6 / 34
わたしの婚約
しおりを挟む
魔力継承の一連の作業を見て、
魔法書士の仕事に興味を持ってしまったわたし。
あれから王立図書館に通っては
魔法書士関連の書物を読み漁っていた。
いつしか月日は過ぎ、
わたしは14歳になっていた。
今日もつい図書館に長居してしまい、
帰り道を急いでいる。
図書館からブライス家の屋敷まではそう遠くないとはいえ、夕方も遅い時間になってしまった。
これ以上遅くなると絶対に家令のアーチーが眉間にシワを刻んで探しに来る。
わたしが早歩きで帰路を急いでいると、
後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「また図書館?
今日はまた随分と遅い帰りじゃないか」
「ワルター」
「遅くなるとまたアーチーが心配して迎えに来るよ」
「だからこうやって急いでるんじゃない、
じゃあわたし先に帰るわよ」
わたしがそう言って歩き始めると
ワルターがついて来る。
「なに?」
「何って、俺も帰ろうと思って」
「後ろのお友達はいいの?
みんなこっちを見てるわよ」
わたしがワルターの後ろを指し示す。
数名の女の子がこちらを見ていた。
「友達の友達なんだ。さっきそこの店を出た所で
声を掛けられただけだから」
それって絶対、
ワルターの事を待ち伏せしてたんだと思うけど……。
ほら、すんごい怖い顔でわたしを睨んでくる。
「いいから、帰ろう」
ワルターがわたしの肩を抱いて促す。
わたしは素直に従った。
夕日に背を押され、二人で歩く。
二人分の長い影が行く先を指し示すように
伸びていた。
影の長さに随分な差がある。
ワルターはここ数ヶ月でめきめきと身長が伸びた。
出会った頃はわたしより少し高いくらいだったのに。
ワルターは17歳になっていた。
来月には魔術学校に入学する事になっている。
魔術学校は全寮制なので、
たとえ家が王都内にあったとしても
入寮する決まりになっているらしい。
課題や単位の取得が大変らしいから
なかなか帰って来れないだろうとフレディ様が
言っていた。
いいな、魔術学校。
魔法書士の勉強する環境としても良いと
耳にする。
でもわたしは居候の身。
わたしも進学したいなんてとてもじゃないけど
言えない。
その気になれば、やる気さえあれば、
勉強はどこでも出来る。
図書館に置いてある
魔法書士の試験の過去問を手当たり次第
勉強してゆけば……なんて事をぼんやり考えてると視線を感じた。
ワルターがこちらを見ている。
「何?」
「いや……リスの背が伸びたなぁなんて」
「それはこちらのセリフよ。
それにまたリスって呼ぶ」
「だってシリスっていつも
ちょこまかと動き回ってリスみたいだからさ」
「ちょこまかとなんかしてないっ」
「あはは!」
わたしが拳を振り上げると
ワルターが笑いながら避ける。
「でも何をそんなに熱心に図書館通いしてるの?」
「……」
「あれ?リス?」
わたしはまだ、
将来は魔法書士になりたいという事を誰にも
話していなかった。
でも、その夢のきっかけをくれたのは他ならぬ
ワルターだし。話してみようかな。
「……ワルター、
誰にも言わないって約束してくれる?」
「え?何?深刻なヤツ?」
「そういうのじゃないの。
……わたし、魔法書士になりたいんだ」
「えっ!?そうなの!?」
「そう。ワルターの魔力継承の立ち会いをしてくれた魔法書士さんを見て、なんかビビビッて来たの」
「ビビビッかぁ……なるほどね。
それで図書館で勉強してるんだ」
「まだ誰にも言わないでね」
「わかった。今日の夕食のデザートを俺にくれたら、黙っててあげるよ」
「えっ、ずるい!」
「いいじゃないか、丁度ダイエットにもなるし」
「太っていないもの!」
その時、
「その夕食の時間はもうすぐなのですがね、
一向にお戻りにならないとはどういう事でしょうかな?」
互いに言い合いながら歩いていたわたし達は
その声を聞き、ぎくりとして前を見る。
「ワルター様、シリス様、
少々ご帰宅が遅いのではありませんか?」
家令のアーチーが
腕を組んでそこにそびえ立っていた。
わたしとワルターは
顔を合わせてから素直に謝った。
「「……ごめんなさい」」
結局その日の夕食のわたしの分のデザートは
無事だった。
ワルターは約束通り、
みんなには内緒にしてくれた。
それから3日ほどして、
わたしはジョージおじ様から告げられた。
「シリスには将来、ワルターのお嫁さんになって貰いたいと思ってるんだ」
「………え?」
「本当はフレディの妻に……と思ってたんだけど、フレディには伯爵家のご令嬢との縁談を打診されてて、相手は格上の家だから断れないんだ」
「はぁ…そう、ですよね……」
わたしは驚き過ぎて上手く頭が
回らなくなっていた。
「でも私はシリスに本当の娘になって貰いたいんだ。それでワルターとボリス、どちらと添わせるか悩んで……」
「悩んで、ワルターに決められたんですか?」
「いや、ワルターとボリス、二人に決めさせたんだ」
えっ……そんな大事な事を!?
