【完結】 婚約者が魅了にかかりやがりましたので

キムラましゅろう

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気になること

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婚約者であるチェルカをおざなりにして王女に夢中になっているクロビスに悩まされるチェルカ。

もうひと月近くクロビスと言葉を交わしていない。

なのでチェルカは思い切って、毎朝行うことが規定として定められている騎士たちの朝練の鍛錬場へと足を運んだ。
もちろん、クロビスと対話するためだ。

すると運良く丁度朝練を終えたクロビスを捕まえることができた。

「クロビス」

「やぁチェルカ。久しぶりだね」

「誰のせいで久しぶりだと思っているの?少しは婚約者としての務めも果たしてよぅ」

ジト目で恨みがましく言うチェルカに、クロビスは肩を竦めて言う。

「だって仕方ないよ。ラビニア様は僕が側にいないと寂しいとおっしゃるんだから」

クロビスが嬉しそうにはにかんでそう言った。少しもチェルカに悪いと思っていないのが声色からもわかる。

なのでチェルカは思い切って訊いてみた。
それはもう、超直球ドストレートに。

「クロビスは私よりも王女殿下の方が大切なの?」

「当たり前だろ?ラビニア様はこの国の王女なんだよ?誰よりも尊ばれて誰よりも守られるべき、そんな存在なんだ」

「それって護衛騎士としての気持ち?それとも……」

「それとも、何?」

「……クロビスは王女殿下を、お慕いしているの?」

「?変なこと言うねチェルカ。ラビニア様ほどの方を好きにならない訳ないじゃないか」

「それはお仕えする王族として?」

「ラビニア様はラビニア様だよ。僕にとって誰よりも特別で大切な方だ」

「う~ん……」

その言葉を聞き、チェルカはこれはもうダメかな~っと思った。
悲しいけど寂しいけど、もうクロビスと以前のような関係には戻れないと思ったから、チェルカはずっと考えていた言葉をクロビスに告げた。

「それならクロビス、わたしとの婚約は解消しましょう。男爵家であるローウェル家からは婚約解消は言い出せないから、アラバスタ伯爵家からその手続きをってくれない?」

クロビスが王女にひとかたならぬ想いを寄せているのなら、もう彼とは結婚出来ない。
このまま結婚してもお互い幸せにはなれない、そう思ったからチェルカは思いきってクロビスに告げたのだ。
家同士で結ばれた婚約だが、伯爵家で家族から溺愛されて育ったクロビスの方から結婚は無理だと駄々を捏ねてくれれば婚約解消が出来るかもしれない。

それなのにクロビスは訳がわからないといった様子で小首を傾げる。

「婚約解消?なぜ?どうして?」

「なぜって……それがお互いのためだからよ。クロビスだってホントはもうわたしと結婚なんてイヤでしょう?」

「え?どうして?イヤじゃないよっ?」

「だってあなたは王女殿下が好きなんでしょう?身分的に結ばれることは無理かもしれないけど、殿下がこのまま結婚しなければずっと側にいられるんだもの」

「でも僕はチェルカのことも大好きだよ?」

「………………ん?」

「だから婚約解消はしないよ?」

「……………んん?」

「生涯ラビニア様のお側に居てもキミとは結婚できるじゃないか」

「うーん……ごめんなさい、ちょっと言っていることの意味がわからないかも~……?」

「わからないの?まぁいいよ。とにかく僕はチェルカと婚約解消なんてしないからね?」

「それなら婚約者らしくわたしとの時間もちゃんと取って?」

「それは無理だよ」

「どうして?」

「ラビニア様が嫌がるから」

「なら婚約解消を」

「それも無理だよ」

「どうしてぇ~?」

「とにかく。僕はチェルカと結婚するからね。じゃあ僕そろそろ行くから。ラビニア様と朝食を一緒に食べる約束をしてるんだ」

そう言ってクロビスは嬉々として歩き去って行った。

「ちょっと……?あの、クロビスさん~……?」

クロビスが何をしたいのか。
クロビスの心が全くわからないチェルカは只々、首を傾げるしか出来なかった。

そしてしばらくそうやって呆然としていてハッと我に返る。

「あ、仕事っ……!始業時間過ぎてるっ……!」

そう言ってチェルカは慌てて魔術師たちの仕事場である魔術師棟へと向かった。

婚約者のことで頭を悩ませるチェルカだが、
彼女はそれにばかり構っていられないのだ。

魔術師としてひとり立ちし、ローウェル男爵家を出たのはいいものの、今までチェルカに使った金を返せと継母に言われ、毎月せっせと仕送りと称して送金しているチェルカはとにかく仕事を数多くこなさねばならない。
完全歩合制の魔術師団の研究部。
依頼を数多くこなし、問題を数多く解決し、月給と引いてはボーナスの査定をあげなくてはならないのだ。

「ひぇ~。今日までが期日のお仕事、終わるかしら~?」

そう言いながら王宮敷地内を急いで歩くチェルカの目に、連れ立って歩く男性たちの姿が目に付いた。
ラビニア王女の回りに侍る、王女お気に入りの男性たちである。
彼らも王女と朝食を食べるために王女宫へ向かっているようだ。

「王女殿下ってモテモテよね……」

確かにラビニア王女は美しい。
最高級の化粧品で手入れされているキメ細やかな白い肌に、艷めいて輝きを放つローズクォーツの髪。
王家特有の黄金の瞳はまるで成金の指に輝く金の指輪のようだ。
性格もとても良いと聞く。
王宮魔術師副師長ジスタスは「あれは外面がいいだけじゃないかな」と言っていたが……。

それにしても複数の男性に好意を寄せられるなんて凄いなぁとチェルカは思った。
まぁチェルカはたった一人でいい。
そのたった一人の男性と生涯大切にし合えて生きていければよいと思っていたのだ。
残念ながらそうはいかないみたいだけど。

「でも……それにしても……クロビスが王女殿下付きの護衛騎士になってから不思議な魔力が匂うのよね。今まで感知したことがない特殊な魔力。他のみんなは匂わないのかしら?」

もしかしたら何か起きているのかもしれない。
気になることはなんでも首をつっこんで調べる、その探究心が魔術師としては大切だよ、とは塾の先生の教えだ。

十四歳まで学んだ塾での教えがチェルカの全ての指針だ。
なのでチェルカはその気になった魔力のことを受け持っている仕事の傍らに調べてみることにした。






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