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察する妻
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「イムル様、おはようございます」
朝、のそのそと起き出してきた夫にマユラは声をかけた。
「……………はよぅ……」
寝起きの掠れた声がマユラの耳に届く。
イムルは最高に朝が弱い。
夜遅くまで本を読んだり魔術機械人形の製作をしているのだから朝が辛いのは当然なのだが、だからといって夜型人間のイムルに次の日の朝の自分を慮るスキルは持ち合わせていない。
マユラは目元を覆う夫の長い前髪を指で梳かした。
「そろそろ一度前髪を切らないと」
「……いやだ……前髪を切ると」
それだけ告げて黙るイムルの言葉の続きをマユラが口にする。
「いろいろと面倒なのですよね。でもこれでは前が見え辛くて不便でしょう?」
「不便じゃない……」
「はいはい。瞳は魔力と感情を映す鏡だから隠したいのでしたよね。大丈夫です、少し目にかかるくらいに切り揃えますから」
そう言ってマユラはイムルの前髪を後ろに流した。
途端に現れる端正な顔立ち。
寝不足の瞳であるのに青紫の虹彩がガラスのように美しい。
普段は濃紺の長い前髪に隠されているが、イムルはかなりの美形である。
彼が前髪を伸ばすのはこの美しい顔を隠す意図もあるのだろう。
顔を晒すと女が寄ってきて鬱陶しいと、かつてイムルが師団長と話しているのを耳にしたことがあった。
案の定、イムルがぼそりとつぶやいた。
「女が」
寄ってきて面倒くさいと思っているんだろうなぁ。
「魔術機械人形の方が」
よっぽどいいと思ってるんだろうなぁ。
最後までは口にしないがマユラにはイムルの言いたいことがわかった。
いつまでもこんなことをしていては出仕の時間が過ぎてしまう。
マユラはイムルに支度を促した。
「とにかく顔を洗ってきてください。朝食にしましょう」
「面倒くさ…「くてもちゃんと洗ってきてくださいね」
「顔なんて…「洗わなくていいわけないですよ。顔を洗わずに出仕するなんてとんでもないですからね」
次々とイムルの言葉の続きを拾ってマユラが言う。
「……」
観念したイムルはのそのそと洗面所の方へと歩いて行った。
その背中を見送りながらマユラは小さく嘆息する。
夫イムルは極端に口数が少ないタイプだ。
口を開いて声を発するのが面倒なのだとか。
結婚当初はそれで苦労した。
彼のことをよく知らないのに、本人があまり喋らないので知る術がない。
何を尋ねても「どうでもいい」「なんでもいい」「好きにしろ」と答えるだけだったのだ。
それでも魔術機械人形のハウゼンに教えてもらいながら何とかイムルの妻としての務めを果たそうとした結果、
マユラは何でも先ん出て察する妻となった。
片言のようなイムルとの会話の中で諸々を察して動く。
叔父の家で気を遣いながら暮らしていたマユラは、人の心の機微や動作に敏感であったためにそれでなんとかやってこれた。
イムルの妻となって早や半年。
マユラは全てにおいて察する妻となっていたのである。
「行ってくる」
「いってらっしゃいませ」
ハムエッグやサラダやスープなどあれこれ品数が多い食事を摂るのが面倒だというイムルに、マユラがせっせと口に運んで食べさせた朝食を終え、イムルは王宮敷地内にある魔術師団の本部へと出仕して行った。それをハウゼンとザーラと共に見送る。
今夜、きっと夫は帰らない。
前回別邸に泊まってから五日程が過ぎている。
あちらの女性が待っているはずだ。
マユラは夫の背中を見送りながらそれを察した。
朝、のそのそと起き出してきた夫にマユラは声をかけた。
「……………はよぅ……」
寝起きの掠れた声がマユラの耳に届く。
イムルは最高に朝が弱い。
夜遅くまで本を読んだり魔術機械人形の製作をしているのだから朝が辛いのは当然なのだが、だからといって夜型人間のイムルに次の日の朝の自分を慮るスキルは持ち合わせていない。
マユラは目元を覆う夫の長い前髪を指で梳かした。
「そろそろ一度前髪を切らないと」
「……いやだ……前髪を切ると」
それだけ告げて黙るイムルの言葉の続きをマユラが口にする。
「いろいろと面倒なのですよね。でもこれでは前が見え辛くて不便でしょう?」
「不便じゃない……」
「はいはい。瞳は魔力と感情を映す鏡だから隠したいのでしたよね。大丈夫です、少し目にかかるくらいに切り揃えますから」
そう言ってマユラはイムルの前髪を後ろに流した。
途端に現れる端正な顔立ち。
寝不足の瞳であるのに青紫の虹彩がガラスのように美しい。
普段は濃紺の長い前髪に隠されているが、イムルはかなりの美形である。
彼が前髪を伸ばすのはこの美しい顔を隠す意図もあるのだろう。
顔を晒すと女が寄ってきて鬱陶しいと、かつてイムルが師団長と話しているのを耳にしたことがあった。
案の定、イムルがぼそりとつぶやいた。
「女が」
寄ってきて面倒くさいと思っているんだろうなぁ。
「魔術機械人形の方が」
よっぽどいいと思ってるんだろうなぁ。
最後までは口にしないがマユラにはイムルの言いたいことがわかった。
いつまでもこんなことをしていては出仕の時間が過ぎてしまう。
マユラはイムルに支度を促した。
「とにかく顔を洗ってきてください。朝食にしましょう」
「面倒くさ…「くてもちゃんと洗ってきてくださいね」
「顔なんて…「洗わなくていいわけないですよ。顔を洗わずに出仕するなんてとんでもないですからね」
次々とイムルの言葉の続きを拾ってマユラが言う。
「……」
観念したイムルはのそのそと洗面所の方へと歩いて行った。
その背中を見送りながらマユラは小さく嘆息する。
夫イムルは極端に口数が少ないタイプだ。
口を開いて声を発するのが面倒なのだとか。
結婚当初はそれで苦労した。
彼のことをよく知らないのに、本人があまり喋らないので知る術がない。
何を尋ねても「どうでもいい」「なんでもいい」「好きにしろ」と答えるだけだったのだ。
それでも魔術機械人形のハウゼンに教えてもらいながら何とかイムルの妻としての務めを果たそうとした結果、
マユラは何でも先ん出て察する妻となった。
片言のようなイムルとの会話の中で諸々を察して動く。
叔父の家で気を遣いながら暮らしていたマユラは、人の心の機微や動作に敏感であったためにそれでなんとかやってこれた。
イムルの妻となって早や半年。
マユラは全てにおいて察する妻となっていたのである。
「行ってくる」
「いってらっしゃいませ」
ハムエッグやサラダやスープなどあれこれ品数が多い食事を摂るのが面倒だというイムルに、マユラがせっせと口に運んで食べさせた朝食を終え、イムルは王宮敷地内にある魔術師団の本部へと出仕して行った。それをハウゼンとザーラと共に見送る。
今夜、きっと夫は帰らない。
前回別邸に泊まってから五日程が過ぎている。
あちらの女性が待っているはずだ。
マユラは夫の背中を見送りながらそれを察した。
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