【完結】今世は長生きするつもりなのでサヨウナラ婚約者さま

キムラましゅろう

文字の大きさ
上 下
6 / 25

職業婦人になってみせます!

しおりを挟む
前日に私が予言(ではないわね)した通りになったことにより、ルベルト様は仕事帰りに我が家へ飛んで来た。

いつも冷静な彼にしては珍しく、訪いの先触れと同時に来てしまうほど大慌てな様子で。
(先触れの意味が無いでしょう)

そして居間に通されて私が来るのを待っていたルベルト様が、私の姿を見るなり詰め寄って来る。

「リル、キミが言った通りになってしまった……!とにかくこれは尋常なことじゃないよ。だから頼むリル、迂闊な行動は控えて大人しくしていてくれ……闇雲に動いては危険だ」

見れば彼は額に汗を滲ませ、酷い顔色をしながら焦燥感を顕にしている。

「どうして?どうせ婚約者でもなんでも無くなるんだから私のことなんて放っておけばいいじゃない」

「前世の俺が最低なクズ野郎だったとしても、今の俺はキミを手放すつもりはないよ」

「でも数ヶ月後の貴方は手放すのよ。アラベラさんと結ばれたいからと、そう言って……」

いやだわ……自分で言っていて悲しくなってくる。
この気持ちは前世の記憶ではなく、彼を愛している今の私の感情ね。

どんなに望んでもルベルト様とは結ばれない。
彼が選ぶのは別の人だから。

ルベルト様の反応から窺うと、今現在の彼はアラベラさんにそこまで特別な感情は抱いていないのかしら。
でも人の心とは移ろいやすいものだと前世で嫌というほど学んだわ。

前世の記憶が無いルベルト様が突然過去の事実を突きつけられて混乱に陥るのはよくわかる。
気の毒だと思うし、いきなり拒絶するばかりの対応をとって申し訳なくも思う。

……だけど私は、今の私の心と命を守ることで精一杯なの。

早く今後の身の振り方を決めて、きたるべき日に備えたいし、
早く……早くルベルト様への恋心を捨ててしまいたいの。

今世の私はもう自ら死を選ぶような愚かな選択はしないけれど、それでもやっぱり心は悲鳴をあげている。

どうして?どうして私ではダメなの?
こんなにもルベルト様が好きなのに。
ずっと、ずっとお嫁さんになれる日を楽しみにしていたのに。

このままでは時間の経過と共にお互い辛い思いをするばかりになる。
だから早々に私は嫉妬の苦しみから、そしてルベルト様は私から解放しようとしているのに。

「リルは俺がもうじき別の女性に心を移すと言っているが、俺の心の中にはギッチギチにキミが詰まっているんだ。それなのにそんな簡単に心変わりをすると思うか?」

「そんなこと私に訊かないでよ。こっちが知りたいくらいだわ……それに何よギッチギチって」

なんだかおデブになった気分だわ。

「ギッチギチはギッチギチだ。もう他の人間が入る余地がないほどなのに……俺がマルソーさんを好きになるなんて有り得ない」

「有り得なくても、今はそうでも、いずれそうなるのよ……」

もうダメ。泣きそう。

「リル、前世の俺と今の俺は別人だと考えるのは無理か……?」

「無理よ。前世の記憶が生々しすぎる……」

「じゃあせめて、前世で俺がキミに婚約解消の申し出をした時まで猶予が欲しい。その間に俺がどうなっていくのか見定めてくれないか?」

「べつにいいけど……本当はさっさと婚約解消をした方がいいと思うけど……わかったわ。でも、その間も私はただ黙ってじっとしているつもりはないわよ?職業婦人になるべく職探しをして、そして働き出すから」

バーキンス子爵お父上の承諾は得ているのか?」

「それはこれから伝えてお願いするわ」

「…………わかった。猶予期間を与えてくれてくれただけでも良しとする。だが、勤め先は俺が大丈夫だと判断した所にしてくれ」

「それはハッキリとしたお返事は致しかねるわ。守れない約束は交わさない主義だから」

私がキッパリとそう答えると、ルベルト様は訝しげに訊ねた。

「じゃあどうやって職を探すつもりなんだ?」

「メイドのサラに協力して貰うわ。一緒に職業ギルドの職業斡旋所に行くつもり。近頃は職業婦人になる下位貴族令嬢のための仕事の斡旋も扱っているらしいから」

「ならばそのギルドの選別だけはこちらでさせてくれ。……足を運んだギルドが正規の仕事だけを請け負う合法ギルドかどうか、リルには分からないだろう?うっかりヤバい仕事ばかりを請け負う闇ギルドに行ったらとんでもない目に遭うぞ」

ルベルト様の言葉を聞き、私は急に不安になってしまった。
や、闇ギルド……そ、そんなものがこの世には存在するのね。
法に触れる仕事なんてした日には、家族や家門の人達に迷惑をかけてしまうものね。

私はコクコクと頷いてルベルト様に返事をした。

「わ、わかったわ。そこはお任せしますっ……」

「良かった……」

ルベルト様がほぅっと安堵のため息を吐く。

そうして、とにかく今後の人生のための私の職探しが始まった。

目指すはきちんとした職を持つ、自立した大人の女性よ。

私は必ず、職業婦人になってみせます!

しおりを挟む
感想 450

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

貴方にはもう何も期待しません〜夫は唯の同居人〜

きんのたまご
恋愛
夫に何かを期待するから裏切られた気持ちになるの。 もう期待しなければ裏切られる事も無い。

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

処理中です...