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王女の顛末

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魔法生物のウィリスに魔術を掛けて凶暴化させた術者は直ぐに見つかった。

イフちゃんが暴走魔力を焼き尽くした後、
レイブンは瞬時に学園内の出入り口を封鎖した。
術者の逃亡を防ぐためだ。

そして学園内を隈なく捜索させた。

その時に生徒会長室で気絶している術者を見つけたのだ。

犯人は……クルシオ王国第二王女ケイティ殿下だった。

え?なぜ王女殿下が犯人だとわかったのかって?

それは札の魔力残滓ざんしと王女殿下の魔力が一致したのと、

……やはり術の跳ね返りがあったらしく……

王女殿下はアフロヘアーになっていたからだ☆

だ、駄目よ笑っちゃっ!!

王女殿下にとって爆発アフロヘアーなんて悲劇でしかないわっ!!

し、しかも……片眉もチリっとパンチの効いたパーマネントみたいになっていたというのだから……

ぷ……ぷぷぷ☆

駄目っ!!駄目よシュガーっ!!

「笑ってやればいいのよ。散々嫌な目に遭わされたんだから」

「あら?また口に出して言っていた?
どうしてもアフロがツボにハマってしまって……☆だって……申し訳ないじゃない……それに嫌な目に遭った覚えもないし」

「……王女にとってはそれが一番悔しいでしょうね」

「どういうこと?」

「もういいわ。あなたはいつまでもそのままのシュガーでいてね。そのままのシュガーが大好きよ」

「はぅっ……わたしもオリエが大好きっ!」

オリエからの突然の愛の告白に、わたしはトゥンクして抱きついた。
もちろんわたしも愛を叫びながら。

でもそのわたしをオリエから引き剥がす手があった。

「ブン」

婚約者のレイブンが後ろからわたしを引き寄せながら言った。

「シュガー、札を剥がした功労者への謝礼がまだ済んでないよ?」

「まぁそうだったわね。ごめんなさい」

大切な事を忘れていたわ。

次期公爵、将来のわたしの旦那さまにちゃんとお礼を申し上げねば♪

「レイブン様。この度のご尽力、誠に有難う存じま……

わたしが頭を最敬礼の90度近くまで下げようとするのをブンに両肩を掴まれて拒まれた。

「ブンちゃん?」

「シュガー、言葉だけで礼を済ませようと言うのかな?」

「え?他に何か感謝の気持ちを伝える方法ってあったかしら……あ!何かプレゼントを贈るとか?」

「いいね」

「やっぱり!何がいい?お小遣いの範囲内になってしまうけど、なんでもプレゼントするわよ。もし足りなかったらお兄さまをカツアゲするから大丈夫!」

「……お金はかからないものだから大丈夫だよ」

「ホント?良かった……!あら?オリエ、どこに行くの?」

視界の端にオリエが一人部屋を出て行こうとするのが写り、わたしは慌てて声を掛けた。

オリエは半目になって振り向きながらわたし達に言う。

「……お邪魔になりそうな予感がするから退散しようと思って。レイ、私のシュガーにあんまりオイタをしないでよ?」

「俺のシュガーだ」

「ふん」

オリエはツンとして部屋を出て言ってしまった。

レイブンはハリーの方も見遣る。

「……お前も気を利かせてくれていいんだぞ?」

「レイ、いくら婚約者同士でも学生のうちは節度を守らないと駄目だと思うぞ?」

「もう一年もしないうちに夫婦になるんだ」

「レイ……」

「わかってるよ、節度は弁える」

「ホントかな……。シュガー、身の危険を感じたらイフを出すんだぞ」

ミノキケン?ハテ?


わたしが首を傾げると、ハリーはため息を吐きながら部屋を出て行った。

「どういう事かしら?」

わたしは横に立つレイブンを見上げた。

「さあ?それよりシュガー、さっきの謝礼の話だけど……何でもプレゼントしてくれるんだよな?」

「ええ。わたしがプレゼント出来る物であれば」

「シュガーにしか俺に贈れないものかな」

「謎々ね!一体何かしら……」

絶対解き明かしてみせるぞ!と意気込むわたしの顔に影が落ちる。

それに気付いたわたしが見上げると、直ぐ近くにレイブンの顔があった。

そして……


◇◇◇◇◇


「まったく……レイったらわたしのシュガーに如何わしい事をしないといいんだけど」

「大丈夫だろう。……多分」

「多分って……まぁいいわ、それで?王女殿下はどうなるの?」

「跳ね返りで普通の炎ではない熱を受けたんだ。魔症と似ていて、アフロヘアーは戻らないらしい……」

「そこだけは心の底からお気の毒だと思っちゃうわね」

「それがショック過ぎて、王女は寝込んでしまっているらしい」

「そりゃそうよね。それに学園の魔法生物を操って他の生徒を害させようとしたのだもの、王族とはいえ…王族だからこその厳しい処罰を受けるでしょうね」

「だろうな。幽閉されるか修道院送りか……まぁいずれ結果は出るだろう」

「そうね」

「魔法生物の方はどうなったの?ウィリスだったかしら?シュガーのお気に入りの」

「シュガーが懇願して処分は免れたが、流石に学園での飼育は許可出来ないらしい。それでシュガーが引き取る事になったそうだ」

「まぁそうなの、良かったわね……ふふ、道具じゃないけど嫁入り道具がまた一つ増えたわね」

「そうだな。そういえばモリス先生が泣いて喜んでいたそうだ。魔法生物が処分されずに済んで」

「そうでしょうね。シュガーが居てくれて、先生はラッキーだったと思うわ」

「そうだな」


わたしがブンに再び……いや前回の比ではないくらいの茹で海老にされていた時に、オリエとハリーがそんな話をしたとは露知らず。

それから数日後……
ハイト伯爵家に王太子殿下が来訪された。

今回の事での謝罪と王女の処分が決まった事の報告に来られたのだという。

もちろん、ハリーを連れたレイブンも伯爵家にやって来て同席した。

お父さまは大切なお仕事があるとの事で、お兄さまが代わりにわたしと共にお話を伺う事になった。

お兄さまが殿下に礼を執られる。

「王太子殿下におかれましては、この度は当家にわざわざお越し頂き恐悦至極に存じます」

「いや、こちらは詫びに参った方だ。畏まらないで楽にしてくれ」

「お心遣い、痛み入ります」

そう言ってお兄さまは王太子殿下を我が家の賓室へと案内した。

「詫びに来たと言っただろう?こんな良い部屋ではなく普通の応接間でよいのだ」

「そういうわけには参りませんよ」

「昔、散々遊んだ仲じゃないか」

「そうですね、大抵の悪い事は殿下に教わりました」

そう。お兄さまと王太子殿下は幼馴染なのだ。
その関係かわたしの事も可愛がって下さる。

「今回の事は本当に申し訳なかった。害を与えようとした事も、レイブンとの噂を故意に流した事も……」

わたしは殿下に尋ねた。

「様々な噂は王女殿下が流されたという事なのですか?」

「ああ。レイブンと結婚したいが為に。噂で人心を操って外堀を埋めようと画策したようだ……嘆かわしい」

「そうだったんですね」

うーん……
色々と腑に落ちない……
王女殿下はこの世界の主人公ではなかったのかしら?
これが俗に言うバッドエンドというやつ?

神サマはどう思ってるのかしら。

わたしがきちんと悪役令嬢をしなかった所為だと怒っているのかしら。

あれ以来、神サマは夢には現れなくなった。
なんだろう。
妙な気分、なんかスッキリしない。

「愚妹の処断だが……生涯、最北の王領地での幽閉と相成った」

王太子殿下のそのお言葉に、わたしはぎょっとなった。

「えっ?重すぎません?」

「え?重すぎる?」

わたしの反応に、王太子殿下が逆にぎょっとされた。

レイブンがわたしに言う。

「シュガー、王女殿下は王族にあるまじき行いをされた。これは然るべき処分だと俺は思うよ」

「そうかしら……そういうものなの?」

お兄さまもわたしの言葉が意外だったのか言い含める様に言ってきた。

「人の婚約者を奪う為に画策して、上手くいかなかったからと、次はお前に危害を加えようとしたんだぞ?」

「そうね……正しくない事だとはわたしも思うわ……でも」

わたしの感覚が甘いのかしら?
これって言ってもいい事なのかしら……

ぐるぐると思案するわたしの手をレイブンはそっと握ってくれた。
そして落ち着かせるように優しい声色で言ってくれる。

「大丈夫だ。お前の意見をきちんと話してみろ。シュガーにはそれを言う権利があるのだから」

わたしはゆっくりと頷いた。

「罪を犯した者全てに当てはまる事ではないと、わたしも重々承知している事をお伝えした上で、わたしの率直な意見を申し上げてよろしいでしょうか?」

王太子殿下は頷かれた。

「もちろん、なんでも言ってくれ」

「罪の重さにもよりますが……わたしはどんな人にも、一度だけやり直せる機会があるべきだと考えます。当人が本当に反省して、心から悔い、もう二度と同じ過ちを繰り返さないと思える時が来たのなら、その時にもう一度だけ人生を違う形でやり直せる機会。それがあってもいいと思っています」

「しかし、やり直しの機会を与えるとして、罪人が本当に反省しているなどとどうして他人が測れる?反省した態を装って、許されたと同時にまた同じ過ちを繰り返すかもしれないのだぞ?」

「そうですわね。勿論、チャンスがあるかもしれないなどと当人が知らない事が前提の話ですわ。それこそ犯した罪の内容で変わってくると思うのですが、決して生涯許される事はないとされている人間がわざわざ反省している態を取るでしょうか。10年も、20年も、許されないと思い込んでいる人間がそんな無駄な事をするでしょうか?」

「ふむ……」

「もし、もしですよ?もし、何年か経って王女殿下が今回の事を本当に悔やまれる日が来たのなら、その時は“もう一度だけ”の機会を差し上げては頂けないでしょうか?王女殿下もわたし達と同じ17歳です。これで人生が終わってしまうような事はあまりにもお気の毒です。もちろん、反省していないのであればもう一生幽閉されてて下さいませ~ですけどネ」

わたしの考えは甘いのかしら?
綺麗事なのかしら?

こういう難しい事は今度、何百年も生きてる人に聞いてみようっと♪

王太子殿下は少し考え込まれ、そしてわたしに言った。

「シュガー……大人になったなぁ……優しく強く、そしてしなやかな淑女になった。レイブン、お前は幸せ者だぞ」

「はい。私の宝です」

きゃっ♡
宝って、ブンがわたしの事を宝ものだって♡

両頬に手を当ててクネクネするわたしに殿下は再び言った。

「シュガーのその心遣いがいつか妹にも伝わる日が来る事を切に願うよ。何年かはダメかもしれないが、いつかきっと……」

そう言い残し、王太子殿下はハイト家を後にされた。
わたしの願いをお聞き届け下さったようだ。

いつか王女殿下にもやり直しの機会がくればいい。

人生を歩み直せる機会が。

今はそう願わずにはいられなかった。

それから数日後に、第二王女殿下は北の王領地へと送られた。

本人には、王女の身分剥奪と伝えてあるらしい。
王女殿下にとってはゼロからのスタート、頑張って下さい。


さて、今の状態は王女殿下主人公が退場してしまった物語……という事なのだけど、神サマ原作者はどう考えておられるのかしら。

思い通りにいかないシナリオを放置してる……という感じなのかしら?


「放置なんかしてないよ」

「え?アレ?あら?ここは夢の中?」

「いや?キミ、今起きてるだろう?」

「そうよね?でもその声……クレーマーゴッドさんよね?」

今日は休日、時刻は10時すぎ。

自室で本を読んでいる時の事だった。

室内にわたしを悪役令嬢だといった神サマの声が響いた。

「そうだよ。でもクレーマーでも神でもないけどね」

「じゃあどちらさま?」

「キミは完全に僕を忘れているんだね」

「え?」

「まぁいい。成人までに間に合って良かったよ」

「え?」

ふいに直ぐ後ろに何かの気配を感じた。

わたしが振り向くよりも早く、そのがわたしの手を掴む。

その瞬間、どこかに体が引っ張られる感じがした。

そしてその最中に神サマの声が届く。

「チェンジ」と。


わたしが消えた室内には、

また見たこともないようなぬいぐるみが落ちていたそうだ。




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今回シュガーとチェンジでやって来た異世界のぬいぐるみは、テカチュウというこれまた人気のキャラクターだそうな。



 
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