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真正のマジナイ
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「アラ……貴女は確か、ハイト伯爵家のご令嬢でしたわね?」
次の授業の為に教室から移動するわたしの後ろから美しい声が聞こえた。
「ゲ」
わたしが振り返るよりも早く、オリエのその声が小さく聞こえる。
相手にはそれが聞こえていないようで、薔薇の様な微笑みをたたえながらその人は言った。
「ご機嫌よう。私の事は……ご存知かしら?」
女性でも惚れ惚れとするような美しい声に美しい容姿。
我が祖国クルシオ王国第二王女であらせられるケイティ王女殿下がわたしに問いかける。
わたしは学園式の挨拶、軽く膝を折る礼を執った。
「はいもちろん。王女殿下におかれましてはご機嫌麗しく、恐悦至極に存じます」
わたしがそう言うと王女殿下はくすくすと笑った。
「まぁ、学園内でそんなに形式張らなくてもよろしくてよ?ハイト伯爵令嬢は礼節を重んじる方なのですね」
「ハイ、よく言われます♪」
「まあ!おほほほ……噂通りに面白い方なのね……噂といえば、私、貴女には本当に申し訳ないと思っておりますのよ?レイブン様と私の噂でお心を痛めておられるのではないかと……」
王女殿下は辛そうに胸を押さえて、目を伏せがちに仰った。
「?いいえまったく☆」
わたしがそう答えると、王女殿下は一瞬ピクリとして固まられた。
そしてゆっくりとわたしに視線を合わせてこう告げられた。
「……無理をなさらなくてもよろしいのよ?婚約者が他の女性と愛し合っていると聞いたら不安になってしまいますわよね……」
「??いいえ全然」
「……痩せ我慢をなさっているの?」
「ヤセガマン?」
「だって、普通は腹が立ちますでしょう?噂は本当かもしれませんし、ね?」
「でも……ブンが一番好きなのはわたしだって知っておりますから、本当になんとも思わないのです。モチロン、わたしもブンの事が世界で一番好きです♡」
きゃっ♡どうしましょう言っちゃったわ♡
みんなの前でレイブンが大好きって!
恥ずかしくなったわたしがクネクネしていると、
オリエが王女殿下に言った。
「王女殿下、大変失礼致しました。腹が立ちますわよね~?こうも愛される女の余裕を見せつけられると……ハイト嬢になり代わり、お詫びを申し上げますわ」
“愛される女の余裕”
その言葉を聞き、王女殿下の笑みが更に深くなる。
「………その余裕がいつまでも続くといいですわね。それではご機嫌よう」
そう言い残され、王女殿下は後ろに控える大勢の取り巻きと共に去って行く。
ゾロゾロとアリの行列のように続く王女殿下の取り巻きがわたしとオリエの前を睨みながら横切って行った。
どうしてかしら?
不思議ね?と言いながらオリエの方を見ると、
オリエも負けじと顎を最高角度に跳ね上げてツンとしながら、「フンッ!ホントにやな感じっ!行きましょシュガー」と言いながらさっさと歩き出した。
慌てて追いかけるわたしの姿を王女殿下がじっと見ていたなんて、わたしは知らなかった。
「………」
「ケイティ様?あの女をそんなに見て、如何されましたか?」
「……気の毒に、ハイト嬢は知らないのね……」
「何がでしょうか?」
「私とレイブン様は……はっ、いえ、何でもないの。今の言葉は忘れて頂戴ね……」
「……ケイティ様もしや……?」
「言ってやれば良かったのですよ!あの小生意気な変人令嬢に」
「言えないわ、レイブン様にご迷惑がかかるもの……」
「ケイティ様……なんて健気な……!」
「ご安心くださいケイティ様。直接本人に言わなくても、真実はいずれ広まって行きますもの」
「まぁ……どうして広まるのか私にはわかりませんが、あなた方がそう仰るのであればそうなのかもしれませんわね」
「ええ」
「そうですよ」
「まぁ皆さん、お優しいのね……」
◇◇◇◇◇
「オリエ、シュガーの様子はどうだ?何か変わった事は無かったか?」
ランチ休憩の時に、幼馴染であるオリエ=アッペル子爵令嬢に訊くと、彼女はジト目を向けて俺に言った。
「……ランチタイムに呼び出されたかと思ったら、開口一番それですの?貴方の頭の中は本当にシュガーの事しかないのね」
「大切な婚約者だ。当たり前だろ」
「あなた達は少しだけ規格違いですわよ」
「キミだって、婚約者であるハリーの兄上の事は特別に感じるだろう?」
「あくまでも婚約者としてね。私達は両家の為に結ばれた婚約だし」
「でもハリーが言ってたぞ。兄がオリエにぞっこんだって」
「……私だって嫌いではないわ」
それはつまり“好き”という事か。
オリエは昔から素直じゃないところがあるが、
自分の感情に嘘は吐かない。
きっと幸せな花嫁になるのだろう。
同じく幼馴染で、これから傍らで補佐として支えてくれるハリーの生家が安寧なのは良い事だ。
オリエはこれ以上この話題を続けるのが恥ずかしいのかシュガーについて答えた。
「シュガーは変わりないわ。いつも通り、鬱陶しいくらいに元気いっぱいよ」
「そうか」
「貴方はいつも顔面の形状が変わらないから感情を読み取るのは至難の業だけど、今シュガーの事を考えて内心ニヤけているのだけはわかるわ」
「…………そうか」
俺が口元に手を当てて誤魔化しているその時、
学園内の様子を探りに言っていたハリーが戻って来た。
「レイ、奴さん達が動き出したぞ。やはりランチタイムの雑談を利用するみたいだ」
「噂の出所の主要人物は二人の女子生徒だったな」
確認の為に俺が言うと、ハリーは頷いた。
「ああ。準男爵令嬢と豪商の娘だ」
「その二人が崇拝者達の主軸か」
「間違いないな」
俺達の会話にオリエが眉根を寄せて加わって来た。
「二人、何か企んでらっしゃる?まぁ何でもいいけどシュガーの周りがうるさいと、私も落ち着いた学園生活を送れないの。さっさと片付けて頂戴ね」
その言葉に、俺とハリーは顔を見合わせて鷹揚に頷いた。
そしてそのままターゲットが居るという場所へ向かう。
件の令嬢たちはそれぞれ別の場所で、
同じく王女を崇拝する者や、他の生徒達と共に食後のお茶を飲みながら雑談をしていた。
ハリーにはもう一人の豪商の娘の方へと向かって貰い、俺は準男爵令嬢達が囲んでいるテーブルの様子を伺った。
話題の中心にいるのは準男爵令嬢のようだ。
会話の主な内容はやはり第二王女の事だった。
「ケイティ様は本当に素晴らしい方だと思いません?平民とか貴族とか、そんなものを全く気にされず、私たちと平等に接して下さっているのですもの」
準男爵令嬢の言葉に他の皆が頷く。
「ええホントに。時々見せて下さる砕けた表情や話し方が市井におられた時のご苦労も偲ばれて、余計に親しみを感じてしまいますわよね」
「そうですわね。王宮に上がられるまで、本当にご苦労されたと言っておられましたわ。そんなケイティ様だからこそ、卒業後は幸せになって頂きたいのですわ」
「ええ。心からそう思います」
一人の女子生徒の言葉に、テーブルを囲んでいる皆で頷き合っていた。
「でもそれについては大丈夫そうですわよ」
「え?どういう事ですか?」
誰かの問いかけに、準男爵令嬢は口の端を上げてニヤリと微笑んだ。
俺には彼女が何を考えているのか手に取る様にわかる。
ーーここでケイティ王女とワード公子との間に何か決定的な進展があったと匂わせればいいーーと考えているのが。
準男爵令嬢は口を開いた。
今頭に思い浮かんだそれを言葉にして声に出そうとしているのだろう。
しかし、準男爵令嬢の口から溢れ出た言葉は本人の予想を反するものであった。
「ケイティ様とワード公子は本当は想い合っている仲だとかいうのは真っ赤な嘘なんですって。以前から生徒会という繋がりしかない、友人とも呼べない間柄だそうですわよ………………え?」
「え?」
「えぇ?」
「え、それは……どういう…」
話を聞いていた女子生徒達が口をぽかんと空けて見ていた。
準男爵令嬢は、たった今、自分の口から出た言葉が信じられないといった様子だった。
それはそうだろう。
言わば伝えたかった言葉と真逆の内容だったのだから。
「真実を述べたまでですわ……!……?」
また自分の口から正反対の言葉が出て、準男爵令嬢は思わず口を押さえていた。
つまり、彼女はこう言いたかったのだろう。
“いいえ、今言った事は間違いです”と。
準男爵令嬢はその後も必死で自分が伝えたい言葉を紡ごうとする。
「ワード公子は今も昔も婚約者のハイト令嬢だけを想っておられるそうですわ……!」
(ワード公子は本当はケイティ様を想っておられるのですわ)
「それなのにケイティ様が横恋慕して二人の婚約を解消させようと様々な噂を流したのですわっ!」
(違うわ、ケイティ様と公子の真実の愛を語っただけなのよ!)
「やっと本当の事を言えましたわー!」
(そんなウソを言いたいんじゃないのにー!)
彼女のその声は食堂中に響く。
その場にいた生徒たち、ほとんどの者がそれを聞いていた。
今の発言に驚く者、
信じられないと憤慨する者、
しかし王女殿下の最も親しい友人が言うのだから信憑性はあると言う者、
やっぱり単なる噂だと思っていたと言う者と、
実に様々な声が聞こえてくる。
準男爵令嬢は、その後もあたふたとしながら色々と喚いたが、それは全部今までの噂を払拭する言葉ばかりであった。
それはそうだろう。
そうなるように呪をかけたのだから。
先日ハイラムのジェスロに居る、
シュガーの曽祖父であるコルベール卿に伝授して貰った“真正の呪い”。
呪いを掛けた者が望む事柄の真実のみが語られるという。
コルベール卿が自ら構築した術式を用いた呪いのひとつだ。
そんじょそこらの人間に抗えるわけがない。
王女と俺の有りもしない偽りの噂を流そうものなら、その正反対の真実の言葉しか出て来ないように呪いを掛けたのだ。
俺がその呪いを解くまで、
言い回しを変えても他言語を用いても文字にしようとも無駄だ。
全て真実の言葉に置き換えられる。
もう誰の口からも偽りの噂話は語らせない。
顔を真っ青にして半泣きで慌てふためく準男爵令嬢。
その様子を見て、きっとハリーが見張っている豪商の令嬢の方もこれと同じ状態に陥っている事だろうと確信した。
俺は思わず笑みを浮かべる。
……きっとオリエはもっと表情筋を活躍させろ、と言うのだろうが。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ちなみに呪いの効力は大陸全土です。
術者の望む真実を語られる事が目的の呪いなので、範囲は定まられていないのです。
もちろん、それを可能とする術者の魔力が必要ですが。
なんでも☆←の人が足りない分の魔力を分けてくれたそうですよ。
また弟子にカツアゲされたのかしら……?
次の更新は10月5日になります。
申し訳ないです。゚(゚´ω`゚)゚。
でも明日の、
『無関係だった……』の番外編の更新はあります。
よろしくお願いします!
次の授業の為に教室から移動するわたしの後ろから美しい声が聞こえた。
「ゲ」
わたしが振り返るよりも早く、オリエのその声が小さく聞こえる。
相手にはそれが聞こえていないようで、薔薇の様な微笑みをたたえながらその人は言った。
「ご機嫌よう。私の事は……ご存知かしら?」
女性でも惚れ惚れとするような美しい声に美しい容姿。
我が祖国クルシオ王国第二王女であらせられるケイティ王女殿下がわたしに問いかける。
わたしは学園式の挨拶、軽く膝を折る礼を執った。
「はいもちろん。王女殿下におかれましてはご機嫌麗しく、恐悦至極に存じます」
わたしがそう言うと王女殿下はくすくすと笑った。
「まぁ、学園内でそんなに形式張らなくてもよろしくてよ?ハイト伯爵令嬢は礼節を重んじる方なのですね」
「ハイ、よく言われます♪」
「まあ!おほほほ……噂通りに面白い方なのね……噂といえば、私、貴女には本当に申し訳ないと思っておりますのよ?レイブン様と私の噂でお心を痛めておられるのではないかと……」
王女殿下は辛そうに胸を押さえて、目を伏せがちに仰った。
「?いいえまったく☆」
わたしがそう答えると、王女殿下は一瞬ピクリとして固まられた。
そしてゆっくりとわたしに視線を合わせてこう告げられた。
「……無理をなさらなくてもよろしいのよ?婚約者が他の女性と愛し合っていると聞いたら不安になってしまいますわよね……」
「??いいえ全然」
「……痩せ我慢をなさっているの?」
「ヤセガマン?」
「だって、普通は腹が立ちますでしょう?噂は本当かもしれませんし、ね?」
「でも……ブンが一番好きなのはわたしだって知っておりますから、本当になんとも思わないのです。モチロン、わたしもブンの事が世界で一番好きです♡」
きゃっ♡どうしましょう言っちゃったわ♡
みんなの前でレイブンが大好きって!
恥ずかしくなったわたしがクネクネしていると、
オリエが王女殿下に言った。
「王女殿下、大変失礼致しました。腹が立ちますわよね~?こうも愛される女の余裕を見せつけられると……ハイト嬢になり代わり、お詫びを申し上げますわ」
“愛される女の余裕”
その言葉を聞き、王女殿下の笑みが更に深くなる。
「………その余裕がいつまでも続くといいですわね。それではご機嫌よう」
そう言い残され、王女殿下は後ろに控える大勢の取り巻きと共に去って行く。
ゾロゾロとアリの行列のように続く王女殿下の取り巻きがわたしとオリエの前を睨みながら横切って行った。
どうしてかしら?
不思議ね?と言いながらオリエの方を見ると、
オリエも負けじと顎を最高角度に跳ね上げてツンとしながら、「フンッ!ホントにやな感じっ!行きましょシュガー」と言いながらさっさと歩き出した。
慌てて追いかけるわたしの姿を王女殿下がじっと見ていたなんて、わたしは知らなかった。
「………」
「ケイティ様?あの女をそんなに見て、如何されましたか?」
「……気の毒に、ハイト嬢は知らないのね……」
「何がでしょうか?」
「私とレイブン様は……はっ、いえ、何でもないの。今の言葉は忘れて頂戴ね……」
「……ケイティ様もしや……?」
「言ってやれば良かったのですよ!あの小生意気な変人令嬢に」
「言えないわ、レイブン様にご迷惑がかかるもの……」
「ケイティ様……なんて健気な……!」
「ご安心くださいケイティ様。直接本人に言わなくても、真実はいずれ広まって行きますもの」
「まぁ……どうして広まるのか私にはわかりませんが、あなた方がそう仰るのであればそうなのかもしれませんわね」
「ええ」
「そうですよ」
「まぁ皆さん、お優しいのね……」
◇◇◇◇◇
「オリエ、シュガーの様子はどうだ?何か変わった事は無かったか?」
ランチ休憩の時に、幼馴染であるオリエ=アッペル子爵令嬢に訊くと、彼女はジト目を向けて俺に言った。
「……ランチタイムに呼び出されたかと思ったら、開口一番それですの?貴方の頭の中は本当にシュガーの事しかないのね」
「大切な婚約者だ。当たり前だろ」
「あなた達は少しだけ規格違いですわよ」
「キミだって、婚約者であるハリーの兄上の事は特別に感じるだろう?」
「あくまでも婚約者としてね。私達は両家の為に結ばれた婚約だし」
「でもハリーが言ってたぞ。兄がオリエにぞっこんだって」
「……私だって嫌いではないわ」
それはつまり“好き”という事か。
オリエは昔から素直じゃないところがあるが、
自分の感情に嘘は吐かない。
きっと幸せな花嫁になるのだろう。
同じく幼馴染で、これから傍らで補佐として支えてくれるハリーの生家が安寧なのは良い事だ。
オリエはこれ以上この話題を続けるのが恥ずかしいのかシュガーについて答えた。
「シュガーは変わりないわ。いつも通り、鬱陶しいくらいに元気いっぱいよ」
「そうか」
「貴方はいつも顔面の形状が変わらないから感情を読み取るのは至難の業だけど、今シュガーの事を考えて内心ニヤけているのだけはわかるわ」
「…………そうか」
俺が口元に手を当てて誤魔化しているその時、
学園内の様子を探りに言っていたハリーが戻って来た。
「レイ、奴さん達が動き出したぞ。やはりランチタイムの雑談を利用するみたいだ」
「噂の出所の主要人物は二人の女子生徒だったな」
確認の為に俺が言うと、ハリーは頷いた。
「ああ。準男爵令嬢と豪商の娘だ」
「その二人が崇拝者達の主軸か」
「間違いないな」
俺達の会話にオリエが眉根を寄せて加わって来た。
「二人、何か企んでらっしゃる?まぁ何でもいいけどシュガーの周りがうるさいと、私も落ち着いた学園生活を送れないの。さっさと片付けて頂戴ね」
その言葉に、俺とハリーは顔を見合わせて鷹揚に頷いた。
そしてそのままターゲットが居るという場所へ向かう。
件の令嬢たちはそれぞれ別の場所で、
同じく王女を崇拝する者や、他の生徒達と共に食後のお茶を飲みながら雑談をしていた。
ハリーにはもう一人の豪商の娘の方へと向かって貰い、俺は準男爵令嬢達が囲んでいるテーブルの様子を伺った。
話題の中心にいるのは準男爵令嬢のようだ。
会話の主な内容はやはり第二王女の事だった。
「ケイティ様は本当に素晴らしい方だと思いません?平民とか貴族とか、そんなものを全く気にされず、私たちと平等に接して下さっているのですもの」
準男爵令嬢の言葉に他の皆が頷く。
「ええホントに。時々見せて下さる砕けた表情や話し方が市井におられた時のご苦労も偲ばれて、余計に親しみを感じてしまいますわよね」
「そうですわね。王宮に上がられるまで、本当にご苦労されたと言っておられましたわ。そんなケイティ様だからこそ、卒業後は幸せになって頂きたいのですわ」
「ええ。心からそう思います」
一人の女子生徒の言葉に、テーブルを囲んでいる皆で頷き合っていた。
「でもそれについては大丈夫そうですわよ」
「え?どういう事ですか?」
誰かの問いかけに、準男爵令嬢は口の端を上げてニヤリと微笑んだ。
俺には彼女が何を考えているのか手に取る様にわかる。
ーーここでケイティ王女とワード公子との間に何か決定的な進展があったと匂わせればいいーーと考えているのが。
準男爵令嬢は口を開いた。
今頭に思い浮かんだそれを言葉にして声に出そうとしているのだろう。
しかし、準男爵令嬢の口から溢れ出た言葉は本人の予想を反するものであった。
「ケイティ様とワード公子は本当は想い合っている仲だとかいうのは真っ赤な嘘なんですって。以前から生徒会という繋がりしかない、友人とも呼べない間柄だそうですわよ………………え?」
「え?」
「えぇ?」
「え、それは……どういう…」
話を聞いていた女子生徒達が口をぽかんと空けて見ていた。
準男爵令嬢は、たった今、自分の口から出た言葉が信じられないといった様子だった。
それはそうだろう。
言わば伝えたかった言葉と真逆の内容だったのだから。
「真実を述べたまでですわ……!……?」
また自分の口から正反対の言葉が出て、準男爵令嬢は思わず口を押さえていた。
つまり、彼女はこう言いたかったのだろう。
“いいえ、今言った事は間違いです”と。
準男爵令嬢はその後も必死で自分が伝えたい言葉を紡ごうとする。
「ワード公子は今も昔も婚約者のハイト令嬢だけを想っておられるそうですわ……!」
(ワード公子は本当はケイティ様を想っておられるのですわ)
「それなのにケイティ様が横恋慕して二人の婚約を解消させようと様々な噂を流したのですわっ!」
(違うわ、ケイティ様と公子の真実の愛を語っただけなのよ!)
「やっと本当の事を言えましたわー!」
(そんなウソを言いたいんじゃないのにー!)
彼女のその声は食堂中に響く。
その場にいた生徒たち、ほとんどの者がそれを聞いていた。
今の発言に驚く者、
信じられないと憤慨する者、
しかし王女殿下の最も親しい友人が言うのだから信憑性はあると言う者、
やっぱり単なる噂だと思っていたと言う者と、
実に様々な声が聞こえてくる。
準男爵令嬢は、その後もあたふたとしながら色々と喚いたが、それは全部今までの噂を払拭する言葉ばかりであった。
それはそうだろう。
そうなるように呪をかけたのだから。
先日ハイラムのジェスロに居る、
シュガーの曽祖父であるコルベール卿に伝授して貰った“真正の呪い”。
呪いを掛けた者が望む事柄の真実のみが語られるという。
コルベール卿が自ら構築した術式を用いた呪いのひとつだ。
そんじょそこらの人間に抗えるわけがない。
王女と俺の有りもしない偽りの噂を流そうものなら、その正反対の真実の言葉しか出て来ないように呪いを掛けたのだ。
俺がその呪いを解くまで、
言い回しを変えても他言語を用いても文字にしようとも無駄だ。
全て真実の言葉に置き換えられる。
もう誰の口からも偽りの噂話は語らせない。
顔を真っ青にして半泣きで慌てふためく準男爵令嬢。
その様子を見て、きっとハリーが見張っている豪商の令嬢の方もこれと同じ状態に陥っている事だろうと確信した。
俺は思わず笑みを浮かべる。
……きっとオリエはもっと表情筋を活躍させろ、と言うのだろうが。
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ちなみに呪いの効力は大陸全土です。
術者の望む真実を語られる事が目的の呪いなので、範囲は定まられていないのです。
もちろん、それを可能とする術者の魔力が必要ですが。
なんでも☆←の人が足りない分の魔力を分けてくれたそうですよ。
また弟子にカツアゲされたのかしら……?
次の更新は10月5日になります。
申し訳ないです。゚(゚´ω`゚)゚。
でも明日の、
『無関係だった……』の番外編の更新はあります。
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