いや、大事な事だから本人たちに
決めさせたということ?
そこにわたしの意思は?と問いたくもなるが、
引き取られた以上、おじ様にはわたしをちゃんと
嫁がせるという責任を負われているわけで。
それが他家か自分の家かの違いだけだ。
いやしかし、
ワルターとボリスは
どうやって話し合って結論を出したんだろう……。
怖い……。
「それでワルターが言ってきた。
自分がシリスの婚約者に決まったと」
「そ、そうですか……」
全く知らなかった……。
ワルターもボリスもそんな事になっていた気配を
微塵も感じさせなかったんだもの。
「シリス、キミの意思を聞きたい。
将来、ワルターの妻になって、ブライス家の
一員になってくれるかい?
もし嫌でないのなら、ワルターが魔術学校に
入学する前に婚約を結んでしまいたいと思ってるんだが……」
……ブライス家の一員。
あまりにも唐突過ぎて、
正直なところ正しい判断が出来ているか
わからないけど、このブライス家の一員に……
という言葉が素直に嬉しかった。
両親を亡くし、天涯孤独の身になったわたしの
家族になってくれた人たち。
その人たちと本当に家族になる。
それは素直に嬉しい事だった。
ワルターの真意がかなり気になるところだけど、
今ここでジョージおじ様に問われて、
断る要因は見当たらなかった。
「……謹んでお受け致します」
その後
ボリスに聞かされた衝撃の事実により、
なぜこの婚約を断らなかったのだろうと深く
後悔する事になるなんて、この時のわたしは
知る由もなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
すみません、宣伝です。
『もう離婚してください!』を
小説家になろう版で投稿する事にしました。
作中のひとり言でも書いたのですが、
当初二つのラストで悩んでおりました。
でももう一つのラストもどうしても書きたくなり、
今回なろう版として投稿します。
ロイドのデッドエンドで納得した、
という読者様には受け入れ難いラストになるかと思われますが……。
最終話近くまでは
アルファポリスで投稿した物語と同じになると思われます。
もしよろしければご覧下さいませ。
よろしくお願い致します!
魔法書士の仕事に興味を持ってしまったわたし。
あれから王立図書館に通っては
魔法書士関連の書物を読み漁っていた。
いつしか月日は過ぎ、
わたしは14歳になっていた。
今日もつい図書館に長居してしまい、
帰り道を急いでいる。
図書館からブライス家の屋敷まではそう遠くないとはいえ、夕方も遅い時間になってしまった。
これ以上遅くなると絶対に家令のアーチーが眉間にシワを刻んで探しに来る。
わたしが早歩きで帰路を急いでいると、
後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「また図書館?
今日はまた随分と遅い帰りじゃないか」
「ワルター」
「遅くなるとまたアーチーが心配して迎えに来るよ」
「だからこうやって急いでるんじゃない、
じゃあわたし先に帰るわよ」
わたしがそう言って歩き始めると
ワルターがついて来る。
「なに?」
「何って、俺も帰ろうと思って」
「後ろのお友達はいいの?
みんなこっちを見てるわよ」
わたしがワルターの後ろを指し示す。
数名の女の子がこちらを見ていた。
「友達の友達なんだ。さっきそこの店を出た所で
声を掛けられただけだから」
それって絶対、
ワルターの事を待ち伏せしてたんだと思うけど……。
ほら、すんごい怖い顔でわたしを睨んでくる。
「いいから、帰ろう」
ワルターがわたしの肩を抱いて促す。
わたしは素直に従った。
夕日に背を押され、二人で歩く。
二人分の長い影が行く先を指し示すように
伸びていた。
影の長さに随分な差がある。
ワルターはここ数ヶ月でめきめきと身長が伸びた。
出会った頃はわたしより少し高いくらいだったのに。
ワルターは17歳になっていた。
来月には魔術学校に入学する事になっている。
魔術学校は全寮制なので、
たとえ家が王都内にあったとしても
入寮する決まりになっているらしい。
課題や単位の取得が大変らしいから
なかなか帰って来れないだろうとフレディ様が
言っていた。
いいな、魔術学校。
魔法書士の勉強する環境としても良いと
耳にする。
でもわたしは居候の身。
わたしも進学したいなんてとてもじゃないけど
言えない。
その気になれば、やる気さえあれば、
勉強はどこでも出来る。
図書館に置いてある
魔法書士の試験の過去問を手当たり次第
勉強してゆけば……なんて事をぼんやり考えてると視線を感じた。
ワルターがこちらを見ている。
「何?」
「いや……リスの背が伸びたなぁなんて」
「それはこちらのセリフよ。
それにまたリスって呼ぶ」
「だってシリスっていつも
ちょこまかと動き回ってリスみたいだからさ」
「ちょこまかとなんかしてないっ」
「あはは!」
わたしが拳を振り上げると
ワルターが笑いながら避ける。
「でも何をそんなに熱心に図書館通いしてるの?」
「……」
「あれ?リス?」
わたしはまだ、
将来は魔法書士になりたいという事を誰にも
話していなかった。
でも、その夢のきっかけをくれたのは他ならぬ
ワルターだし。話してみようかな。
「……ワルター、
誰にも言わないって約束してくれる?」
「え?何?深刻なヤツ?」
「そういうのじゃないの。
……わたし、魔法書士になりたいんだ」
「えっ!?そうなの!?」
「そう。ワルターの魔力継承の立ち会いをしてくれた魔法書士さんを見て、なんかビビビッて来たの」
「ビビビッかぁ……なるほどね。
それで図書館で勉強してるんだ」
「まだ誰にも言わないでね」
「わかった。今日の夕食のデザートを俺にくれたら、黙っててあげるよ」
「えっ、ずるい!」
「いいじゃないか、丁度ダイエットにもなるし」
「太っていないもの!」
その時、
「その夕食の時間はもうすぐなのですがね、
一向にお戻りにならないとはどういう事でしょうかな?」
互いに言い合いながら歩いていたわたし達は
その声を聞き、ぎくりとして前を見る。
「ワルター様、シリス様、
少々ご帰宅が遅いのではありませんか?」
家令のアーチーが
腕を組んでそこにそびえ立っていた。
わたしとワルターは
顔を合わせてから素直に謝った。
「「……ごめんなさい」」
結局その日の夕食のわたしの分のデザートは
無事だった。
ワルターは約束通り、
みんなには内緒にしてくれた。
それから3日ほどして、
わたしはジョージおじ様から告げられた。
「シリスには将来、ワルターのお嫁さんになって貰いたいと思ってるんだ」
「………え?」
「本当はフレディの妻に……と思ってたんだけど、フレディには伯爵家のご令嬢との縁談を打診されてて、相手は格上の家だから断れないんだ」
「はぁ…そう、ですよね……」
わたしは驚き過ぎて上手く頭が
回らなくなっていた。
「でも私はシリスに本当の娘になって貰いたいんだ。それでワルターとボリス、どちらと添わせるか悩んで……」
「悩んで、ワルターに決められたんですか?」
「いや、ワルターとボリス、二人に決めさせたんだ」
えっ……そんな大事な事を!?
いや、大事な事だから本人たちに
決めさせたということ?
そこにわたしの意思は?と問いたくもなるが、
引き取られた以上、おじ様にはわたしをちゃんと
嫁がせるという責任を負われているわけで。
それが他家か自分の家かの違いだけだ。
いやしかし、
ワルターとボリスは
どうやって話し合って結論を出したんだろう……。
怖い……。
「それでワルターが言ってきた。
自分がシリスの婚約者に決まったと」
「そ、そうですか……」
全く知らなかった……。
ワルターもボリスもそんな事になっていた気配を
微塵も感じさせなかったんだもの。
「シリス、キミの意思を聞きたい。
将来、ワルターの妻になって、ブライス家の
一員になってくれるかい?
もし嫌でないのなら、ワルターが魔術学校に
入学する前に婚約を結んでしまいたいと思ってるんだが……」
……ブライス家の一員。
あまりにも唐突過ぎて、
正直なところ正しい判断が出来ているか
わからないけど、このブライス家の一員に……
という言葉が素直に嬉しかった。
両親を亡くし、天涯孤独の身になったわたしの
家族になってくれた人たち。
その人たちと本当に家族になる。
それは素直に嬉しい事だった。
ワルターの真意がかなり気になるところだけど、
今ここでジョージおじ様に問われて、
断る要因は見当たらなかった。
「……謹んでお受け致します」
その後
ボリスに聞かされた衝撃の事実により、
なぜこの婚約を断らなかったのだろうと深く
後悔する事になるなんて、この時のわたしは
知る由もなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
すみません、宣伝です。
『もう離婚してください!』を
小説家になろう版で投稿する事にしました。
作中のひとり言でも書いたのですが、
当初二つのラストで悩んでおりました。
でももう一つのラストもどうしても書きたくなり、
今回なろう版として投稿します。
ロイドのデッドエンドで納得した、
という読者様には受け入れ難いラストになるかと思われますが……。
最終話近くまでは
アルファポリスで投稿した物語と同じになると思われます。
もしよろしければご覧下さいませ。
よろしくお願い致します!
132
お気に入りに追加
5,222
あなたにおすすめの小説
「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。
海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。
アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。
しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。
「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」
聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。
※本編は全7話で完結します。
※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。
【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?
氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。
しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。
夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。
小説家なろうにも投稿中
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
ごめんなさい、お姉様の旦那様と結婚します
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
しがない伯爵令嬢のエーファには、三つ歳の離れた姉がいる。姉のブリュンヒルデは、女神と比喩される程美しく完璧な女性だった。端麗な顔立ちに陶器の様に白い肌。ミルクティー色のふわふわな長い髪。立ち居振る舞い、勉学、ダンスから演奏と全てが完璧で、非の打ち所がない。正に淑女の鑑と呼ぶに相応しく誰もが憧れ一目置くそんな人だ。
一方で妹のエーファは、一言で言えば普通。容姿も頭も、芸術的センスもなく秀でたものはない。無論両親は、エーファが物心ついた時から姉を溺愛しエーファには全く関心はなかった。周囲も姉とエーファを比較しては笑いの種にしていた。
そんな姉は公爵令息であるマンフレットと結婚をした。彼もまた姉と同様眉目秀麗、文武両道と完璧な人物だった。また周囲からは冷笑の貴公子などとも呼ばれているが、令嬢等からはかなり人気がある。かく言うエーファも彼が初恋の人だった。ただ姉と婚約し結婚した事で彼への想いは断念をした。だが、姉が結婚して二年後。姉が事故に遭い急死をした。社交界ではおしどり夫婦、愛妻家として有名だった夫のマンフレットは憔悴しているらしくーーその僅か半年後、何故か妹のエーファが後妻としてマンフレットに嫁ぐ事が決まってしまう。そして迎えた初夜、彼からは「私は君を愛さない」と冷たく突き放され、彼が家督を継ぐ一年後に離縁すると告げられた。
この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜
氷雨そら
恋愛
婚約相手のいない婚約式。
通常であれば、この上なく惨めであろうその場所に、辺境伯令嬢ルナシェは、美しいベールをなびかせて、毅然とした姿で立っていた。
ベールから、こぼれ落ちるような髪は白銀にも見える。プラチナブロンドが、日差しに輝いて神々しい。
さすがは、白薔薇姫との呼び名高い辺境伯令嬢だという周囲の感嘆。
けれど、ルナシェの内心は、実はそれどころではなかった。
(まさかのやり直し……?)
先ほど確かに、ルナシェは断頭台に露と消えたのだ。しかし、この場所は確かに、あの日経験した、たった一人の婚約式だった。
ルナシェは、人生を変えるため、婚約式に現れなかった婚約者に、婚約破棄を告げるため、激戦の地へと足を向けるのだった。
小説家になろう様にも投稿しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。
そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。
そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。
「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」
そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。
かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが…
※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。
ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。
よろしくお願いしますm(__)m
雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる