5 / 26
似合いの二人だったのに
しおりを挟む
「はぁぁ……昨日のテンプラ、美味しかったなぁ」
ハルジオと外食をした次の日、ミルルはその時食べた海老のテンプラの味を思い出してうっとりとしていた。
「サクサクの衣に包まれたぷりぷりでジューシーな海老……噛むほどに海老の甘みが口の中に広がって、夢のようなひとときだったわ……」
ハルジオとの食事は楽しかった。
ゆっくりと食事をしながら夫婦で色んな事を語り合う。
一緒に暮らし、毎日顔を合わせていても話しは尽きなかった。
でもハルジオの口からリッカの名前が出る事はなかったのだ。
ーーリッカ先輩がこっちに戻って来る事、ハルさんが知らない筈はないと思うんだけど。まだ会っていないのかしら?
もし自分に遠慮して何も言えないのであれば申し訳ないな、と思うミルルであった。
それからひと月が経ち、リッカが魔法省地方局に帰省する日となった。
魔法省で再会してからはまた連絡を取り合うようになった元同期のレアから、リッカが法務部の次長に昇進したと聞いている。
ーー課長のハルさんよりも出世しちゃったのね
ハルさんの心境は如何ばかりか。
「そんな事を気にする人じゃないわね」
もう二人は再会を果たしたのだろうか。
その時ハルさんはどんな気持ちだったんだろう。
ーー苦しい思いをしていなければいいけれど
妻を持つ身となり、自分の本当の気持ちに蓋をしなければならないであろうハルジオの事をミルルは気の毒に思えてならなかった。
だってあんなにお似合いだったんだもの。
ミルルが魔法省に勤めていた頃、同じ部署の後輩として、ハルジオのバディとして、何度も一緒にいる二人と接した事がある。
芸能人カップルか?と言いたくなるくらいに似合いの二人だったのに。
その二人が別れたと聞いたのはいつだったか。
ミルルが足を怪我する三ヶ月前…くらいだったと思う。
プライベートな事なので何も触れずにいたらハルジオの方から、ある日ポツリと呟かれた事があった。
「彼女が二年ほど王都に行く事になってね。まぁそれ以前から互いの気持ちの変化もあって、元々別れ話は出てたんだ。決定的なきっかけもあったし、それでもう別れようって事になったんだよ」
その時のミルルには、何故ハルジオがそんな自身の私生活に踏み込んだ事を話してくれたのかは分からなかった。
まぁ今も分かっていないミルルだが。
ーーきっと誰かに聞いて貰いたいほど辛かったのよ
当時ハルジオに淡い恋心を抱き初めていたミルルだったが、自分に出来るのは話を聞いてあげる事しかないと思い、黙って聞き役に徹した。
ハルジオがリッカと別れたと知ったからといって、ミルルは自分の恋が叶う訳ではないと分かっていた。
だって二人は互いに嫌いになって別れたのではないはず。
二年という時間と地方と王都という距離に負けただけ。
あの事件が起きなければ、またこちらに戻って来たリッカと結ばれていたはずなのだ。
ーーあんな事さえ起きなければ……
ミルルは怪我を負った方の自分の足を見つめた。
ワンピースに隠された素足には大きな傷跡がある。
ハルジオを縛り付ける根源の傷が。
ミルルはあの日起きた、
ミルルとハルジオと、そしてリッカの人生を変えた事件の事を思い出していた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次回からミルルの怪我の真相に触れてゆきます。
ハルジオと外食をした次の日、ミルルはその時食べた海老のテンプラの味を思い出してうっとりとしていた。
「サクサクの衣に包まれたぷりぷりでジューシーな海老……噛むほどに海老の甘みが口の中に広がって、夢のようなひとときだったわ……」
ハルジオとの食事は楽しかった。
ゆっくりと食事をしながら夫婦で色んな事を語り合う。
一緒に暮らし、毎日顔を合わせていても話しは尽きなかった。
でもハルジオの口からリッカの名前が出る事はなかったのだ。
ーーリッカ先輩がこっちに戻って来る事、ハルさんが知らない筈はないと思うんだけど。まだ会っていないのかしら?
もし自分に遠慮して何も言えないのであれば申し訳ないな、と思うミルルであった。
それからひと月が経ち、リッカが魔法省地方局に帰省する日となった。
魔法省で再会してからはまた連絡を取り合うようになった元同期のレアから、リッカが法務部の次長に昇進したと聞いている。
ーー課長のハルさんよりも出世しちゃったのね
ハルさんの心境は如何ばかりか。
「そんな事を気にする人じゃないわね」
もう二人は再会を果たしたのだろうか。
その時ハルさんはどんな気持ちだったんだろう。
ーー苦しい思いをしていなければいいけれど
妻を持つ身となり、自分の本当の気持ちに蓋をしなければならないであろうハルジオの事をミルルは気の毒に思えてならなかった。
だってあんなにお似合いだったんだもの。
ミルルが魔法省に勤めていた頃、同じ部署の後輩として、ハルジオのバディとして、何度も一緒にいる二人と接した事がある。
芸能人カップルか?と言いたくなるくらいに似合いの二人だったのに。
その二人が別れたと聞いたのはいつだったか。
ミルルが足を怪我する三ヶ月前…くらいだったと思う。
プライベートな事なので何も触れずにいたらハルジオの方から、ある日ポツリと呟かれた事があった。
「彼女が二年ほど王都に行く事になってね。まぁそれ以前から互いの気持ちの変化もあって、元々別れ話は出てたんだ。決定的なきっかけもあったし、それでもう別れようって事になったんだよ」
その時のミルルには、何故ハルジオがそんな自身の私生活に踏み込んだ事を話してくれたのかは分からなかった。
まぁ今も分かっていないミルルだが。
ーーきっと誰かに聞いて貰いたいほど辛かったのよ
当時ハルジオに淡い恋心を抱き初めていたミルルだったが、自分に出来るのは話を聞いてあげる事しかないと思い、黙って聞き役に徹した。
ハルジオがリッカと別れたと知ったからといって、ミルルは自分の恋が叶う訳ではないと分かっていた。
だって二人は互いに嫌いになって別れたのではないはず。
二年という時間と地方と王都という距離に負けただけ。
あの事件が起きなければ、またこちらに戻って来たリッカと結ばれていたはずなのだ。
ーーあんな事さえ起きなければ……
ミルルは怪我を負った方の自分の足を見つめた。
ワンピースに隠された素足には大きな傷跡がある。
ハルジオを縛り付ける根源の傷が。
ミルルはあの日起きた、
ミルルとハルジオと、そしてリッカの人生を変えた事件の事を思い出していた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次回からミルルの怪我の真相に触れてゆきます。
101
お気に入りに追加
3,790
あなたにおすすめの小説
【完結】夫もメイドも嘘ばかり
横居花琉
恋愛
真夜中に使用人の部屋から男女の睦み合うような声が聞こえていた。
サブリナはそのことを気に留めないようにしたが、ふと夫が浮気していたのではないかという疑念に駆られる。
そしてメイドから衝撃的なことを打ち明けられた。
夫のアランが無理矢理関係を迫ったというものだった。
俺の妖精すぎるおっとり妻から離縁を求められ、戦場でも止まらなかった心臓が止まるかと思った。何を言われても別れたくはないんだが?
イセヤ レキ
恋愛
「離縁致しましょう」
私の幸せな世界は、妻の言い放ったたった一言で、凍りついたのを感じた──。
最愛の妻から離縁を突きつけられ、最終的に無事に回避することが出来た、英雄の独白。
全6話、完結済。
リクエストにお応えした作品です。
単体でも読めると思いますが、
①【私の愛しい娘が、自分は悪役令嬢だと言っております。私の呪詛を恋敵に使って断罪されるらしいのですが、同じ失敗を犯すつもりはございませんよ?】
母主人公
※ノベルアンソロジー掲載の為、アルファポリス様からは引き下げております。
②【私は、お母様の能力を使って人の恋路を邪魔する悪役令嬢のようです。けれども断罪回避を目指すので、ヒーローに近付くつもりは微塵もございませんよ?】
娘主人公
を先にお読み頂くと世界観に理解が深まるかと思います。
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
最悪なお見合いと、執念の再会
当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。
しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。
それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。
相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。
最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。
妻のち愛人。
ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。
「ねーねー、ロナぁー」
甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。
そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
麗しのラシェール
真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」
わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。
ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる?
これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。
…………………………………………………………………………………………
短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる