17 / 30
ある日、二人の令息は
しおりを挟む
「どうしよう……全然見つからない……行く先に見当もつかないっ……」
ラモレー伯爵令嬢フランシーヌの婚約者であるコラール・ミレ伯爵令息は頭を抱えていた。
生徒会に属するルドヴィック第二王子と側近候補である自分たちに、王家からリュミナ・ドウィッチを預けられ、常に行動を共にするようになった。
リュミナの護衛と監視と有事の際の対応をそれぞれ任せられ、その務めをきちんと果たすべくそればかりに専念してきた。
フランシーヌとの時間が削られるのは正直嫌だったが我儘は言えない。
学生の身でありながら初めて与えられた大役に成果を出すために仕方ない事だと割り切るようにした。
リュミナは同い年とは思えない無邪気な性格で、なんとなく末の妹に似ていた。
それもありすぐに気心の知れた友人のように接するようになったのだが……。
それら全ての行動が婚約者であるフランシーヌの誤解を招いてしまっていたとは。
「リュミナに恋心を抱き、そのためにフランシーヌを蔑ろにしたと思われていたなんて……!」
しかもフランシーヌがそんな誤解を抱いていた事を知ったのは、彼女が幼い頃から親交のあった他の令嬢たちと同じく、学院を退学して他国に渡ったと聞かされてからであったのだ。
「なんて事だ……!あぁ……フランシーっ……!」
思えば先日リュミナがノートが盗まれたとフランシーヌとプリムローズを犯人扱いして騒いだ時、あの時は既に様子がおかしかった。
目を伏せ、一向にこちらを見ようとしないフランシーヌに違和感を感じながらも、それはリュミナに泥棒扱いをされて困惑していたからだと思っていたのだ。
何よりあの時はこれ以上騒ぎを大きくするまいとリュミナを宥めて誤解を解く事の方に気を取られ、フランシーヌの心情の変化に気を配る余裕がなかった。
「前々からフランシーが僕はリュミナに心を移したのだと考えていたのなら、あの時の対応は更に誤解を招くだけの行動だったはずっ……ああっ……僕はなんて愚かなことをっ……!」
コラールとフランシーヌの婚約は、二人が十歳の時結ばれた。
確かに家同士の取り決めであったが、婚約者同士として共に歩むうちにコラールは特別な感情をフランシーヌに抱くようになっていたのだ。
そしてそれを大切に育んできたというのに。
しかし今になって思えばそこに驕りと言うべきか油断があったのだろう。
フランシーヌとは誰よりも強い絆で結ばれていると。
多くを語らずともわかってくれる。
誰よりも彼女の事を理解し、また誰よりも自分の事を理解してくれているのは彼女だと、そんな甘えが良好な関係を維持するという努力を怠らせたのだ。
「悔やんでも悔やみきれないっ……フランシー……どこにいる?お願いだから僕の側に戻ってほしい……」
フランシーヌが国を出てからというもの、コラールはミレ伯爵家の持てる力を駆使してフランシーヌを探し続けていた。
しかし父親であるラモレー伯爵に退学の手続きを任せて家を出た後のフランシーヌの足取りが不自然なまでに掴めないのだ。
ラモレー伯爵も知らぬ存ぜぬを貫き通すつもりのようで決して娘の居場所を話そうとはしない。
まずはそのラモレー伯爵の誤解を解くのが先だとコラールは身振り手振り、自身の持つ語彙力全てを駆使して伯爵に申し開きをした。
リュミナに対して恋愛感情など一切持ち合わせていない事、愛しているのは変わらずフランシーヌであるという事を……。
終いにはラモレー伯爵もそのコラールの話に嘘偽りはないと信じてくれたが、自力で娘の信頼を取り戻せないようではとても大切な娘を任せられないと告げられたのだ。
「わかっている。全ては浅慮でお粗末な行動を取り続けた自分が招いた結果である事は……ラモレー伯は僕の力量を試しているんだ……」
この事を乗り越えられるくらいでないと第二王子の側近など務まらぬし、大切な娘の婿として迎え入れる事も出来ないと。
「どうする?どうしたらいい……?令嬢一人の足取りがここまで見事に掴めないとなると……やはりエリザベス嬢……レントン公爵家が一枚も二枚も噛んでいるんだろうなぁ……」
王国の暗部を取り仕切るレントン公爵を相手にするのは分が悪すぎる。
コラールは情けないと思いつつもルドヴィックを頼り、彼の執務室を訪れた。
「よく来たなコラール。お前もレントン公爵家の仕業だと思ったから私の元に来たのだろう?」
「はい……出来る事ならば自分の力だけでフランシーを見つけ出したかったのですが、たかだか伯爵家の三男坊の僕では太刀打ち出来ません……」
「そう気負うなコラール。暗部を動かすレントン家に対し、私とて大した手は打てない。この件に関し私用で他の暗部を動かすなと父上に釘を刺されているしな」
「っでは……殿下はどうされるのですか?レントン公爵令嬢を諦めるのですかっ……?」
「バカを言え。私がベスを諦めるなど天と地がひっくり返っても有り得ない。何がなんでも捕まえて、膝をついてでも詫びて縋って許しを乞うのだ!」
「王族が膝を折ると言われるのですかっ?」
「それでベスを取り戻せるなら、バッキバキに折りまくってやる!この際土下座でもなんでもする所存!」
「で、殿下っ……!」
胸アツで涙を浮かべるコラールに背を向け、ルドヴィックは執務室の窓から外を眺めた。
丁度この窓から庭園の赤い薔薇が見えるのだ。
ルドヴィックはその真紅の薔薇を見ながら言った。
