98 / 144
ミニ番外編
カメリアとルシアン
しおりを挟む
「会長、学園長の承認を受ける書類はこのまま提出していいですか?」
本日の活動を終えた生徒会室でルシアンが生徒会長であるカメリア・ランバートにそう訊ねた。
カメリアは筆記用具などの私物を鞄に詰めながら答える。
「うんそう。もう執行部の判は押してあるから」
ルシアンは書類をまとめながら室内から他の執行部メンバーが出て行ったのを確認してカメリアにもう一つ訊ねる。
「……その後、付きまといはどうですか?」
カメリアはたいそう良い笑顔を浮かべてルシアンを見た。
「それはもうぴたりと止んだよ。アデリオールのワイズ侯爵家ブランドは西方大陸のどの国でも有効だね。おかげさまでキミが執行部入りをして何かと近くに居てくれるようになってからはなりを潜めている」
「だけど向こうも同格の侯爵家です。それに僕はワイズ侯爵家門の者とはいえ生家は伯爵位、このまま引き下がってくれるとは思えません」
カメリアの言葉を受けたルシアンがそう告げるとカメリアは頷き、辟易とした表情で言う。
「そうだね。向こうからの婚約の打診を何度も断っているにも関わらず一向に諦めてくれないだもんな。相当なしつこさだよ」
カメリアは自分の容姿や出自が貴族の令息たちにとって理想的であることを幼い頃から充分に理解していた。
だから自らの“素”を隠さず、令嬢らしからぬ振る舞いをし続けてきたというのにそれでも令息たちからのアプローチや婚約の打診はひっきりなしであった。
そしてそうやってカメリアを将来の妻にと望む令息たちの中で一人、突出してカメリアに執着する者が現れたのであった。
同じ魔術学園の六年生、モントダーン王国筆頭侯爵家の嫡男であるアーバン・マフレイン。
彼は昨年度から留学生としてこの魔術学園に通っているが、その昨年の学園祭でカメリアを見初めて以来、家を通しては婚約の打診やお茶会や夜会など学園外での交流の誘いを執拗に行い、アーバン個人としては「カメリア嬢、キミ以外に僕の妻になるに相応しい女性はいない」と猛アプローチをしかけてくるのだ。
今の言葉だけで鑑みると、ちょっと押しは強いが一心にカメリアを求める良い縁談のように感じるが、カメリアが彼とは有り得ないと思う理由があるのだ。
それはアーバン自身の為人を示す人との接し方。
自分より家格が下のものは塵芥と同等、どう扱おうと構わないというものだ。
現に学園では身分が下位貴族や平民の生徒とは一切口を利こうとはしないのだ。
それどころか俺様に近寄るなオーラを滲ませ、虫ケラでも見るような視線をその生徒たちに向ける。
しかしさすがにそれでは誰とも話せなくなってしまうので一部伯爵位の人間までならと妥協しているらしい。
そう、アーバン・マフレインとはとにかくいけ好かない奴なのだ。
そんな自意識過剰、自己肯定感天井知らずの人間だからして、
繰り返される婚約の打診や交際の申し込みをハッキリすっぱりきっぱり断っても一向に聞き入れてくれない。
それどころか「恥ずかしがらなくていい」だとか
「僕の側に居ることに気後れする必要はないんだよ」
だとか言って無遠慮に距離を縮めようとする。
そしてカメリアの毎日の予定を事前に調べさせ、自分もそれに合わせて行動するようになったのだ。
登下校はもちろん、休憩時間や自習時間など近付いて来ては無理やり一緒にいようとした。
所謂付きまといである。
もう何を言ってもこちらの聞く耳を持とうとしないアーバンに心底嫌気が差していたカメリアが学園を辞めて自国に戻ろうかと思い悩んでいた時に、ルシアン・ワイズ伯爵令息が生徒会執行部入りしてきたのだ。
カメリアはこれまた悩みに悩み抜いて、
ルシアンにアーバンの付きまといに困っていること、そして助力を願いたいことを打ち明けた。
カメリアから話を聞かされたルシアンがこう質問した。
「お話はわかりました。誰か協力者が必要なのもわかります。だけどなぜ僕に?有力諸侯の令息は学園には他にもいるでしょう?」
「あの自意識過剰オバケを怯ませるには出自だけではダメだから。将来性、そして容姿や能力もハイスペックな人間でないとマフレインは止められなと思ったんだ。それに、キミはあの人と古くからの知り合いだそうじゃないか……その人を秘密裏に紹介して欲しくて……」
「その人……?秘密裏に、紹介……?」
カメリアの言葉に要領を得ないルシアンがオウム返しのように訊ねると、カメリアは頬を染めてその人物の名を口にした。
───────────────────────
年末年始、ドタバタと忙しく更新は短めになりそうです。
ごめんなさい。 °(°´ᯅ`°)° 。
読者様皆さま、今年もこの物語にお付き合いいただき本当にありがとうございました!
書籍発売となりましたのも、皆さまが読んで下さり、応援して下さったからでございます。
本当に感謝してもしきれません。
ありがとうございます!
来年も引き続きお付き合いいただけましたら幸いです。
どうぞ皆さま、良いお年をお迎えください。
(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)ペコリ♡...*゜
キムラましゅろう
本日の活動を終えた生徒会室でルシアンが生徒会長であるカメリア・ランバートにそう訊ねた。
カメリアは筆記用具などの私物を鞄に詰めながら答える。
「うんそう。もう執行部の判は押してあるから」
ルシアンは書類をまとめながら室内から他の執行部メンバーが出て行ったのを確認してカメリアにもう一つ訊ねる。
「……その後、付きまといはどうですか?」
カメリアはたいそう良い笑顔を浮かべてルシアンを見た。
「それはもうぴたりと止んだよ。アデリオールのワイズ侯爵家ブランドは西方大陸のどの国でも有効だね。おかげさまでキミが執行部入りをして何かと近くに居てくれるようになってからはなりを潜めている」
「だけど向こうも同格の侯爵家です。それに僕はワイズ侯爵家門の者とはいえ生家は伯爵位、このまま引き下がってくれるとは思えません」
カメリアの言葉を受けたルシアンがそう告げるとカメリアは頷き、辟易とした表情で言う。
「そうだね。向こうからの婚約の打診を何度も断っているにも関わらず一向に諦めてくれないだもんな。相当なしつこさだよ」
カメリアは自分の容姿や出自が貴族の令息たちにとって理想的であることを幼い頃から充分に理解していた。
だから自らの“素”を隠さず、令嬢らしからぬ振る舞いをし続けてきたというのにそれでも令息たちからのアプローチや婚約の打診はひっきりなしであった。
そしてそうやってカメリアを将来の妻にと望む令息たちの中で一人、突出してカメリアに執着する者が現れたのであった。
同じ魔術学園の六年生、モントダーン王国筆頭侯爵家の嫡男であるアーバン・マフレイン。
彼は昨年度から留学生としてこの魔術学園に通っているが、その昨年の学園祭でカメリアを見初めて以来、家を通しては婚約の打診やお茶会や夜会など学園外での交流の誘いを執拗に行い、アーバン個人としては「カメリア嬢、キミ以外に僕の妻になるに相応しい女性はいない」と猛アプローチをしかけてくるのだ。
今の言葉だけで鑑みると、ちょっと押しは強いが一心にカメリアを求める良い縁談のように感じるが、カメリアが彼とは有り得ないと思う理由があるのだ。
それはアーバン自身の為人を示す人との接し方。
自分より家格が下のものは塵芥と同等、どう扱おうと構わないというものだ。
現に学園では身分が下位貴族や平民の生徒とは一切口を利こうとはしないのだ。
それどころか俺様に近寄るなオーラを滲ませ、虫ケラでも見るような視線をその生徒たちに向ける。
しかしさすがにそれでは誰とも話せなくなってしまうので一部伯爵位の人間までならと妥協しているらしい。
そう、アーバン・マフレインとはとにかくいけ好かない奴なのだ。
そんな自意識過剰、自己肯定感天井知らずの人間だからして、
繰り返される婚約の打診や交際の申し込みをハッキリすっぱりきっぱり断っても一向に聞き入れてくれない。
それどころか「恥ずかしがらなくていい」だとか
「僕の側に居ることに気後れする必要はないんだよ」
だとか言って無遠慮に距離を縮めようとする。
そしてカメリアの毎日の予定を事前に調べさせ、自分もそれに合わせて行動するようになったのだ。
登下校はもちろん、休憩時間や自習時間など近付いて来ては無理やり一緒にいようとした。
所謂付きまといである。
もう何を言ってもこちらの聞く耳を持とうとしないアーバンに心底嫌気が差していたカメリアが学園を辞めて自国に戻ろうかと思い悩んでいた時に、ルシアン・ワイズ伯爵令息が生徒会執行部入りしてきたのだ。
カメリアはこれまた悩みに悩み抜いて、
ルシアンにアーバンの付きまといに困っていること、そして助力を願いたいことを打ち明けた。
カメリアから話を聞かされたルシアンがこう質問した。
「お話はわかりました。誰か協力者が必要なのもわかります。だけどなぜ僕に?有力諸侯の令息は学園には他にもいるでしょう?」
「あの自意識過剰オバケを怯ませるには出自だけではダメだから。将来性、そして容姿や能力もハイスペックな人間でないとマフレインは止められなと思ったんだ。それに、キミはあの人と古くからの知り合いだそうじゃないか……その人を秘密裏に紹介して欲しくて……」
「その人……?秘密裏に、紹介……?」
カメリアの言葉に要領を得ないルシアンがオウム返しのように訊ねると、カメリアは頬を染めてその人物の名を口にした。
───────────────────────
年末年始、ドタバタと忙しく更新は短めになりそうです。
ごめんなさい。 °(°´ᯅ`°)° 。
読者様皆さま、今年もこの物語にお付き合いいただき本当にありがとうございました!
書籍発売となりましたのも、皆さまが読んで下さり、応援して下さったからでございます。
本当に感謝してもしきれません。
ありがとうございます!
来年も引き続きお付き合いいただけましたら幸いです。
どうぞ皆さま、良いお年をお迎えください。
(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)ペコリ♡...*゜
キムラましゅろう
242
お気に入りに追加
9,685
あなたにおすすめの小説
私を侮辱する婚約者は早急に婚約破棄をしましょう。
しげむろ ゆうき
恋愛
私の婚約者は編入してきた男爵令嬢とあっという間に仲良くなり、私を侮辱しはじめたのだ。
だから、私は両親に相談して婚約を解消しようとしたのだが……。
嘘つきな婚約者を愛する方法
キムラましゅろう
恋愛
わたしの婚約者は嘘つきです。
本当はわたしの事を愛していないのに愛していると囁きます。
でもわたしは平気。だってそんな彼を愛する方法を知っているから。
それはね、わたしが彼の分まで愛して愛して愛しまくる事!!
だって昔から大好きなんだもん!
諦めていた初恋をなんとか叶えようとするヒロインが奮闘する物語です。
いつもながらの完全ご都合主義。
ノーリアリティノークオリティなお話です。
誤字脱字も大変多く、ご自身の脳内で「多分こうだろう」と変換して頂きながら読む事になると神のお告げが出ている作品です。
菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。
作者はモトサヤハピエン至上主義者です。
何がなんでもモトサヤハピエンに持って行く作風となります。
あ、合わないなと思われた方は回れ右をお勧めいたします。
※性別に関わるセンシティブな内容があります。地雷の方は全力で回れ右をお願い申し上げます。
小説家になろうさんでも投稿します。
そう言うと思ってた
mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。
※いつものように視点がバラバラします。
やり直し令嬢は本当にやり直す
お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。
旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。
元婚約者は戻らない
基本二度寝
恋愛
侯爵家の子息カルバンは実行した。
人前で伯爵令嬢ナユリーナに、婚約破棄を告げてやった。
カルバンから破棄した婚約は、ナユリーナに瑕疵がつく。
そうなれば、彼女はもうまともな縁談は望めない。
見目は良いが気の強いナユリーナ。
彼女を愛人として拾ってやれば、カルバンに感謝して大人しい女になるはずだと考えた。
二話完結+余談
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。