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ミニ番外編

新しいお友達

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「ノエルちゃんは、魔力を使って何がしたい?」

ツェリシアがピクニックマットの上にちょこんと座るノエルに訊ねた。
その問いにノエルは迷う事無く答える。

「おいしいたべものをいっぱいだすの!」

「まぁ!それは素敵ね」

「でしょう?それでみんなでパーティをするの!」

「それも素敵♪」

「うん!」

「でもね、ノエルちゃん」

ツェリシアはそう言って徐に立ち上がった。
そしてピクニックマットの上からそのまま芝生の上を歩いて行く。

ノエルとフェリックスの居る所から少しだけ離れると、ツェリシアは振り返った。

「魔力を使ってこんなことも出来るのよ」

そう告げたツェリシアが両手のひらを上に向け、すくい上げるようにして両手を開いた。

するとたちまちツェリシアが立つ周りに色とりどりの様々な可愛い花が咲き、広がる。

「わぁっ……おはなばたけだ!」

突然目の前に現れた美しい花々を見てノエルが喜びの声をあげる。
そして勢いよく立ち上がり、裸足のままでツェリシアの居る花畑へと駆け寄った。

「せんせぇ、とってもキレイね!」

そう言って自分の元へと駆け寄ったノエルにツェリシアは微笑む。

「そうでしょう?魔法のお勉強すればノエルちゃんならすぐに出来るようになわ」

「ノエル、おはなをだすまほうをつかいたい!そしてキレイなおはなをママやおねぇさまにあげるの」

「きっと喜ぶわ。でもねノエルちゃん。少し魔力の使い方を間違えたら、この綺麗なお花畑が一瞬で枯れてしまったり燃えてしまったりするのよ」

「え……おはなさんたちがかわいそう……」

話を聞いて途端に悲しげな顔をするノエルにツェリシアは言う。

「だからそうならないためにお勉強をするの。ツェリ先生と一緒に沢山のお勉強をしましょうね」

ツェリシアの言葉にノエルは元気よく頷いた。

「うん!ノエル、たくさんおべんきょうする!」

「ふふいい子ね。じゃあノエルちゃん。先生はノエルちゃんのパパとお話があるから、このお花畑で遊んでいてくれる?」

「せんせえ、ここのおはなをつんでもいい?はなかんむりをつくるの」

「すごいのねノエルちゃん。もう花冠が作れるの?」

「ママがおしえてくれたのよ」

「ノエルちゃんのママはお料理上手な上に花冠まで作れるのね」

「ママはなんでもできるのよ!」

ノエルのその言葉に、ピクニックマットの所から二人を見守っていたフェリックスが大きく頷いていた。

そうしてノエルは、ツェリ先生とパパがお話をしている間に花冠をせっせと作る。

まず最初に作った小さい花冠を自分の頭にのせた。
「ノエルはおはなのおひめさまなの」
次に母と姉たちのためにせっせと花冠を作った。
そんなノエルの手元……というよりノエルの体に大きな影が落ちる。

「……?」

急に手元が暗くなりノエルがきょとんとして上を向くと、そこには青い髪をした青年が立ってノエルを見下ろしていた。
その青い髪の青年がノエルに言う。

「ややや?拙宅せったくの庭に小さなレディが居るぞ?」

「だぁれ?」

ノエルの脳裏に、日頃母に言われている「ご挨拶はきちんとね。仲良くなれる魔法の言葉よ」という言葉が浮かぶ。

ノエルはその場にすくりと立ち上がり、ワンピースを摘んでカーテシーをした。

「はじめましてごきげんよう。ノエル・ワイズです」

「ふむ……ワイズ……あぁ、アルトの友達の娘ちゃんかぁ」

「おにぃさんはリンゴのあたまのおにぃさんのおともだちなの?」

「ぷっ☆リンゴ……☆うーん、友達とは少し違うかなぁ。先生と生徒といえばわかるかな?」

青年の言葉を聞き、ノエルはパッと笑顔になり元気よく答えた。

「うんわかる!ノエルとツェリせんせぇといっしょね!」

「ツェリ先生?え?ツェリーちゃんまた弟子を取るの?初耳なんだけど?……も~アルトのヤツ、また僕を除け者にしてぇ……ぷんっ☆」

そう言って頬を膨らませながらも青年は目の前のノエルを見る。

アルトが黙っていたということは自分とこの少女を引き合わせたくなかったからだろう。
ハイラムの王城に出仕する遊びに行く日にこの子がここに来たのが何よりもその証。
なるほど。
先ほどから感じるこの少女の“気”はとても清らかで明るく、そして楽しい。
わりと精霊に近いその性質に、青年は嬉しそうに微笑んだ。
そしてノエルに向かって言う。

「ハジメマシテ!僕の名前はバルク・イグリードって言うんだ☆ノエルちゃん、良かったら僕と一緒に遊ばない?」






「では毎週末の朝、ノエルちゃんをお迎えにあがる感じでいいですか?」

ノエルが弟子入りするにあたり、ツェリシアとフェリックスは今後の打ち合わせをしていた。

「毎週わざわざお手間を取らせるのも申し訳ない。ノエルは私がこちらまで連れて参りますよ」

「手間だなんてとんでもない。転移魔法について色々と教えるという実益も兼ねてですからどうぞお気遣いなくです」

「なるほど。ではお言葉に甘えて……よろしくお願いします」

ピクニックマットの上で、フェリックスはぺこりと頭を下げる。
フェリックスの癖のない艶やかな髪がさらりと揺れるのをツェリシアはじっと見つめていた。
その視線に気付いたフェリックスが不思議そうな顔をツェリシアに向ける。

「……?何か?」

「あら、ごめんなさい。私は幼い頃から、気になったものをじっと見つめる性質タチなんです。不躾に見ることになるので気をつけていたのですが、ワイズ卿の銀色のおぐしが本当に美しくてつい見蕩れてしまっていました。ごめんなさい」

「……いや、このような頭をいくらでも見ていたたいて構わないのですが、見蕩れていたという言葉を使うのは如何なものかと。私はを敵に回したくはありませんからね」

「え?」

フェリックスが大真面目な顔で言った言葉に対して要領を得ないツェリシアがきょとんとすると、ふいに近くで彼女が世界中で一番心地よいと感じる声が聞こえた。

「そうだよツェリ。キミは俺に三十年来の友人を排除させるつもりかい?」

ツェリシアは声の主の方へと笑みを浮かべながら視線を巡らせる。

「アルト。おかえりなさい」

ツェリシアの視線の先に立つ男、アルトに向かってフェリックスがジト目を向ける。

「排除だなんて。恐ろしい言葉を使わないでくれ」

「不可抗力だろうが何だろうが、ツェリをこれ以上見蕩れされるなら、その視界から消えて貰うしかないだろう」

「なんて狭量な……」

「おい。俺のそばに居た精霊が『お前言う~☆』って笑い転げてるいるぞ」

「精霊め……。まぁいい、そういうことだ。俺には唯一がいる。お前ならよくわかっているだろう」

「それでも気に食わんものは気に食わん」

「本当に狭量だな」

「だから精霊が『お前言う~』っと……「もういいわ!」」

「ぷっ☆ふふふふっ……」

幼馴染同士の気安さでポンポン会話する二人を見て、ツェリシアはころころと笑う。
それに毒気が抜かれたようにアルトが小さく嘆息し、穏やかな口調で訊ねた。

「ツェリ、キミの二番弟子はどう?仲良く出来そう?」

「ええもちろんよ。チェルシーとはまた違う、とっても可愛くて楽しい子だわ」

ツェリシアの言葉にフェリックスはうんうんと頷く。

「母親の良いところを沢山受け継いだんだろうね、本当に可愛くて良い子だ」

アルトの言葉に頷きながらもフェリックスは「俺の良いところも受け継いでいるがな」と言ったが、アルトはそれをスルーしてツェリシアに訊ねる。

「…………ところでツェリ、ノエルちゃんは?」

意味深な間が空いた後にそう訊いた夫をツェリシアは不思議そうに見る。

「ノエルちゃんならすぐ側の花畑で遊んで……あら?」

ツェリシアが花畑の方向に視線を巡らせると、そこに確かに居たはずのノエルの姿がない。

「ノエルっ……!?」

父親であるフェリックスが焦燥感を顕にして娘の名を呼ぶ。
ツェリシアとフェリックスが側に居て、ノエルが姿を消したことに気づかないなんて有り得ない。

フェリックスは常に娘の“気配”を意識下に置いていたし、転移魔法を用いてもその魔力の波動をツェリシアが感知しないはずがない。

それなのにこの二人に気取けどられることなくノエルを連れ出すことが出来るのは、この世界ではアルト自分を除いてただ一人……。

「どうりでさっきからコソコソとした魔力を感じると思っていたんだ……」

アルトは大きく嘆息し、魔力を潜めてコソコソとしている者の元へと歩いて行った。

「あ、待ってアルト!」

ツェリシアとフェリックスも後に続く。
アルトは大きな木の幹をぐるりと周り、ピクニックマットを広げていた反対方向へと歩みを進めた。
アルトの後ろを歩きながら、ツェリシアはフェーズが変わったのを感じた。
一見同じ場所に見えて、元いた世界とは違う空間フェーズ
誰かが意図的にこのフェーズへと繋げたのだ。

なんて、考えるまでもないけれど……。

すると夫のドスの効いた重低音の声が鼓膜を震わせ、ツェリシアが今思い浮かべた人物を呼んだ。

「師匠……アンタ、何やってんですか?」

師匠と呼ばれた男、青い髪の青年バルク・イグリードが楽しげに振り向いた。

「あ☆もう見つかっちゃった☆ザンネ~ン、せっかく小さなお友達と楽しく遊んでいたのにぃ~☆」

「なんで今日に限っていつもより早く帰って来るんですか。いつもハイラムの王城へ行ったら夕食までガッツリご馳走になって、お風呂まで入って帰ってくるのに」

「さぁ~?なんか虫の知らせっていうのかなっ?早く帰らないの勿体ない気がしたんだ☆」

「ッチ、」

「わぁ~☆僕の弟子の舌打ちは今日もキレッキレだなぁ☆」

フェリックスは堪らずといった様子で師弟の会話の間に割り入った。

「ノエルはっ……?娘はどこだっ?」

それに対し、イグリードがあっけらかんとした声で木の上部の方へと指を差した。

「ノエルちゃんならホラ、僕が作ってあげたブランコに楽しそうにのってるよ☆」

「え?」

「は?」

「まぁ!」

フェリックスたちがイグリードが指差した方向へ目を向けると、

「わーい!たのしいー!」

と、巨木の最上部付近のわりと太い枝から吊るされたブランコに乗っているノエルの姿が目に飛び込んできた。

「ノエル゛……!?」

落ちたらひとたまりもないような高い位置のブランコを楽しげに漕ぐ娘を見て、フェリックスは顔色を真っ青にして面食らう。
そしてどういう事だと詰め寄った。

「どうして娘があんな位置にっ!?」

「……すまん。すぐに、可及的速やかに保護する。こうなるのが分かっていたから師匠が居ない日を初顔合わせに選んだというのに……チ、」

「本日二回目の舌打ちぃ~☆え、でも大丈夫だよ?絶対に落ちない加護を付与しておいたから☆」

「そんなヘンテコ加護を付与するな」

「え~でも、やっぱブランコは高い位置にあった方が楽しいでしょ?『教えて~♪アルムのもみの木よ~♪』って歌いたくなるよね☆僕も後で代わってもらうんだ♪」

「なら今すぐ代わってもらえ。そして一生ブランコを漕いでろ゛」

「イヤだなぁ☆一生なんて乗ってられないよぉ~。飽きちゃうよぉ~。一、二年くらいなら乗ってられそうだけど☆」

そう言ってバチン☆とウィンクをしたイグリードをガン無視してアルトはパチンと指を鳴らした。
その途端にノエルの体がアルトの元へと移動する。

急にブランコからアルトの腕の中へと転移させられたノエルは驚いて目をぱちくりとさせている。
そして目の前のアルトを見てこう言った。

「あ、リンゴのおにぃさん。ごきげんよう」

挨拶は大切。
母の教えが活きている。

「こんにちはノエルちゃん。ダメだよ?遊ぶ相手はちゃんと選ばなくちゃ。バカが感染すうつるからね」

アルトがノエルに優しく諭す。
そしてフェリックスへとノエルを返した。
フェリックスは無傷で腕の中に戻ってきた娘を見て、ホッと安堵のため息を漏らした。

その光景に場違いな、呑気な声が辺りに響く。

「ノエルちゃん、ブランコ楽しかったよね~☆」

「うん!とってもたのしかった!すっごくたかくてきもちいいの!」

「ダヨネ~☆」

ノエルの返事にイグリードがドヤ顔で喜ぶ。
するとアルトがこれまたドスの効いた声で師に告げた。

「そうか。なら、ずっと楽しんでいろ」

「へ?」



その後、アルトは気を取り直したようにフェリックスとノエルを家の中に招き、丁寧に淹れた美味しいお茶をご馳走した。

そうしてノエルとツェリシアの初顔合わせは無事に終了し、二人はアデリオールへと帰って行った。

お茶をご馳走になっている途中も、帰宅する際にも、違うフェーズにいるはずのイグリードの「ごめんさぁぁい!もうブランコから降りさせてぇぇ~!」と泣き叫ぶ声が聞こえた気がするのは空耳だったのだろうか……。
















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