「巧みに足取りを隠されて後を追えないのなら……向こうから出て来て貰えばいいのだ」
「ど、どうやって……?」
「ふふふ………まぁそれは任せておいてくれ。勿論それでフランシーヌも現れるはずだ」
「ほ、本当ですかっ……?あ、ありがとうございます!……でも、エクトルはあれからどうしているのでしょう?少しも姿が見えませんが……」
「アイツはすでにプリムローズ嬢捕獲の為に国を出ているようだ。アイツ、自分の婚約者の行動を凡そ把握しているようだぞ」
「ではプリムローズ嬢が捕まるのは時間の問題ですね」
「さて、それはどうかな?なんせエクトルの婚約者は規格外の行動派だからな……」
「エクトル……大丈夫でしょうか……」
「しかしそれを上回るアイツの執着心……はてさてどうなるものか……」
そうつぶやくルドヴィックの声が、彼のため息と共に落ちていった。
───────────────────────
次回、薔薇之介参る!
ラモレー伯爵令嬢フランシーヌの婚約者であるコラール・ミレ伯爵令息は頭を抱えていた。
生徒会に属するルドヴィック第二王子と側近候補である自分たちに、王家からリュミナ・ドウィッチを預けられ、常に行動を共にするようになった。
リュミナの護衛と監視と有事の際の対応をそれぞれ任せられ、その務めをきちんと果たすべくそればかりに専念してきた。
フランシーヌとの時間が削られるのは正直嫌だったが我儘は言えない。
学生の身でありながら初めて与えられた大役に成果を出すために仕方ない事だと割り切るようにした。
リュミナは同い年とは思えない無邪気な性格で、なんとなく末の妹に似ていた。
それもありすぐに気心の知れた友人のように接するようになったのだが……。
それら全ての行動が婚約者であるフランシーヌの誤解を招いてしまっていたとは。
「リュミナに恋心を抱き、そのためにフランシーヌを蔑ろにしたと思われていたなんて……!」
しかもフランシーヌがそんな誤解を抱いていた事を知ったのは、彼女が幼い頃から親交のあった他の令嬢たちと同じく、学院を退学して他国に渡ったと聞かされてからであったのだ。
「なんて事だ……!あぁ……フランシーっ……!」
思えば先日リュミナがノートが盗まれたとフランシーヌとプリムローズを犯人扱いして騒いだ時、あの時は既に様子がおかしかった。
目を伏せ、一向にこちらを見ようとしないフランシーヌに違和感を感じながらも、それはリュミナに泥棒扱いをされて困惑していたからだと思っていたのだ。
何よりあの時はこれ以上騒ぎを大きくするまいとリュミナを宥めて誤解を解く事の方に気を取られ、フランシーヌの心情の変化に気を配る余裕がなかった。
「前々からフランシーが僕はリュミナに心を移したのだと考えていたのなら、あの時の対応は更に誤解を招くだけの行動だったはずっ……ああっ……僕はなんて愚かなことをっ……!」
コラールとフランシーヌの婚約は、二人が十歳の時結ばれた。
確かに家同士の取り決めであったが、婚約者同士として共に歩むうちにコラールは特別な感情をフランシーヌに抱くようになっていたのだ。
そしてそれを大切に育んできたというのに。
しかし今になって思えばそこに驕りと言うべきか油断があったのだろう。
フランシーヌとは誰よりも強い絆で結ばれていると。
多くを語らずともわかってくれる。
誰よりも彼女の事を理解し、また誰よりも自分の事を理解してくれているのは彼女だと、そんな甘えが良好な関係を維持するという努力を怠らせたのだ。
「悔やんでも悔やみきれないっ……フランシー……どこにいる?お願いだから僕の側に戻ってほしい……」
フランシーヌが国を出てからというもの、コラールはミレ伯爵家の持てる力を駆使してフランシーヌを探し続けていた。
しかし父親であるラモレー伯爵に退学の手続きを任せて家を出た後のフランシーヌの足取りが不自然なまでに掴めないのだ。
ラモレー伯爵も知らぬ存ぜぬを貫き通すつもりのようで決して娘の居場所を話そうとはしない。
まずはそのラモレー伯爵の誤解を解くのが先だとコラールは身振り手振り、自身の持つ語彙力全てを駆使して伯爵に申し開きをした。
リュミナに対して恋愛感情など一切持ち合わせていない事、愛しているのは変わらずフランシーヌであるという事を……。
終いにはラモレー伯爵もそのコラールの話に嘘偽りはないと信じてくれたが、自力で娘の信頼を取り戻せないようではとても大切な娘を任せられないと告げられたのだ。
「わかっている。全ては浅慮でお粗末な行動を取り続けた自分が招いた結果である事は……ラモレー伯は僕の力量を試しているんだ……」
この事を乗り越えられるくらいでないと第二王子の側近など務まらぬし、大切な娘の婿として迎え入れる事も出来ないと。
「どうする?どうしたらいい……?令嬢一人の足取りがここまで見事に掴めないとなると……やはりエリザベス嬢……レントン公爵家が一枚も二枚も噛んでいるんだろうなぁ……」
王国の暗部を取り仕切るレントン公爵を相手にするのは分が悪すぎる。
コラールは情けないと思いつつもルドヴィックを頼り、彼の執務室を訪れた。
「よく来たなコラール。お前もレントン公爵家の仕業だと思ったから私の元に来たのだろう?」
「はい……出来る事ならば自分の力だけでフランシーを見つけ出したかったのですが、たかだか伯爵家の三男坊の僕では太刀打ち出来ません……」
「そう気負うなコラール。暗部を動かすレントン家に対し、私とて大した手は打てない。この件に関し私用で他の暗部を動かすなと父上に釘を刺されているしな」
「っでは……殿下はどうされるのですか?レントン公爵令嬢を諦めるのですかっ……?」
「バカを言え。私がベスを諦めるなど天と地がひっくり返っても有り得ない。何がなんでも捕まえて、膝をついてでも詫びて縋って許しを乞うのだ!」
「王族が膝を折ると言われるのですかっ?」
「それでベスを取り戻せるなら、バッキバキに折りまくってやる!この際土下座でもなんでもする所存!」
「で、殿下っ……!」
胸アツで涙を浮かべるコラールに背を向け、ルドヴィックは執務室の窓から外を眺めた。
丁度この窓から庭園の赤い薔薇が見えるのだ。
ルドヴィックはその真紅の薔薇を見ながら言った。
「巧みに足取りを隠されて後を追えないのなら……向こうから出て来て貰えばいいのだ」
「ど、どうやって……?」
「ふふふ………まぁそれは任せておいてくれ。勿論それでフランシーヌも現れるはずだ」
「ほ、本当ですかっ……?あ、ありがとうございます!……でも、エクトルはあれからどうしているのでしょう?少しも姿が見えませんが……」
「アイツはすでにプリムローズ嬢捕獲の為に国を出ているようだ。アイツ、自分の婚約者の行動を凡そ把握しているようだぞ」
「ではプリムローズ嬢が捕まるのは時間の問題ですね」
「さて、それはどうかな?なんせエクトルの婚約者は規格外の行動派だからな……」
「エクトル……大丈夫でしょうか……」
「しかしそれを上回るアイツの執着心……はてさてどうなるものか……」
そうつぶやくルドヴィックの声が、彼のため息と共に落ちていった。
───────────────────────
次回、薔薇之介参る!
154
お気に入りに追加
3,835
あなたにおすすめの小説
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
「あなたの好きなひとを盗るつもりなんてなかった。どうか許して」と親友に謝られたけど、その男性は私の好きなひとではありません。まあいっか。
石河 翠
恋愛
真面目が取り柄のハリエットには、同い年の従姉妹エミリーがいる。母親同士の仲が悪く、二人は何かにつけ比較されてきた。
ある日招待されたお茶会にて、ハリエットは突然エミリーから謝られる。なんとエミリーは、ハリエットの好きなひとを盗ってしまったのだという。エミリーの母親は、ハリエットを出し抜けてご機嫌の様子。
ところが、紹介された男性はハリエットの好きなひととは全くの別人。しかもエミリーは勘違いしているわけではないらしい。そこでハリエットは伯母の誤解を解かないまま、エミリーの結婚式への出席を希望し……。
母親の束縛から逃れて初恋を叶えるしたたかなヒロインと恋人を溺愛する腹黒ヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:23852097)をお借りしております。
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
私が妻です!
ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。
王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。
侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。
そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。
世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。
5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。
★★★なろう様では最後に閑話をいれています。
脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。
他のサイトにも投稿しています。
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。
緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」
そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。
私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。
ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。
その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。
「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」
お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。
「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる