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まほらは独自に薬を調べる
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作中に性行為を連想させるワードが出てきます。
地雷の方はご自衛をお願いいたします。
─────────────────────────
バディのハウンドから聞かされた過去の事情は、
まほらが思っていたよりも悲しいものであった。
初恋の女性が結婚してしまい、
その後恋人となった女性は自分の知らないところで窮地に陥り、自身で解決しようとその身を売っていた。
恋人として頼られる事もなく、恋人が殺害されて初めてその全てを知る……。
これはかなり精神的にくるものがある。
第三者のまほらでさえ話を聞いて胸が締め付けられるような思いをしたのに、当事者であったハウンドとその恋人の姉であった女性の心中は如何ばかりか。
───そういえば、ハウンドさんの初恋の女性でもあるそのお姉さんは今どうされているのだろう。
そんな事がふと気になったりするも、それはハウンドのプライベートな事なのでまほらは立ち入るつもりはなかった。
だが使用された薬物に以前関わった者として、そしてハウンドのバディとして、無関係だからと知らん顔するのはどうかと思う。
なのでまほらは独自にその薬物について調べてみる事にしたのであった。
その当時の手帳を取り出し内容を確認する。
当時は魔法薬の入った小瓶が現場に残っており、それに僅かに残留していた薬物と被害者の体に付着していた薬物とで分析、鑑定をしたのであった。
まほらは引き出しから当時使っていた手帳を取り出す。
手帳には分析途中の経過やその結果、それによる個人的な見解などが書いてある。
中には所々に“ブレイズが口を挟んできてウザい”とか“ブレイズ先輩面するな”とかその時のヘイトも殴り書きしていた。
そして「甘いもので息抜きしろ」と買ってきてくれたお菓子の包み紙もなぜか貼ったりしている。
まほらはそれを見て当時の記憶が蘇り、自然と口元が綻んだ。
しかし気になるのは犯人像である。
目撃情報、現場に残されていた精液から見て犯人は男性に間違いない。
そして性行為の途中で相手の女性が魔法薬により急死したとしてもお構い無しで最後まで致し、吐精している事からも過剰な嗜虐趣味があると見られる。
それなのに何故、犯行は年に一度ほどという頻度なのか。
だいたい一年に一人、一人の女性を魔法催淫剤を用いて死に至らしめている。
そのような異常な性癖を持つ者が一年に一度で満足するのだろうか……。
「うーん……男性の性事情なんてわかるわけないしなぁ……」
でも何故かその頻度に犯人像の秘密があるような気がして、まほらは思い切ってハウンドに相談してみた。
「え、まほらさん、独自に調べてくれているの?」
まほらの話を聞き、ハウンドが驚いた表情を見せる。
「私も三年前に携わった事件ですし、何かお手伝い出来ればいいかなと思いまして……」
まほらがそう言うとハウンドは嬉しそうに小さく笑った。
「……ありがとう、まほらさん。その気持ちが嬉しいよ」
わぁイケメンのキラキラスマイル!
ヤリ…ゲフンでなくてもモテるだろうなぁと、まほらは頬が火照るのを誤魔化すように言った。
「そんな大袈裟ですよ。バディなんだから、仲間なんだから協力するのは当たり前です」
「うん、うんそうだね、でも…ありがとう」
「それで……今お話した事なんですが……」
「あ、あぁそうだね、確かに犯行が一年に一度という頻度なのは気になるよね……」
ハウンドは顎に手を当ててそう答えた。
「事件が起きた日はバラバラ。季節もバラバラ。被害者の共通点は身売りをしている女性という以外、特に共通点はなし。不思議なんですよねぇ、犯人の行動に一貫性がなくて」
「なるほど、な……」
ハウンドの目に、僅かに力が籠ったような気がした。
「ハウンドさん?」
「まほらさんの着眼点のおかげで別の視点から犯人像が浮かび上がるかもしれない、凄いよまほらさん!」
「そ、そんな大それた事ではなくて、ただ思いついた事を口にしただけですよ」
「いや、それは本当にありがたいよ。お礼と言っては何だけど、これからランチでもどう?是非ご馳走させてよ」
「そんな、つぶやいただけでランチを奢られるなんて割に合わないですよ?」
「いや、ランチひとつでこれからもまほらさんの協力を期待出来るんだから、むしろ有益な投資だね」
「私、ランチで買収されますか」
「是非、買収されていただきたい」
「ふふ、ではそういう事ならご馳走になります」
「やった」
そういうわけで、まほらはハウンドとランチに出る事になった。
ランチメニューが豊富だという定食屋に二人で向かう。
ハウンドの案内で大通りから路地に一本入り、飲食店が立ち並ぶエリアを歩いていると、突然彼が立ち止まった。
その視線は前方を見据えている。
「……ラリサ」
そしてつぶやくようにその名を口にした。
まほらも前方に視線を巡らせると、そこに一人の女性がいた。
「ハウンド……」
ラリサと呼ばれたその女性も、ただ一心にハウンドを見つめていた。
───ラリサって……たしか被害者のお姉さんでハウンドさんの初恋の人……!
まほらは瞠目して二人を見た。
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昨夜の告知通り、明日の朝に読み切りだったはずのショートショートを投稿します。
よろしくお願いします!
地雷の方はご自衛をお願いいたします。
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バディのハウンドから聞かされた過去の事情は、
まほらが思っていたよりも悲しいものであった。
初恋の女性が結婚してしまい、
その後恋人となった女性は自分の知らないところで窮地に陥り、自身で解決しようとその身を売っていた。
恋人として頼られる事もなく、恋人が殺害されて初めてその全てを知る……。
これはかなり精神的にくるものがある。
第三者のまほらでさえ話を聞いて胸が締め付けられるような思いをしたのに、当事者であったハウンドとその恋人の姉であった女性の心中は如何ばかりか。
───そういえば、ハウンドさんの初恋の女性でもあるそのお姉さんは今どうされているのだろう。
そんな事がふと気になったりするも、それはハウンドのプライベートな事なのでまほらは立ち入るつもりはなかった。
だが使用された薬物に以前関わった者として、そしてハウンドのバディとして、無関係だからと知らん顔するのはどうかと思う。
なのでまほらは独自にその薬物について調べてみる事にしたのであった。
その当時の手帳を取り出し内容を確認する。
当時は魔法薬の入った小瓶が現場に残っており、それに僅かに残留していた薬物と被害者の体に付着していた薬物とで分析、鑑定をしたのであった。
まほらは引き出しから当時使っていた手帳を取り出す。
手帳には分析途中の経過やその結果、それによる個人的な見解などが書いてある。
中には所々に“ブレイズが口を挟んできてウザい”とか“ブレイズ先輩面するな”とかその時のヘイトも殴り書きしていた。
そして「甘いもので息抜きしろ」と買ってきてくれたお菓子の包み紙もなぜか貼ったりしている。
まほらはそれを見て当時の記憶が蘇り、自然と口元が綻んだ。
しかし気になるのは犯人像である。
目撃情報、現場に残されていた精液から見て犯人は男性に間違いない。
そして性行為の途中で相手の女性が魔法薬により急死したとしてもお構い無しで最後まで致し、吐精している事からも過剰な嗜虐趣味があると見られる。
それなのに何故、犯行は年に一度ほどという頻度なのか。
だいたい一年に一人、一人の女性を魔法催淫剤を用いて死に至らしめている。
そのような異常な性癖を持つ者が一年に一度で満足するのだろうか……。
「うーん……男性の性事情なんてわかるわけないしなぁ……」
でも何故かその頻度に犯人像の秘密があるような気がして、まほらは思い切ってハウンドに相談してみた。
「え、まほらさん、独自に調べてくれているの?」
まほらの話を聞き、ハウンドが驚いた表情を見せる。
「私も三年前に携わった事件ですし、何かお手伝い出来ればいいかなと思いまして……」
まほらがそう言うとハウンドは嬉しそうに小さく笑った。
「……ありがとう、まほらさん。その気持ちが嬉しいよ」
わぁイケメンのキラキラスマイル!
ヤリ…ゲフンでなくてもモテるだろうなぁと、まほらは頬が火照るのを誤魔化すように言った。
「そんな大袈裟ですよ。バディなんだから、仲間なんだから協力するのは当たり前です」
「うん、うんそうだね、でも…ありがとう」
「それで……今お話した事なんですが……」
「あ、あぁそうだね、確かに犯行が一年に一度という頻度なのは気になるよね……」
ハウンドは顎に手を当ててそう答えた。
「事件が起きた日はバラバラ。季節もバラバラ。被害者の共通点は身売りをしている女性という以外、特に共通点はなし。不思議なんですよねぇ、犯人の行動に一貫性がなくて」
「なるほど、な……」
ハウンドの目に、僅かに力が籠ったような気がした。
「ハウンドさん?」
「まほらさんの着眼点のおかげで別の視点から犯人像が浮かび上がるかもしれない、凄いよまほらさん!」
「そ、そんな大それた事ではなくて、ただ思いついた事を口にしただけですよ」
「いや、それは本当にありがたいよ。お礼と言っては何だけど、これからランチでもどう?是非ご馳走させてよ」
「そんな、つぶやいただけでランチを奢られるなんて割に合わないですよ?」
「いや、ランチひとつでこれからもまほらさんの協力を期待出来るんだから、むしろ有益な投資だね」
「私、ランチで買収されますか」
「是非、買収されていただきたい」
「ふふ、ではそういう事ならご馳走になります」
「やった」
そういうわけで、まほらはハウンドとランチに出る事になった。
ランチメニューが豊富だという定食屋に二人で向かう。
ハウンドの案内で大通りから路地に一本入り、飲食店が立ち並ぶエリアを歩いていると、突然彼が立ち止まった。
その視線は前方を見据えている。
「……ラリサ」
そしてつぶやくようにその名を口にした。
まほらも前方に視線を巡らせると、そこに一人の女性がいた。
「ハウンド……」
ラリサと呼ばれたその女性も、ただ一心にハウンドを見つめていた。
───ラリサって……たしか被害者のお姉さんでハウンドさんの初恋の人……!
まほらは瞠目して二人を見た。
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よろしくお願いします!
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