懐妊したポンコツ妻は夫から自立したい

キムラましゅろう

文字の大きさ
上 下
4 / 20

ポンコツ妻、アパートのオーナーになる

しおりを挟む
婚家のロレイン公爵邸に『聖なる乙女』を迎える事が決まり、屋敷から出るように言われたユニカ。

その事を予知夢により事前に知っていたユニカは、かねてより準備していた新しい家へと移った。

どんな家なのかは着いてからのお楽しみとされていたので、ユニカはドキドキしながら辻馬車を降りた。

王都の市街地から少しだけ外れた場所にあるその家は屋敷と呼ぶには小さく、しかし個人宅にしては大き目の不思議な家だった。

しかも門扉のところに書かれているのは……

『ユニークアパートメント』

ーーえ?アパート?

ユニカはルナとクロエの方を振り向いた。

二人はニッコリと微笑んでいる。

説明はルナがしてくれた。

「ここが今日から奥様がお住まいになる新しい家でございます!何か生計を立てられるようにとのご要望でしたので、古い無人のアパートを買い取りました!」

ルナのその言葉にユニカは目を輝かす。
夫セドリックの側を離れる事により沈んでいた気持ちが一気に浮上した。

「すごいわルナ!面白そう!」

「さすがは奥様!そう言って頂けると思っていました!」

ルナが嬉しそうに笑い、そしてこう告げた。

「とりあえずは中へ。お疲れになられたでしょう?お茶を飲まれながら細かい説明をいたしますね」

「さ、ユニカ様」

ルナとクロエに促され、ユニカはドキドキわくわくしながら、木造二階建てのアパートの中へ足を踏み入れた。

中は古いがとてもよく手入れをされ、ピカピカに磨き上げられている。

経年した木材独特の風合いがどこか懐かしい、ノスタルジックな感じのする内装だった。

そう、まるで祖父母の家に来たような、そんな雰囲気だ。

ユニカは一目でここが気に入った。

「素敵!!わたし、ここが気に入ったわ!」

その言葉にクロエが吹き出す。

「まだエントランスしかご覧になってませんよ」

「それだけで充分にわかるくらいここが素敵って事よ」

「ふふ。さ、ユニカ様。お部屋へご案内しますわね」

そう言ってクロエは先ん出て歩いてゆく。

ユニカは辺りをキョロキョロ見渡しながらそれに続いた。

一階の突き当たりに、ユニカ専用の部屋は用意されていた。

ドアには金のプレートで『オーナールーム』と書かれている。

部屋の中に入るとユニカはこれまた感嘆の声を上げた。

「わぁ……!」

中は4部屋分が一つになった広さがあり、
背の低い壁やパーティションでそれぞれの空間ごとに区切られていた。

部屋の中を進みながらルナが教えてくれる。

「ここは奥様だけが使用できるお部屋です。トイレ、キッチンにバスルーム、居間にダイニング、寝室にクローゼット、どれも小振りですがきちんと揃っておりますよ」

「素敵……暮らしやすそう」

「公爵邸に比べたら十分の一くらいのスペースですよ?」

「広さは関係ないわ。この小ぢんまりした感じがいいのよ」

ユニカが嬉しそうに言うのを見て、ルナは微笑んだ。

「お気に召して頂けてようございました」

「大変だったでしょう?ありがとう。ルナ、クロエ」

居間へ移動して、早速お茶を口にする。

馥郁ふくいくとした香りと適度な熱さが淹れる者の腕前を物語る。

「美味しい……やっぱりクロエが淹れてくれるお茶は最高ね」

「ありがとうございます。茶葉だけは公爵家で使っていた物と同じものを使用しております」

「わぁ贅沢ね」

「美味しいお茶は良き人生に欠かせませんからね」

「至言だわ」

感心するユニカを見て笑いながら、ルナがアパートについて話し始めた。

「ではアパートについてご説明いたしますね。まずは名称から、『ユニークアパートメント』のユニークはユニカ様のお名前から拝借して考えました。入居者は個性派揃いでユニークな人間ばかりですからピッタリな名称かと」

「なるほど!」

「それから入居者は安全性の事も考えまして全て女性です。来客などでの男性の立ち入りは認めますが、居住は女性のみと定めております」

「なるほど!」

「入居者の居住エリアは2階部分。全部で4室あり、すでに満室です。間取りはトイレ付きの2DK、シャワールームは共用、他の住人に迷惑をかけなければペットも飼育可としております」

「なるほど!素敵!」

「それから……
奇しくも入居者第一号になった201号室の方の事なのですが……」

「何か問題でも?」

「いえ、特に問題という事はございませんが、入居者は全員女性と申し上げましたが、その方だけは女性であって女性でない…と申しましょうか…でも見た目は女性で、しかし本当の性別は男性で、だけど心は女性で、なのに話し方は中性的で……」

「?何?なぞなぞ?」

「いえそういう訳ではなく……要するにですね、
オネェ様ではないけれど、まぁ世に言う“男の娘”というやつですね」

「オトコノコ……あぁなるほど!」

「ご了承して下さいますか?」

「もちろん、何の問題もないわ。その方の心は女性なんでしょう?」

「ええ。そのようです」

「じゃあ他の入居者も大丈夫なのではないかしら」

「他の方たちも何も気にされていないようです」

「良かったわ」

ユニカは満足そうに頷いた。

「奥様ならそう言って下さると思っておりました」

ルナがそう言うと、ふいにユニカが「それ」と指摘した。

ルナが首を傾げながら言う。

「何でございましょう?」

「その“奥様”という呼び方は相応しくないわ。これからはユニカと呼んで」

それを聞き、ルナはあっさりと答えた。

「それは出来ません」

「何故?」

「あなた様はロレイン公爵夫人であらせられるからです」

「でもじきにそうでなくなるのよ?」

「少なくとも今は公爵夫人です。もし離婚なさったら、その時はお名前でお呼びさせて頂きます」

「まぁ……ルナがそうしたいならいいけど……。でも他の人にはわたしの身分は隠しておいてね」

「もちろんです」

ルナはその後、簡単に他の住人の事も話してくれた。

内緒のあだ名付きで。

「202号室の方は壮年の女性でハンナさんという方です。ワタシは彼女をこっそり、“マッチ売りの熟女”と呼んでおります」

「マッチ売りの熟女!少女じゃなくて?」

「マッチを製造販売する商店で働いているそうですから」

「なるほど!」

「それから203号室の方は、“髪を切ったラプンツェル”。204号室の方は“不眠症の茨姫”です。ネーミングの理由は本名がラプンツェルさんとオーロラさんと仰るからです」

「なるほど!?」

確かにユニークな人間揃いだと、ユニカは興味をそそられまくりだ。

早く住人たちに会いたい!と楽しそうにするユニカを、クロエとルナは微笑ましそうに見つめていた。

クロエがルナに囁く。

「ルナ、ユニカ様のためにアパートを見つけて、そして面白い人選をしてくれてありがとう。公爵様と離れて、落ち込まれる日々が続くのではないかと心配していたの」

その言葉に、ルナは肩を竦めて小声で呟いた。

「いや……ワタシは指示された通りにしただけですからね」

「え?」

ルナの声が小さ過ぎてクロエには聞き取れなかったようだ。

「ルナ!クロエ!見て、裏庭に畑もあるわ!」

窓の外から裏庭を見ていたユニカが嬉しそうに告げる。
クロエがそれに答えた。

「新しく雇い入れた下男のロビン(55)が畑を用意してくれました。ユニカ様、ご実家に居らした頃は趣味で野菜を作っておられましたでしょう?」

「また土いじりが出来るのね!その場でいで食べられるのね……!」

田舎育ちのユニカは感極まった様子で言った。


ーー至れり尽くせりにして貰って自立と言うなんて片腹痛いと思われるかもしれないけど、これからはわたし自身が頑張っていかないと!とりあえずは美味しい野菜を沢山作って、ルナやクロエやアパートの皆んなの健康はわたしが守るわっ!!

と、明後日の方向にやる気を示すのがユニカの特徴なのでスルーして頂きたい。

とにもかくにもユニカは今日より、
初めて父親や夫の庇護下を離れて自立(?)するのだ。

辺境伯の娘として育ち、
臣籍に降りた元第二王子に嫁いだ生粋の貴族令嬢であるユニカ。

そんな彼女がこれから市井で、民草に紛れてどう生きていくのか……………不安しかないが、まぁなんとかなるだろう。

………なるのか?






