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婚約者が魅了にかかりやがりましたので
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「ダイ先生~もうそんなに食べられません~」
「まだちょこっとしか食べてないじゃないか、ロアならこの三倍は食べるよ?ね、ね、このイチゴのタルトも食べてごらん☆お茶のおかわりは?」
「美味しいけど無理です~食べ過ぎました~太っちゃう~」
かつて通っていた精霊魔術塾の二階の一室で眠っていたチェルカだが、目を覚ました途端に恩師であるイグリード…ここではダイ先生と呼ぼう、そのダイ先生から無限アフタヌーンティーのもてなしを受けていた。
幼い頃から大好きだったダイ先生手作りのスイーツを感激しながら食べていたチェルカだが、さすがにミルクレープにスコーン、キュウリのサンドイッチにクランベリーパイを食べた時点で満腹になってしまった。
それでもワンコソバのようにお皿が空いたら何かしらサーブしてくるダイ先生にギブアップしたのである。
「チェルはもう少し太ってもいいくらいだと思うけどなー☆ねぇ、ちゃんと食べてた?」
「食べてましたよ?ちゃーんと自炊してました」
「なんか……その食事内容は聞かない方がいいような気がする☆じゃあ食べたらどうする?何して遊ぶ?ボードゲーム?トランプ?」
「ダイ先生のそんな子供みたいなところ、昔と全然変わりませんね~。わたし、ゲームよりもこの街を散策したいです」
「あ、なるほど。久しぶりの里帰りだもんね。でもさ~街歩きはロアが連れて行きたがるだろうからな~☆馬車馬のように働いてるロアより先にチェルカを街案内したら、後々の世までネチネチ文句言われそうだな~☆ノチノチネチネチ☆」
「え?」
ダイ先生の言葉に要領を得ないチェルカが聞き返すと、ふいに今話題に名前が上がったロアの声がした。
「誰がネチネチと文句を言うんですか。ネチネチとじゃなくて豪快に文句を言ってやりますよ」
「うわ☆それって罵詈雑言でしょ☆ぷ!おかえり、ロア」
「ロア!」
転移魔法にて突然帰ってきたロアを、チェルカは驚きつつも出迎える。
「おかえりなさい!……あれからどうなった……?」
起きてからスイーツ三昧であったがやはり王宮がどうなったか、チェルカは気になって仕方がなかったのだ。
(それでもしっかりスイーツは食べたが)
ロアは優しい笑みを浮かべて、紙ナプキンでチェルカの口元を拭いてくれた。
「クリームが口の端についてるよ」
「あ……うふふふふ。わたしも子供みたいね。ふふふ」
ダイ先生を子供みたいだと言いながら自分も口元にクリームをつけていたのが可笑しくてチェルカはころころと笑う。
ロアはそんなチェルカを見て、眩しそうに目を細めた。
そして穏やかな口調で告げた。
「王宮内はほとんど片付いた。その話は後でゆっくり話すよ。もうこの後は王太子たちの仕事だ。でも俺は俺でまだ片付けなくてはいけない事がある。だから一旦戻って来たんだ」
「お片付け……?」
「それについてチェルカにきちんと確認したくて。チェルカ、クロビス・アラバスタの魅了がきちんと解けたら、彼との婚約の継続を望むか?」
「え……」
「正直なチェルカの気持ちを教えてくれ。チェルカが魅了が解けたアイツとやり直したいと思うなら、俺はそう出来るように全力で手助けするよ(ホントは悲しいけど)」
ロアがチェルカにそう告げると側でダイ先生が「いよっ☆ロア!漢だね!泣けるね!」と合いの手を入れてきた。
「うるさいぞバルク・イグリード」
ロアがそう言ってダイ先生を睨めつけると、チェルカは首をふるふると振ってロアに答えた。
「わたし……クロビスを許せないとか、そういうのじゃなくて……でも、もう彼を信じることができないの……怖いと思ってしまう。だって全てが魅了のせいだとは思えないから。だから、もう無理……彼と生きてゆきたいと思えない……」
「……わかった。じゃあ婚約解消の件も、俺に任せてくれるな?」
「でも……家同士の結び付きの縁談だもの。貴族院にも正式に認められているものだし……そんな簡単にいかないと思う」
「だから俺が動くんだよ」
「それじゃあロアに甘え過ぎてしまうわ」
チェルカはロアに申し訳なく感じて俯いてしまう。
そんなチェルカにダイ先生は、飄々と言う。
「いいのいいの!これも馬車馬の仕事のひとつなんだから☆何事も適材適所!荒事はロアに任せておけばいいんだよ☆」
「荒事だなんて。俺は紳士的に対応するつもりですよ?」
「その紳士的が怖~い☆」
ロアとダイ先生のやり取りを聞きながらチェルカは考えた。
確かにもうチェルカだけでは問題は解決出来ないと思う。
チェルカがどんなに必死になってもうこの婚約が嫌だと言っても、両家の父親が認めてくれなければどうする事もできない。
夜逃げするか修道院に駆け込むか。それしかクロビスとの結婚を回避する方法はないのだ。
だけどそれでは異母弟の学費を出してあげられなくなってしまう。
チェルカを意を決してロアに告げる。
「わかった、ロア。迷惑をかけ続けて心苦しいけど、あともう少しだけ助けてください」
そう言ってチェルカはぺこりと頭を下げた。
それを見てロアはふ、っと笑みを零す。
「俺がしたくてやっている事だ。それを迷惑だなんて思わなくていい。チェルカはここで待っててくれ。帰ったら久しぶりに二人で街を歩こう。案内するよ」
「うわホラ☆ね?先に街案内しなくてよかったでしょー☆」
ダイ先生がそう言うとロアはニヤリと口の端を上げた。
「ふ、」
チェルカはそんなロアに精一杯のお礼をつげる。
「ロア、ロア、本当にありがとう……」
お礼の言葉を受け、ロアは優しくチェルカの頭を撫でてくれた。
その手は子供の頃とは違ってとても大きく、でも昔と変わらない優しくて温かな手だった。
「じゃあ行ってくる」
「いってらっしゃい。よろしくお願いします」
「いってらっしゃーい☆お土産買ってきてねー☆」
チェルカとダイ先生に見送られながら、ロアは再び転移して行った。
ロアは一体どうやって婚約解消に持ち込むのだろう。
そしてまずはどこに行ったのか……。
そう思いながら、チェルカはロアが消えた場所をいつまでも眺めていた。
そのロアが先ず訪れたのは、
チェルカの実家であるローウェル男爵家であった。
チェルカがこの婚約に対してどう答えを出すかは分からなかったが、いずれにしても父親であるローウェル男爵とはきちんと話をつけたいと思っていたのだ。
そのためにロアは前もって先触れを出していた。
そしてここでもやはり、大賢者バルク・イグリード唯一の弟子ロア・ガードナーの肩書きは役立った。
当主であるローウェル男爵が面会の申し出をすんなりと受けたからだ。
そしてモコモコだらけの屋敷内を通され、応接間にてチェルカの父、ローウェル男爵と対面する。
ロアは単刀直入に話を切り出した。
「今日はこちらのご令嬢であるチェルカ嬢の名代として参りました。可哀想に彼女は今、度重なる心労が祟って床に伏せっております。なので私が代わりに婚約解消についての話をしに参った次第です」
「こ、婚約解消っ……?な、なぜ急にそのような話になるんですっ?」
理解に苦しむといった様子で狼狽える男爵を見て、ロアは笑みを浮かべたまま、しかしドスの効いた低い声で告げる。
「それはもちろん、チェルカ嬢の婚約者が……」
「アラバスタ伯爵令息が……?」
「婚約者が魅了にかかりやがりましたので、これ以上の婚約の継続は無理だと判断したという事ですよ」
そう言って、ロアは不敵な笑みを浮かべた。
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はいタイトル回収!!
「まだちょこっとしか食べてないじゃないか、ロアならこの三倍は食べるよ?ね、ね、このイチゴのタルトも食べてごらん☆お茶のおかわりは?」
「美味しいけど無理です~食べ過ぎました~太っちゃう~」
かつて通っていた精霊魔術塾の二階の一室で眠っていたチェルカだが、目を覚ました途端に恩師であるイグリード…ここではダイ先生と呼ぼう、そのダイ先生から無限アフタヌーンティーのもてなしを受けていた。
幼い頃から大好きだったダイ先生手作りのスイーツを感激しながら食べていたチェルカだが、さすがにミルクレープにスコーン、キュウリのサンドイッチにクランベリーパイを食べた時点で満腹になってしまった。
それでもワンコソバのようにお皿が空いたら何かしらサーブしてくるダイ先生にギブアップしたのである。
「チェルはもう少し太ってもいいくらいだと思うけどなー☆ねぇ、ちゃんと食べてた?」
「食べてましたよ?ちゃーんと自炊してました」
「なんか……その食事内容は聞かない方がいいような気がする☆じゃあ食べたらどうする?何して遊ぶ?ボードゲーム?トランプ?」
「ダイ先生のそんな子供みたいなところ、昔と全然変わりませんね~。わたし、ゲームよりもこの街を散策したいです」
「あ、なるほど。久しぶりの里帰りだもんね。でもさ~街歩きはロアが連れて行きたがるだろうからな~☆馬車馬のように働いてるロアより先にチェルカを街案内したら、後々の世までネチネチ文句言われそうだな~☆ノチノチネチネチ☆」
「え?」
ダイ先生の言葉に要領を得ないチェルカが聞き返すと、ふいに今話題に名前が上がったロアの声がした。
「誰がネチネチと文句を言うんですか。ネチネチとじゃなくて豪快に文句を言ってやりますよ」
「うわ☆それって罵詈雑言でしょ☆ぷ!おかえり、ロア」
「ロア!」
転移魔法にて突然帰ってきたロアを、チェルカは驚きつつも出迎える。
「おかえりなさい!……あれからどうなった……?」
起きてからスイーツ三昧であったがやはり王宮がどうなったか、チェルカは気になって仕方がなかったのだ。
(それでもしっかりスイーツは食べたが)
ロアは優しい笑みを浮かべて、紙ナプキンでチェルカの口元を拭いてくれた。
「クリームが口の端についてるよ」
「あ……うふふふふ。わたしも子供みたいね。ふふふ」
ダイ先生を子供みたいだと言いながら自分も口元にクリームをつけていたのが可笑しくてチェルカはころころと笑う。
ロアはそんなチェルカを見て、眩しそうに目を細めた。
そして穏やかな口調で告げた。
「王宮内はほとんど片付いた。その話は後でゆっくり話すよ。もうこの後は王太子たちの仕事だ。でも俺は俺でまだ片付けなくてはいけない事がある。だから一旦戻って来たんだ」
「お片付け……?」
「それについてチェルカにきちんと確認したくて。チェルカ、クロビス・アラバスタの魅了がきちんと解けたら、彼との婚約の継続を望むか?」
「え……」
「正直なチェルカの気持ちを教えてくれ。チェルカが魅了が解けたアイツとやり直したいと思うなら、俺はそう出来るように全力で手助けするよ(ホントは悲しいけど)」
ロアがチェルカにそう告げると側でダイ先生が「いよっ☆ロア!漢だね!泣けるね!」と合いの手を入れてきた。
「うるさいぞバルク・イグリード」
ロアがそう言ってダイ先生を睨めつけると、チェルカは首をふるふると振ってロアに答えた。
「わたし……クロビスを許せないとか、そういうのじゃなくて……でも、もう彼を信じることができないの……怖いと思ってしまう。だって全てが魅了のせいだとは思えないから。だから、もう無理……彼と生きてゆきたいと思えない……」
「……わかった。じゃあ婚約解消の件も、俺に任せてくれるな?」
「でも……家同士の結び付きの縁談だもの。貴族院にも正式に認められているものだし……そんな簡単にいかないと思う」
「だから俺が動くんだよ」
「それじゃあロアに甘え過ぎてしまうわ」
チェルカはロアに申し訳なく感じて俯いてしまう。
そんなチェルカにダイ先生は、飄々と言う。
「いいのいいの!これも馬車馬の仕事のひとつなんだから☆何事も適材適所!荒事はロアに任せておけばいいんだよ☆」
「荒事だなんて。俺は紳士的に対応するつもりですよ?」
「その紳士的が怖~い☆」
ロアとダイ先生のやり取りを聞きながらチェルカは考えた。
確かにもうチェルカだけでは問題は解決出来ないと思う。
チェルカがどんなに必死になってもうこの婚約が嫌だと言っても、両家の父親が認めてくれなければどうする事もできない。
夜逃げするか修道院に駆け込むか。それしかクロビスとの結婚を回避する方法はないのだ。
だけどそれでは異母弟の学費を出してあげられなくなってしまう。
チェルカを意を決してロアに告げる。
「わかった、ロア。迷惑をかけ続けて心苦しいけど、あともう少しだけ助けてください」
そう言ってチェルカはぺこりと頭を下げた。
それを見てロアはふ、っと笑みを零す。
「俺がしたくてやっている事だ。それを迷惑だなんて思わなくていい。チェルカはここで待っててくれ。帰ったら久しぶりに二人で街を歩こう。案内するよ」
「うわホラ☆ね?先に街案内しなくてよかったでしょー☆」
ダイ先生がそう言うとロアはニヤリと口の端を上げた。
「ふ、」
チェルカはそんなロアに精一杯のお礼をつげる。
「ロア、ロア、本当にありがとう……」
お礼の言葉を受け、ロアは優しくチェルカの頭を撫でてくれた。
その手は子供の頃とは違ってとても大きく、でも昔と変わらない優しくて温かな手だった。
「じゃあ行ってくる」
「いってらっしゃい。よろしくお願いします」
「いってらっしゃーい☆お土産買ってきてねー☆」
チェルカとダイ先生に見送られながら、ロアは再び転移して行った。
ロアは一体どうやって婚約解消に持ち込むのだろう。
そしてまずはどこに行ったのか……。
そう思いながら、チェルカはロアが消えた場所をいつまでも眺めていた。
そのロアが先ず訪れたのは、
チェルカの実家であるローウェル男爵家であった。
チェルカがこの婚約に対してどう答えを出すかは分からなかったが、いずれにしても父親であるローウェル男爵とはきちんと話をつけたいと思っていたのだ。
そのためにロアは前もって先触れを出していた。
そしてここでもやはり、大賢者バルク・イグリード唯一の弟子ロア・ガードナーの肩書きは役立った。
当主であるローウェル男爵が面会の申し出をすんなりと受けたからだ。
そしてモコモコだらけの屋敷内を通され、応接間にてチェルカの父、ローウェル男爵と対面する。
ロアは単刀直入に話を切り出した。
「今日はこちらのご令嬢であるチェルカ嬢の名代として参りました。可哀想に彼女は今、度重なる心労が祟って床に伏せっております。なので私が代わりに婚約解消についての話をしに参った次第です」
「こ、婚約解消っ……?な、なぜ急にそのような話になるんですっ?」
理解に苦しむといった様子で狼狽える男爵を見て、ロアは笑みを浮かべたまま、しかしドスの効いた低い声で告げる。
「それはもちろん、チェルカ嬢の婚約者が……」
「アラバスタ伯爵令息が……?」
「婚約者が魅了にかかりやがりましたので、これ以上の婚約の継続は無理だと判断したという事ですよ」
そう言って、ロアは不敵な笑みを浮かべた。
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