ポンコツ娘は初恋を諦める代わりに彼の子どもを所望する

キムラましゅろう

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ルゥカとフェイト

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ルゥカがフェイトと出会ったのは、街で起きた山崩れがきっかけであった。

現場近くの商店に勤めに出ていた両親は当時まだ五歳だったルゥカを遺し、山崩れに巻き込まれて帰らぬ人となった。

何人もの街の人が山崩れの被害に遭い、そしてその御霊が祀られる事になった街の大きな教会で、祖母に近所の子だと紹介されたのがフェイトだった。

フェイトの年の離れた従兄もその犠牲者であったという。

年はルゥカと同い年。
共に山崩れで大切な人を失ったという共通点、そしてこれからは近所同士になるという事でルゥカとフェイトはすぐに仲良くなった。

その時、慰霊のために街の教会を訪れた当時十三歳だった聖女ルリアンナの祈りを見て感銘を受けたフェイトがぽつりと言った言葉をルゥカは今も覚えている。

「……おれ、しょうらいは、ぱらでぃんになって、せいじょさまをおまもりする……」

五歳だったルゥカには何もわかってなかったけど、
思えばあの時からフェイトは聖女ルリアンナに心を奪われていたのかもしれない。

それからルゥカとフェイトは家が斜向かい同士だった事もあり、兄妹のように育ってきたのだった。

かなり早い段階からルゥカはフェイトに恋心を抱いていた。

フェイトが他の街から来た少し年上の女の子に気に入られた時も全力でその女の子と戦った。
(近所の子はフェイトに絡むとルゥカがうるさいと知っている)

「わたしのフェイトにくっつかないで!」

「なによこのガキんちょ。フェイトくん、こんな子ほっとい行きましょう」

「だめ!フェイトはルゥカといっしょにかえるの!」

「フェイトくんがあなたみたいなちんちくりんと帰るわけないでしょ」

「いやおれルゥカと帰るけど。家近所だし」

「はぁ?」

「にしし……」

と言ったように常にフェイトの側を死守してきたのだ。

しかしそれも十六歳の春、中等教育を終えたと同時に終わりを告げようとしていた。

フェイトが地方騎士団が実施している準騎士の試験に合格し、そのまま王都にある聖女教会の準聖騎士パラディン試験にも見事合格した。

そして王都で聖女に仕えながら、正聖騎士団パラディンを目指す事に決まったのだ。

フェイトに告げられる前にその情報を仕入れたルゥカの行動は早かった。
まず祖母に王都に行かせて欲しいと頼み、そして祖母の伝手で王都の聖女教会のメイドとしての働き口を用意してもらった。

その結果全部引っくるめてフェイトに「私も王都に行くから!」と告げた時にはちょっと喧嘩になったものだ。

「なんでそんな大事な事勝手に決めんだよっ!!お前みたいなポンコツが王都で暮らして何かあったらどうするんだっ!!大人しくここで待ってろ!!」

などとルゥカが王都に来るのが大迷惑みたいな言い方をするものだから、ルゥカもカッとなって言い返した。

「何よっ!元はといえばフェイトが王都に行く事を黙ってるのがいけないんでしょっ!だから私、自分で王都に行けるようにしたんじゃないっ!!」

「黙ってたんじゃないっ!手続きやら何やらを終えてから話すつもりだったんだよっ!!」

「それって出発直前に話すつもりだったって事よねっ?そんなのずるいっ!!」

「だってお前泣くだろがっ!!」

「泣くに決まってるでしょフェイトの馬鹿っ!!」


そうやって口論になったものの、結局は今さら聖女教会のメイド採用を取り消す事は出来ないとルゥカは無理やりフェイトにしがみついて王都へ出たのであった。

それはこのまま離れ離れになったらフェイトと結婚出来ない、という焦りから必死になった結果であったが、四年経った今結局はそれがムダであったとわかったのだ。

幼い頃に聖女に憧れ、
聖女のために聖騎士になり、
聖女の為に人生を捧げると決めたフェイトの側にはもういられない。

ずーっとずーっと一緒に生きてきたが、
とうとう袂を分つ時が来たのだ。

来たのだが………


フェイトに聖女ルリアンナ以外の女が近づくのは今も変わらず許せないルゥカであった。


「あ!ミラったらまたフェイトに絡んで!」


清掃中、バケツの水を替えに廊下を歩いていると、自主訓練中のフェイトにメイド仲間のミラが絡んでいる姿を見かけた。


ルゥカはバケツの水を溢さないようにしながらも急ぎ二人の元へと駆けつける。

「ミラっ!!フェイトにちょっかい出さないでって何度言えばわかるのよっ!」

と抗議するルゥカをミラは鬱陶しそうに見た。

「ゲ、やっぱり来た。何なのアンタ、アンタはフェイトさんのただの幼馴染でしょ?別にアンタに文句言われる筋合いなくない?」

「うっ……筋合いはなくても付き合いはあるからダ、ダメなのっ……!」

「わけわかんない」

「わけわかんなくてもダメなのっ!」

ヤキモチ焼きのルゥカがぷんすこと怒っているとバケツを持っていた手がふいに軽くなった。

「ほら行くぞルゥカ。バケツの水、替えんだろ」

フェイトが重いバケツをルゥカの手から取ったのだ。

「う、うん」

その場から歩き出すフェイトの後をルゥカがついて行く。

ルゥカが来るまでフェイトに話しかけていたミラの声が追いかけて来た。

「待ってよフェイトさん!ねえ一度くらい食事に付き合ってくれてもよくないっ!?」

その言葉に、フェイトは振り向き様に答えた。

「悪い。そういう誘いには応えない事にしてるんだ。他を当たってくれ」

「もう!どうしてっ?フェイトさんっ!!」

納得いかないといったミラの声が裏庭に響いた。

まぁでも聖騎士たちの中ではフェイトが一番のお気に入りであると豪語するミラだ。
簡単に諦める事はないのだろう。

ーールリアンナ様に適うわけがないのに……

ルゥカはミラに少しだけ同情した。が、だからといってフェイトに近づく事は許さないけど。

ーーどうしよう。もう直接フェイトにコダネを頂戴と言ってみる?
でも今貰ってもコウノトリさんに渡す手立てが見つかってないのだから仕方ないか……。

そう考えながら、ルゥカはフェイトの後をちょこちょこと付いて行くのであった。




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