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俺の後輩が可愛過ぎる〜ハルジオside〜

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「は、はぢめましてよろしくお願いします!セ…セノ=ミルルと申します!」

ハルジオとミルルの出会いは、新人教育を引き受けて初めて引き合わされた時の事だった。

緊張で体もカチカチに固まってお辞儀もぎごちない。
とにかく挨拶に全身全霊を傾けているミルルを、ハルジオは面白い子だと思った。

思えばそんな出会いからして、ミルルはこれまで出会ったどの女性とも違っていた。

自己肯定感が低いわけではないが、決して自分を過大評価しない。

謙虚で出しゃばらず、相手の話をよく聞く。
だけど自分の考えをしっかり持ち(かなり独特な思考だが)言うべき意見はきちんと言う。

何もかもが、今まで周りにいた女性たちと違っていた。
彼女達は自分の優秀さと価値観を常に周囲に認めさせる事に躍起になっていた。
まぁそれも男社会で生きていかなくてはならない、秀でたる者故の自己顕示欲なのだろうが。

しかしとにかく一緒にいて疲れる……と言っては彼女たちに失礼だが常に張り合われ、世辞や賞賛の言葉を求められるのは正直気が休まらないとハルジオはつくづく思っていた。

学生時代からの付き合いだったリッカ=ロナルドはその最たるものだった。

才色兼備で常に皆からの羨望を一身に浴びていた彼女。
でもかつてのリッカはその為に努力を惜しまない、そんな人間でもあったのだ。

貧しい家庭に育ち、奨学金を得て魔術学園に入学。
とにかく絶対に這い上がる、そんな彼女の気概にハルジオは刺激されていたのだろう。
まぁ感覚的には友人の延長…そういったところだったのだろうが。

しかし気概があるからこそ利己的で他人を利用して踏み台にする。そんな事も平気で出来る訳だ。

魔法省に入省して二年目三年目には、他者を省みずどんどん功利的になってゆく彼女の様をありありと見せつけられた。

ハルジオとリッカは学生時代からの付き合いだが、互いがきちんと恋人らしくしていたのは入省後最初の数ヶ月だけだろう。

その後は仕事が忙しく、いや、それを言い訳にして、ハルジオは変わってゆくリッカと一線を引いて接していた。

リッカ自身の人生だ。
生き方に共感出来ないからと、何も口出しするつもりはなかったから。

こんな付き合い方を続けていても仕方ない。
しかしハルジオが別れ話を切り出したくてもなかなかリッカには会えなかった。
手紙や省内ですれ違いざまに別れ話をするわけにもいかず、はっきりとさせられないまま月日だけが過ぎていった。

そんな時に、ハルジオはミルルと出会った。

素直でほんわかしたミルルが可愛いと思うのは先輩として、年長者としてだと思っていたのだが、これが恋情だと気付いた時にはもう、ハルジオはどうしようもなくミルルの事が好きになっていた。

もはや恋人同士とは言えない関係のリッカだったが、他の女性を好きになったのならきちんと別れるべきだ。

なんとか話をする機会を作らねば……と思っていたら、
同期で親友のレガルド=リーがハルジオの元を訪れた。

なんだか酷く言い辛そうにしているレガルドからようやく聞き出せた内容は、リッカが本省から出向している高官と情事を繰り返しているというものだった。

なんでも上に引き上げる事を条件として体を開いたのだとか。

しかし入省してからリッカの貪欲な出世願望を見せつけられてきたハルジオにとって、それは別に驚くべき事でも何でもなかった。

傷付く事も、不快に感じる事もない自分に、ハルジオは思わず自嘲した。

ーーミルルを好きになったから分かる。俺はリッカに恋情を抱いていた訳じゃなかったんだな。

そしてそれは向こうも同じなのだろう。

もう曖昧なままではいられない。

そうしてハルジオはリッカ=ロナルドと別れ、彼女は本省へと移って行った。

しかしハルジオはリッカと別れたからといってミルルに想いを告げるなんて事は出来ないと思っていた。

五つも年下の後輩。
彼女にとって自分は職場の先輩であり、バディであるにすぎない。

こんなオッサンが恋愛対象として見られている訳がないと思い、半ば想いを封印する方向に気持ちが傾いていた。

だけどミルルが可愛くて。

いつぞやバルで間違えてワインを呑んだミルルが、ふにゃりと笑いながら半濁点がついた言葉で喋った時など、可愛すぎてけしからんと怒鳴りたくなった。

父親がいないミルルがハルジオの背中を広いと言った時も、安心しきって寝息を立てるその様も、何もかもが可愛くて仕方なかった。

ーー俺の方が年上なのに、完全にミルルに翻弄されている気がする……
小悪魔か?ミルルは小悪魔なのか?

不器用ながらも必死で仕事を覚え、ハルジオの後を懸命について来る姿がこれまた健気でけしからん。

だけど出来れば後ろを歩かれるのではなく、自分の隣を歩いて貰いたい……
あの小さくて温かな手を包み込める、そんな権利が何よりも欲しい。

ハルジオはずっとそんな事を考えていた。


そしてそんな日々が続く中で、

あの事件が起きてしまった。

思えば最初から嫌な予感がしていた。

何かが起きそうな。
明白な言葉で表現出来ないが、何かしら嫌な気配を感じていたのだ。

だからミルルに席を外すように促したのだが、彼女はそれを拒んだ。

ハルジオのバディとして勤めを果たそうとする、いつになくその頑なな姿にハルジオはそれ以上は強く言えなかった。

本人は無自覚だろうが、あの澄んだ真っ直ぐな瞳で人を見つめるのはやめて欲しい。

ーーくっ……天性の小悪魔かっ……

ハルジオはミルルに対してかなり甘い自分を自覚しながら検証の為の準備をした。

そして起きてしまったあの事件。

ほとんど足を切断され、大量の血を流すミルル、あの光景は決して忘れる事など出来ない。

もはやハルジオのトラウマと化している。

とにかく彼女を死なせたくない、失いたくない、その思いで己の魔力を全て注ぎ込んで止血魔術と禁術すれすれの、一部分だけ時の流れを遅くする静止魔術を掛け続けた。

そのおかげか奇跡的にミルルの足は繋がり、一命も取り留める事が出来た。

しかしその後に突きつけられた現実に、ハルジオは全身が凍る思いがした。

魔術により切断された足は魔障を受けた状態となり、酷い傷痕が残った上に元通り歩けるようになるのは困難であるという。

あの時、無理やりにでも部屋から出していれば。

ミルルを可愛いと、大切だと思うのなら、強く言い聞かせてでも魔術札から遠ざけるべきだったのだ。

悔やんでも悔やんでも悔やみきれない。

それでもハルジオは悔恨の念に打ちひしがれる自身を叱咤する。

辛いのは、悲しいのは自分ではなくミルルの方だと。

今こそ彼女の支えにならずして、何がバディだ。

ハルジオは献身的にミルルの元へと通った。

もちろん、事件の後始末も一手に引き受けながら。

当然今回の件で責任は誰にあるかを取り沙汰される事になる。

省内では酷い傷痕と後遺症が残ったミルルに同情する声が多くあると聞く。
未婚の娘が負ったハンデに、誰が責任を取るのだと。

ーー責任……か。

ハルジオの心に、抗えきれない誘惑の声が響く。

責任云々関係なく、今なら彼女を一生支える立場を手に入れる事が出来るのではないだろうか。

弱りきった彼女の心に付け入るような形になり、正直卑怯だと自分でも思う。

でもそれでも、

そうまでしてでも、彼女が欲しい。
隣に並び立つ権利が欲しい。

結婚相手としてなら、五つも年上なのが逆に有利なのではないだろうか。

その考えが頭を過ぎった時、自分も充分利己的でリッカの事をとやかく言えないなと思った。

だけど自分はもう、ミルルのいない人生など考えられない。

親兄弟を既に亡くした自分が再び家族を持つ。
その相手はミルルしか考えられない。
いや、彼女でないと嫌だと思ったのだ。

部長や課長が責任を取れと言ってきたが、そんな事、言われるまでもない。
あの人達がどう思おうと関係ない。

ミルルに結婚を申し込む。
ハルジオはそう決意した。

そして決死の覚悟でプロポーズをし、ミルルがそれを受けてくれた時の喜びを、ハルジオは生涯忘れないだろう。

分かっている。
ミルルが恋情をもってプロポーズを受けてくれたのではない事は。
それでもきっと、夫婦として生きていく中で、いつか自分の想いと似たような感情を抱いてくれるようになったらいいと。
勿論そうなって貰えるよう、努力は怠らないつもりだ。

ミルルを必ず幸せにする。
愛して甘やかして大切にする。
絶対に、ハルジオはそう固く誓った。

そしてミルルの母親にも快諾され、寝言と寝相が酷いからと心配された時は最高潮に浮かれていたハルジオ。


まさかミルルがあんな事を考えていたとは……

後にそれをミルルまで、
ハルジオは思いも寄らなかったのだった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ハルジside、結婚編に続く……

続くのにすみません、次回の更新は明日の夜になります。

火曜日更新の「メロディ姐さんと愉快な仲間たち」あ、違う、「無関係だったわたしがあなたの子どもを生んだ訳」の更新はあります☆

……メロディが出ないお話なのに、脳内にメロディがチラホラ浮かぶのは何故……?




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