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ミニ番外編
ミシェルの悩み
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ルシアンは最高学年、その従妹であるミシェルは三年生となった。
十五歳となりこれから娘盛りを迎えようとしているミシェルだが、相変わらずドレスや装飾品よりも剣を握っている方が好きというのは変わりがない。
だがそんな男勝りな一面を持ちながらも容姿は華奢な体格の美少女、性格は出しゃばらず控えめで優しいという、とても魅力的な娘に成長していた。
そんなミシェルだが、近頃彼女はとある悩みを抱えている。
それは体の成長と共に剣が振るいにくくなってしまっているというものだ。
周りにいる少年たちは成長と共に筋力と体力が上がり、ますます剣捌きや体捌きに磨きがかかっていくというのに自分はどうだ。
筋力や体力は問題ない。
歳を重ねるごとに鍛錬に見合った成長をしていると感じられる。
だが……近頃著しく体型の変化を感じ、そのせいで動き辛さを感じているのだ。
朝、ミシェルはホームステイしているワイズ伯爵家の自室にて、姿見に映る自分を凝視していた。
「……また大きくなったのかしら……」
おムネが。
そしてお尻が。
日々の鍛錬に余念がないミシェルは、他のご令嬢に比べれば別格の引き締まったお尻をしているのだが、それでもやはり俊敏な動きをするには些か邪魔である。
それに胸の成長が……これはルーセルの血、といえるのかもしれない。
母のランツェはペチャ……とまでは言わないがどちらかというと慎ましやかなお胸である。
一方、叔母のハノンといとこのポレットは何というかとてもお胸がふくよかなのだ。
その二人と血の繋がりのあるミシェルのお胸はとてもよく似ている。
ちゃんと比べたことはないが多分、ポレットと自分のお胸は同じ大きさであろうとミシェルは推測していた。
その、ふくよかになりつつあるお胸が、剣を振る上で邪魔になることが増えてきた。
重い上に腕の可動域を僅かに妨げるのだ。
女性騎士を目指す者としては胸が大きくても何の利点もない。むしろ邪魔なだけの無用の長物である。
その事を縁戚の間柄といえるイヴェットに一度相談したところ、
「わかるわ~!悩ましい問題よね。でも解決法となると女性騎士用のコルセットで胸を抑えるくらいしかないのよね~。でもあんまり抑えると苦しくて余計に動きが抑制されてしまうし……。今はもう何をしても無駄だと諦めたけど、わたくしがミシェル様の年頃の時はいっそお胸の除去手術を受けてやろうかしらと本気で悩んだわ~。……まぁ、その時泣きながら止めてくれた母や乳母には感謝ね。その話を聞いた夫のキースも深く二人に感謝していたもの」
と、長くツラツラと話していたがとどのつまりは解決策は無しということであった。
「ふぅ……」
ミシェルはため息をついて、自身の胸にコルセットをあてがった。
そして動きやすいの服に着替えて模擬刀を手にする。
朝は鍛錬から始まるのだ。
学園がある日は軽く、休日は念入りに。
いずれも朝食前に体を動かすのが日課であった。
そしてそれを習慣にしている人物がワイズ家には他にも二人。
屋敷のバックヤードにある鍛錬用のスペースには既にフェリックスとルシアンが居た。
「おはようございます」
ミシェルが二人に挨拶をすると、よく似た親子二人が爽やかな笑顔を向けて挨拶を返してくれる。
「おはよう」
「ミシェル、おはよう」
そうして三人で、末娘のノエルが朝食の時間だと呼びに来るまで共に鍛錬をするのであった。
ミシェルは胸が邪魔をしても剣捌きに支障が出ない動き方を模索していた。
今朝もウォーミングアップの後にひとりで思案しながら剣を振っているとルシアンが声を掛けてきた。
「ミシェル、剣筋を変えようとしているの?」
「ルシアン様……えっと……」
まさか大きくなったお胸が邪魔で思うように剣が振るえません、なんて言えないミシェルは言い淀んでしまう。
男子であるルシアンがそんなミシェルの悩みを理解するわけはないだろうが、彼は彼なにりミシェルが何かに思い悩んでいることは察しているらしい。
そんなルシアンがミシェルに言った。
「今までのミシェルの剣は速さが信条だったけど、それに拘る必要はないんじゃないかな」
「え?」
「騎士の戦い方は多様だよ。速さは確かに強みとなるけど、何もそれだけが戦い方じゃない」
「でも私は腕力がありません。打ち合いとなり、男性の剣撃を剣で受けることや鍔で止めることは危険なのです。それには速さで補うしか……」
直面している問題に触れられ、ミシェルは僅かに狼狽えた。
不安に瞳を揺らすミシェルにルシアンは穏やかな口調で言う。
「ミシェルはさ、父さんや僕と同じく魔術騎士を目指してるんだよね」
「はい。せっかく魔力を持って生まれてきたのだし、好きな剣と合わせて活用したいと思っています」
「それなら速さと力は魔術で補えばいいんだよ」
「魔術で……補う」
ミシェルが言葉を繰り返すとルシアンは笑みを浮かべて頷いた。
「うんそう。身体強化の魔術をかけてもいいし、剣に風や炎の術を纏わせて攻撃の一手とするのもいいよね」
「なるほど……」
ただ単純に魔力があるのだから魔術騎士に、と考えていたが、魔術師のように巧みに術を用いて身体的な欠点を補えばいいのだ。
今まで剣の鍛錬ばかりに重きを置いてきたがこれからは魔術の鍛錬も積もう。
そう思うと途端に目の前に光が広がったような気がした。
そしてそこに居るのは子どもの頃より深く信を置く従兄。
彼が輝いて見えるのは朝日に照らされているからか、それとも思い悩んでいた道筋に光明を差し示してくれたからか。
そのどちらかはわからないが、とにかくミシェルは道を示してくれたルシアンに無性にその喜びを伝えたくなった。
「ルシアン様、ありがとうございます!これから自分が何をするべきか、答えが出たような気がします!」
ミシェルが嬉しそうにそう告げると、ルシアンも我がことのように喜んでくれた。
「良かった。このころ少し元気がないような気がしていたから心配していたんだ。久しぶりにミシェルの心からの笑顔が見れて嬉しいよ」
そしてそう告げたルシアンが屈託のない笑顔をミシェルに向けた。
その笑顔を見たミシェルの胸が不思議と早く鼓動を打つ。
ミシェルはトクントクンと脈打つ自分の胸に手を当てる。
早鐘を打つ理由はわからないが、なぜか心の底から多幸感を感じるミシェルであった。
そしてそんな二人を残し、
「ちょうしょくのよういができましたよー♪はやくこないとノエルがぜんぶたべちゃいますよ~」と言いに来たノエルをヒョイと抱き上げたフェリックスが「二人の邪魔をしてはいけないよ」と言いながらこっそり鍛錬場を後にするのであった。
─────────────────────
先週、デイくんが三年生となったと書きましたが間違いでした。
ミシェルとポレたんが三年生で、デイくんは四年生でした。
( ´>ω<)人メンゴ!
次回からまた時間が進みます。
とうとうポレたんのお輿入れ?
十五歳となりこれから娘盛りを迎えようとしているミシェルだが、相変わらずドレスや装飾品よりも剣を握っている方が好きというのは変わりがない。
だがそんな男勝りな一面を持ちながらも容姿は華奢な体格の美少女、性格は出しゃばらず控えめで優しいという、とても魅力的な娘に成長していた。
そんなミシェルだが、近頃彼女はとある悩みを抱えている。
それは体の成長と共に剣が振るいにくくなってしまっているというものだ。
周りにいる少年たちは成長と共に筋力と体力が上がり、ますます剣捌きや体捌きに磨きがかかっていくというのに自分はどうだ。
筋力や体力は問題ない。
歳を重ねるごとに鍛錬に見合った成長をしていると感じられる。
だが……近頃著しく体型の変化を感じ、そのせいで動き辛さを感じているのだ。
朝、ミシェルはホームステイしているワイズ伯爵家の自室にて、姿見に映る自分を凝視していた。
「……また大きくなったのかしら……」
おムネが。
そしてお尻が。
日々の鍛錬に余念がないミシェルは、他のご令嬢に比べれば別格の引き締まったお尻をしているのだが、それでもやはり俊敏な動きをするには些か邪魔である。
それに胸の成長が……これはルーセルの血、といえるのかもしれない。
母のランツェはペチャ……とまでは言わないがどちらかというと慎ましやかなお胸である。
一方、叔母のハノンといとこのポレットは何というかとてもお胸がふくよかなのだ。
その二人と血の繋がりのあるミシェルのお胸はとてもよく似ている。
ちゃんと比べたことはないが多分、ポレットと自分のお胸は同じ大きさであろうとミシェルは推測していた。
その、ふくよかになりつつあるお胸が、剣を振る上で邪魔になることが増えてきた。
重い上に腕の可動域を僅かに妨げるのだ。
女性騎士を目指す者としては胸が大きくても何の利点もない。むしろ邪魔なだけの無用の長物である。
その事を縁戚の間柄といえるイヴェットに一度相談したところ、
「わかるわ~!悩ましい問題よね。でも解決法となると女性騎士用のコルセットで胸を抑えるくらいしかないのよね~。でもあんまり抑えると苦しくて余計に動きが抑制されてしまうし……。今はもう何をしても無駄だと諦めたけど、わたくしがミシェル様の年頃の時はいっそお胸の除去手術を受けてやろうかしらと本気で悩んだわ~。……まぁ、その時泣きながら止めてくれた母や乳母には感謝ね。その話を聞いた夫のキースも深く二人に感謝していたもの」
と、長くツラツラと話していたがとどのつまりは解決策は無しということであった。
「ふぅ……」
ミシェルはため息をついて、自身の胸にコルセットをあてがった。
そして動きやすいの服に着替えて模擬刀を手にする。
朝は鍛錬から始まるのだ。
学園がある日は軽く、休日は念入りに。
いずれも朝食前に体を動かすのが日課であった。
そしてそれを習慣にしている人物がワイズ家には他にも二人。
屋敷のバックヤードにある鍛錬用のスペースには既にフェリックスとルシアンが居た。
「おはようございます」
ミシェルが二人に挨拶をすると、よく似た親子二人が爽やかな笑顔を向けて挨拶を返してくれる。
「おはよう」
「ミシェル、おはよう」
そうして三人で、末娘のノエルが朝食の時間だと呼びに来るまで共に鍛錬をするのであった。
ミシェルは胸が邪魔をしても剣捌きに支障が出ない動き方を模索していた。
今朝もウォーミングアップの後にひとりで思案しながら剣を振っているとルシアンが声を掛けてきた。
「ミシェル、剣筋を変えようとしているの?」
「ルシアン様……えっと……」
まさか大きくなったお胸が邪魔で思うように剣が振るえません、なんて言えないミシェルは言い淀んでしまう。
男子であるルシアンがそんなミシェルの悩みを理解するわけはないだろうが、彼は彼なにりミシェルが何かに思い悩んでいることは察しているらしい。
そんなルシアンがミシェルに言った。
「今までのミシェルの剣は速さが信条だったけど、それに拘る必要はないんじゃないかな」
「え?」
「騎士の戦い方は多様だよ。速さは確かに強みとなるけど、何もそれだけが戦い方じゃない」
「でも私は腕力がありません。打ち合いとなり、男性の剣撃を剣で受けることや鍔で止めることは危険なのです。それには速さで補うしか……」
直面している問題に触れられ、ミシェルは僅かに狼狽えた。
不安に瞳を揺らすミシェルにルシアンは穏やかな口調で言う。
「ミシェルはさ、父さんや僕と同じく魔術騎士を目指してるんだよね」
「はい。せっかく魔力を持って生まれてきたのだし、好きな剣と合わせて活用したいと思っています」
「それなら速さと力は魔術で補えばいいんだよ」
「魔術で……補う」
ミシェルが言葉を繰り返すとルシアンは笑みを浮かべて頷いた。
「うんそう。身体強化の魔術をかけてもいいし、剣に風や炎の術を纏わせて攻撃の一手とするのもいいよね」
「なるほど……」
ただ単純に魔力があるのだから魔術騎士に、と考えていたが、魔術師のように巧みに術を用いて身体的な欠点を補えばいいのだ。
今まで剣の鍛錬ばかりに重きを置いてきたがこれからは魔術の鍛錬も積もう。
そう思うと途端に目の前に光が広がったような気がした。
そしてそこに居るのは子どもの頃より深く信を置く従兄。
彼が輝いて見えるのは朝日に照らされているからか、それとも思い悩んでいた道筋に光明を差し示してくれたからか。
そのどちらかはわからないが、とにかくミシェルは道を示してくれたルシアンに無性にその喜びを伝えたくなった。
「ルシアン様、ありがとうございます!これから自分が何をするべきか、答えが出たような気がします!」
ミシェルが嬉しそうにそう告げると、ルシアンも我がことのように喜んでくれた。
「良かった。このころ少し元気がないような気がしていたから心配していたんだ。久しぶりにミシェルの心からの笑顔が見れて嬉しいよ」
そしてそう告げたルシアンが屈託のない笑顔をミシェルに向けた。
その笑顔を見たミシェルの胸が不思議と早く鼓動を打つ。
ミシェルはトクントクンと脈打つ自分の胸に手を当てる。
早鐘を打つ理由はわからないが、なぜか心の底から多幸感を感じるミシェルであった。
そしてそんな二人を残し、
「ちょうしょくのよういができましたよー♪はやくこないとノエルがぜんぶたべちゃいますよ~」と言いに来たノエルをヒョイと抱き上げたフェリックスが「二人の邪魔をしてはいけないよ」と言いながらこっそり鍛錬場を後にするのであった。
─────────────────────
先週、デイくんが三年生となったと書きましたが間違いでした。
ミシェルとポレたんが三年生で、デイくんは四年生でした。
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次回からまた時間が進みます。
とうとうポレたんのお輿入れ?
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