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ポンコツ妻は動き出す
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「………という訳なの。今まで予知夢を見る事を黙っていてごめんなさい」
岸壁から太陽に向かって吠えた夢を見たその朝、
朝食後にユニカは自分の専属侍女であるルナ(18)とクロエ(27)に予知夢を見る体質だという事とこれから起こる事を打ち明けた。
ルナもクロエも目を白黒させて話を聞いていたが、終いには瞬きも忘れるほどに目を大きく見開いていた。
「……お、驚きました……奥様が未来視の能力をお持ちだったとは……」
ロレイン公爵家に嫁いでから専属となったルナが驚きを露わにして口を開いた。
「でもわたし、魔力はないのよ?」
ユニカが言うと元は実家の侍女だったが、
何かと迂闊なユニカを心配して婚家へと付いて来てくれたクロエが声を押し出すように告げた。
「……まさかそんな……あの公爵様が心変わりをなさるなんて……ユニカ様を捨て、他の女性と結ばれるなんて……」
「ごめんね、そういう事になってしまうのよ」
「ユニカ様が謝られる必要はございませんっ」
クロエにそう言われ、ユニカはくすっと笑った。
「それもそうね!でも本題はこれから。二人の力を借りたいの」
それを聞き、ルナは両拳をぐっと握って答えた。
「なんでしょうかっ!?なんでもお申し付けください!!奥様の為なら、例え火の中水の中!!」
「ふふふ。ありがとうルナ。火の中も水の中も飛び込まなくていいけど、街の中には行って欲しいわ」
「街ですか?」
ユニカは鍵付きの鏡台の引き出しから宝石箱を取り出した。
昔祖母から譲り受けた宝石箱は、薄い鼈甲が一面に貼られ金の縁取りが施されている。蓋のところには珍しい金色の殻を持つ貝で水仙の螺鈿が意匠された逸品だ。
ユニカはその蓋を開けて幾つかの宝石を取り出した。
いずれも嫁入り道具の一つとして父が持たせてくれたものだ。
「これを売って、家を購入して欲しいの」
それを聞き、ルナとクロエが同時に声を上げる。
「「家を購入されるのですかっ!?」」
声が高めのルナに低めのクロエの声が重なると、
まるでコーラスのようだとユニカは笑った。
「ふふ、そうよ。だってどうせセドリック様から別邸に行くように命じられるのよ。そしてその後はもう離婚届を持って来られるまで顔を合わせる事もないの。それなら何処に住んでもいいでしょう?どうせなら地方の別邸に行くよりも、離婚後の事を考えて生活しやすい王都で暮らしの基盤をさっさと整えておこうと思って」
「な、なるほど……。では具体的にどのような家がよいとお考えですか?」
「さあ?それはわからないわ」
ユニカはニッコリと微笑んで答えた。
「恥ずかしながら、わたしは田舎育ちで王都の事は知らないし、市井での暮らしの事は何もわからないもの。だからわたしがとやかく言うよりもルナとクロエに任せようと思ってるの」
「もしわたしとクロエさんが悪人だったら奥様は有り金全部巻き上げられて、おまけに屋敷を出た途端に人買いに売られてしまうかもしれませんよ?」
ルナが悪戯っぽい顔をして言うのを見て、ユニカは笑った。
「ふふふ。わたしは昔からのんびりでドジで間抜けでポンコツだと、よくお姉様に叱られたけど不思議と人を見る目はあるのよ?だからその辺りは心配してないわ」
その言葉を聞き、ルナは肩の力が抜けたように微笑んだ。
「全く奥様ったら……でもそこが奥様の良いところだとワタシは思います。お任せください!ワタシとクロエさんで、立派な豪邸を探してみせます!」
「あ、なにもお屋敷でなくてもいいのよ?でも何か商売が出来るような、それで生計を立ててゆけるような家がいいわ」
クロエがユニカに尋ねる。
「ご実家に帰られる……という選択肢は取られないのですか?」
「お父様は持病が悪化していると聞くし、もうピゴット家はお姉様とお義兄様に代替わりしているもの。そう易々と迷惑はかけられないわ」
ーーそれに、きっともうそろそろわたしのお腹には赤ちゃんが宿る頃だと思うし。
もし公爵邸を出る頃に懐妊してるとわかっても、
その事をまだ誰にも告げるつもりはなかった。
ーールナとクロエを余計に混乱させるだけだしね。
それにどうせセドリックは懐妊を知る事はないのだ。
子どもが出来たからお情けで妻の座に留められるのは嫌だし、ましてや子どもだけを取り上げられる……そんな事をする様な人ではない筈だけど、愛するディアナと公爵家の後継問題の為にはセドリックがその選択をしないとは言い切れない。
それなら最初から何も言わずに公爵邸を去る方がいい。
ユニカがそう考えていると、クロエがユニカの手を取った。
「わかりました。それなら全て私とルナにお任せください。ユニカ様がこの先も安心して暮らしてゆけるように尽力させて頂きます」
ぎゅっと両手で包み込んでくれるクロエの手が温かかった。
幼い頃から実の姉より面倒を見てくれたクロエ。
家政全般、そして執事業務の内容も頭に入っている優秀な人材だ。
生まれ育ったフィルブレイク領からわざわざ王都まで一緒に来てくれた。
ユニカが不安ながらも前に進もうと思えるのもクロエが支えてくれるからこそだ。
そしてもちろんルナも。
ルナはこのロレイン公爵家に嫁いでから、夫であるセドリックが雇い入れてくれたオールマイティ侍女なのだ。
護衛も出来るレディースメイド。王都生まれの王都育ち、生粋の王都っ子なので市井での暮らしも何かと頼りになるだろう。
一方自分は……
これといってなんの取り柄もない、ただのユニカだ。
特技もなければ才能もない。頭が良いわけでもなければ運動神経も良くない。良くないどころか全て人並み以下のポンコツ妻なのだ。
ーーうっ……改めて自分を客観的に見ると情けないものがあるわ……。
予知夢で一度だけ見たディアナは神がかり的な美しさだった。
それこそ王国一の美男子と称されるセドリックと並んでも全く遜色ないほどに……。
ーーそりゃあ……こんなどこに出しても恥ずかしい妻より、とびきりの美少女でおまけに教会が認める聖女であるディアナ様の方を好きになっても仕方ないわね……。
自分で考え始めた事だけど、
無情な現実に打ちのめされる。
ユニカは気持ちが沈んでゆくのと同時に体も深く沈むようにソファーに突っ伏した。
「でも、まぁ仕方ないわね、これがわたしだもの」
そうだ。
ユニカという人間はこの世にただ一人。
自分という人間を自分が好きになってあげなくてどうするのだ。
「そうよユニカ。顔を上げて、頑丈な精神力だけがあなたの取り柄でしょ!」
ユニカは自分を鼓舞して奮い立たせる。
突っ伏したソファーから「復活!」と言いながら顔を上げた途端に、なんと夫の顔が視界に飛び込んで来た。
「……セドリック様?」
「何が復活なんだ?」
きょとんとするユニカの目の前には夫、セドリックの顔がある。
ユニカが突っ伏していたソファーの前にしゃがんでユニカと視線を合わせている。
黒髪にブルーの瞳、幼い頃から美しい顔立ちだったが、大人になり精悍さも兼ね備えて更に素敵な男性になった。
ーー相変わらず素敵……じゃないわっ、
「お、おかえりなさいませ。ごめんなさい、お出迎えもせずに。でも今日は随分とお早いお帰りですのね」
我に返ったユニカが慌てて身を起こしセドリックと向かい合う。
セドリックはユニカの額に指を当てて言った。
「おでこが赤くなってる。また考え事をしながら額を擦り付けてたな?」
「まぁ、うふふ」
ユニカは額に手を当てて微笑んだ。
セドリックが立ち上がるのに合わせてユニカもソファーから立ち上がる。
セドリックがそれを支えてくれた。
その際にセドリックを見上げる。
ユニカの夫、セドリック=ウォン=ロレイン。
現国王の実弟で、ユニカとの結婚を機に臣籍へと降り公爵位を賜った。
容姿端麗、頭脳明晰、文武両道、謹厳実直。
そして高身長で高魔力保持者。
おまけにこの国で2番目の地位に立つ身となれは当然、女性達の憧れの的である。
そんな人の婚約者となり妻となった。
期限付きではあるが身に余る幸せだとユニカは感じていた。
「これからしばらく忙しくなりそうだから、今日くらいは早く帰って奥方の機嫌を取ろうと思ってね」
そう言いながらセドリックはユニカの手を掬い取った。
「わたしの機嫌を?」
「そう。長い婚約期間を耐えてようやく手に入れた妻の」
「ふふ」
今はまだ、セドリックはディアナを知らない。
だからユニカにこんな甘い言葉をくれるのだ。
この温かくて大きな手も
低く落ち着いた声も
優しい眼差しも全て、いずれはディアナのものになるのだ。
ユニカはつきんと痛む心に気付かないふりをして微笑む。
セドリックと夫婦だった日々は楽しかった記憶として残したい。
生まれて来る子にいずれ父親について話す時も、
一緒に暮らした日々は楽しかったと言えるように。
「もともとお忙しいのに、更に忙しくなるって何かありましたの?」
ユニカが尋ねると、セドリックは「まだここだけの話にして欲しいのだが」と前置きを告げてから答えた。
「教会の大司教が神託を受けたらしい」
「………え」
「100年ぶりに『聖なる乙女』が選定される事になるだろう」
聖女の選定は国の慶事であるのに、何故か淡々と話すセドリックを見ながらユニカは唇を引き結んだ。
ーーやはりとうとうこの時が来たのね……。
指先が冷たくなってゆくのを感じながら、ユニカはただ黙って夫を見つめていた。
岸壁から太陽に向かって吠えた夢を見たその朝、
朝食後にユニカは自分の専属侍女であるルナ(18)とクロエ(27)に予知夢を見る体質だという事とこれから起こる事を打ち明けた。
ルナもクロエも目を白黒させて話を聞いていたが、終いには瞬きも忘れるほどに目を大きく見開いていた。
「……お、驚きました……奥様が未来視の能力をお持ちだったとは……」
ロレイン公爵家に嫁いでから専属となったルナが驚きを露わにして口を開いた。
「でもわたし、魔力はないのよ?」
ユニカが言うと元は実家の侍女だったが、
何かと迂闊なユニカを心配して婚家へと付いて来てくれたクロエが声を押し出すように告げた。
「……まさかそんな……あの公爵様が心変わりをなさるなんて……ユニカ様を捨て、他の女性と結ばれるなんて……」
「ごめんね、そういう事になってしまうのよ」
「ユニカ様が謝られる必要はございませんっ」
クロエにそう言われ、ユニカはくすっと笑った。
「それもそうね!でも本題はこれから。二人の力を借りたいの」
それを聞き、ルナは両拳をぐっと握って答えた。
「なんでしょうかっ!?なんでもお申し付けください!!奥様の為なら、例え火の中水の中!!」
「ふふふ。ありがとうルナ。火の中も水の中も飛び込まなくていいけど、街の中には行って欲しいわ」
「街ですか?」
ユニカは鍵付きの鏡台の引き出しから宝石箱を取り出した。
昔祖母から譲り受けた宝石箱は、薄い鼈甲が一面に貼られ金の縁取りが施されている。蓋のところには珍しい金色の殻を持つ貝で水仙の螺鈿が意匠された逸品だ。
ユニカはその蓋を開けて幾つかの宝石を取り出した。
いずれも嫁入り道具の一つとして父が持たせてくれたものだ。
「これを売って、家を購入して欲しいの」
それを聞き、ルナとクロエが同時に声を上げる。
「「家を購入されるのですかっ!?」」
声が高めのルナに低めのクロエの声が重なると、
まるでコーラスのようだとユニカは笑った。
「ふふ、そうよ。だってどうせセドリック様から別邸に行くように命じられるのよ。そしてその後はもう離婚届を持って来られるまで顔を合わせる事もないの。それなら何処に住んでもいいでしょう?どうせなら地方の別邸に行くよりも、離婚後の事を考えて生活しやすい王都で暮らしの基盤をさっさと整えておこうと思って」
「な、なるほど……。では具体的にどのような家がよいとお考えですか?」
「さあ?それはわからないわ」
ユニカはニッコリと微笑んで答えた。
「恥ずかしながら、わたしは田舎育ちで王都の事は知らないし、市井での暮らしの事は何もわからないもの。だからわたしがとやかく言うよりもルナとクロエに任せようと思ってるの」
「もしわたしとクロエさんが悪人だったら奥様は有り金全部巻き上げられて、おまけに屋敷を出た途端に人買いに売られてしまうかもしれませんよ?」
ルナが悪戯っぽい顔をして言うのを見て、ユニカは笑った。
「ふふふ。わたしは昔からのんびりでドジで間抜けでポンコツだと、よくお姉様に叱られたけど不思議と人を見る目はあるのよ?だからその辺りは心配してないわ」
その言葉を聞き、ルナは肩の力が抜けたように微笑んだ。
「全く奥様ったら……でもそこが奥様の良いところだとワタシは思います。お任せください!ワタシとクロエさんで、立派な豪邸を探してみせます!」
「あ、なにもお屋敷でなくてもいいのよ?でも何か商売が出来るような、それで生計を立ててゆけるような家がいいわ」
クロエがユニカに尋ねる。
「ご実家に帰られる……という選択肢は取られないのですか?」
「お父様は持病が悪化していると聞くし、もうピゴット家はお姉様とお義兄様に代替わりしているもの。そう易々と迷惑はかけられないわ」
ーーそれに、きっともうそろそろわたしのお腹には赤ちゃんが宿る頃だと思うし。
もし公爵邸を出る頃に懐妊してるとわかっても、
その事をまだ誰にも告げるつもりはなかった。
ーールナとクロエを余計に混乱させるだけだしね。
それにどうせセドリックは懐妊を知る事はないのだ。
子どもが出来たからお情けで妻の座に留められるのは嫌だし、ましてや子どもだけを取り上げられる……そんな事をする様な人ではない筈だけど、愛するディアナと公爵家の後継問題の為にはセドリックがその選択をしないとは言い切れない。
それなら最初から何も言わずに公爵邸を去る方がいい。
ユニカがそう考えていると、クロエがユニカの手を取った。
「わかりました。それなら全て私とルナにお任せください。ユニカ様がこの先も安心して暮らしてゆけるように尽力させて頂きます」
ぎゅっと両手で包み込んでくれるクロエの手が温かかった。
幼い頃から実の姉より面倒を見てくれたクロエ。
家政全般、そして執事業務の内容も頭に入っている優秀な人材だ。
生まれ育ったフィルブレイク領からわざわざ王都まで一緒に来てくれた。
ユニカが不安ながらも前に進もうと思えるのもクロエが支えてくれるからこそだ。
そしてもちろんルナも。
ルナはこのロレイン公爵家に嫁いでから、夫であるセドリックが雇い入れてくれたオールマイティ侍女なのだ。
護衛も出来るレディースメイド。王都生まれの王都育ち、生粋の王都っ子なので市井での暮らしも何かと頼りになるだろう。
一方自分は……
これといってなんの取り柄もない、ただのユニカだ。
特技もなければ才能もない。頭が良いわけでもなければ運動神経も良くない。良くないどころか全て人並み以下のポンコツ妻なのだ。
ーーうっ……改めて自分を客観的に見ると情けないものがあるわ……。
予知夢で一度だけ見たディアナは神がかり的な美しさだった。
それこそ王国一の美男子と称されるセドリックと並んでも全く遜色ないほどに……。
ーーそりゃあ……こんなどこに出しても恥ずかしい妻より、とびきりの美少女でおまけに教会が認める聖女であるディアナ様の方を好きになっても仕方ないわね……。
自分で考え始めた事だけど、
無情な現実に打ちのめされる。
ユニカは気持ちが沈んでゆくのと同時に体も深く沈むようにソファーに突っ伏した。
「でも、まぁ仕方ないわね、これがわたしだもの」
そうだ。
ユニカという人間はこの世にただ一人。
自分という人間を自分が好きになってあげなくてどうするのだ。
「そうよユニカ。顔を上げて、頑丈な精神力だけがあなたの取り柄でしょ!」
ユニカは自分を鼓舞して奮い立たせる。
突っ伏したソファーから「復活!」と言いながら顔を上げた途端に、なんと夫の顔が視界に飛び込んで来た。
「……セドリック様?」
「何が復活なんだ?」
きょとんとするユニカの目の前には夫、セドリックの顔がある。
ユニカが突っ伏していたソファーの前にしゃがんでユニカと視線を合わせている。
黒髪にブルーの瞳、幼い頃から美しい顔立ちだったが、大人になり精悍さも兼ね備えて更に素敵な男性になった。
ーー相変わらず素敵……じゃないわっ、
「お、おかえりなさいませ。ごめんなさい、お出迎えもせずに。でも今日は随分とお早いお帰りですのね」
我に返ったユニカが慌てて身を起こしセドリックと向かい合う。
セドリックはユニカの額に指を当てて言った。
「おでこが赤くなってる。また考え事をしながら額を擦り付けてたな?」
「まぁ、うふふ」
ユニカは額に手を当てて微笑んだ。
セドリックが立ち上がるのに合わせてユニカもソファーから立ち上がる。
セドリックがそれを支えてくれた。
その際にセドリックを見上げる。
ユニカの夫、セドリック=ウォン=ロレイン。
現国王の実弟で、ユニカとの結婚を機に臣籍へと降り公爵位を賜った。
容姿端麗、頭脳明晰、文武両道、謹厳実直。
そして高身長で高魔力保持者。
おまけにこの国で2番目の地位に立つ身となれは当然、女性達の憧れの的である。
そんな人の婚約者となり妻となった。
期限付きではあるが身に余る幸せだとユニカは感じていた。
「これからしばらく忙しくなりそうだから、今日くらいは早く帰って奥方の機嫌を取ろうと思ってね」
そう言いながらセドリックはユニカの手を掬い取った。
「わたしの機嫌を?」
「そう。長い婚約期間を耐えてようやく手に入れた妻の」
「ふふ」
今はまだ、セドリックはディアナを知らない。
だからユニカにこんな甘い言葉をくれるのだ。
この温かくて大きな手も
低く落ち着いた声も
優しい眼差しも全て、いずれはディアナのものになるのだ。
ユニカはつきんと痛む心に気付かないふりをして微笑む。
セドリックと夫婦だった日々は楽しかった記憶として残したい。
生まれて来る子にいずれ父親について話す時も、
一緒に暮らした日々は楽しかったと言えるように。
「もともとお忙しいのに、更に忙しくなるって何かありましたの?」
ユニカが尋ねると、セドリックは「まだここだけの話にして欲しいのだが」と前置きを告げてから答えた。
「教会の大司教が神託を受けたらしい」
「………え」
「100年ぶりに『聖なる乙女』が選定される事になるだろう」
聖女の選定は国の慶事であるのに、何故か淡々と話すセドリックを見ながらユニカは唇を引き結んだ。
ーーやはりとうとうこの時が来たのね……。
指先が冷たくなってゆくのを感じながら、ユニカはただ黙って夫を見つめていた。
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