22 / 56
愛しい日々をあなたに 〜魔法省特務課の事件簿〜
菫の異変
しおりを挟む菫とコーディ、そしてミーガンは王都のとあるアパートの一室に居る。
三日前にこの場所で違法術式を構築し、販売していたと見られる容疑者が自殺したのだ。
自殺した容疑者が構築した術式は主に禁忌とされる術式ばかりで、それを闇魔術師ギルドに売っていたらしい。
その闇ギルドは依頼殺人、誘拐、人身売買、違法薬物、魔法生物の違法売買など、かなり凶悪な犯罪を行っていたそうだ。
先日、その闇魔術師ギルドの在処とギルド幹部の潜伏先が地方都市で見つかった。
そして特務課からはレガルド、桐生、フランキーの三名が出動要請を受けて現場に向かったのだ。
ギルドの幹部数名は高位の魔術師たち。
その内一名は上級魔術師との事で地方局の捜査一課の職員では手に負えないと、特務課に救援の要請が入ったのであった。
なのでレガルドは只今地方に出張中である。
(菫が心配だと出来得る限りは転移魔法で帰って来るが)
そして自殺した容疑者がその闇ギルドと取り引きをしていた証拠を集める為に、本省に残った者が捜索に当たっているというわけなのだ。
だが容疑者が禁忌術式を作成していた事を示す物質的な証拠品は何も残ってはいなかった。
容疑者の男が死ぬ直前に全て燃やすなりして処分をした為だ。
証拠がなければ罪の立証が出来ず、犯人達を追及する事が出来ない。
さてどうするか……
このまま証拠品提出不可とするか頭を悩ませていたところ、菫が容疑者の部屋の一画に淀みがある事に気付いた。
「……魔力残滓……?いえ、これは……おそらく魔力を含んだ残留思念だわ」
「残留思念?」
菫に対しては声を出して話すミーガンが訊いてきた。
「亡くなった方が死の直前に強く思った事が魔力を纏って放出され、魔力残滓のように残る場合があるんです。ほとんどが無念や心残りなどの負の感情ですが……」
その話を受け、コーディの表情が明るくなる。
「その話が本当なら、証拠品はなんとかなるかもしれない」
「え?」
「魔力残滓は個人の特定や用いた魔術の種類の判明、そしてその場所にその人物がいた事を示す証拠として法的に認められているんだ。残留思念も魔力残滓と捉えるなら、証拠として提出できる筈だよ」
コーディはそう言い、捜査のために持参した仕事道具の中から一本のスプレー缶を取り出した。
「それは?」
菫がそのスプレーを指して訊ねると、ミーガンがそれに答えてくれた。
「特務課のマッドサイエンティスト、アンセルが発明した魔力残滓を着色して可視化させるカラースプレーよ。今まで魔力残滓はそれを識別できる能力者のみが採取する事が出来たのだけれど、これがあれば魔力残滓を見る能力がない者でも見る事が出来るの」
「すごい……アンセルさんって本当に天才なんですね」
菫が感心して言うとコーディが
「スミレさんに褒めて貰えておひょ、おひょというアンセルの笑い声が聞こえて来そうだね」
「ふふふ」
[ホントね]
そしてコーディは菫が指し示す場所目掛けてスプレーを噴射した。
するとみるみるその場にスプレーでレモンイエローに染められた、雲のような綿の様な物質が現れた。
「可視化出来るなら、この塊を文字と捉えて解読できそうだわ」
ミーガンはそう言ってそれをじっと熟視した。
何かの文字を追うかのように忙しなく眼球が動いている。
そしていつも持参しているスケッチブックにスラスラと書き記していった。
ミーガンが可視化された残留思念から読み取った内容は……
[魅了魔法と金を生成する魔法の術式の構築代金……払って貰ってない……タダ働きなんて冗談じゃねぇぞ……クソが]
「「「…………」」」
「魅了も金を作り出すのも禁術だ、それを行っていたという証明になるね。でもさ、最期の言葉が口汚くて、しかもお金に関する事なんて……ある意味悲しすぎるよね」
コーディが呆れながらも冥福を祈るように目を閉じた。
とりあえずこの残留思念が証拠品として認められるか、法務部にお窺いを立ててみようという事となった。
三人で帰省する為に転移魔法を行う。
だが菫は、先ほど残留思念を可視化させるためのスプレーを使った後くらいからどうも悪心を感じて仕方なかった。
スプレーの独特の香りがやけに鼻についたのだ。
とても転移に集中出来そうにないので、菫はミーガンに一緒に転移して連れ帰って貰う事にした。
そして後日、法務部から残留思念の信憑性が認められた事により証拠品として成立すると返答があった。
その知らせを受けて、コーディやミーガンと共に安堵する。
これで闇ギルドの罪が余す事なく暴かれる事になったからだ。
だが菫の体調は日に日に悪化してゆく。
原因不明の不調に菫は不安になった。
でもレガルドは捜査の大詰めでここ数日は帰って来れていない。
ーーどうしよう……病院に行った方がいいのかしら……なんだか……唇が冷たく……
と思った瞬間、菫の意識は途切れた。
54
お気に入りに追加
2,569
あなたにおすすめの小説
夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた
今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。
レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。
不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。
レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。
それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し……
※短め
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
婚約者が肉食系女子にロックオンされています
キムラましゅろう
恋愛
縁故採用で魔法省の事務員として勤めるアミカ(19)
彼女には同じく魔法省の職員であるウォルトという婚約者がいる。
幼い頃に結ばれた婚約で、まるで兄妹のように成長してきた二人。
そんな二人の間に波風を立てる女性が現れる。
最近ウォルトのバディになったロマーヌという女性職員だ。
最近流行りの自由恋愛主義者である彼女はどうやら次の恋のお相手にウォルトをロックオンしたらしく……。
結婚間近の婚約者を狙う女に戦々恐々とするアミカの奮闘物語。
一話完結の読み切りです。
従っていつも以上にご都合主義です。
誤字脱字が点在すると思われますが、そっとオブラートに包み込んでお知らせ頂けますと助かります。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
彼氏が留学先から女付きで帰ってきた件について
キムラましゅろう
恋愛
キャスリンには付き合いだしてすぐに特待生として留学した、ルーターという彼氏がいる。
末は博士か大臣かと期待されるほど優秀で優しい自慢の彼氏だ。
そのルーターが半年間の留学期間を経て学園に戻ってくる事になった。
早くルーターに会いたいと喜び勇んで学園の転移ポイントで他の生徒たちと共に待つキャスリン。
だけど転移により戻ったルーターの隣には超絶美少女が寄り添うように立っていて……?
「ダ、ダレデスカ?その美少女は……?」
学園の皆が言うことにゃ、どうやらルーターは留学先でその美少女と恋仲だったらしく……?
勝気な顔ゆえに誤解されやすい気弱なキャスリンがなんとか現状を打破しようと明後日の方向に奮闘する物語。
※作中もンのすごくムカつく女が出てきます。
血圧上昇にご注意ください。
いつもながらの完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティなお話です。
重度の誤字脱字病患者が書くお話です。
突発的に誤字脱字が出現しますが、菩薩の如く広いお心でお読みくださいますようお願い申し上げます。
小説家になろうさんでも時差投稿します。
妻のち愛人。
ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。
「ねーねー、ロナぁー」
甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。
そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。
王太子殿下の執着が怖いので、とりあえず寝ます。【完結】
霙アルカ。
恋愛
王太子殿下がところ構わず愛を囁いてくるので困ってます。
辞めてと言っても辞めてくれないので、とりあえず寝ます。
王太子アスランは愛しいルディリアナに執着し、彼女を部屋に閉じ込めるが、アスランには他の女がいて、ルディリアナの心は壊れていく。
8月4日
完結しました。
転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?
朱音ゆうひ
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!
「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」
王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。
不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。
もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた?
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)
初恋の呪縛
緑谷めい
恋愛
「エミリ。すまないが、これから暫くの間、俺の同僚のアーダの家に食事を作りに行ってくれないだろうか?」
王国騎士団の騎士である夫デニスにそう頼まれたエミリは、もちろん二つ返事で引き受けた。女性騎士のアーダは夫と同期だと聞いている。半年前にエミリとデニスが結婚した際に結婚パーティーの席で他の同僚達と共にデニスから紹介され、面識もある。
※ 全6話完結予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる