96 / 144
ミニ番外編
閑話 ノエルたんの唯一
しおりを挟む
“ワイズの唯一”についてルシアンが人生の先輩である父親のフェリックスに話を聞いた後。
居間に戻ってきたハノンとフェリックスが話の流れで二人で昔の話などをしていたその時だった。
「……ノエルの魔力の波動を感じる……」
とフェリックスがつぶやいた。
「またもうあの子は!」
それを聞いたハノンが勢いよくソファーから立ち上がりキッチンへと向かう。
するとまさに末っ子のノエルが子ども部屋からキッチンへ転移魔法で来て、こっそりケーキクーラーの上で冷まし中のマドレーヌに手を伸ばそうとしていたのだ。
「コラッ!ノエル!!」
「きゃっ」
いきなり現れた母にマドレーヌを盗み食いしようとしていた決定的瞬間を見られ、四歳になったノエルは驚いて小さく飛び上がった。
「また盗み食いをして!」
ハノンが娘を叱るとノエルは首をぷるぷると振って言う。
「まだたべてないから“ぬすみぐい”じゃないもん」
「屁理屈を言わないの。今日はおやつにメロディが焼いた顔の大きさほどもある巨大クッキーを食べたでしょう?そのマドレーヌは明日にしなさい」
「だって、やきたてのままのまどれーぬはいましかたべられないのよ?さめたらしっとりで、やきたてはふわふわなのよ?」
「……ホントに口は達者なんだから……。お夕食のサーモンソテーもサーモンまるまる一匹分は食べていたのだからもうダメよ」
「そんなぁ……」
母であるハノンにこれ以上は食べるなと言われてしょげかえる娘にフェリックスは言った。
「相変わらずノエルたんは食べることが大好きだなぁ」
「ぱぱ……」
ノエルは涙を浮かべてフェリックスを見上げる。
目を潤ませて救いを求める娘を、フェリックスはキュンとして堪らず抱き上げた。
「ノエルたん……!」
「ぱぱ!」
抱き上げられたノエルがヒシと父親の首に抱きつく。
それを側で見ていたハノンがジト目で見ながらフェリックスに言った。
「フェリックス、絆されちゃダメよ。あなたが自分に甘い事をノエルはちゃんとわかっているのだから」
「しかしだなハノン、こんなに悲しそうに目を潤ませて……」
「ぱぱ……のえる、まどれーぬたべたい……」
「くぅっ……!」
きゅるきゅるうるん、な瞳でおねだりされてフェリックスはたじろぐ。
「ノエル!パパを籠絡しないの!」
「やだ!のえるはまどれーぬたべるんだもん!」
「食べ過ぎなの!おデブちゃんになっちゃうわよ」
「のえる、ぶたさんもすきだもん!」
「主に食べるのが、でしょ!」
「ノエルたんが豚さんになって食べられちゃうのはパパは嫌だなぁ」
「ぱぱ、あんしんしてね?のえるはぶたさんにはならないから」
「食べ過ぎていたらなるのよ!」
そんな賑やかな声がワイズ伯爵家のキッチンに響く。
食べる、食べてはダメ、豚さんノエルも絶対に可愛い、と言い合う親子を尻目にワイズ伯爵家のメイドが粗熱が取れたマドレーヌを保存容器に入れて片付けた。
それを見たノエルが悲壮感溢れる声で言う。
「あぁ…のえるのまどれーぬがぁ……」
「この子は本当に、まったく……」
半ば呆れるハノンにフェリックスがつぶやいた。
「ノエルたんの“唯一”は食べ物だな」
「えぇ?人以外にもアリなの?」
「愛してやまず、それに執着するなら“唯一”と言えると思う」
「年頃になったら変わるわよ、と言いたいところだけれど……この子の場合はそう言いきれないのが心配なところだわ……」
「いいじゃないか“唯一”が食べもので。どこぞの馬の骨に奪われなくて済む。ノエルたんはずっとパパと一緒に美味しいものを食べて暮らそうな」
「うん!パパだいすき!」
「ノエルたんっ……!」
フェリックスは感極まって娘のすべすべで柔らかな頬に頬ずりをした。
それを見ながらハノンはつぶやく。
「食べ物の次に大好きなんでしょ……」
娘の行く末に少しだけ不安を感じるハノンであった。
───────────────────────
そんなノエルたんにも、いずれ本当の“唯一”が現れるのかしら……?( ˘͈ ᵕ ˘͈♡)
居間に戻ってきたハノンとフェリックスが話の流れで二人で昔の話などをしていたその時だった。
「……ノエルの魔力の波動を感じる……」
とフェリックスがつぶやいた。
「またもうあの子は!」
それを聞いたハノンが勢いよくソファーから立ち上がりキッチンへと向かう。
するとまさに末っ子のノエルが子ども部屋からキッチンへ転移魔法で来て、こっそりケーキクーラーの上で冷まし中のマドレーヌに手を伸ばそうとしていたのだ。
「コラッ!ノエル!!」
「きゃっ」
いきなり現れた母にマドレーヌを盗み食いしようとしていた決定的瞬間を見られ、四歳になったノエルは驚いて小さく飛び上がった。
「また盗み食いをして!」
ハノンが娘を叱るとノエルは首をぷるぷると振って言う。
「まだたべてないから“ぬすみぐい”じゃないもん」
「屁理屈を言わないの。今日はおやつにメロディが焼いた顔の大きさほどもある巨大クッキーを食べたでしょう?そのマドレーヌは明日にしなさい」
「だって、やきたてのままのまどれーぬはいましかたべられないのよ?さめたらしっとりで、やきたてはふわふわなのよ?」
「……ホントに口は達者なんだから……。お夕食のサーモンソテーもサーモンまるまる一匹分は食べていたのだからもうダメよ」
「そんなぁ……」
母であるハノンにこれ以上は食べるなと言われてしょげかえる娘にフェリックスは言った。
「相変わらずノエルたんは食べることが大好きだなぁ」
「ぱぱ……」
ノエルは涙を浮かべてフェリックスを見上げる。
目を潤ませて救いを求める娘を、フェリックスはキュンとして堪らず抱き上げた。
「ノエルたん……!」
「ぱぱ!」
抱き上げられたノエルがヒシと父親の首に抱きつく。
それを側で見ていたハノンがジト目で見ながらフェリックスに言った。
「フェリックス、絆されちゃダメよ。あなたが自分に甘い事をノエルはちゃんとわかっているのだから」
「しかしだなハノン、こんなに悲しそうに目を潤ませて……」
「ぱぱ……のえる、まどれーぬたべたい……」
「くぅっ……!」
