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マリナの贖罪
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“マリナ~、ペンケースの中もモコモコの術でモコモコにしておいたからね”
“どうしてペンケースの中までモコモコにするのよ?必要ないじゃない”
“でもペンを取るために指をペンケースに入れるでしょう?その度にモコフワっと温かいわよ?”
“あ、私が末端冷え性だから?”
“ふふ。この冬のマリナの指が温かいですように”
「………お人好しのチェルカ……」
王宮騎士団の留置所の中で、
マリナ・ハモンドは少し前のチェルカとのやり取りを思い出し、そうつぶやいた。
そのチェルカ・ローウェルはマリナ・ハモンドにとって、王宮内で唯一と呼べる友人だった。
エリート揃いの王宮魔術師団内で、マリナのような平民魔術師というのはかなり人数が少ない。
選民思考のある貴族魔術師たちはそんな平民魔術師を侮蔑して決して仲間とは認めない。
陰で悪口を叩かれるなんてしょっちゅうだ。
だけどチェルカは最初からなんの偏見もなくマリナを同等な立場である同僚として接してくれた。
同じ研究室で貴族から当て擦りに辟易としていたマリナにとって、なんの衒いもなく接してくれるチェルカの存在に何度も救われたのだった。
後になって男爵令嬢のチェルカだが、じつは平民として暮らした日々の方が長いのだという事を知ったのだが。
そうして同僚としての付き合いが始まり、いつしかチェルカとはプライベートでも遊びに行ったりする仲の良い友人となったのであった。
「大切な友達だったはずなのに、ね……」
マリナはまた、うつろな瞳をしてそうつぶやいた。
その時、看守の騎士がマリナに告げた。
「マリナ・ハモンド。キミに面会だ」
「……面会?」
一体誰が?
平民である家族が王宮に入れるわけがないし、わざわざ留置所まで来るような人間に思い当たる節がない。
もし、いるとすれば……
「だ、誰ですか……?」
もし、チェルカで来たのであれば合わせる顔がない。
マリナが身構えながらそう訊ねると、看守の騎士は答えた。
「ロア・ガードナーという魔術師だ。なんでもキミの洗脳を一瞬で解いたのも彼なのだとか。どうする?会うか?」
王女に掛けられた魔法を一瞬で……
というかロア・ガードナーとは誰だろう。
マリナは訳が分からないままにしておくのは出来ない性分なのでとりあえず面会に応じることにした。
留置所内の面会室に連れて行かれると、そこには漆黒のローブに身を包んだ青年魔術師が既に椅子に座っていた。
マリナは向かいの椅子に座り、徐に訊ねる。
「私に面会を希望されたのはあなたですか?……あの、失礼ですがどちら様でしょうか……?」
「俺はロア・ガードナー。チェルカの幼馴染だ」
「え……チェルカの……?」
ロアがチェルカの関係者と知り、マリナの表情に翳りが見えた。
ロアはそれを見て端的に訊いてきた。
「その表情は悔恨からか?」
「っ……」
唐突に、そして不躾に図星を突かれてマリナは狼狽える。
「当たり前でしょうっ……?私はチェルカを裏切った。そしてあの子を深く傷つけたのだから……!」
「魅了に掛けられていた時の事はどれくらい覚えてるんだ?」
「……それが……それが全く……意識を刈られていた事も知らなかった。気が付いたら魅了の洗脳が解けていて……真面になった頭で、留置所の騎士に私が何をしたのか、その後どうなって留置所に居るのかを聞いたわ……」
「王女に術を掛けられた時の事は覚えているか?」
「それは何となく……朧気に。あの日、王宮内で突然声をかけられたの。“貴女がクローの婚約者のお友達?”って。そして振り向いて目にした王女のドレスが素敵だなと思って。一度でいいからこんな、王女殿下のようなドレスを着てみたいなと思って……そして……王女殿下と目が合って……そこからの記憶がないの」
「ふーん……王女のラビィちゃんに憑依されてたんだな。ラビィちゃんは記憶と人格の乗っ取りが得意なようだ」
「え?」
そこまでの会話で、ロアには凡その事が分かったようだ。
そして彼的にチェルカにとってのマリナの存在を理解する。
「マリナ・ハモンド。お前はそれでも、チェルカの友人だと名乗れるか?」
ロアのその質問は、今のマリナにとって残酷なものであった。
マリナはガタンと大きな音を立てて椅子を後ろに引き、立ち上がって声を荒らげる。
「名乗れるわけないじゃない!大切なっ……大好きな友人を裏切って、冤罪に掛けようとしたのよっ?王女と婚約者の一件でずっと悲しい思いをしていたあの子に、さらに辛い思いを私がさせたっ……!そんな最低な私がっ、今さらどんな顔をしてチェルカを友人と呼べるのよっ!」
そこまで一気に捲し立て、マリナは肩で息をする。
ロアは座ったままマリナを見上げた。
「キミは着飾った王女に一瞬だけ抱いた憧れに付け入れられたんだ。そして術により傀儡にされた。クロビス・アラバスタや他の者のように意識がありながらの洗脳とはまた違う。洗脳になんら疑問を抱かずそのまま傀儡と化していたのなら、俺はキミを許さなかった。そこに耳かき一杯分でも自我が存在していた限り、洗脳されていたからなどという言い訳は認めない。しかしキミは……まぁ完全に操られていた状態だったわけだ。悪魔相手に、これはもうどうしようない」
「でも……研究室の備品を持ち出した罪は消えないわ」
「そりゃそうだ。その点に関してはどうしようも無い。意識が無くてもキミの身体が行った事だ。情状酌量の余地はあるだろうが、きちんとした法に則って罰を受けるしかない」
「情状酌量なんて要りないわ。最も重い罰を課して欲しい」
「それを決めるのは俺じゃない。ちょこっと口くらいは挟めるが決定権は俺にはないよ。俺がキミに確認したいのはきちんと罪を償った後でチェルカに会いたいか?という事だ」
「会える……わけないわ……合わせる顔がない……」
「でもきっと、チェルカはキミに会いたいと思うぞ」
「あの子は優しい子だから私の罪を許そうとしてくれるでしょう。だけどそれに甘えてはいけない……私はチェルカの前に立つ資格なんてないっ……」
「ふーん……チェルカの気持ちを無視して自分の気持ちを優先させるのか」
「え?」
「キミはさっきから会えない、会う資格がないと自分の気持ちばかり優先してチェルカの気持ちを蔑ろにしている」
「でも……」
「確かにチェルカはキミのやった事により傷付いた。友人を失ったと悲しんでいたそうだ。だけどチェルカは、操られていただけだと知って尚も、キミを責め立てるような人間じゃない。」
「………チェルカ……!」
「キミに会いたいと。会って話がしたいと。そしてあわよくばキミと友人で在り続けたいと思うだろうな。それをキミも、本当はよくわかってるんだろ?」
「はい……」
「キミの贖罪はこうだ、マリナ・ハモンド。これより懲罰として課せられる、厳しい北方の街で魔術研究員として労役した後で必ずチェルカに会いに来い。そして自分の口で、チェルカの目を見て、心から謝罪しろ。それをチェルカが受け入れて、初めてキミの罪は帳消しとなる。いいな?」
「そんなっ……私にとって都合のいい事ばかりじゃないのっ……私が悪いのにっ……」
「そうでもないぞ?北方の街の環境は厳しい。キミはそれに耐えながら労役に服さねばならないんだ。あ、チェルカに手紙を書くのも忘れんなよ?」
「手紙を書いていいなんて……ますます都合がいいっ……」
「だってチェルカが欲しがるはずだから。そうガチガチに拘らなくても、チェルカが嬉しければ何でもいいんじゃないか?」
そこまで話をしていて、マリナはいつの間にか流していた涙を拭いながらロアに訊ねた。
「あなた……チェルカの幼馴染って言っていたけど……一体何者なの……?どうしてそこまで……」
「俺か?俺はかつてチェルカが住んでいた街でチェルカと同じ塾に通っていた者だ」
「……あ、チェルカから聞いた事があるわ。もしかして一番仲良しだったという男の子……?」
「チェルカがそんな事を……?まぁそうだな。塾ではお互いが一番、うん、仲が良かった」
「そう……あなたが……」
マリナは指先で目尻を拭い、ロアを見た。
クロビスの事で散々傷付き悲しい思いをしたチェルカだが、これからは新しい幸せを手にする事が出来るのではないだろうか。
この、目の前にいる青年がそうさせてくれるのではないか。
そうであって欲しい、マリナは心からそう思った。
マリナは憑き物が取れたかのような穏やかな声でロアに言う。
「なら……私が再びチェルカに会いに行くその日まで、あなたが美味しいココアをあの子に作ってあげてね」
「ココア?俺が?」
「そうよ。チェルカは私の作るココアが大好きなの。レシピを教えるから、作ってあげて」
「それはもちろんかまわないけど……?」
「ふふ。でも初恋の人が作ってくれるココアを飲んだら、私のココアが霞んじゃうかしら?やっぱり教えるのはやめておこうかな」
マリナのその言葉に、ロアがガタンと身動いでから居住まいを正す。
「マリナさん?いやマリナ様?今、なんとおっしゃいましたか?」
「ココアのレシピを教えるのをやめておこうかしら」
「違う!その前!」
「……初恋の人と言ったこと?」
「そうソレ!初恋?ハツコイ?初の恋の人?だ、誰がっ?俺がっ?」
「あら、あなた知らなかったの?チェルカが言っていたの。塾で一番仲の良かった男の子が初恋の人なんだって」
「っしゃあっ!!」
マリナの言葉を聞き、ロアはガッツポーズを執った。
「マリナ様、ココアのレシピをすぐに教えてくれ!チェルカにバケツ一杯美味いココアを飲ませてやる!」
「ふふ、ふふふ……」
そうしてマリナはロアにココアのレシピを託し、再び留置されている牢へと戻って行った。
再来週には、彼女は労役のために北方の街へと移送される。
持参する事を許された数少ない私物の中に、
チェルカがモコモコにしたペンケースが入っていたのはいうまでもないだろう。
────────────────────
次回、久しぶりに主人公の登場です。
“どうしてペンケースの中までモコモコにするのよ?必要ないじゃない”
“でもペンを取るために指をペンケースに入れるでしょう?その度にモコフワっと温かいわよ?”
“あ、私が末端冷え性だから?”
“ふふ。この冬のマリナの指が温かいですように”
「………お人好しのチェルカ……」
王宮騎士団の留置所の中で、
マリナ・ハモンドは少し前のチェルカとのやり取りを思い出し、そうつぶやいた。
そのチェルカ・ローウェルはマリナ・ハモンドにとって、王宮内で唯一と呼べる友人だった。
エリート揃いの王宮魔術師団内で、マリナのような平民魔術師というのはかなり人数が少ない。
選民思考のある貴族魔術師たちはそんな平民魔術師を侮蔑して決して仲間とは認めない。
陰で悪口を叩かれるなんてしょっちゅうだ。
だけどチェルカは最初からなんの偏見もなくマリナを同等な立場である同僚として接してくれた。
同じ研究室で貴族から当て擦りに辟易としていたマリナにとって、なんの衒いもなく接してくれるチェルカの存在に何度も救われたのだった。
後になって男爵令嬢のチェルカだが、じつは平民として暮らした日々の方が長いのだという事を知ったのだが。
そうして同僚としての付き合いが始まり、いつしかチェルカとはプライベートでも遊びに行ったりする仲の良い友人となったのであった。
「大切な友達だったはずなのに、ね……」
マリナはまた、うつろな瞳をしてそうつぶやいた。
その時、看守の騎士がマリナに告げた。
「マリナ・ハモンド。キミに面会だ」
「……面会?」
一体誰が?
