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ある日、中庭での騒ぎに遭遇しました(ロザリーの本音)
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「ドウィッチ先輩!どういうおつもりなんですのっ?」
二時限目と三時限目の間に設けられている長休憩の時間、プリムローズと同じく先月入学したばかりの一年生の女子生徒がリュミナに向けてそう言った。
その女子生徒は数名の友人と一緒になってリュミナの行く手を遮るようにして対峙している。
対するリュミナは珍しく一人である。
リュミナは可愛らしく小首を傾げて女子生徒を見た。
「なぁに突然。どういうつもりとは何のことかしら?」
「わ、私の婚約者を誘惑するのはやめてくださいっ」
「婚約者?だぁれ?」
「先々週に執行部入りをした一年のカレッド・リヒターですわっ」
「あ~カレッドくんね♡でもワタシ、ユーワクなんてしてませーん」
「う、嘘ですっ私何度も見てるんです!あなたが彼に腕を絡めてくっ付いているところを!」
「それくらいでユーワクぅ?いやねぇ単なるスキンシップよ?羨ましいならあなたも彼にくっつけばいいのよ」
「なっ…そんな端ないこと出来ませんわっ……」
「そうよ!淑女の行いではないわ!」
「ドウィチ先輩、彼女に謝ってください!」
女子生徒の友人たちが援護射撃するも、リュミナは意に介する様子もなくシレッとしている。
「え~どうして~?」
そう言って長いピンクブロンドの髪の毛先を指でくるくると弄んだ。
中庭で突然起きたその様子を、偶然居合わせたプリムローズとロザリーが眺めていた。
ロザリーが小声でプリムローズに言う。
「あの女子生徒の婚約者も生徒会執行部のメンバーの一人だということは、ドビッチの夫になるのかもしれないですわね」
「え、わたし達の婚約者だけでなく他の人も?」
「執行部入りするのは家柄や成績がとても良い生徒ばかりでしょう?とくに今は王族が在籍しているから余計に爵位の高い家の令息が選ばれているらしいわ。それなら夫候補の一人として目を付けられていても当然ではなくて?」
「なるほど……」
とにかくエリザベスからドビッチとは関わるなと言われているプリムローズとロザリーは、目立たない少し離れた場所から事の成り行きを静観する事にした。
するとたまたま休憩のために訪れたのかそれともリュミナと待ち合わせをしていたのかは知らないが、執行部メンバーの内の二人、エクトルとイヴァンが中庭へとやって来た。
そして中庭に流れる不穏な空気を察し、エクトルがその場にいた者たちに訊ねる。
「どうした?何かあったのか?」
そんなエクトルとイヴァンの姿を見た途端にリュミナが泣きべそをかいて二人に擦り寄った。
「ふぇ~ん!エクトル様ぁイヴァン様ぁ……!」
先程までシレッっと不遜な態度で女子生徒たちと接していたというのに、突然目に涙を浮かべて悲しそうに二人に訴える。
「ワタシ……ただ執行部のお仕事をみんなと頑張っているだけなのにっ……ワタシがあの女子生徒の婚約者をユーワクしてるって言いがかりを付けられたんですっ……!」
それを聞き、ロザリーの婚約者であるイヴァンが大きな声で騒ぎたてた。
「なんだとっ!?いつも健気に頑張っているリュミナがそんな事をするはずがないだろう!誰だっそんなくだらん事を言う奴はっ!!」
「くすん、あそこにいる女子生徒たちです……」
「なにぃっ!?」
「「「ヒッ……」」」
体格が良く声も大きなイヴァンに凄まれて、女子生徒たちは小さな悲鳴をあげた。
しかも相手は上級生で侯爵家の令息である。
彼女たちは一瞬で青ざめ、萎縮してしまった。
そんな女子生徒たちを鼻息を荒くして睨みつけるイヴァンをエクトルが諌める。
「こらイヴァン、デカい声で喚くな。下級生たちが怖がっているだろう。それにリュミナの意見だけを鵜呑みにして相手を一方的に攻めるのは間違っているのではないか?」
エクトルのその言葉にイヴァンは唾を飛ばす勢いで抗議した。
「それではお前はリュミナに非があると言いたいのかっ!?」
「え~んヒドイわエクトル様ってば……ワタシが悪いと思っているの?」
悲しそうにウルウルと上目遣いでリュミナがそう言うとエクトルは肩を竦めた。
「何にもしてないと言い張るキミが、マナー違反をしている可能性の方が高いとは思っている。だからちゃんとマナーを学べといつも言ってるだろう」
リュミナにそう言ったエクトルを離れた所から見て、プリムローズは胸に手を当ててつぶやいた。
「あぁ……またあんなに優しげに微笑んで……」
寂しそうに言うプリムローズにロザリーは冷静なもの言いで答えた。
「そう?アレはどちかというと冷笑に近いのではないかしら?それよりもイヴァンよ、アイツ……前々からゴリラに近付いていると思っていたけれど、脳みそまでゴリラに……いえ違うわね、ゴリラは知能が高くて優しい生きものだもの。一緒にしてはゴリラに失礼だわ」
「ロザリー様……相変わらずオーブリー小侯爵の事が苦手なのね」
「だってあの人、本当に馬鹿なんですもの。私は頭が悪いのは許せても馬鹿は許せないの」
「奥が深いわぁ。その差がわたしには分からないです……」
ロザリーは遠目で自身の婚約者を見た。
「……今までは……家同士の取り決めであるこの婚約をただ受け入れるしかないと思っていたから、エリザベス様のお話を聞いた時は驚いて狼狽えてしまったけれど……私にとっては婚約解消は願ってもない事だわ」
プリムローズはそう言ったロザリーをじっと見つめる。
「ロザリー様はむしろ婚約解消に踏み切りたいのね……」
「でも断罪されて修道院なんて絶対に嫌よ?だからそうならないように気をつけなくてはいけないわね」
「そうですわね」
思わぬ形でロザリーの本音を聞く事になったプリムローズが自分の婚約者であるエクトルに視線を向ける。
───わたしは……本当は婚約解消なんてしたくないわ……でも、それよりも、エクトルに嫌われる方が何倍も何百倍も何千倍もいや……!
それならばエクトルが望むように婚約解消を受け入れて、その後は幼馴染として時々は手紙を出したり冒険者となって手に入れたお宝を贈るくらいは許される関係になる方がいい。
プリムローズはそう考えた。
二時限目と三時限目の間に設けられている長休憩の時間、プリムローズと同じく先月入学したばかりの一年生の女子生徒がリュミナに向けてそう言った。
その女子生徒は数名の友人と一緒になってリュミナの行く手を遮るようにして対峙している。
対するリュミナは珍しく一人である。
リュミナは可愛らしく小首を傾げて女子生徒を見た。
「なぁに突然。どういうつもりとは何のことかしら?」
「わ、私の婚約者を誘惑するのはやめてくださいっ」
「婚約者?だぁれ?」
「先々週に執行部入りをした一年のカレッド・リヒターですわっ」
「あ~カレッドくんね♡でもワタシ、ユーワクなんてしてませーん」
「う、嘘ですっ私何度も見てるんです!あなたが彼に腕を絡めてくっ付いているところを!」
「それくらいでユーワクぅ?いやねぇ単なるスキンシップよ?羨ましいならあなたも彼にくっつけばいいのよ」
「なっ…そんな端ないこと出来ませんわっ……」
「そうよ!淑女の行いではないわ!」
「ドウィチ先輩、彼女に謝ってください!」
女子生徒の友人たちが援護射撃するも、リュミナは意に介する様子もなくシレッとしている。
「え~どうして~?」
そう言って長いピンクブロンドの髪の毛先を指でくるくると弄んだ。
中庭で突然起きたその様子を、偶然居合わせたプリムローズとロザリーが眺めていた。
ロザリーが小声でプリムローズに言う。
「あの女子生徒の婚約者も生徒会執行部のメンバーの一人だということは、ドビッチの夫になるのかもしれないですわね」
「え、わたし達の婚約者だけでなく他の人も?」
「執行部入りするのは家柄や成績がとても良い生徒ばかりでしょう?とくに今は王族が在籍しているから余計に爵位の高い家の令息が選ばれているらしいわ。それなら夫候補の一人として目を付けられていても当然ではなくて?」
「なるほど……」
とにかくエリザベスからドビッチとは関わるなと言われているプリムローズとロザリーは、目立たない少し離れた場所から事の成り行きを静観する事にした。
するとたまたま休憩のために訪れたのかそれともリュミナと待ち合わせをしていたのかは知らないが、執行部メンバーの内の二人、エクトルとイヴァンが中庭へとやって来た。
そして中庭に流れる不穏な空気を察し、エクトルがその場にいた者たちに訊ねる。
「どうした?何かあったのか?」
そんなエクトルとイヴァンの姿を見た途端にリュミナが泣きべそをかいて二人に擦り寄った。
「ふぇ~ん!エクトル様ぁイヴァン様ぁ……!」
先程までシレッっと不遜な態度で女子生徒たちと接していたというのに、突然目に涙を浮かべて悲しそうに二人に訴える。
「ワタシ……ただ執行部のお仕事をみんなと頑張っているだけなのにっ……ワタシがあの女子生徒の婚約者をユーワクしてるって言いがかりを付けられたんですっ……!」
それを聞き、ロザリーの婚約者であるイヴァンが大きな声で騒ぎたてた。
「なんだとっ!?いつも健気に頑張っているリュミナがそんな事をするはずがないだろう!誰だっそんなくだらん事を言う奴はっ!!」
「くすん、あそこにいる女子生徒たちです……」
「なにぃっ!?」
「「「ヒッ……」」」
体格が良く声も大きなイヴァンに凄まれて、女子生徒たちは小さな悲鳴をあげた。
しかも相手は上級生で侯爵家の令息である。
彼女たちは一瞬で青ざめ、萎縮してしまった。
そんな女子生徒たちを鼻息を荒くして睨みつけるイヴァンをエクトルが諌める。
「こらイヴァン、デカい声で喚くな。下級生たちが怖がっているだろう。それにリュミナの意見だけを鵜呑みにして相手を一方的に攻めるのは間違っているのではないか?」
エクトルのその言葉にイヴァンは唾を飛ばす勢いで抗議した。
「それではお前はリュミナに非があると言いたいのかっ!?」
「え~んヒドイわエクトル様ってば……ワタシが悪いと思っているの?」
悲しそうにウルウルと上目遣いでリュミナがそう言うとエクトルは肩を竦めた。
「何にもしてないと言い張るキミが、マナー違反をしている可能性の方が高いとは思っている。だからちゃんとマナーを学べといつも言ってるだろう」
リュミナにそう言ったエクトルを離れた所から見て、プリムローズは胸に手を当ててつぶやいた。
「あぁ……またあんなに優しげに微笑んで……」
寂しそうに言うプリムローズにロザリーは冷静なもの言いで答えた。
「そう?アレはどちかというと冷笑に近いのではないかしら?それよりもイヴァンよ、アイツ……前々からゴリラに近付いていると思っていたけれど、脳みそまでゴリラに……いえ違うわね、ゴリラは知能が高くて優しい生きものだもの。一緒にしてはゴリラに失礼だわ」
「ロザリー様……相変わらずオーブリー小侯爵の事が苦手なのね」
「だってあの人、本当に馬鹿なんですもの。私は頭が悪いのは許せても馬鹿は許せないの」
「奥が深いわぁ。その差がわたしには分からないです……」
ロザリーは遠目で自身の婚約者を見た。
「……今までは……家同士の取り決めであるこの婚約をただ受け入れるしかないと思っていたから、エリザベス様のお話を聞いた時は驚いて狼狽えてしまったけれど……私にとっては婚約解消は願ってもない事だわ」
プリムローズはそう言ったロザリーをじっと見つめる。
「ロザリー様はむしろ婚約解消に踏み切りたいのね……」
「でも断罪されて修道院なんて絶対に嫌よ?だからそうならないように気をつけなくてはいけないわね」
「そうですわね」
思わぬ形でロザリーの本音を聞く事になったプリムローズが自分の婚約者であるエクトルに視線を向ける。
───わたしは……本当は婚約解消なんてしたくないわ……でも、それよりも、エクトルに嫌われる方が何倍も何百倍も何千倍もいや……!
それならばエクトルが望むように婚約解消を受け入れて、その後は幼馴染として時々は手紙を出したり冒険者となって手に入れたお宝を贈るくらいは許される関係になる方がいい。
プリムローズはそう考えた。
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