109 / 144
ミニ番外編
エレガントに決めてやったぞ
しおりを挟む
アーバン・マフレインは悦に浸っていた。
父親から借り受けた大賢者印の魔道具を用いていとも簡単にカメリア・ランバートを拉致…コホン連れ去る事ができたのだから。
まずは認識阻害の魔術を発動させる魔道具で存在を隠し、医務室へとエレガントにコソコソと侵入した。
そして下品な下ネタや食べ物トーク、そしてキレのあるツッコミ(を言っているのは先程の美女人妻ではないか)が飛び交う中、それを笑いながら書類仕事をしていたカメリアと転移魔法魔道具にて別室に移動したのだ。
転移にて突然移動させられたカメリアはわけが解らず呆けている。
そしてアーバンはそれらがあまりにもスムーズに、そしてエレガントに行えた事で自画自賛しながら悦に浸っていたのであった。
「ふ、さすがは俺…アーバン・マフレイだ。ルシアン・ワイズや医務室の大魔神の鼻を明かしてやったぞ……」
お前の実力ではなくあくまでも大賢者印の魔道具が凄いのだ、と正論をぶつけられる者はここにはいない。
ここは許可なくして立ち入れない学園内の特別蔵書室。
無論施錠されており、その鍵は学園長室に保管されている。
大賢者印の転移魔道具のおかげでアーバンとカメリアは中に転移できたが、鍵がないと外部からは決して入れない。
貴重な蔵書を守るために湿気を逃れて三階部分にあり、光を遮るために重く分厚いカーテンが掛かっている。
外部から中を窺う事は難しい構造になっているというわけだ。
この部屋に連れ込んで、婚約誓約書にサインさせればいいと隠密の進言に従って正解だった。
ここなら誰にも邪魔されずにカメリアを口説き落とせると、アーバンはほくそ笑んだ。
一瞬の困惑の後、すぐに事態を把握したカメリアが気丈に睨みつけながらアーバンに言う。
「これは……犯罪ですよ、マフレイン侯爵令息」
「アーバンと呼んでくれと何度も言っているだろうカメリア」
「私はファーストネーム呼びを許可していませんが」
静かに怒気を含み、拒絶の意思を色濃く出すカメリアにアーバンは鷹揚なもの言いで告げた。
「無理やり連れて来たのは悪かったと思っているさ。だけど最近はルシアン・ワイズやたかが子爵家の子伜がキミの周りに居座って中々二人になれなかったじゃないか」
「ルシアン様とノア様は私の護衛をしてくれていたのです。貴方と決して二人にならないように。そう、こんな最悪な状況にならないように……!」
「最悪とは酷いな。ボクはキミの将来のために正しい選択へと導いてあげようと心を砕いたというのに」
アーバンはそう言ってエレガントに前髪をかき上げた。
カメリアが目を眇めてアーバンに問う。
「正しい選択?」
「ボクの妻になるという選t「お断りします」
カメリアはアーバンが全てを言い切る前に突っぱねた。
「貴方と結婚する事が私の将来のため?こんな学園内で禁じられた方法を用いて誘拐までして、己の意のままに事を進めようとする人間と結婚して幸せになれるものか!ふざけるな!」
「校則違反である事はボクもわかっているさ。だが我がマフレイン家のような名だたる名家の者なら、優遇されて然るべきじゃないか?」
「……高位貴族であれば何をしても許されると?」
「当然だろ?」
「わが祖国ハイラムではそうではありません。アデリオールもまた然りだと思います」
「まぁこれが問題になっても、後の事は父上が何とかしてくれるさ。それよりもカメリア、早くこの婚約誓約書にサインをするんだ。正式に婚約者となって、誰よりもボクの近くに居る権利をキミにあげるから」
「そんな権利要りません。誰が貴方なんかと。第一、どうして私なんです?どうしてそんなに私に拘るんですか?」
「どうして?決まってるさ、キミは容姿も出自も能力も全て私の隣に立つのに相応しい女性だからだよ」
「本当の私のことなんて何も知らないくせに」
「それはこれから知っていけばいいじゃないか。若いボクたちには無限に時間がある。先ずは伴侶とする条件をクリアする人間を見つけた事を互いに喜ぶべきだろう」
「私は家に縛られない縁談をしてもよいと父に言われています。だから私は条件なんかで決して人を選ばない!」
カメリアの強い拒否を示され、ランバートは若干の苛立ちを感じはじめていた。
そしてそっと制服のポケットに忍ばせてある小さなスプレー瓶に思いを巡せる。
魅了魔法と同じ効果を数時間だけもたらす魔法薬。
できれば自分ほどの男がこんなものに頼りたくはない。
しかし、今のカメリアは突然連れて来られた事へ腹を立てて冷静さを欠いているようだ。
せっかくここまでの状況に持ち込んで、このチャンスをふいにするつもりはアーバンにはない。
『とりあえず魅了スプレーで言う事をきかせて、後からゆっくりと懐柔していけばいいか……』
きっとこれがスマートでエレガントな方法だと思い至ったアーバンはポケットからスプレーの小瓶を取り出した。
そしてカメリアの近くへと足を進める。
「まぁとりあえず、サインだけしといて貰おうか」
アーバンが手にしている物を凝視してカメリアは後退った。
「そ、それはなんですっ?私に何をしようというのですっ……?」
「何もしないさ。キミを素直な気持ちにさせてあげたいだけだよ」
「私は今、充分に素直なので結構ですっ」
恐怖に顔を引き攣らせるカメリアにアーバンはじりじりと近づく。
「まぁそう言わないで。この魔法薬はとてもいい香りがするそうだよ」
手を伸ばして噴射すれば届く距離まで近づき、小瓶の蓋をあけようとしたアーバンの耳に幼い少女の声が届いた。
「いいかおりっておいしいもの?」
「は?」
アーバンが目を大きく見開いて声がした方へと視線を向けた。
するとそこにはトリカラの屋台で会った幼女がワクワクとこちらを見あげて立っていた。
「お前っ……!?一体どこから侵入したっ!?」
「ねぇとりからのにおいのおにいさん、どんなおいしいにおいがするの?」
「食べ物の香りじゃない!なんだこのガキはっ!」
アーバンがそう声を荒らげた瞬間、もの凄い音を立てて蔵書室のドアが蹴破られた。
そして、そのドアを蹴破った張本人と思われる人物が眉間に深いシワを刻んで言った。
「ノエル……お前の魔力が優れているのはわかっているが、勝手に一人で転移で入室するなんて危ないだろう……」
どうやら間一髪のところで、フェリックスたちが間に合ったようだ。
父親から借り受けた大賢者印の魔道具を用いていとも簡単にカメリア・ランバートを拉致…コホン連れ去る事ができたのだから。
まずは認識阻害の魔術を発動させる魔道具で存在を隠し、医務室へとエレガントにコソコソと侵入した。
そして下品な下ネタや食べ物トーク、そしてキレのあるツッコミ(を言っているのは先程の美女人妻ではないか)が飛び交う中、それを笑いながら書類仕事をしていたカメリアと転移魔法魔道具にて別室に移動したのだ。
転移にて突然移動させられたカメリアはわけが解らず呆けている。
そしてアーバンはそれらがあまりにもスムーズに、そしてエレガントに行えた事で自画自賛しながら悦に浸っていたのであった。
「ふ、さすがは俺…アーバン・マフレイだ。ルシアン・ワイズや医務室の大魔神の鼻を明かしてやったぞ……」
お前の実力ではなくあくまでも大賢者印の魔道具が凄いのだ、と正論をぶつけられる者はここにはいない。
ここは許可なくして立ち入れない学園内の特別蔵書室。
無論施錠されており、その鍵は学園長室に保管されている。
大賢者印の転移魔道具のおかげでアーバンとカメリアは中に転移できたが、鍵がないと外部からは決して入れない。
貴重な蔵書を守るために湿気を逃れて三階部分にあり、光を遮るために重く分厚いカーテンが掛かっている。
外部から中を窺う事は難しい構造になっているというわけだ。
この部屋に連れ込んで、婚約誓約書にサインさせればいいと隠密の進言に従って正解だった。
ここなら誰にも邪魔されずにカメリアを口説き落とせると、アーバンはほくそ笑んだ。
一瞬の困惑の後、すぐに事態を把握したカメリアが気丈に睨みつけながらアーバンに言う。
「これは……犯罪ですよ、マフレイン侯爵令息」
「アーバンと呼んでくれと何度も言っているだろうカメリア」
「私はファーストネーム呼びを許可していませんが」
静かに怒気を含み、拒絶の意思を色濃く出すカメリアにアーバンは鷹揚なもの言いで告げた。
「無理やり連れて来たのは悪かったと思っているさ。だけど最近はルシアン・ワイズやたかが子爵家の子伜がキミの周りに居座って中々二人になれなかったじゃないか」
「ルシアン様とノア様は私の護衛をしてくれていたのです。貴方と決して二人にならないように。そう、こんな最悪な状況にならないように……!」
「最悪とは酷いな。ボクはキミの将来のために正しい選択へと導いてあげようと心を砕いたというのに」
アーバンはそう言ってエレガントに前髪をかき上げた。
カメリアが目を眇めてアーバンに問う。
「正しい選択?」
「ボクの妻になるという選t「お断りします」
カメリアはアーバンが全てを言い切る前に突っぱねた。
「貴方と結婚する事が私の将来のため?こんな学園内で禁じられた方法を用いて誘拐までして、己の意のままに事を進めようとする人間と結婚して幸せになれるものか!ふざけるな!」
「校則違反である事はボクもわかっているさ。だが我がマフレイン家のような名だたる名家の者なら、優遇されて然るべきじゃないか?」
「……高位貴族であれば何をしても許されると?」
「当然だろ?」
「わが祖国ハイラムではそうではありません。アデリオールもまた然りだと思います」
「まぁこれが問題になっても、後の事は父上が何とかしてくれるさ。それよりもカメリア、早くこの婚約誓約書にサインをするんだ。正式に婚約者となって、誰よりもボクの近くに居る権利をキミにあげるから」
「そんな権利要りません。誰が貴方なんかと。第一、どうして私なんです?どうしてそんなに私に拘るんですか?」
