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婚約者さまがお見舞いに来るそうです
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「え?ルベルト様が?」
「はい。お嬢様のお見舞いに来たいと、そうオーヴェン伯爵家より先触れが参りました」
女性家庭教師のジネット先生への手紙を書き終えた私。
その手紙を届けて欲しいと仲良しのメイドのサラに渡したと同時に、ルベルト様の訪いを告げられた。
どうやら昨日転倒して気絶をしたことがオーヴェン家にも伝わっているらしい。
「どうせもう、お父様がお返事をしているのでしょう?」
「はい、オーヴェン伯爵家の先触れの者に明日ならばと承諾のお返事をなさいました」
「やっぱり」
今朝はもう普通に目を覚まし、どこも体に異常はなくピンピンしている娘を見て判断したのでしょうけど。
(前世の記憶が蘇って大いに泣いたけれど)
「まぁ娘の婚約者が様子を見に行きたいと言ってるんだから断らないわよね。それにしてもルベルト様も昨日の今日で直ぐに来たいだなんて……」
「それだけお嬢様のことをご心配をされているということですよ」
「…………」
そうなのよね。
今世の私は、ルベルト様にかなり気にいられているようなのよね。
今世の私の性格がルベルト様と波長が合うらしく、十四歳で婚約者として初めて引き合わされた時からお互い気の置けない者として仲良くしているの。
まぁ今世も前世も妹的な存在、なんでしょうけれど。
今思えば、ルベルト様って前世の私の性格はあまりお好きではなかったのでしょうね。
……私だって前世の私の性格は嫌いだもの。
よく言えば従順で大人しく慎ましい。
でも悪く言えばいつもオドオドしてあまり自分の意見を言わない、何でも受け身で好意を寄せる相手に依存するタイプ……の人間だったから。
それとは正反対で、彼の“真に愛する”アラベラさんは自立した闊達な女性らしいわ。
……ふん。
なんだかまだ複雑な心境で本当ならルベルト様には会いたくないのだけれど、来ると決まったものを無下に追い返すわけにも行かないわ。
彼と話をするには丁度いい機会なのかもしれない。
問題を先送りにしても、運命の日は着々と近付いているんだもの。
泣いたせいで目が腫れているけれど、明日にはその腫れも治さまっているでしょう。
そうだ、先日新しく新調したワンピースを着よう。
淡いスミレ色の流行りの膝上丈のワンピースを。
スミレの花の小振りのコサージュを髪飾りにして合わせたら素敵なんじゃないかしら。
──……いやだわ、私ったら……
そこまで考えて、私はまだルベルト様に素敵な女性に見られたいと思っていることに気付き、思わず自嘲する。
でもまぁ?一応ルベルト様はまだまだ婚約者なワケだし?
初恋の相手だし?
今も家族を除いてこの世で一番大好きな異性であるわけだから?
出来るだけ綺麗な姿で会いたいと思ってしまうのは、乙女として仕方ないと思うの。
……ふん。
そんなことを考えて、診察を受けた医師の指示通り今日はまだ安静に努めることにした。
それから数時間が経ち、傾いた陽光が西に面した窓から差し込み部屋をオレンジ色に染めはじめた頃。
朝にジネット先生へと宛てた手紙の返信が届いた。
さすが同じ王都に住むだけあって、お返事が早く届くわね。
先生は今、ご病気のお義母さまの看病で忙しい日々を送られている。
それなのに直ぐに返事を書いて届けてくださった先生に感謝だわ。
私は直ぐに封を切り、先生の手紙を読み始めた。
美しく流暢でいてのびのびと書かれた、先生の人柄が滲みでる文字を辿ってゆく。
そこには、手紙と一緒に届けて貰ったお義母様へのお見舞いの品のお礼と、私が打ち明けた前世の記憶のことを全面的に信じる、と書かれていた。
※以下、ジネット先生からの手紙より抜粋
【貴女が突然、かつての記憶を取り戻したのは必然的なものなのだったと解釈しているわ。
その上で、前とは違う人生を歩むことを決意した貴女の選択を、私は全面的に支持します。素晴らしいことだわアイリル。
今の段階ではまだ何も言えないのだけれど、貴女がそうやって再び“アイリル・バーキンス”をやり直すことになったのにはワケがあるの。そしてそれを成し得るために、とある人物の多大な尽力があったことを伝えておきます。前とは違う貴女の性格とその行動がどんな未来を切り開くのか、楽しみにしているわね】
そう綴られたジネット先生の手紙はどこか意味有りげで謎めいたものだったけれど、私の幸せを心から願ってくれている、そんな慈愛に満ち溢れていた。
その手紙が私の背中を後押ししてくれる。
ルベルト様と会って話をして、そこで改めて私の決意を形にするわ。
そうして迎えた次の日。
「リル、派手に転んだって聞いたぞ。大丈夫なのか?」
見舞いの花束や菓子を持って婚約者さまは我が家にやって来た。
「……大丈夫なような?大丈夫じゃないような?」
───────────────────
多大な尽力をした人物とは誰?
そしてやっとこさ婚約者さま登場します。
続きは夜に~。
「はい。お嬢様のお見舞いに来たいと、そうオーヴェン伯爵家より先触れが参りました」
女性家庭教師のジネット先生への手紙を書き終えた私。
その手紙を届けて欲しいと仲良しのメイドのサラに渡したと同時に、ルベルト様の訪いを告げられた。
どうやら昨日転倒して気絶をしたことがオーヴェン家にも伝わっているらしい。
「どうせもう、お父様がお返事をしているのでしょう?」
「はい、オーヴェン伯爵家の先触れの者に明日ならばと承諾のお返事をなさいました」
「やっぱり」
今朝はもう普通に目を覚まし、どこも体に異常はなくピンピンしている娘を見て判断したのでしょうけど。
(前世の記憶が蘇って大いに泣いたけれど)
「まぁ娘の婚約者が様子を見に行きたいと言ってるんだから断らないわよね。それにしてもルベルト様も昨日の今日で直ぐに来たいだなんて……」
「それだけお嬢様のことをご心配をされているということですよ」
「…………」
そうなのよね。
今世の私は、ルベルト様にかなり気にいられているようなのよね。
今世の私の性格がルベルト様と波長が合うらしく、十四歳で婚約者として初めて引き合わされた時からお互い気の置けない者として仲良くしているの。
まぁ今世も前世も妹的な存在、なんでしょうけれど。
今思えば、ルベルト様って前世の私の性格はあまりお好きではなかったのでしょうね。
……私だって前世の私の性格は嫌いだもの。
よく言えば従順で大人しく慎ましい。
でも悪く言えばいつもオドオドしてあまり自分の意見を言わない、何でも受け身で好意を寄せる相手に依存するタイプ……の人間だったから。
それとは正反対で、彼の“真に愛する”アラベラさんは自立した闊達な女性らしいわ。
……ふん。
なんだかまだ複雑な心境で本当ならルベルト様には会いたくないのだけれど、来ると決まったものを無下に追い返すわけにも行かないわ。
彼と話をするには丁度いい機会なのかもしれない。
問題を先送りにしても、運命の日は着々と近付いているんだもの。
泣いたせいで目が腫れているけれど、明日にはその腫れも治さまっているでしょう。
そうだ、先日新しく新調したワンピースを着よう。
淡いスミレ色の流行りの膝上丈のワンピースを。
スミレの花の小振りのコサージュを髪飾りにして合わせたら素敵なんじゃないかしら。
──……いやだわ、私ったら……
そこまで考えて、私はまだルベルト様に素敵な女性に見られたいと思っていることに気付き、思わず自嘲する。
でもまぁ?一応ルベルト様はまだまだ婚約者なワケだし?
初恋の相手だし?
今も家族を除いてこの世で一番大好きな異性であるわけだから?
出来るだけ綺麗な姿で会いたいと思ってしまうのは、乙女として仕方ないと思うの。
……ふん。
そんなことを考えて、診察を受けた医師の指示通り今日はまだ安静に努めることにした。
それから数時間が経ち、傾いた陽光が西に面した窓から差し込み部屋をオレンジ色に染めはじめた頃。
朝にジネット先生へと宛てた手紙の返信が届いた。
さすが同じ王都に住むだけあって、お返事が早く届くわね。
先生は今、ご病気のお義母さまの看病で忙しい日々を送られている。
それなのに直ぐに返事を書いて届けてくださった先生に感謝だわ。
私は直ぐに封を切り、先生の手紙を読み始めた。
美しく流暢でいてのびのびと書かれた、先生の人柄が滲みでる文字を辿ってゆく。
そこには、手紙と一緒に届けて貰ったお義母様へのお見舞いの品のお礼と、私が打ち明けた前世の記憶のことを全面的に信じる、と書かれていた。
※以下、ジネット先生からの手紙より抜粋
【貴女が突然、かつての記憶を取り戻したのは必然的なものなのだったと解釈しているわ。
その上で、前とは違う人生を歩むことを決意した貴女の選択を、私は全面的に支持します。素晴らしいことだわアイリル。
今の段階ではまだ何も言えないのだけれど、貴女がそうやって再び“アイリル・バーキンス”をやり直すことになったのにはワケがあるの。そしてそれを成し得るために、とある人物の多大な尽力があったことを伝えておきます。前とは違う貴女の性格とその行動がどんな未来を切り開くのか、楽しみにしているわね】
そう綴られたジネット先生の手紙はどこか意味有りげで謎めいたものだったけれど、私の幸せを心から願ってくれている、そんな慈愛に満ち溢れていた。
その手紙が私の背中を後押ししてくれる。
ルベルト様と会って話をして、そこで改めて私の決意を形にするわ。
そうして迎えた次の日。
「リル、派手に転んだって聞いたぞ。大丈夫なのか?」
見舞いの花束や菓子を持って婚約者さまは我が家にやって来た。
「……大丈夫なような?大丈夫じゃないような?」
───────────────────
多大な尽力をした人物とは誰?
そしてやっとこさ婚約者さま登場します。
続きは夜に~。
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