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王家の至宝 ②
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「うふふ。セドリック様、奥様と離婚してワタシと結婚して下さい♡そうすれば奥様に手出しはしませんよ」
「……こんな姑息な手を使った貴様を妻に迎え入れたとしても俺が貴様を妻だとは絶対思わないし、情を寄せる事も一切ない」
「そんなのわからないじゃないですかぁ。長~い時間を共に過ごせば、愛情は育まれるものですよ♡」
「反吐が出る」
ユニカの体の中に呪いの種を植え付けたディアナはユニカの命を質に取り、離婚を要求してきた。
そして自分を妻に迎え入れろとほざく。
ディアナがユニカの体に埋め込んだ呪いは、古代の忌まわしき魔術の一つだった。
一度植え付けられたら術者が死んでも種は消えない。
術者が呪いを一度発動させれば最後。
たちまち種が発芽して寄生した人間の生命力を苗床にして体内で成長し続け、やがては死に至らしめるというものらしい。
種を取り除く事も浄化、もしくは消滅させる事も不可能に近いという。
それこそ大賢者と呼ばれるお方でもない限り。
後は術者の機嫌を損ねる事なく、術を発動されないようにひたすら怯えて暮らす他ないのだそうだ。
絶望しかなかった。
何故ユニカなんだ。
いっその事俺に植え付ければ良かったものを。
もはや他に選択肢は無い。
……ユニカが生きていてくれるなら、それでいい。
例え夫婦でなくなっても、側に居られなくても、あの笑顔が自分に向けられなくなっても……。
ただ、ただ生きてさえいてくれるなら、そして遠くからでも見守る事を許して貰えるなら、他にはもう何も望まない。
俺は心の中で血の涙を流しながら、ユニカに離婚を言い渡した。
「ユニカ、すまない。神の前で、皆の前でキミと添い遂げると誓ったのに、その約束を果たせなくなった……どうか離婚して欲しい」
そう告げた時、ユニカは泣いた。
悲しそうに、静かに涙を流す彼女を抱きしめたかった。
この腕の中に囲い込んで、嘘だと、本心ではないと、愛しているのはキミだけだと叫びたかった。
だけどユニカを守るにはこれしか方法はない。
悪魔の言いなりになるしか、彼女を守る術はなかった。
しかしこれで少なくともユニカの命が脅かされる事はない筈だ。
愚かな俺は、その時は確かにそう信じていた。
まさかユニカが俺の子を身籠っていたとは。
意のままに操れるディアナの子に公爵家を継がせたいと企んでいたロドリゲスがそれを邪魔に思い、ユニカの命を奪われる事になるなどと、バカで愚かな俺は、その時は考えもしなかったのだ……。
その一報が入ったのは、
ユニカに離婚を言い渡した次の日の事だった。
ククレがこれ以上ない程の青ざめた顔で訃報を告げる。
別邸に配してしたククレの部下及び使用人、そしてユニカが、ユニカが殺されたと。
鋭利な刃物で心臓をひと突き。
急いで別邸に向かった俺を待ち受けていたのは、
冷たくなってベッドに横たわる彼女の姿だった。
その時に漸く俺は知る。
ユニカが妊娠していた事を。
ユニカの専属侍女のクロエは、ユニカを守ろうと最後まで必死に犯人に抵抗したのだろう。
僅かな毛髪をその手に固く握りしめたまま、ユニカに覆い被さるようにして絶命していたという。
その毛髪を元に犯人を見つけ出す事は可能だ。
今すぐ見つけ出して報復してやらねば気が済まない。
だけど、だけどそれよりもまず頭に浮かんだのはユニカを取り戻す事だった。
何を引き換えにしても、どんな罰を受けようとももう一度この手に取り戻したかったのだ。
守りたかった。
唯一無二の大切な存在を。
守れなかった。
決別を選んでも生きていて欲しかった存在を。
俺はバカで愚かで情け無い男だが、
この世界で唯一、我が王家にだけ引き継がれる力を持っている。
“王家の至宝”
太古の昔、時を司る神に見初められた娘が神の子を宿した。
その子は一生に一度だけ時間を操れる能力を持って生まれて来たという。
その者を祖として、我が王家は興った。
しかし王家の血を引く者ならば誰もが時を操れる力を持つわけではない。
その力を身に宿す条件は何なのか、長い歴史を以ってしても未だに解明はされていないが、当代では兄王ではなく俺がその力を引き継いで生まれて来た。
かといって時を操る力などおいそれと使えるものではない。
この世界にどのような影響を及ぼすかわからないからだ。
俺もこの力を身の内に秘めたまま、他の先祖達と同じく一生使わないで終えるのだと思っていた。
だけど、ユニカを取り戻せるなら、もう一度やり直せるなら、例え対価としてこの命を差し出す事になっても構わない。
……この世界が滅んでも構わない。
ユニカ、もう一度キミの笑顔が見られるならば……
彼女の亡骸を抱きしめながら、そう思った。
気付けば術を発動していた。
“王家の至宝”と呼ばれる時を操る大術を。
魔力が枯渇してもいい、命を落としてもいい。
どのくらい巻き戻るのか未知数だがそれでもいい。
ユニカが、彼女が生きている時間に巻き戻ってもう一度やり直せるなら……!
眩い光に包まれて、泣きたくなるくらい懐かしい光を目の当たりにしながら、俺はもう一度ユニカの体を抱きしめた。
ーーユニカ……ユニカ……
気がつけば、王宮内の自室にいた。
ユニカと結婚するまで、
第二王子としてを過ごした懐かしい部屋。
慌てて鏡を見る。
少し、だけ若い……か?
回帰前のやつれた顔はしていない。
室内を見渡し新聞を見つけ、日付けを確認する。
大陸暦1873年。
ここは2年前の世界であった。
「……ユニカっ……!」
思わず部屋を飛び出し、近くにいた侍従長に言う。
「ユニカは?ピゴット家に使いを出してユニカの無事を確認しろっ!いや、俺が行く。今すぐ彼女の元へ向かうっ」
急ぎ馬を駆り、ピゴット家へ向かった。
当時はまだ第二王子専属の暗部の長であったククレを引き連れて。
「ユニカっ!!」
「……セドリック様?」
ピゴット家のタウンハウスに着いた俺の目の前に
驚いた顔をしたユニカが現れた時、どれほど神に感謝した事か。
この力を授かって生まれて来た先祖にどれほど感謝をした事か。
思わず力尽くでユニカを引き寄せ抱き締める。
最初ユニカは驚いた様子で身を固くしたいたが、
俺の様子が尋常ではないと察したのだろう、おずおずと背に手を回して抱きしめ返してくれた。
彼女の鼓動を胸に感じた。
あぁ……生きてる!
ユニカが生きている!!
やり直せた……!巻き戻せた……!
ユニカの小さな体を抱きしめながらそして誓う。
今度こそ絶対に守ってみせる。
甘く、愚かだった自分はあの時ユニカと共に死んだ。
敵が手段を選ばない非道な人間であるのなら、
こちらも相応の人間になってやる。
そして必ず、ユニカとお腹の子を守ってみせる。
俺は固く、固く決意した。
「セドリック様……」
その時はまさか、ユニカの方にも曖昧に前回の記憶が残り、それを予知夢として彼女が認識するようになるとは、考えもしなかった。
二度目の結婚式、
二度目の初夜、
二度目の結婚生活。
全てユニカが俺との別れを覚悟して挑んでいたなどと、その時は思いも寄らなかった……。
二度目の結婚生活からそろそろ一年。
来るべき聖なる乙女選定に向けて、今度は万全の対策を練り、その時に備えた。
まずは王家直属の暗部であり、王家の至宝の存在を知るククレに、これが巻き戻し後の二度目の人生である事を全て打ち明けた。
ククレ自身も幼い頃から知るユニカを守れなかった事にショックを受け、今度は絶対に間違えない、失わないと誓ってくれた。
そこからは二人三脚で様々な準備に取り掛かる。
まずはユニカを移す別邸に万全の防御体制を敷く。
数ヶ月掛けて防御魔法を幾重にも施し側に置く人間にも気を配った。
そして新たにユニカ付きの侍女として暗部からルナを登用し常に側で守らせる。
しかしそれらの準備が整ったというその段階になって、急にユニカが別邸ではなく自ら購入する家に移り自立をすると言い出したと報告を受ける。
その時に初めて、曖昧な形だがユニカも前回の記憶を持って巻き戻った事を知る。
その記憶は眠っている時しか見ず、それによりユニカが過去の記憶ではなく予知夢と認識している事も聞かされた。
そうだったのか……。
ルナにどうするか指示を仰がれたが、俺の至上命題はユニカを幸せにする事だ。
ユニカが望むままに、ユニカの希望通りにする事に決めた。
従ってユニカを保護する場所の準備は振り出しに戻ってしまったが構わない。
俺はすぐさま計画を練り直し、
ククレとルナに言い渡した。
「……こんな姑息な手を使った貴様を妻に迎え入れたとしても俺が貴様を妻だとは絶対思わないし、情を寄せる事も一切ない」
「そんなのわからないじゃないですかぁ。長~い時間を共に過ごせば、愛情は育まれるものですよ♡」
「反吐が出る」
ユニカの体の中に呪いの種を植え付けたディアナはユニカの命を質に取り、離婚を要求してきた。
そして自分を妻に迎え入れろとほざく。
ディアナがユニカの体に埋め込んだ呪いは、古代の忌まわしき魔術の一つだった。
一度植え付けられたら術者が死んでも種は消えない。
術者が呪いを一度発動させれば最後。
たちまち種が発芽して寄生した人間の生命力を苗床にして体内で成長し続け、やがては死に至らしめるというものらしい。
種を取り除く事も浄化、もしくは消滅させる事も不可能に近いという。
それこそ大賢者と呼ばれるお方でもない限り。
後は術者の機嫌を損ねる事なく、術を発動されないようにひたすら怯えて暮らす他ないのだそうだ。
絶望しかなかった。
何故ユニカなんだ。
いっその事俺に植え付ければ良かったものを。
もはや他に選択肢は無い。
……ユニカが生きていてくれるなら、それでいい。
例え夫婦でなくなっても、側に居られなくても、あの笑顔が自分に向けられなくなっても……。
ただ、ただ生きてさえいてくれるなら、そして遠くからでも見守る事を許して貰えるなら、他にはもう何も望まない。
俺は心の中で血の涙を流しながら、ユニカに離婚を言い渡した。
「ユニカ、すまない。神の前で、皆の前でキミと添い遂げると誓ったのに、その約束を果たせなくなった……どうか離婚して欲しい」
そう告げた時、ユニカは泣いた。
悲しそうに、静かに涙を流す彼女を抱きしめたかった。
この腕の中に囲い込んで、嘘だと、本心ではないと、愛しているのはキミだけだと叫びたかった。
だけどユニカを守るにはこれしか方法はない。
悪魔の言いなりになるしか、彼女を守る術はなかった。
しかしこれで少なくともユニカの命が脅かされる事はない筈だ。
愚かな俺は、その時は確かにそう信じていた。
まさかユニカが俺の子を身籠っていたとは。
意のままに操れるディアナの子に公爵家を継がせたいと企んでいたロドリゲスがそれを邪魔に思い、ユニカの命を奪われる事になるなどと、バカで愚かな俺は、その時は考えもしなかったのだ……。
その一報が入ったのは、
ユニカに離婚を言い渡した次の日の事だった。
ククレがこれ以上ない程の青ざめた顔で訃報を告げる。
別邸に配してしたククレの部下及び使用人、そしてユニカが、ユニカが殺されたと。
鋭利な刃物で心臓をひと突き。
急いで別邸に向かった俺を待ち受けていたのは、
冷たくなってベッドに横たわる彼女の姿だった。
その時に漸く俺は知る。
ユニカが妊娠していた事を。
ユニカの専属侍女のクロエは、ユニカを守ろうと最後まで必死に犯人に抵抗したのだろう。
僅かな毛髪をその手に固く握りしめたまま、ユニカに覆い被さるようにして絶命していたという。
その毛髪を元に犯人を見つけ出す事は可能だ。
今すぐ見つけ出して報復してやらねば気が済まない。
だけど、だけどそれよりもまず頭に浮かんだのはユニカを取り戻す事だった。
何を引き換えにしても、どんな罰を受けようとももう一度この手に取り戻したかったのだ。
守りたかった。
唯一無二の大切な存在を。
守れなかった。
決別を選んでも生きていて欲しかった存在を。
俺はバカで愚かで情け無い男だが、
この世界で唯一、我が王家にだけ引き継がれる力を持っている。
“王家の至宝”
太古の昔、時を司る神に見初められた娘が神の子を宿した。
その子は一生に一度だけ時間を操れる能力を持って生まれて来たという。
その者を祖として、我が王家は興った。
しかし王家の血を引く者ならば誰もが時を操れる力を持つわけではない。
その力を身に宿す条件は何なのか、長い歴史を以ってしても未だに解明はされていないが、当代では兄王ではなく俺がその力を引き継いで生まれて来た。
かといって時を操る力などおいそれと使えるものではない。
この世界にどのような影響を及ぼすかわからないからだ。
俺もこの力を身の内に秘めたまま、他の先祖達と同じく一生使わないで終えるのだと思っていた。
だけど、ユニカを取り戻せるなら、もう一度やり直せるなら、例え対価としてこの命を差し出す事になっても構わない。
……この世界が滅んでも構わない。
ユニカ、もう一度キミの笑顔が見られるならば……
彼女の亡骸を抱きしめながら、そう思った。
気付けば術を発動していた。
“王家の至宝”と呼ばれる時を操る大術を。
魔力が枯渇してもいい、命を落としてもいい。
どのくらい巻き戻るのか未知数だがそれでもいい。
ユニカが、彼女が生きている時間に巻き戻ってもう一度やり直せるなら……!
眩い光に包まれて、泣きたくなるくらい懐かしい光を目の当たりにしながら、俺はもう一度ユニカの体を抱きしめた。
ーーユニカ……ユニカ……
気がつけば、王宮内の自室にいた。
ユニカと結婚するまで、
第二王子としてを過ごした懐かしい部屋。
慌てて鏡を見る。
少し、だけ若い……か?
回帰前のやつれた顔はしていない。
室内を見渡し新聞を見つけ、日付けを確認する。
大陸暦1873年。
ここは2年前の世界であった。
「……ユニカっ……!」
思わず部屋を飛び出し、近くにいた侍従長に言う。
「ユニカは?ピゴット家に使いを出してユニカの無事を確認しろっ!いや、俺が行く。今すぐ彼女の元へ向かうっ」
急ぎ馬を駆り、ピゴット家へ向かった。
当時はまだ第二王子専属の暗部の長であったククレを引き連れて。
「ユニカっ!!」
「……セドリック様?」
ピゴット家のタウンハウスに着いた俺の目の前に
驚いた顔をしたユニカが現れた時、どれほど神に感謝した事か。
この力を授かって生まれて来た先祖にどれほど感謝をした事か。
思わず力尽くでユニカを引き寄せ抱き締める。
最初ユニカは驚いた様子で身を固くしたいたが、
俺の様子が尋常ではないと察したのだろう、おずおずと背に手を回して抱きしめ返してくれた。
彼女の鼓動を胸に感じた。
あぁ……生きてる!
ユニカが生きている!!
やり直せた……!巻き戻せた……!
ユニカの小さな体を抱きしめながらそして誓う。
今度こそ絶対に守ってみせる。
甘く、愚かだった自分はあの時ユニカと共に死んだ。
敵が手段を選ばない非道な人間であるのなら、
こちらも相応の人間になってやる。
そして必ず、ユニカとお腹の子を守ってみせる。
俺は固く、固く決意した。
「セドリック様……」
その時はまさか、ユニカの方にも曖昧に前回の記憶が残り、それを予知夢として彼女が認識するようになるとは、考えもしなかった。
二度目の結婚式、
二度目の初夜、
二度目の結婚生活。
全てユニカが俺との別れを覚悟して挑んでいたなどと、その時は思いも寄らなかった……。
二度目の結婚生活からそろそろ一年。
来るべき聖なる乙女選定に向けて、今度は万全の対策を練り、その時に備えた。
まずは王家直属の暗部であり、王家の至宝の存在を知るククレに、これが巻き戻し後の二度目の人生である事を全て打ち明けた。
ククレ自身も幼い頃から知るユニカを守れなかった事にショックを受け、今度は絶対に間違えない、失わないと誓ってくれた。
そこからは二人三脚で様々な準備に取り掛かる。
まずはユニカを移す別邸に万全の防御体制を敷く。
数ヶ月掛けて防御魔法を幾重にも施し側に置く人間にも気を配った。
そして新たにユニカ付きの侍女として暗部からルナを登用し常に側で守らせる。
しかしそれらの準備が整ったというその段階になって、急にユニカが別邸ではなく自ら購入する家に移り自立をすると言い出したと報告を受ける。
その時に初めて、曖昧な形だがユニカも前回の記憶を持って巻き戻った事を知る。
その記憶は眠っている時しか見ず、それによりユニカが過去の記憶ではなく予知夢と認識している事も聞かされた。
そうだったのか……。
ルナにどうするか指示を仰がれたが、俺の至上命題はユニカを幸せにする事だ。
ユニカが望むままに、ユニカの希望通りにする事に決めた。
従ってユニカを保護する場所の準備は振り出しに戻ってしまったが構わない。
俺はすぐさま計画を練り直し、
ククレとルナに言い渡した。
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