平民である家族が王宮に入れるわけがないし、わざわざ留置所まで来るような人間に思い当たる節がない。
もし、いるとすれば……
「だ、誰ですか……?」
もし、チェルカで来たのであれば合わせる顔がない。
マリナが身構えながらそう訊ねると、看守の騎士は答えた。
「ロア・ガードナーという魔術師だ。なんでもキミの洗脳を一瞬で解いたのも彼なのだとか。どうする?会うか?」
王女に掛けられた魔法を一瞬で……
というかロア・ガードナーとは誰だろう。
マリナは訳が分からないままにしておくのは出来ない性分なのでとりあえず面会に応じることにした。
留置所内の面会室に連れて行かれると、そこには漆黒のローブに身を包んだ青年魔術師が既に椅子に座っていた。
マリナは向かいの椅子に座り、徐に訊ねる。
「私に面会を希望されたのはあなたですか?……あの、失礼ですがどちら様でしょうか……?」
「俺はロア・ガードナー。チェルカの幼馴染だ」
「え……チェルカの……?」
ロアがチェルカの関係者と知り、マリナの表情に翳りが見えた。
ロアはそれを見て端的に訊いてきた。
「その表情は悔恨からか?」
「っ……」
唐突に、そして不躾に図星を突かれてマリナは狼狽える。
「当たり前でしょうっ……?私はチェルカを裏切った。そしてあの子を深く傷つけたのだから……!」
「魅了に掛けられていた時の事はどれくらい覚えてるんだ?」
「……それが……それが全く……意識を刈られていた事も知らなかった。気が付いたら魅了の洗脳が解けていて……真面になった頭で、留置所の騎士に私が何をしたのか、その後どうなって留置所に居るのかを聞いたわ……」
「王女に術を掛けられた時の事は覚えているか?」
「それは何となく……朧気に。あの日、王宮内で突然声をかけられたの。“貴女がクローの婚約者のお友達?”って。そして振り向いて目にした王女のドレスが素敵だなと思って。一度でいいからこんな、王女殿下のようなドレスを着てみたいなと思って……そして……王女殿下と目が合って……そこからの記憶がないの」
「ふーん……王女のラビィちゃんに憑依されてたんだな。ラビィちゃんは記憶と人格の乗っ取りが得意なようだ」
「え?」
そこまでの会話で、ロアには凡その事が分かったようだ。
そして彼的にチェルカにとってのマリナの存在を理解する。
「マリナ・ハモンド。お前はそれでも、チェルカの友人だと名乗れるか?」
ロアのその質問は、今のマリナにとって残酷なものであった。
マリナはガタンと大きな音を立てて椅子を後ろに引き、立ち上がって声を荒らげる。
「名乗れるわけないじゃない!大切なっ……大好きな友人を裏切って、冤罪に掛けようとしたのよっ?王女と婚約者の一件でずっと悲しい思いをしていたあの子に、さらに辛い思いを私がさせたっ……!そんな最低な私がっ、今さらどんな顔をしてチェルカを友人と呼べるのよっ!」
そこまで一気に捲し立て、マリナは肩で息をする。
ロアは座ったままマリナを見上げた。
「キミは着飾った王女に一瞬だけ抱いた憧れに付け入れられたんだ。そして術により傀儡にされた。クロビス・アラバスタや他の者のように意識がありながらの洗脳とはまた違う。洗脳になんら疑問を抱かずそのまま傀儡と化していたのなら、俺はキミを許さなかった。そこに耳かき一杯分でも自我が存在していた限り、洗脳されていたからなどという言い訳は認めない。しかしキミは……まぁ完全に操られていた状態だったわけだ。悪魔相手に、これはもうどうしようない」
「でも……研究室の備品を持ち出した罪は消えないわ」
「そりゃそうだ。その点に関してはどうしようも無い。意識が無くてもキミの身体が行った事だ。情状酌量の余地はあるだろうが、きちんとした法に則って罰を受けるしかない」
「情状酌量なんて要りないわ。最も重い罰を課して欲しい」
「それを決めるのは俺じゃない。ちょこっと口くらいは挟めるが決定権は俺にはないよ。俺がキミに確認したいのはきちんと罪を償った後でチェルカに会いたいか?という事だ」
「会える……わけないわ……合わせる顔がない……」
「でもきっと、チェルカはキミに会いたいと思うぞ」
「あの子は優しい子だから私の罪を許そうとしてくれるでしょう。だけどそれに甘えてはいけない……私はチェルカの前に立つ資格なんてないっ……」
「ふーん……チェルカの気持ちを無視して自分の気持ちを優先させるのか」
「え?」
「キミはさっきから会えない、会う資格がないと自分の気持ちばかり優先してチェルカの気持ちを蔑ろにしている」
「でも……」
「確かにチェルカはキミのやった事により傷付いた。友人を失ったと悲しんでいたそうだ。だけどチェルカは、操られていただけだと知って尚も、キミを責め立てるような人間じゃない。」
「………チェルカ……!」
「キミに会いたいと。会って話がしたいと。そしてあわよくばキミと友人で在り続けたいと思うだろうな。それをキミも、本当はよくわかってるんだろ?」
「はい……」
「キミの贖罪はこうだ、マリナ・ハモンド。これより懲罰として課せられる、厳しい北方の街で魔術研究員として労役した後で必ずチェルカに会いに来い。そして自分の口で、チェルカの目を見て、心から謝罪しろ。それをチェルカが受け入れて、初めてキミの罪は帳消しとなる。いいな?」
「そんなっ……私にとって都合のいい事ばかりじゃないのっ……私が悪いのにっ……」
「そうでもないぞ?北方の街の環境は厳しい。キミはそれに耐えながら労役に服さねばならないんだ。あ、チェルカに手紙を書くのも忘れんなよ?」
「手紙を書いていいなんて……ますます都合がいいっ……」
「だってチェルカが欲しがるはずだから。そうガチガチに拘らなくても、チェルカが嬉しければ何でもいいんじゃないか?」
そこまで話をしていて、マリナはいつの間にか流していた涙を拭いながらロアに訊ねた。
「あなた……チェルカの幼馴染って言っていたけど……一体何者なの……?どうしてそこまで……」
「俺か?俺はかつてチェルカが住んでいた街でチェルカと同じ塾に通っていた者だ」
「……あ、チェルカから聞いた事があるわ。もしかして一番仲良しだったという男の子……?」
「チェルカがそんな事を……?まぁそうだな。塾ではお互いが一番、うん、仲が良かった」
「そう……あなたが……」
マリナは指先で目尻を拭い、ロアを見た。
クロビスの事で散々傷付き悲しい思いをしたチェルカだが、これからは新しい幸せを手にする事が出来るのではないだろうか。
この、目の前にいる青年がそうさせてくれるのではないか。
そうであって欲しい、マリナは心からそう思った。
マリナは憑き物が取れたかのような穏やかな声でロアに言う。
「なら……私が再びチェルカに会いに行くその日まで、あなたが美味しいココアをあの子に作ってあげてね」
「ココア?俺が?」
「そうよ。チェルカは私の作るココアが大好きなの。レシピを教えるから、作ってあげて」
「それはもちろんかまわないけど……?」
「ふふ。でも初恋の人が作ってくれるココアを飲んだら、私のココアが霞んじゃうかしら?やっぱり教えるのはやめておこうかな」
マリナのその言葉に、ロアがガタンと身動いでから居住まいを正す。
「マリナさん?いやマリナ様?今、なんとおっしゃいましたか?」
「ココアのレシピを教えるのをやめておこうかしら」
「違う!その前!」
「……初恋の人と言ったこと?」
「そうソレ!初恋?ハツコイ?初の恋の人?だ、誰がっ?俺がっ?」
「あら、あなた知らなかったの?チェルカが言っていたの。塾で一番仲の良かった男の子が初恋の人なんだって」
「っしゃあっ!!」
マリナの言葉を聞き、ロアはガッツポーズを執った。
「マリナ様、ココアのレシピをすぐに教えてくれ!チェルカにバケツ一杯美味いココアを飲ませてやる!」
「ふふ、ふふふ……」
そうしてマリナはロアにココアのレシピを託し、再び留置されている牢へと戻って行った。
再来週には、彼女は労役のために北方の街へと移送される。
持参する事を許された数少ない私物の中に、
チェルカがモコモコにしたペンケースが入っていたのはいうまでもないだろう。
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次回、久しぶりに主人公の登場です。
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