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プロローグ 前世の記憶、蘇りました
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なぜ、私はまた私に生まれ変わったのだろう。
大好きだった婚約者に心変わりをされ、その悲しみに耐えられず自害した、哀れで惨めで情けない私に。
しかも今の今まで前世の記憶をすっかり忘れていて、段差に躓き転倒した拍子に思い出すなんて。
きっと転んで体を打ち付けた衝撃が、記憶を呼び覚ますきっかけとなったのでしょうね。
どうせなら忘れたまま、何も知らないままでいられたら幸せだったのに。
…………いいえ。
そんなことはないわ。
だって忘れていても知らなくてもこれから訪れる未来は変わらないんだもの。
今は良好な関係を築けている婚約者であるルベルト・オーヴェン伯爵令息(次男)様。
その彼に、そろそろ結婚式の準備に取り掛かろうという頃になって突然「真に愛する人が出来た」と告げられ、婚約の解消をして欲しいと告げられるという未来が。
前世の私がどれだけ、
「婚約解消なんてイヤです……」
「幼い頃からルベルト様のお嫁さんになるのを夢見て生きてきたの……お願いだから私を捨てないで……!」
と頼んでも縋っても彼は聞き入れてはくれなかった。
元々政略ではない私とルベルト様の婚約。
両家の親たちも自分たちの子供の幸せを切に願っており、気持ちが伴わない婚姻など双方が不幸になるだけだと婚約解消へと踏み切った。
私の父と母にしてみれば、報われない初恋に縛られるよりも、今は辛くともいずれ本当に愛し愛される男性と結ばて幸せになって欲しいと願ってのことだったのだろう。
だけど大好きで大切で、これまで生きた人生の全てだったルベルト様を失い、心が弱りきっていた私にその両親の思いが伝わることはなかった。
全てに絶望し、生きる意味を見い出せなくなった私は……自ら命を絶ったのだった。
転倒して意識を失った私は、そうやって前世の記憶を持って目を覚ました。
たった十八年の、前世の私の短く儚い人生。
それが何故、もう一度やり直すかのように再び同じ私……アイリル・バーキンスとして生を受けたのか。
どうして?どうしてまた私は私として生まれてしまったの……?
悲しい。
どうしようもなく悲しい。
そして……寂しい。
大好きだったのに。
ルベルト様。私はあなたを、本当に愛していたのに。
でも……私たちは結ばれない。私はあなたに、選ばれない。
胸が痛くて苦しくて、ベッドの上で身を起こした私はそのまま膝を抱えて蹲った。
抱えた膝が涙で濡れてゆく。
私は前世の私のために只々、涙を流し続けた。
一体、どのくらい長くそうやって泣いていたのだろう。
夜の闇で蓋をされていたようになっていた窓辺がじんわりと明るみはじめている。
一頻り泣いた私はようやく顔を上げた。
そしてひとりきりの室内で誰に聞かせるともなく、大きなため息と共に吐き出すように言う。
「………はぁ……ハイ、ポエムタイム終りっ……もう終わりよ終わりっ!」
よしよし、充分に悲しんだ。
蘇った前世の記憶の衝撃耐えられず、ほぼ一晩中嘆き悲しみ涙した。
もういい。
もう気が済んだ。
二度目だろうが三度目だろうが、今こうやってまたアイリル・バーキンスとして生を受け、生きているのは確かなのだから仕方ないじゃない。
前世の私が弱かった分、今世の私がその分強くなって私を守らないと!