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


読者様皆さま、
昨日も沢山の感想をお寄せ頂いたのにも関わらずお返事出来ずに申し訳ありません。(゚´ω`゚)゚。
1日が24時間なんて短か過ぎる……。
でも毎日更新、完結保証だけは絶対にお約束致します!!
もちろん、頂いた感想は正座しながら舐めるように拝見しております♡
ホントにありがとうございます♪


とある読者様の感想から……

家令のククレさん♪
お気づきになられましたか☆
ボンさんやジャワさんもイイですね。
今作以降のお話で、家令のバーモントさんは出そうかなと思っておりましたが、ボンさんに変えようかな?

次回からは変人ユニークな住人達が登場します。
ユニカの体の変化もそろそろですよね。

これからもどうぞよろしくお付き合いくださいませ!
しおりを挟む
感想 256

あなたにおすすめの小説

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

【完結】公女さまが殿下に婚約破棄された

杜野秋人
恋愛
突然始まった卒業記念パーティーでの婚約破棄と断罪劇。 責めるのはおつむが足りないと評判の王太子、責められるのはその婚約者で筆頭公爵家の公女さま。どっちも卒業生で、俺のひとつ歳上だ。 なんでも、下級生の男爵家令嬢に公女さまがずっと嫌がらせしてたんだと。 ホントかね? 公女さまは否定していたけれど、証拠や証言を積み上げられて公爵家の責任まで問われかねない事態になって、とうとう涙声で罪を認めて謝罪するところまで追い込まれた。 だというのに王太子殿下は許そうとせず、あろうことか独断で国外追放まで言い渡した。 ちょっとこれはやりすぎじゃねえかなあ。公爵家が黙ってるとも思えんし、将来の王太子妃として知性も教養も礼儀作法も完璧で、いつでも凛々しく一流の淑女だった公女さまを国外追放するとか、国家の損失だろこれ。 だけど陛下ご夫妻は外遊中で、バカ王太子を止められる者などこの場にはいない。 しょうがねえな、と俺は一緒に学園に通ってる幼馴染の使用人に指示をひとつ出した。 うまく行けば、公爵家に恩を売れるかも。その時はそんな程度しか考えていなかった。 それがまさか、とんでもない展開になるなんて⸺!? ◆衝動的に一晩で書き上げたありきたりのテンプレ婚約破棄です。例によって設定は何も作ってない(一部流用した)ので固有名詞はほぼ出てきません。どこの国かもきちんと決めてないです(爆)。 ただ視点がちょっとひと捻りしてあります。 ◆全5話、およそ8500字程度でサラッと読めます。お気軽にどうぞ。 9/17、別視点の話を書いちゃったんで追加投稿します。全4話、約12000字………って元の話より長いやんけ!(爆) ◆感想欄は常に開放しています。ご意見ご感想ツッコミやダメ出しなど、何でもお待ちしています。ぶっちゃけ感想もらえるだけでも嬉しいので。 ◆この物語も例によって小説家になろうでも公開しています。あちらも同じく全5話+4話。

誤解されて1年間妻と会うことを禁止された。

しゃーりん
恋愛
3か月前、ようやく愛する人アイリーンと結婚できたジョルジュ。 幸せ真っただ中だったが、ある理由により友人に唆されて高級娼館に行くことになる。 その現場を妻アイリーンに見られていることを知らずに。 実家に帰ったまま戻ってこない妻を迎えに行くと、会わせてもらえない。 やがて、娼館に行ったことがアイリーンにバレていることを知った。 妻の家族には娼館に行った経緯と理由を纏めてこいと言われ、それを見てアイリーンがどう判断するかは1年後に決まると言われた。つまり1年間会えないということ。 絶望しながらも思い出しながら経緯を書き記すと疑問点が浮かぶ。 なんでこんなことになったのかと原因を調べていくうちに自分たち夫婦に対する嫌がらせと離婚させることが目的だったとわかるお話です。

処理中です...