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ある日、出国した令嬢たちは……
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ある日、豪華客船の展望デッキのドリンクバーカウンターでトロピカルジュースを飲みながらフランシーヌが言った。
「プリムローズもエリザベス様とご一緒させて貰えば良かったですのに」
可愛い形のピックが挿してあるフルーツやチーズをつまみながらエリザベスが言う。
「プリムローズはグスタフ様が吟じていた東方の国にとても興味を示していましたもの。どうせ出国するなら行きたい国へ行くのが一番だと思うわ」
「でも一人旅なんて寂しくないのかしら?それなら、私たちもプリムローズと共に東和へ行けば良かったのかも……」
「バカな事を言ってはダメよフランシー。プリムローズと一緒に行ってみなさい、男装させられた上に剣を持って武者修行よ。わたくし達には到底無理たわ」
「た、確かに……」
「ふふふ。でも他国へ行ったと見せかけて、まさかクルージングの旅で海上をウロウロしているなんて殿下たちは思いも寄らないでしょうね」
「何も言わずに学院を辞めて国を出て……驚いておられるでしょうか……?」
「それはもちろん驚いたでしょうね。でも邪魔なわたくし達が居なくなって清々しておいでなのではないかしら。今頃サクサクと婚約解消の手続きをされているわよ」
「そうですよね……」
「さぁ!せっかく素敵なクルージングを楽しんでいるのだもの。湿っぽい話はやめましょう」
「そうですよね!この南国のジュース、とっても美味しいですわ~」
「ふふふ、きっとプリムローズも今頃東和の美味しいものをたくさん食べているのかもしれないわね、あの子は食いしん坊だから」
◇◇◇
「ふぇっ……くちゅんっ」
「あらお兄さん、風邪かい?薬を持って来ようかい?」
「いえ、それには及びませんナリよ」
「そうかい?えっと……ご予約は頂いていたかね?」
「某の名は桜薔薇之助と申すナリ!」
「はいはい桜様ね。あぁ確かにご宿泊のご予約いただいてますね。それにしてもお兄さん、発音が独特だね。言葉使いも。外国生活が長かったのかい?」
「そ、そうナリよ。そ、それに某の母上は西方の国の人間ナリから~」
「じゃあお兄さんは混血なんだね。どうりで青い目をしているわけだ」
「(ドキッ)あはははナリ~」
「去年お生まれになった州主の二の若君も混血で青い目を持つと聞くよ?これからは、いんたーなしょなるな時代になるんだろうねぇ」
「そ、そうナリのね、あははは~」
「それじゃあお兄さん、ごゆっくり」
そう言って旅籠の中居は部屋を出て行った。
薔薇之助は腰に差していた和刀を抜き、旅装束を解いた。
そして浴衣なるものを着て、座布団なるものの上にちょこんと座る。
「こ、これが吟遊詩人グスタフさんが吟じていたザブトンというクッションね……東方の国の人は本当に地べたに座るんだぁ~面白い~」
薔薇之助はコロンとタタミなるものの上に寝転がってみる。
サワラの木で張られているという天井を見上げ、薔薇之助はひとり言ちた。
「変身魔法でも瞳の色は変えられないものね……イントネーションの事もあるし、桜薔薇之助はハーフという設定でいこう」
そしてガバリと起き上がり、手荷物の中から小さな魔道具を取り出す。
薔薇之助が魔道具のボタンをぽちりと押すと、彼の姿が可憐な少女へと変わった。
薔薇之助は本来の自分、プリムローズ・キャスパーに戻った姿を見る。
「本当に東和まで来てしまったわ……」
どうやっても何をやっても何もしないでも、リュミナ・ドビッチとの関係性が悪くなり、断罪の足音が近付いてくるのを感じた。
そして国外追放の処遇を勝手に決められる前に自分で好きな国へ出て、そこでこれからの事を考えるべきだというエリザベスの策に従って祖国を出たのだ。
学園での事が大まかに父の耳には入っていたらしく、他国へ行きたいと願い出たらどうせ行くなら武者修行の旅に出ろとすんなりと認めて貰えた。
それなら吟遊詩人グスタフ・グスタンから色々と聞いていた東方の国…東和州に行ってみたいとオネダリして、父に東和への入国手続きを取ってもらったのだ。
そして父は、武術の心得があるとしても女性の一人旅は危険だからと(侍女を伴う方がもっと危険。侍従は男性なので同伴させられない)変身魔法を用いれる魔道具を用意してくれた。
まぁ東和州はよほどの辺境地ではない限り治安が悪い国ではないので、父親も一人旅を許してくれたのだろうが。
それにしても父が別れ際に、
「まぁどうせ直ぐに捕獲されるだろうから一人旅は心配しとらん。そうなった時はちゃんと二人で話し合うように。あ、節度ある距離を保てよ?」
と言っていた事が気になる。はてどういう意味だろう。
「よくわからないけどまぁいいわ!せっかく東和に来たんだもの!某、東方剣術を大いに学ぶ所存ナリ!」
そう言ってプリムローズはまた魔道具を用いて桜薔薇之助に変身した。
「ま、その前にとりあえずは宿の名物、スキヤキをお腹いっぱい食べるナリ~♪」
薔薇之助はウキウキと宿の食堂へと足を運んだ。
───────────────────────
ザブトンを吟じるってなに?
プリム、コ○助?
そしてロザリーはどうした?
「プリムローズもエリザベス様とご一緒させて貰えば良かったですのに」
可愛い形のピックが挿してあるフルーツやチーズをつまみながらエリザベスが言う。
「プリムローズはグスタフ様が吟じていた東方の国にとても興味を示していましたもの。どうせ出国するなら行きたい国へ行くのが一番だと思うわ」
「でも一人旅なんて寂しくないのかしら?それなら、私たちもプリムローズと共に東和へ行けば良かったのかも……」
「バカな事を言ってはダメよフランシー。プリムローズと一緒に行ってみなさい、男装させられた上に剣を持って武者修行よ。わたくし達には到底無理たわ」
「た、確かに……」
「ふふふ。でも他国へ行ったと見せかけて、まさかクルージングの旅で海上をウロウロしているなんて殿下たちは思いも寄らないでしょうね」
「何も言わずに学院を辞めて国を出て……驚いておられるでしょうか……?」
「それはもちろん驚いたでしょうね。でも邪魔なわたくし達が居なくなって清々しておいでなのではないかしら。今頃サクサクと婚約解消の手続きをされているわよ」
「そうですよね……」
「さぁ!せっかく素敵なクルージングを楽しんでいるのだもの。湿っぽい話はやめましょう」
「そうですよね!この南国のジュース、とっても美味しいですわ~」
「ふふふ、きっとプリムローズも今頃東和の美味しいものをたくさん食べているのかもしれないわね、あの子は食いしん坊だから」
◇◇◇
「ふぇっ……くちゅんっ」
「あらお兄さん、風邪かい?薬を持って来ようかい?」
「いえ、それには及びませんナリよ」
「そうかい?えっと……ご予約は頂いていたかね?」
「某の名は桜薔薇之助と申すナリ!」
「はいはい桜様ね。あぁ確かにご宿泊のご予約いただいてますね。それにしてもお兄さん、発音が独特だね。言葉使いも。外国生活が長かったのかい?」
「そ、そうナリよ。そ、それに某の母上は西方の国の人間ナリから~」
「じゃあお兄さんは混血なんだね。どうりで青い目をしているわけだ」
「(ドキッ)あはははナリ~」
「去年お生まれになった州主の二の若君も混血で青い目を持つと聞くよ?これからは、いんたーなしょなるな時代になるんだろうねぇ」
「そ、そうナリのね、あははは~」
「それじゃあお兄さん、ごゆっくり」
そう言って旅籠の中居は部屋を出て行った。
薔薇之助は腰に差していた和刀を抜き、旅装束を解いた。
そして浴衣なるものを着て、座布団なるものの上にちょこんと座る。
「こ、これが吟遊詩人グスタフさんが吟じていたザブトンというクッションね……東方の国の人は本当に地べたに座るんだぁ~面白い~」
薔薇之助はコロンとタタミなるものの上に寝転がってみる。
サワラの木で張られているという天井を見上げ、薔薇之助はひとり言ちた。
「変身魔法でも瞳の色は変えられないものね……イントネーションの事もあるし、桜薔薇之助はハーフという設定でいこう」
そしてガバリと起き上がり、手荷物の中から小さな魔道具を取り出す。
薔薇之助が魔道具のボタンをぽちりと押すと、彼の姿が可憐な少女へと変わった。
薔薇之助は本来の自分、プリムローズ・キャスパーに戻った姿を見る。
「本当に東和まで来てしまったわ……」
どうやっても何をやっても何もしないでも、リュミナ・ドビッチとの関係性が悪くなり、断罪の足音が近付いてくるのを感じた。
そして国外追放の処遇を勝手に決められる前に自分で好きな国へ出て、そこでこれからの事を考えるべきだというエリザベスの策に従って祖国を出たのだ。
学園での事が大まかに父の耳には入っていたらしく、他国へ行きたいと願い出たらどうせ行くなら武者修行の旅に出ろとすんなりと認めて貰えた。
それなら吟遊詩人グスタフ・グスタンから色々と聞いていた東方の国…東和州に行ってみたいとオネダリして、父に東和への入国手続きを取ってもらったのだ。
そして父は、武術の心得があるとしても女性の一人旅は危険だからと(侍女を伴う方がもっと危険。侍従は男性なので同伴させられない)変身魔法を用いれる魔道具を用意してくれた。
まぁ東和州はよほどの辺境地ではない限り治安が悪い国ではないので、父親も一人旅を許してくれたのだろうが。
それにしても父が別れ際に、
「まぁどうせ直ぐに捕獲されるだろうから一人旅は心配しとらん。そうなった時はちゃんと二人で話し合うように。あ、節度ある距離を保てよ?」
と言っていた事が気になる。はてどういう意味だろう。
「よくわからないけどまぁいいわ!せっかく東和に来たんだもの!某、東方剣術を大いに学ぶ所存ナリ!」
そう言ってプリムローズはまた魔道具を用いて桜薔薇之助に変身した。
「ま、その前にとりあえずは宿の名物、スキヤキをお腹いっぱい食べるナリ~♪」
薔薇之助はウキウキと宿の食堂へと足を運んだ。
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ザブトンを吟じるってなに?
プリム、コ○助?
そしてロザリーはどうした?
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