そう。前世の記憶を取り戻したといえど、今世の私はとても性格が図太く頑丈に出来ていた。
それは偏に私がもの心ついたかな~?ついてないかな~?という幼い頃から住み込みで働いてくれている女性家庭教師のジネット先生のおかげともいえる。
前世ではジネット先生が家庭教師として我が家にやって来たのは私が十歳の頃。
だけど今世ではなぜか私の五歳の誕生日の日に先生自ら「住み込みで働かせてください」と突撃してきたらしい。
西方大陸の最高学府と謳われるハイラント大学で教鞭を執る、幼児教育の権威と呼ばれる教授さまお墨付きの身元証明書を提示されては、お父様も断る理由がなかったらしい。
五歳児に家庭教師。
高い爵位を持つ家なら珍しいことではないけど、我が家は中途半端な(ごめんあそばせ)子爵家。
贅沢だとは思わなくもなかったけれど、当時既にルベルトの生家であるオーヴェン伯爵家との婚約の話が出始めていたので、お父様も将来を見越して踏み切ったらしい。
そうして私は、五歳の頃よりジネット先生にビシバシ、少々の困難くらい屁でも思わないような逞しい令嬢へと教育されたのであった。
打たれ弱く、ひとつ辛いことがあっただけで耐えられないと逃げを打ち、大切な命を粗末にする人間にはならないように。
強く前向きな人間になれるようにと、なんだか先生に性格を改変されたような仕向けられたような?
まぁそのおかげで、辛い前世の記憶が戻ったとしても、こうしてとことん泣いたら気が済んだ……となるくらいふてぶてしく強い人間になれたけど。
「とにかく。前世の記憶が戻ったかぎり、婚約者とはもうこのままの関係ではいられないわね」
ルベルト様との婚約を早々に解消し、次なる人生を歩き始めるために色々と計画を練らなくては。
「今世では必ず長生きをしてみせるわ」
前世の私の分まで必ず。
私は強く、心にそう誓った。
だから、
「だからサヨウナラ、婚約者さま……」
───────────────────
ハジマリマシタヨ新連載。
旧Twitterや著者近況をご覧になって頂けた方はご存知でしょうが、
こちらのお話…本当は読み切りのつもりで書き始めたのですがある程度のところで読み切りの文字数ではなくなることが判明。←オイ
なので読み切りを諦めて短編という形に構成し直しました。
話数は未定。
しばしのお付き合いをよろしくお願いいたします。
(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)ペコリ♡...*゜
大好きだった婚約者に心変わりをされ、その悲しみに耐えられず自害した、哀れで惨めで情けない私に。
しかも今の今まで前世の記憶をすっかり忘れていて、段差に躓き転倒した拍子に思い出すなんて。
きっと転んで体を打ち付けた衝撃が、記憶を呼び覚ますきっかけとなったのでしょうね。
どうせなら忘れたまま、何も知らないままでいられたら幸せだったのに。
…………いいえ。
そんなことはないわ。
だって忘れていても知らなくてもこれから訪れる未来は変わらないんだもの。
今は良好な関係を築けている婚約者であるルベルト・オーヴェン伯爵令息(次男)様。
その彼に、そろそろ結婚式の準備に取り掛かろうという頃になって突然「真に愛する人が出来た」と告げられ、婚約の解消をして欲しいと告げられるという未来が。
前世の私がどれだけ、
「婚約解消なんてイヤです……」
「幼い頃からルベルト様のお嫁さんになるのを夢見て生きてきたの……お願いだから私を捨てないで……!」
と頼んでも縋っても彼は聞き入れてはくれなかった。
元々政略ではない私とルベルト様の婚約。
両家の親たちも自分たちの子供の幸せを切に願っており、気持ちが伴わない婚姻など双方が不幸になるだけだと婚約解消へと踏み切った。
私の父と母にしてみれば、報われない初恋に縛られるよりも、今は辛くともいずれ本当に愛し愛される男性と結ばて幸せになって欲しいと願ってのことだったのだろう。
だけど大好きで大切で、これまで生きた人生の全てだったルベルト様を失い、心が弱りきっていた私にその両親の思いが伝わることはなかった。
全てに絶望し、生きる意味を見い出せなくなった私は……自ら命を絶ったのだった。
転倒して意識を失った私は、そうやって前世の記憶を持って目を覚ました。
たった十八年の、前世の私の短く儚い人生。
それが何故、もう一度やり直すかのように再び同じ私……アイリル・バーキンスとして生を受けたのか。
どうして?どうしてまた私は私として生まれてしまったの……?
悲しい。
どうしようもなく悲しい。
そして……寂しい。
大好きだったのに。
ルベルト様。私はあなたを、本当に愛していたのに。
でも……私たちは結ばれない。私はあなたに、選ばれない。
胸が痛くて苦しくて、ベッドの上で身を起こした私はそのまま膝を抱えて蹲った。
抱えた膝が涙で濡れてゆく。
私は前世の私のために只々、涙を流し続けた。
一体、どのくらい長くそうやって泣いていたのだろう。
夜の闇で蓋をされていたようになっていた窓辺がじんわりと明るみはじめている。
一頻り泣いた私はようやく顔を上げた。
そしてひとりきりの室内で誰に聞かせるともなく、大きなため息と共に吐き出すように言う。
「………はぁ……ハイ、ポエムタイム終りっ……もう終わりよ終わりっ!」
よしよし、充分に悲しんだ。
蘇った前世の記憶の衝撃耐えられず、ほぼ一晩中嘆き悲しみ涙した。
もういい。
もう気が済んだ。
二度目だろうが三度目だろうが、今こうやってまたアイリル・バーキンスとして生を受け、生きているのは確かなのだから仕方ないじゃない。
前世の私が弱かった分、今世の私がその分強くなって私を守らないと!
そう。前世の記憶を取り戻したといえど、今世の私はとても性格が図太く頑丈に出来ていた。
それは偏に私がもの心ついたかな~?ついてないかな~?という幼い頃から住み込みで働いてくれている女性家庭教師のジネット先生のおかげともいえる。
前世ではジネット先生が家庭教師として我が家にやって来たのは私が十歳の頃。
だけど今世ではなぜか私の五歳の誕生日の日に先生自ら「住み込みで働かせてください」と突撃してきたらしい。
西方大陸の最高学府と謳われるハイラント大学で教鞭を執る、幼児教育の権威と呼ばれる教授さまお墨付きの身元証明書を提示されては、お父様も断る理由がなかったらしい。
五歳児に家庭教師。
高い爵位を持つ家なら珍しいことではないけど、我が家は中途半端な(ごめんあそばせ)子爵家。
贅沢だとは思わなくもなかったけれど、当時既にルベルトの生家であるオーヴェン伯爵家との婚約の話が出始めていたので、お父様も将来を見越して踏み切ったらしい。
そうして私は、五歳の頃よりジネット先生にビシバシ、少々の困難くらい屁でも思わないような逞しい令嬢へと教育されたのであった。
打たれ弱く、ひとつ辛いことがあっただけで耐えられないと逃げを打ち、大切な命を粗末にする人間にはならないように。
強く前向きな人間になれるようにと、なんだか先生に性格を改変されたような仕向けられたような?
まぁそのおかげで、辛い前世の記憶が戻ったとしても、こうしてとことん泣いたら気が済んだ……となるくらいふてぶてしく強い人間になれたけど。
「とにかく。前世の記憶が戻ったかぎり、婚約者とはもうこのままの関係ではいられないわね」
ルベルト様との婚約を早々に解消し、次なる人生を歩き始めるために色々と計画を練らなくては。
「今世では必ず長生きをしてみせるわ」
前世の私の分まで必ず。
私は強く、心にそう誓った。
だから、
「だからサヨウナラ、婚約者さま……」
───────────────────
ハジマリマシタヨ新連載。
旧Twitterや著者近況をご覧になって頂けた方はご存知でしょうが、
こちらのお話…本当は読み切りのつもりで書き始めたのですがある程度のところで読み切りの文字数ではなくなることが判明。←オイ
なので読み切りを諦めて短編という形に構成し直しました。
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