の俺と今の俺は別人だと考えるのは無理か……?」
「無理よ。前世の記憶が生々しすぎる……」
「じゃあせめて、前世で俺がキミに婚約解消の申し出をした時まで猶予が欲しい。その間に俺がどうなっていくのか見定めてくれないか?」
「べつにいいけど……本当はさっさと婚約解消をした方がいいと思うけど……わかったわ。でも、その間も私はただ黙ってじっとしているつもりはないわよ?職業婦人になるべく職探しをして、そして働き出すから」
「バーキンス子爵の承諾は得ているのか?」
「それはこれから伝えてお願いするわ」
「…………わかった。猶予期間を与えてくれてくれただけでも良しとする。だが、勤め先は俺が大丈夫だと判断した所にしてくれ」
「それはハッキリとしたお返事は致しかねるわ。守れない約束は交わさない主義だから」
私がキッパリとそう答えると、ルベルト様は訝しげに訊ねた。
「じゃあどうやって職を探すつもりなんだ?」
「メイドのサラに協力して貰うわ。一緒に職業ギルドの職業斡旋所に行くつもり。近頃は職業婦人になる下位貴族令嬢のための仕事の斡旋も扱っているらしいから」
「ならばそのギルドの選別だけはこちらでさせてくれ。……足を運んだギルドが正規の仕事だけを請け負う合法ギルドかどうか、リルには分からないだろう?うっかりヤバい仕事ばかりを請け負う闇ギルドに行ったらとんでもない目に遭うぞ」
ルベルト様の言葉を聞き、私は急に不安になってしまった。
や、闇ギルド……そ、そんなものがこの世には存在するのね。
法に触れる仕事なんてした日には、家族や家門の人達に迷惑をかけてしまうものね。
私はコクコクと頷いてルベルト様に返事をした。
「わ、わかったわ。そこはお任せしますっ……」
「良かった……」
ルベルト様がほぅっと安堵のため息を吐く。
そうして、とにかく今後の人生のための私の職探しが始まった。
目指すはきちんとした職を持つ、自立した大人の女性よ。
私は必ず、職業婦人になってみせます!
いつも冷静な彼にしては珍しく、訪いの先触れと同時に来てしまうほど大慌てな様子で。
(先触れの意味が無いでしょう)
そして居間に通されて私が来るのを待っていたルベルト様が、私の姿を見るなり詰め寄って来る。
「リル、キミが言った通りになってしまった……!とにかくこれは尋常なことじゃないよ。だから頼むリル、迂闊な行動は控えて大人しくしていてくれ……闇雲に動いては危険だ」
見れば彼は額に汗を滲ませ、酷い顔色をしながら焦燥感を顕にしている。
「どうして?どうせ婚約者でもなんでも無くなるんだから私のことなんて放っておけばいいじゃない」
「前世の俺が最低なクズ野郎だったとしても、今の俺はキミを手放すつもりはないよ」
「でも数ヶ月後の貴方は手放すのよ。アラベラさんと結ばれたいからと、そう言って……」
いやだわ……自分で言っていて悲しくなってくる。
この気持ちは前世の記憶ではなく、彼を愛している今の私の感情ね。
どんなに望んでもルベルト様とは結ばれない。
彼が選ぶのは別の人だから。
ルベルト様の反応から窺うと、今現在の彼はアラベラさんにそこまで特別な感情は抱いていないのかしら。
でも人の心とは移ろいやすいものだと前世で嫌というほど学んだわ。
前世の記憶が無いルベルト様が突然過去の事実を突きつけられて混乱に陥るのはよくわかる。
気の毒だと思うし、いきなり拒絶するばかりの対応をとって申し訳なくも思う。
……だけど私は、今の私の心と命を守ることで精一杯なの。
早く今後の身の振り方を決めて、来るべき日に備えたいし、
早く……早くルベルト様への恋心を捨ててしまいたいの。
今世の私はもう自ら死を選ぶような愚かな選択はしないけれど、それでもやっぱり心は悲鳴をあげている。
どうして?どうして私ではダメなの?
こんなにもルベルト様が好きなのに。
ずっと、ずっとお嫁さんになれる日を楽しみにしていたのに。
このままでは時間の経過と共にお互い辛い思いをするばかりになる。
だから早々に私は嫉妬の苦しみから、そしてルベルト様は私から解放しようとしているのに。
「リルは俺がもうじき別の女性に心を移すと言っているが、俺の心の中にはギッチギチにキミが詰まっているんだ。それなのにそんな簡単に心変わりをすると思うか?」
「そんなこと私に訊かないでよ。こっちが知りたいくらいだわ……それに何よギッチギチって」
なんだかおデブになった気分だわ。
「ギッチギチはギッチギチだ。もう他の人間が入る余地がないほどなのに……俺がマルソーさんを好きになるなんて有り得ない」
「有り得なくても、今はそうでも、いずれそうなるのよ……」
もうダメ。泣きそう。
「リル、前世の俺と今の俺は別人だと考えるのは無理か……?」
「無理よ。前世の記憶が生々しすぎる……」
「じゃあせめて、前世で俺がキミに婚約解消の申し出をした時まで猶予が欲しい。その間に俺がどうなっていくのか見定めてくれないか?」
「べつにいいけど……本当はさっさと婚約解消をした方がいいと思うけど……わかったわ。でも、その間も私はただ黙ってじっとしているつもりはないわよ?職業婦人になるべく職探しをして、そして働き出すから」
「バーキンス子爵の承諾は得ているのか?」
「それはこれから伝えてお願いするわ」
「…………わかった。猶予期間を与えてくれてくれただけでも良しとする。だが、勤め先は俺が大丈夫だと判断した所にしてくれ」
「それはハッキリとしたお返事は致しかねるわ。守れない約束は交わさない主義だから」
私がキッパリとそう答えると、ルベルト様は訝しげに訊ねた。
「じゃあどうやって職を探すつもりなんだ?」
「メイドのサラに協力して貰うわ。一緒に職業ギルドの職業斡旋所に行くつもり。近頃は職業婦人になる下位貴族令嬢のための仕事の斡旋も扱っているらしいから」
「ならばそのギルドの選別だけはこちらでさせてくれ。……足を運んだギルドが正規の仕事だけを請け負う合法ギルドかどうか、リルには分からないだろう?うっかりヤバい仕事ばかりを請け負う闇ギルドに行ったらとんでもない目に遭うぞ」
ルベルト様の言葉を聞き、私は急に不安になってしまった。
や、闇ギルド……そ、そんなものがこの世には存在するのね。
法に触れる仕事なんてした日には、家族や家門の人達に迷惑をかけてしまうものね。
私はコクコクと頷いてルベルト様に返事をした。
「わ、わかったわ。そこはお任せしますっ……」
「良かった……」
ルベルト様がほぅっと安堵のため息を吐く。
そうして、とにかく今後の人生のための私の職探しが始まった。
目指すはきちんとした職を持つ、自立した大人の女性よ。
私は必ず、職業婦人になってみせます!
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