きゅるきゅるうるん、な瞳でおねだりされてフェリックスはたじろぐ。
「ノエル!パパを籠絡しないの!」
「やだ!のえるはまどれーぬたべるんだもん!」
「食べ過ぎなの!おデブちゃんになっちゃうわよ」
「のえる、ぶたさんもすきだもん!」
「主に食べるのが、でしょ!」
「ノエルたんが豚さんになって食べられちゃうのはパパは嫌だなぁ」
「ぱぱ、あんしんしてね?のえるはぶたさんにはならないから」
「食べ過ぎていたらなるのよ!」
そんな賑やかな声がワイズ伯爵家のキッチンに響く。
食べる、食べてはダメ、豚さんノエルも絶対に可愛い、と言い合う親子を尻目にワイズ伯爵家のメイドが粗熱が取れたマドレーヌを保存容器に入れて片付けた。
それを見たノエルが悲壮感溢れる声で言う。
「あぁ…のえるのまどれーぬがぁ……」
「この子は本当に、まったく……」
半ば呆れるハノンにフェリックスがつぶやいた。
「ノエルたんの“唯一”は食べ物だな」
「えぇ?人以外にもアリなの?」
「愛してやまず、それに執着するなら“唯一”と言えると思う」
「年頃になったら変わるわよ、と言いたいところだけれど……この子の場合はそう言いきれないのが心配なところだわ……」
「いいじゃないか“唯一”が食べもので。どこぞの馬の骨に奪われなくて済む。ノエルたんはずっとパパと一緒に美味しいものを食べて暮らそうな」
「うん!パパだいすき!」
「ノエルたんっ……!」
フェリックスは感極まって娘のすべすべで柔らかな頬に頬ずりをした。
それを見ながらハノンはつぶやく。
「食べ物の次に大好きなんでしょ……」
娘の行く末に少しだけ不安を感じるハノンであった。
───────────────────────
そんなノエルたんにも、いずれ本当の“唯一”が現れるのかしら……?( ˘͈ ᵕ ˘͈♡)
249
お気に入りに追加
9,685
あなたにおすすめの小説
私を侮辱する婚約者は早急に婚約破棄をしましょう。
しげむろ ゆうき
恋愛
私の婚約者は編入してきた男爵令嬢とあっという間に仲良くなり、私を侮辱しはじめたのだ。
だから、私は両親に相談して婚約を解消しようとしたのだが……。
嘘つきな婚約者を愛する方法
キムラましゅろう
恋愛
わたしの婚約者は嘘つきです。
本当はわたしの事を愛していないのに愛していると囁きます。
でもわたしは平気。だってそんな彼を愛する方法を知っているから。
それはね、わたしが彼の分まで愛して愛して愛しまくる事!!
だって昔から大好きなんだもん!
諦めていた初恋をなんとか叶えようとするヒロインが奮闘する物語です。
いつもながらの完全ご都合主義。
ノーリアリティノークオリティなお話です。
誤字脱字も大変多く、ご自身の脳内で「多分こうだろう」と変換して頂きながら読む事になると神のお告げが出ている作品です。
菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。
作者はモトサヤハピエン至上主義者です。
何がなんでもモトサヤハピエンに持って行く作風となります。
あ、合わないなと思われた方は回れ右をお勧めいたします。
※性別に関わるセンシティブな内容があります。地雷の方は全力で回れ右をお願い申し上げます。
小説家になろうさんでも投稿します。
そう言うと思ってた
mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。
※いつものように視点がバラバラします。
奪い取るより奪った後のほうが大変だけど、大丈夫なのかしら
キョウキョウ
恋愛
公爵子息のアルフレッドは、侯爵令嬢である私(エヴリーヌ)を呼び出して婚約破棄を言い渡した。
しかも、すぐに私の妹であるドゥニーズを新たな婚約者として迎え入れる。
妹は、私から婚約相手を奪い取った。
いつものように、妹のドゥニーズは姉である私の持っているものを欲しがってのことだろう。
流石に、婚約者まで奪い取ってくるとは予想外たったけれど。
そういう事情があることを、アルフレッドにちゃんと説明したい。
それなのに私の忠告を疑って、聞き流した。
彼は、後悔することになるだろう。
そして妹も、私から婚約者を奪い取った後始末に追われることになる。
2人は、大丈夫なのかしら。
貴妃エレーナ
無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」
後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。
「急に、どうされたのですか?」
「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」
「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」
そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。
どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。
けれど、もう安心してほしい。
私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。
だから…
「陛下…!大変です、内乱が…」
え…?
ーーーーーーーーーーーーー
ここは、どこ?
さっきまで内乱が…
「エレーナ?」
陛下…?
でも若いわ。
バッと自分の顔を触る。
するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。
懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!
やり直し令嬢は本当にやり直す
お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。
旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。