上 下
42 / 56
愛しい日々をあなたに 〜魔法省特務課の事件簿〜

エピローグ あなたと共に咲き綻ぶ人生を

しおりを挟む
菫は夢を見ていた。

あの日の夢だ。

父が処刑され、李亥家の使いの者からレガルドとの婚約を破棄する旨をしたためられた書状を受け取った時の夢。


あの時感じた悲しみと喪失感。

大切なものが手から零れ落ちてゆくのに何も出来ない無力な自分を嘆いた。

辛く、虚しく、只々悲しい。

そんな中、心に思い浮かぶのはえにしを絶たれた愛しい存在。

もう会えない、もう共に笑い合う日なんて来ない、そう思っていたのに……。


「菫………」


大好きな声に名を呼ばれ、その声に導かれるように菫の意識は浮上した。


「レガルド様……」

目を開けると今自分の名を呼んだ愛しい人がそこにいた。
夜の寝室で心配そうに菫の顔を覗き込み、不安げな双眸を向けている。

「……どうした?涙を流して、悪い夢でも見たのか……?」

「え……?泣いて……?」

気付けば頬に温かな何かを感じた。
菫はそこに指で触れ、それが自身が流した涙であると知る。

「ふふ、昔の夢を見て泣くなんて……私、子どもみたいね……」

菫がそう言うとレガルドは菫の半身を引き起こしそして抱きしめた。

「大丈夫だ菫、俺がついてる。どんな時でも俺が必ず守るから」

夫の腕に抱かれ、菫は心から安心できた。

その声がこの温もりがいつも菫を包み込んでくれる。

菫は一度は諦めたのに、彼は決して諦めず二人の未来を守ってくれた。
そうして今の暮らしがある。

大切で可愛い子どもたちも、周りにいる温かな人たちもみんなみんなレガルドのおかげで手にする事が出来たのだ。

この手から零れ落ちたものと同等の物をこの手に与えてくれた。


菫はそう感じた事をレガルドに告げると、彼は菫の大好きな屈託のない笑顔で答えてくれる。

「違うぞ菫。それは菫自身が辿り着き、手にしたものだ。俺はその手伝いをしただけだよ」

「レガルド様……」

その言葉を聞き、菫は改めて思った。

きっと……二人だったからだろうと。
二人で互いを想い合い、繋いだ手を離さずにいたからここまで歩んでこれたのだろう。

レガルドへの想いを全て込めて彼の頬に口付けをした。

「レガルド様、大好きです。私、あなたと出会えて本当に良かった……」

「菫……」

「これからもずっと側にいてくださいね」

「っ……もちろんだっ!!菫!俺も大好きだぞっ!!」

「きゃあっ!」

菫の言葉に感極まったレガルドに押し倒された。
やはり、のお約束的展開……と思いきやこれまたお約束で、側で眠っていたのばらが泣き出したのだった……。



菫はこののち、のばらが四歳になり王立幼児園に入園したのを機に魔法省へと復職した。
とはいっても軽く数時間のみのパートのようなものだが。

それでも気のおけない仲間と共に仕事が出来る事が嬉しかったのだ。

心配性で過保護な夫が常に目を光らせている職場ではあるが……。


第二子長女ルルカを出産したハルジオの妻ミルルも、いずれは復職したいと言っていた。

彼女の足は完全に元通りというわけにはいかないが、それでもリハビリの積み重ねにより歩き方もさほど違和感を感じないほどになっている。
歩く事を諦めなかったミルルの努力の賜物だ。


そう。歩き続ければきっと道は開ける。

あの日、東和を出国するために港へ向かって二本の足を動かし続けたように、ただ前に向かって歩き続けるのだ。

時には立ち止まり休んでもいい。
雨が降り出したなら道を逸れて雨宿りをしてもいい。

ただその後も必ず歩き続ける。
そうすればいずれ目的地に辿り着くから。


その道を示してくれたレガルドに、菫は心から感謝しているのだ。

そして今は二人。
子ども達とも手を繋ぎ歩いている。

いずれ子ども達の手は離れ、それぞれ自分達の道を歩いて行くのだろう。

だけどレガルドとは一生手を離さず共に歩いて行きたい。
愛し愛され、花の咲き綻ぶ人生を共に歩いて行きたいのだ。



「レガルド様」

菫が夫の名を呼ぶ。
彼は振り返り、優しげな眼差しを向けてくる。

「菫、愛してるぞ」


「ふふ。私もです」



菫は花が綻ぶように微笑んだ。





                終わり







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




とりあえずこれにて本編は完結とさせていただきます。

まだ書きたいエピソードは幾つかありますが、このままだとダラダラと締まりがなく、終わるタイミングを逃しそうだなと思い本編をきちんと終える事に致しました。

ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました!

そして引き続きオマケのエピソードをお楽しみ頂けますと幸いです。

あともう少しよろしくお付き合いくださいませ。

ヨロチクビ~♡













しおりを挟む
感想 1,169

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

ある国の王の後悔

黒木メイ
恋愛
ある国の王は後悔していた。 私は彼女を最後まで信じきれなかった。私は彼女を守れなかった。 小説家になろうに過去(2018)投稿した短編。 カクヨムにも掲載中。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

【電子書籍発売に伴い作品引き上げ】私が妻でなくてもいいのでは?

キムラましゅろう
恋愛
夫には妻が二人いると言われている。 戸籍上の妻と仕事上の妻。 私は彼の姓を名乗り共に暮らす戸籍上の妻だけど、夫の側には常に仕事上の妻と呼ばれる女性副官がいた。 見合い結婚の私とは違い、副官である彼女は付き合いも長く多忙な夫と多くの時間を共有している。その胸に特別な恋情を抱いて。 一方私は新婚であるにも関わらず多忙な夫を支えながら節々で感じる女性副官のマウントと戦っていた。 だけどある時ふと思ってしまったのだ。 妻と揶揄される有能な女性が側にいるのなら、私が妻でなくてもいいのではないかと。 完全ご都合主義、ノーリアリティなお話です。 誤字脱字が罠のように点在します(断言)が、決して嫌がらせではございません(泣) モヤモヤ案件ものですが、作者は元サヤ(大きな概念で)ハピエン作家です。 アンチ元サヤの方はそっ閉じをオススメいたします。 あとは自己責任でどうぞ♡ 小説家になろうさんにも時差投稿します。

処理中です...