「どうして?決まってるさ、キミは容姿も出自も能力も全て私の隣に立つのに相応しい女性だからだよ」
「本当の私のことなんて何も知らないくせに」
「それはこれから知っていけばいいじゃないか。若いボクたちには無限に時間がある。先ずは伴侶とする条件をクリアする人間を見つけた事を互いに喜ぶべきだろう」
「私は家に縛られない縁談をしてもよいと父に言われています。だから私は条件なんかで決して人を選ばない!」
カメリアの強い拒否を示され、ランバートは若干の苛立ちを感じはじめていた。
そしてそっと制服のポケットに忍ばせてある小さなスプレー瓶に思いを巡せる。
魅了魔法と同じ効果を数時間だけもたらす魔法薬。
できれば自分ほどの男がこんなものに頼りたくはない。
しかし、今のカメリアは突然連れて来られた事へ腹を立てて冷静さを欠いているようだ。
せっかくここまでの状況に持ち込んで、このチャンスをふいにするつもりはアーバンにはない。
『とりあえず魅了スプレーで言う事をきかせて、後からゆっくりと懐柔していけばいいか……』
きっとこれがスマートでエレガントな方法だと思い至ったアーバンはポケットからスプレーの小瓶を取り出した。
そしてカメリアの近くへと足を進める。
「まぁとりあえず、サインだけしといて貰おうか」
アーバンが手にしている物を凝視してカメリアは後退った。
「そ、それはなんですっ?私に何をしようというのですっ……?」
「何もしないさ。キミを素直な気持ちにさせてあげたいだけだよ」
「私は今、充分に素直なので結構ですっ」
恐怖に顔を引き攣らせるカメリアにアーバンはじりじりと近づく。
「まぁそう言わないで。この魔法薬はとてもいい香りがするそうだよ」
手を伸ばして噴射すれば届く距離まで近づき、小瓶の蓋をあけようとしたアーバンの耳に幼い少女の声が届いた。
「いいかおりっておいしいもの?」
「は?」
アーバンが目を大きく見開いて声がした方へと視線を向けた。
するとそこにはトリカラの屋台で会った幼女がワクワクとこちらを見あげて立っていた。
「お前っ……!?一体どこから侵入したっ!?」
「ねぇとりからのにおいのおにいさん、どんなおいしいにおいがするの?」
「食べ物の香りじゃない!なんだこのガキはっ!」
アーバンがそう声を荒らげた瞬間、もの凄い音を立てて蔵書室のドアが蹴破られた。
そして、そのドアを蹴破った張本人と思われる人物が眉間に深いシワを刻んで言った。
「ノエル……お前の魔力が優れているのはわかっているが、勝手に一人で転移で入室するなんて危ないだろう……」
どうやら間一髪のところで、フェリックスたちが間に合ったようだ。
343
お気に入りに追加
9,685
あなたにおすすめの小説
私を侮辱する婚約者は早急に婚約破棄をしましょう。
しげむろ ゆうき
恋愛
私の婚約者は編入してきた男爵令嬢とあっという間に仲良くなり、私を侮辱しはじめたのだ。
だから、私は両親に相談して婚約を解消しようとしたのだが……。
嘘つきな婚約者を愛する方法
キムラましゅろう
恋愛
わたしの婚約者は嘘つきです。
本当はわたしの事を愛していないのに愛していると囁きます。
でもわたしは平気。だってそんな彼を愛する方法を知っているから。
それはね、わたしが彼の分まで愛して愛して愛しまくる事!!
だって昔から大好きなんだもん!
諦めていた初恋をなんとか叶えようとするヒロインが奮闘する物語です。
いつもながらの完全ご都合主義。
ノーリアリティノークオリティなお話です。
誤字脱字も大変多く、ご自身の脳内で「多分こうだろう」と変換して頂きながら読む事になると神のお告げが出ている作品です。
菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。
作者はモトサヤハピエン至上主義者です。
何がなんでもモトサヤハピエンに持って行く作風となります。
あ、合わないなと思われた方は回れ右をお勧めいたします。
※性別に関わるセンシティブな内容があります。地雷の方は全力で回れ右をお願い申し上げます。
小説家になろうさんでも投稿します。
そう言うと思ってた
mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。
※いつものように視点がバラバラします。
やり直し令嬢は本当にやり直す
お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。
あなたのことなんて、もうどうでもいいです
もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。
元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。
旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。