懐妊したポンコツ妻は夫から自立したい

キムラましゅろう

文字の大きさ
上 下
20 / 20
番外編

番外編最終話 輝ける未来へ……

しおりを挟む
「美味しい!セドリック様が買い求めて来て下さった有名パティスリーのクッキー、本当に美味しいわ!」

午後のティータイム、
ユニカは夫セドリックの土産の菓子にご満悦の様子だ。

セドリックはそんなユニカの姿を目を細めて微笑ましそうに見つめている。

「でもユニカ、臨月に入りもうこれ以上体重を増やしてはいけないと医療魔術師先生に言われているのだろう?あまり食べ過ぎてはいけないよ」

「大丈夫ですわセドリック様。
クッキーの原材料といえば小麦。小麦はもともと植物ですもの。だからヘルシーで、考えようによってはサラダを食べているようなものです。それにお水を沢山飲めば、溶けて薄まってしまうので、太らないはずです」

ユニカが得意気に言うと、セドリックは感心したように告げる。

「東方の国のカロリーゼロ理論だね、ユニカは賢いなぁ」

そんな二人に、側でお茶のおかわりを用意していた侍女のクロエが冷静にツッコミを入れた。

「いやダメですからね?
そんなバカな事言って後で泣きを見るのはユニカ様ですよ。旦那様もわけのわからない甘やかし方をするのはおやめください」

それを聞き、セドリックは吹き出しそうになるのを堪えながら言った。

「だそうだ、ユニカ。キミと子どもの健康が一番だ。クッキーは3枚だけにしておこう」

「はい、わかりました」

お腹の子のためと言われたら、ユニカも諦めざるをえない。
そんなユニカの額にセドリックはキスを落とした。

「いい子だ」

ユニカは、はにかみながら微笑んだ。

「ふふふ……………………………ふっ……?」

「ユニカ?」

妙な間の後に急に様子が変わったユニカにセドリックが眉を顰める。

ユニカは驚いた顔をしながらセドリックに告げた。

「……セドリック様、今……お腹がパンって弾けました」

「お腹が……弾けた……?」

「はい、アレ……なんだか鈍く痛み出したような気が……?」

ユニカが腹部を摩りながら言うと、クロエがセドリックの方を見た。

「旦那様、陣痛が始まったのだと思われます。すぐに医師先生を呼んで参りますのでユニカ様をよろしくお願いしますっ」

そう言ってクロエは急ぎつつも冷静な足取りで部屋を出て行った。

「ユニカ……ユニカ大丈夫かっ?立てるか?出産用に用意した部屋まで行こう」

「お腹が張ってかなり痛いですが、なんとか大丈夫そうです」

「なに!?それはいかんっ」

ユニカの言葉を聞き、セドリックはユニカを横抱きに抱き上げ、そして慌てて産室へと向かった。


そこからはあれよあれよとお産は進む。

初産であるにも関わらず、順調過ぎる程のハイペースでユニカのお産は進んで行った。

これもきっと出産ギリギリまで、公爵邸の中庭にセドリックが作ってくれたユニカ用の畑で簡単な農作業で体を動かしていたおかげだろう。

陣痛が始まって6時間。

ユニカは玉のように可愛らしいふくふくとした男児を出産した。

セドリックは我が子との初対面の時、微かに震える手で赤ん坊の頭をそっと撫でた。

そして目に涙を浮かべながら、

「やっと会えたね。どれだけキミに会いたかった事か。不甲斐ない父で悪かった……だけどは絶対に、キミを守ると誓うよ……」

セドリックのその言葉を聞き、ユニカはたまらない気持ちになった。

そして胸に抱いていた赤ん坊をセドリックに渡す。

セドリックは恐る恐るといった様子で赤ん坊を受け取り、大切そうに胸に抱いた。

「生まれて来てくれてありがとう。よく頑張ったな……」

そう言った時にはセドリックの涙腺は崩壊し、大決壊を起こした涙で頬を濡らし続けていた。

その光景が奇跡のように思えて、ユニカも知らず涙を流していた。

「キミの名前はアルヴィン。古代語で“未来”を表す言葉だ。アルヴィン未来、どうかキミの未来が幸多きものであるように、そう願いをこめてこの名を贈らせてもらうよ」

セドリックから初めて名を聞かされて、ユニカは呟いた。

「アルヴィン……素敵……素敵な名前だわ、アルヴィン……夢で見た時から、お母さまはあなたに会える未来を心待ちにしていたのよ……」

セドリックからアルヴィンを受け取り、ユニカは慈愛に満ちた目で我が子を見つめた。

その時ふわぁっとひとつ、アルヴィンがあくびをする。

ユニカとセドリックは思わず互いを見合って、そして微笑んだ。


長い時を経て、いや時間を巻き戻してまでようやく手に入れた親子三人でのこの瞬間。

セドリックも、ユニカも、アルヴィンとの光輝く未来を大切に守ってゆこうと心に誓った。


ユニカは最愛の我が子の耳元でそっと呟いた。


「アルヴィン、みんなで幸せになりましょうね」





           終わり




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



これにて本編、番外編ともに完結です。

最後までお付き合い頂きありがとうございました。

投稿を始めた時はまさかBL要素アリの物語になるとは思わず、タグ設定を後から付け加える事をうっかり失念しておりました。

それらのものが苦手な方にはご不快な思いをさせてしまった事を心からお詫び申し上げます。

ヒロインが予知夢だと思っていた事が実は巻き戻り前の記憶だった事と、
じつは全てヒーローの掌の上だったお話が書きたくて考えたこの作品。

少しでもお楽しみ頂けたのなら幸いです。



さて、早速ですが次回作の告知です。

今週の水曜日に、新しく投稿を始める予定でございます。

タイトルは
『その時はちゃんと殺してね』

いずれ自国の厄災をその身に封じて死ななくてはならないヒロインの物語です。

以前いずれ書くと申し上げていた、
『わたしの婚約者なんですけどね!』のアミシュとハルトの息子、アルトが登場します。

この物語自体は作者がかなり以前に考えていたものですが、今回少し今の気分を入れて構想し直してお届けいたします。

次回作は、
しっとりシリアステイストに書きたいと思っているのですが、さてどうなる事やら……☆←コメントに星が付いてる時点でダメかも……。

もしよろしければ新作もお読みいただければ光栄でございます。


そして今作を最後までお付き合い頂き、本当にありがとうございました。

改めまして皆さまに感謝を込めて。



       キムラましゅろう




しおりを挟む
感想 256

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(256件)

hanekocyu
2024.12.17 hanekocyu

もう、最高に面白かったです‼︎
次に作品もワクワクしながら読ませて頂いてます(^ω^)

2024.12.17 キムラましゅろう

ありがとうございます🥰✨
そのお言葉が作者にとって最高のご褒美です💕
他の作品もお楽しみいただけたら嬉しいです✨

解除
ブルーグラス

すごい面白かったです!!
読み始めたら止まらず、一気に読んでしまいました^ ^
旦那様と聖女に浮気され、一人で頑張って行く話かと思ったら、アレ?全然違う…
気持ちよく予想を覆して行く展開にビックリしました!
周りの人達も個性豊かで、楽しかったです。
いつも素敵なお話をありがとうございます♪

2022.09.17 キムラましゅろう

こちらこそお読み頂きありがとうございました😊💕
作者も書いていて楽しい作品でした🥰
途中からGGLに乗っ取られましたが😁🎶
それも含め、思い入れの多い作品もなりました🎶
ありがとうございます💕

解除
ファル子
2022.08.22 ファル子

最後の最後にユニカが
今度こそ幸せになりましょうね
と言ったのが何ともいえないです。
彼女はどこまで知っているのかしら?

無事出産にて完結おめでとうございます。

2022.08.22 キムラましゅろう

ユニカがいつ、過去の事を知ったのか、それとも知らないままで無意識のうちに出た言葉なのかはご想像にお任せします😊
親子三人でのハピエン、無事に迎えられて良かったです💕
次回作もよろしくお願いします🥰💕

解除

あなたにおすすめの小説

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

【完結】公女さまが殿下に婚約破棄された

杜野秋人
恋愛
突然始まった卒業記念パーティーでの婚約破棄と断罪劇。 責めるのはおつむが足りないと評判の王太子、責められるのはその婚約者で筆頭公爵家の公女さま。どっちも卒業生で、俺のひとつ歳上だ。 なんでも、下級生の男爵家令嬢に公女さまがずっと嫌がらせしてたんだと。 ホントかね? 公女さまは否定していたけれど、証拠や証言を積み上げられて公爵家の責任まで問われかねない事態になって、とうとう涙声で罪を認めて謝罪するところまで追い込まれた。 だというのに王太子殿下は許そうとせず、あろうことか独断で国外追放まで言い渡した。 ちょっとこれはやりすぎじゃねえかなあ。公爵家が黙ってるとも思えんし、将来の王太子妃として知性も教養も礼儀作法も完璧で、いつでも凛々しく一流の淑女だった公女さまを国外追放するとか、国家の損失だろこれ。 だけど陛下ご夫妻は外遊中で、バカ王太子を止められる者などこの場にはいない。 しょうがねえな、と俺は一緒に学園に通ってる幼馴染の使用人に指示をひとつ出した。 うまく行けば、公爵家に恩を売れるかも。その時はそんな程度しか考えていなかった。 それがまさか、とんでもない展開になるなんて⸺!? ◆衝動的に一晩で書き上げたありきたりのテンプレ婚約破棄です。例によって設定は何も作ってない(一部流用した)ので固有名詞はほぼ出てきません。どこの国かもきちんと決めてないです(爆)。 ただ視点がちょっとひと捻りしてあります。 ◆全5話、およそ8500字程度でサラッと読めます。お気軽にどうぞ。 9/17、別視点の話を書いちゃったんで追加投稿します。全4話、約12000字………って元の話より長いやんけ!(爆) ◆感想欄は常に開放しています。ご意見ご感想ツッコミやダメ出しなど、何でもお待ちしています。ぶっちゃけ感想もらえるだけでも嬉しいので。 ◆この物語も例によって小説家になろうでも公開しています。あちらも同じく全5話+4話。

誤解されて1年間妻と会うことを禁止された。

しゃーりん
恋愛
3か月前、ようやく愛する人アイリーンと結婚できたジョルジュ。 幸せ真っただ中だったが、ある理由により友人に唆されて高級娼館に行くことになる。 その現場を妻アイリーンに見られていることを知らずに。 実家に帰ったまま戻ってこない妻を迎えに行くと、会わせてもらえない。 やがて、娼館に行ったことがアイリーンにバレていることを知った。 妻の家族には娼館に行った経緯と理由を纏めてこいと言われ、それを見てアイリーンがどう判断するかは1年後に決まると言われた。つまり1年間会えないということ。 絶望しながらも思い出しながら経緯を書き記すと疑問点が浮かぶ。 なんでこんなことになったのかと原因を調べていくうちに自分たち夫婦に対する嫌がらせと離婚させることが目的だったとわかるお話です。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。