8 / 15
聖騎士の規則
しおりを挟む
「ねぇフェイトさん、どうしてワタシじゃだめなの?」
「……は?」
フェイト=ウィルソンは自主練のルーティンにしているロードワークから戻り、水場で顔を洗っている時にいきなり声をかけられた。
相手はルゥカの同僚であるメイドのミラという娘である。
「このタオルを使って」
とミラが渡してきたタオルを見て、フェイトは傍らに置いていた自分のタオルを手に取った。
「いい。自分のがある」
そう返して顔を拭いているフェイトを見ながらミラが言った。
「どうしてワタシと付き合ってくれないの?」
「どうしても何も聖騎士の規則に違反する」
「でも中には隠れて恋人と付き合ってる人もいるんでしょ?」
「さあな。他者の事は知らねぇが俺は御免だ」
「でももうすぐ聖女付きになって五年でしよ?じゃあ解禁になるじゃない」
「解禁」
「だってそうでしょ?聖女の聖騎士は五年間は……
「ちょっとミラ!」
ミラがフェイトに告げようとした言葉を遮るようにルゥカの声が辺りに響いた。
フェイトとミラ、二人が話している水飲み場の方へルゥカが走ってやって来る。
「ゲ、また出た」
ミラがうんざりした顔でルゥカを見た。
「ミラ!フェイトにちょっかい出さないでって言ってるじゃない!」
「なんでワタシがあんたの言うことを聞かなきゃいけないわけ?これはワタシとフェイトさんの問題なんだから」
「問題って何よっ、変な言い方しないでよっ」
ミラの言い回しが気に入らないルゥカがムキになって言い返す。
それに割り入るようにフェイトが言った。
「ルゥカお前、菓子食ってたろ?」
「なんでわかるの?」
ルゥカがきょとんとして訊ねると、フェイトはルゥカの手に視線を落として答えた。
「クッキー持ったまんまだから」
自分がクッキーを持ったままで走って来たことに気付き、ルゥカは笑った。
「あ、あらやだホントだわ。ふふ、だって他のメイド仲間にミラがフェイトにちょっかいかけてるって聞いたから。慌てて一目散に飛んで来たの」
そう言いながらルゥカはフェイトの前にクッキーを差し出した。
「ったくお前は」
フェイトはそう言いながら、ルゥカの手から直接クッキーを口にする。
「フェイト、髪が濡れてる。ちゃんと拭かなきゃ」
ルゥカはそう言ってフェイトが首から掛けてたタオルを取って髪を拭いてやった。
フェイトは抵抗する事もなくじっとされるがままになっている。
その一連の様子をジト目で見ながらミラが言った。
「……アンタたち、ホントは付き合ってんじゃないでしょうね?」
「?何を言ってるの?そんなわけないじゃない」
ルゥカがきょとんとして答えると、ミラは更に目を窄めた。
「なんか醸し出してる雰囲気がおかしいのよアンタたちは」
「?だって昔からこうだし。何がおかしいの?」
「幼馴染の雰囲気じゃないって言ってんの!」
「???」
ミラの言う事にいまいち要領を得ないといった様子のルゥカ越しにフェイトが言った。
「規則違反を疑われるような事を言うな」
「なによフェイトさん、規則規則ってそればっか!」
「騎士にとって規則や隊則は絶対だ」
そう答えたフェイトにうっとりとするも、規則という言葉にルゥカは首を傾げる。
「フェイトえらいなぁ。ん?でも規則って?」
「あんた、聖女教会に勤めてるくせに規則の事も知らないの?」
「規則があるのは知っているけど、詳しい中身までは知らないもの」
ルゥカがそうミラに答えるとミラは鼻で笑うようにして告げた。
「その様子じゃ、聖女付きの騎士が五年間は結婚は愚か恋愛事を禁止にされてるのなんて、どうせ知らないんでしょ」
「え?そうなの?」
ミラの言葉を受けルゥカがフェイトを見る。
対するフェイトはふい、とルゥカから視線を外した。
「フェイト?」
どういうわけか急に目を合わさなくなったフェイト。
そんな彼に代わり説明すると、
聖女教会が聖騎士の規則にわざわざ新米聖騎士の恋愛をご法度としたのにはそれなりに理由があるようだ。
新たに聖女付きとして任命される聖騎士のほとんどが、十代後半のようやく青年と呼べる歳になったばかりの若者である。
そんな彼らが私生活での恋愛を優先、もしくは言い方が悪いが女の尻を追いかけ回すような事では教会側としては外聞も悪い。
そして尚且つ聖女の警護が疎かになってはいけないという理由で最初の五年間を恋愛ご法度とした、らしいのだ。
まぁようするに五年間は聖騎士としての修業期間とし任務第一に勤めよ、というわけである。
そしてフェイトもそうであるように大概の聖騎士が恋愛ご法度の時期を抜ける頃合いに、結婚適齢期に突入するという仕組みになっているらしい。
今、十数名で編成されている聖女付きの聖騎士の中でフェイトを含め三名が恋愛ご法度中の聖騎士なのである。
「ねぇ?フェイト?どうして言ってくれなかったの?」
後で準則を記した書類にてその事を知るルゥカだが、
気まずそうに顔を背けるフェイトに対し執拗に説明を迫った。
「なんとなくだ」
「え?」
「なんとなく言いそびれたんだよ。それに、規則の事なんかとっくに知ってると思っていたし。あえて口にする必要はないと思ってたんだよ」
「べつに隠す必要なくない?」
「隠してねぇ!」
「そう?」
「そうだよ」
「うーん?」
──知らなかった……フェイトがずっと恋愛禁止で生きてきたなんて。
ずっとルリアンナ様一筋できたのだと思っていたから。
まぁそれでも変わりはないのか。
結果的に規則を守る形となったけれど、フェイトが聖女に心を捧げている事に変わりはないのか。
ルゥカはそう思った。
そんなフェイトがコダネを渡してくれるだろうか。
ルゥカは急に不安になった。
よくわからないけど子供が出来るような大切な種をいくら幼馴染のよしみといって、ルゥカにくれるだろうか。
これは卓越した交渉術を学ばねばならない。
図書館なら交渉術の本がきっとあるはずだ。
次の非番の日にでもまた図書館に行かなくては、と計画を立てるルゥカであった。
「……は?」
フェイト=ウィルソンは自主練のルーティンにしているロードワークから戻り、水場で顔を洗っている時にいきなり声をかけられた。
相手はルゥカの同僚であるメイドのミラという娘である。
「このタオルを使って」
とミラが渡してきたタオルを見て、フェイトは傍らに置いていた自分のタオルを手に取った。
「いい。自分のがある」
そう返して顔を拭いているフェイトを見ながらミラが言った。
「どうしてワタシと付き合ってくれないの?」
「どうしても何も聖騎士の規則に違反する」
「でも中には隠れて恋人と付き合ってる人もいるんでしょ?」
「さあな。他者の事は知らねぇが俺は御免だ」
「でももうすぐ聖女付きになって五年でしよ?じゃあ解禁になるじゃない」
「解禁」
「だってそうでしょ?聖女の聖騎士は五年間は……
「ちょっとミラ!」
ミラがフェイトに告げようとした言葉を遮るようにルゥカの声が辺りに響いた。
フェイトとミラ、二人が話している水飲み場の方へルゥカが走ってやって来る。
「ゲ、また出た」
ミラがうんざりした顔でルゥカを見た。
「ミラ!フェイトにちょっかい出さないでって言ってるじゃない!」
「なんでワタシがあんたの言うことを聞かなきゃいけないわけ?これはワタシとフェイトさんの問題なんだから」
「問題って何よっ、変な言い方しないでよっ」
ミラの言い回しが気に入らないルゥカがムキになって言い返す。
それに割り入るようにフェイトが言った。
「ルゥカお前、菓子食ってたろ?」
「なんでわかるの?」
ルゥカがきょとんとして訊ねると、フェイトはルゥカの手に視線を落として答えた。
「クッキー持ったまんまだから」
自分がクッキーを持ったままで走って来たことに気付き、ルゥカは笑った。
「あ、あらやだホントだわ。ふふ、だって他のメイド仲間にミラがフェイトにちょっかいかけてるって聞いたから。慌てて一目散に飛んで来たの」
そう言いながらルゥカはフェイトの前にクッキーを差し出した。
「ったくお前は」
フェイトはそう言いながら、ルゥカの手から直接クッキーを口にする。
「フェイト、髪が濡れてる。ちゃんと拭かなきゃ」
ルゥカはそう言ってフェイトが首から掛けてたタオルを取って髪を拭いてやった。
フェイトは抵抗する事もなくじっとされるがままになっている。
その一連の様子をジト目で見ながらミラが言った。
「……アンタたち、ホントは付き合ってんじゃないでしょうね?」
「?何を言ってるの?そんなわけないじゃない」
ルゥカがきょとんとして答えると、ミラは更に目を窄めた。
「なんか醸し出してる雰囲気がおかしいのよアンタたちは」
「?だって昔からこうだし。何がおかしいの?」
「幼馴染の雰囲気じゃないって言ってんの!」
「???」
ミラの言う事にいまいち要領を得ないといった様子のルゥカ越しにフェイトが言った。
「規則違反を疑われるような事を言うな」
「なによフェイトさん、規則規則ってそればっか!」
「騎士にとって規則や隊則は絶対だ」
そう答えたフェイトにうっとりとするも、規則という言葉にルゥカは首を傾げる。
「フェイトえらいなぁ。ん?でも規則って?」
「あんた、聖女教会に勤めてるくせに規則の事も知らないの?」
「規則があるのは知っているけど、詳しい中身までは知らないもの」
ルゥカがそうミラに答えるとミラは鼻で笑うようにして告げた。
「その様子じゃ、聖女付きの騎士が五年間は結婚は愚か恋愛事を禁止にされてるのなんて、どうせ知らないんでしょ」
「え?そうなの?」
ミラの言葉を受けルゥカがフェイトを見る。
対するフェイトはふい、とルゥカから視線を外した。
「フェイト?」
どういうわけか急に目を合わさなくなったフェイト。
そんな彼に代わり説明すると、
聖女教会が聖騎士の規則にわざわざ新米聖騎士の恋愛をご法度としたのにはそれなりに理由があるようだ。
新たに聖女付きとして任命される聖騎士のほとんどが、十代後半のようやく青年と呼べる歳になったばかりの若者である。
そんな彼らが私生活での恋愛を優先、もしくは言い方が悪いが女の尻を追いかけ回すような事では教会側としては外聞も悪い。
そして尚且つ聖女の警護が疎かになってはいけないという理由で最初の五年間を恋愛ご法度とした、らしいのだ。
まぁようするに五年間は聖騎士としての修業期間とし任務第一に勤めよ、というわけである。
そしてフェイトもそうであるように大概の聖騎士が恋愛ご法度の時期を抜ける頃合いに、結婚適齢期に突入するという仕組みになっているらしい。
今、十数名で編成されている聖女付きの聖騎士の中でフェイトを含め三名が恋愛ご法度中の聖騎士なのである。
「ねぇ?フェイト?どうして言ってくれなかったの?」
後で準則を記した書類にてその事を知るルゥカだが、
気まずそうに顔を背けるフェイトに対し執拗に説明を迫った。
「なんとなくだ」
「え?」
「なんとなく言いそびれたんだよ。それに、規則の事なんかとっくに知ってると思っていたし。あえて口にする必要はないと思ってたんだよ」
「べつに隠す必要なくない?」
「隠してねぇ!」
「そう?」
「そうだよ」
「うーん?」
──知らなかった……フェイトがずっと恋愛禁止で生きてきたなんて。
ずっとルリアンナ様一筋できたのだと思っていたから。
まぁそれでも変わりはないのか。
結果的に規則を守る形となったけれど、フェイトが聖女に心を捧げている事に変わりはないのか。
ルゥカはそう思った。
そんなフェイトがコダネを渡してくれるだろうか。
ルゥカは急に不安になった。
よくわからないけど子供が出来るような大切な種をいくら幼馴染のよしみといって、ルゥカにくれるだろうか。
これは卓越した交渉術を学ばねばならない。
図書館なら交渉術の本がきっとあるはずだ。
次の非番の日にでもまた図書館に行かなくては、と計画を立てるルゥカであった。
119
お気に入りに追加
2,507
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】わたしは大事な人の側に行きます〜この国が不幸になりますように〜
彩華(あやはな)
恋愛
一つの密約を交わし聖女になったわたし。
わたしは婚約者である王太子殿下に婚約破棄された。
王太子はわたしの大事な人をー。
わたしは、大事な人の側にいきます。
そして、この国不幸になる事を祈ります。
*わたし、王太子殿下、ある方の視点になっています。敢えて表記しておりません。
*ダークな内容になっておりますので、ご注意ください。
ハピエンではありません。ですが、救済はいれました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
婚約破棄された聖女は、愛する恋人との思い出を消すことにした。
石河 翠
恋愛
婚約者である王太子に興味がないと評判の聖女ダナは、冷たい女との結婚は無理だと婚約破棄されてしまう。国外追放となった彼女を助けたのは、美貌の魔術師サリバンだった。
やがて恋人同士になった二人。ある夜、改まったサリバンに呼び出され求婚かと期待したが、彼はダナに自分の願いを叶えてほしいと言ってきた。彼は、ダナが大事な思い出と引き換えに願いを叶えることができる聖女だと知っていたのだ。
失望したダナは思い出を捨てるためにサリバンの願いを叶えることにする。ところがサリバンの願いの内容を知った彼女は彼を幸せにするため賭けに出る。
愛するひとの幸せを願ったヒロインと、世界の平和を願ったヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:4463267)をお借りしています。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】溺愛してくれる夫と離婚なんてしたくない!〜離婚を仕向けるために義父様の配下が私に呪いをかけてきたようですが、治癒魔法で解呪します〜
よどら文鳥
恋愛
公爵家に嫁いだものの、なかなか子供が授からないミリア。
王族にとって子孫ができないことは死活問題だった。
そのため、旦那であるベイルハルトの両親からは離婚するよう圧がかかる。
ミリアもベイルハルトも離れ離れになりたくはなかった。
ミリアは治癒魔法の会得を試みて子供が授かる身体になることを決意した。
だが、治癒魔法は禁呪とも言われ、会得する前に死んでしまうことがほとんどだ。
それでもミリアはベイルハルトとずっと一緒にいたいがために治癒魔法を会得することに。
一方、ミリアに子供が授からないように呪いをかけた魔導師と、その黒幕はミリアが治癒魔法を会得しようとしていることを知って……?
※はじめてのショートショート投稿で、全7話完結です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる