上 下
92 / 144
ミニ番外編

ルシアン先輩

しおりを挟む
今回から現在の時間軸にタダイマです。
ルシアンとミシェル編、スタート。


───────────────────────






オルブレイ辺境伯令嬢ミシェルは放課後の部活動として和刀剣術部に入部した。

和刀剣術部とはその名の通り東方の国と呼ばれる※東和州で使われている刀を用いた東和の剣術を稽古する部活動である。
(※詳しくは作者の他作品『さよならをあなたに』を参照)

黒髪のミシェルに東和の剣術道着はよく映え、同性である女子生徒もうっとりするほどの凛々しさであった。

幼い頃から父親であるファビアンに西方剣術の指導を受けて育ったミシェルにとって東方剣術は新鮮で興味深く、彼女はあっという間に部活動に夢中になった。

和刀を鞘からスラっと抜く時の緊張感が堪らない。
西方剣術は斬る、突く、薙ぎ倒す、叩く、と攻撃の幅が多様だが、和刀の“斬る”事のみに重きを置いた性質を巧く引きだす東方剣術はとても興味深く面白い。

普段の稽古は東和から取り寄せた木刀なる物を用いるが、顧問の指導の下で和刀を手にした時の身の引き締まる感覚がミシェルは堪らなく好きだった。

ミシェルが今日も放課後に木刀の素振りで自主稽古をしていると、西方騎士団が本拠地を構える地方都市ハイレン出身の部活動仲間が話かけてきた。

「ミシェル様ぁ~……もうホント毎回尊すぎて無理なんですけどぉ~」

「尊いって?」

その女子生徒が見る方向へと視線を辿ると、そこにはミシェルの従兄であり魔術学園の先輩でもあるルシアン・ワイズの姿があった。
ルシアンもこの東和剣術部の部員だ。
元々はルシアンに勧められて部活の見学に来たのが東方剣術との出会いであった。

女子生徒がうっとりとため息を吐きながら言う。

「素敵よねぇワイズ先輩……エキゾチックな黒髪のミシェル様が東和の道着が似合うのはわかるけど、銀髪のワイズ先輩が違和感なく着こなすってどうなのよぉ~……もう尊すぎて倒れちゃいそう」

「ふふ、本当ね」

ミシェルは女子生徒のそのもの言いが可笑しくてくすりと笑う。

「ミシェル様はワイズ先輩とは従兄妹同士なのよね?いいなぁあんなに素敵な人が親戚なんてぇ~!ね、実はワイズ先輩が初恋の人だったりするんでしょ?」

「え?いいえ?」

「ウソっ!?あんなにカッコイイ人が側にいて!?」

「そういえば私……初恋ってまだなのかも……」

「それまたウソでしょ!?あなたもそんな見目麗しいのに!?」

連続で驚き続ける女子生徒に、ミシェルは言った。

「自分の見目がどうとか私は本当に疎くて……幼い頃はお父さまにそっくりで“チビゴリラちゃん”なんて呼ばれていたから……同年代の男の子からはよく揶揄われたの」

「……周りが喧しい失礼なガキばかりだったなら、そりゃ初恋に落ちるきっかけなんてないわよね……でもきっと、ミシェル様を揶揄った連中は今頃焦っているでしょうね。こんなに綺麗になったミシェル様を見て、昔の事を後悔していると思うわ」

「そうかしら?」

「そうよ。感慨深いわよね~」

だとしてもやはりミシェルには何の感慨も湧かない。
だって幼い頃からいくら“チビゴリラ”とか“ゴリラミニ無双”とか言われても何とも思わなかったから。

───ああでも………

それは従兄のルシアンのおかげなのかもしれない。

昔からルシアンはミシェルに魔法の言葉をくれていたから。

「ミシェルは可愛いね」

「ミシェルはいい子だ」

「すごいなミシェルは。頑張り屋さんだ」

その言葉はいつもミシェルの心をくすぐってポカポカな気持ちにしてくれた。

だから主に王都でだが、面白可笑しく自分の見目を揶揄う人間と接しても平気だったのだ。

あまりに度を越すと普段は温厚な父親からどす黒いオーラが出て、他者を圧倒していたのもあるが。

そんな事を考えながらミシェルがぼんやりとルシアンを見つめていると、その視線に彼が気付いた。
そしてミシェルの姿を認め、柔らかな笑みを浮かべる。

「きゃっ!ワイズ先輩がこっちに来るわ!」

女子生徒が興奮してミシェルの隣で言った。

ルシアンはゆったりとした歩調で道場内を歩き、ミシェルの元へとやってくる。

ミシェルはそれを見ながら笑みを返し、先輩でもあるルシアンにこう告げた。


「今日もよろしくお願いします。ルシアン先輩」





───────────────────────


今日はちと短めでごめんなさい。
( ᵒ̴̶̷᷄꒳ᵒ̴̶̷᷅ )ピエン

しおりを挟む
感想 3,302

あなたにおすすめの小説

私を侮辱する婚約者は早急に婚約破棄をしましょう。

しげむろ ゆうき
恋愛
私の婚約者は編入してきた男爵令嬢とあっという間に仲良くなり、私を侮辱しはじめたのだ。 だから、私は両親に相談して婚約を解消しようとしたのだが……。

嘘つきな婚約者を愛する方法

キムラましゅろう
恋愛
わたしの婚約者は嘘つきです。 本当はわたしの事を愛していないのに愛していると囁きます。 でもわたしは平気。だってそんな彼を愛する方法を知っているから。 それはね、わたしが彼の分まで愛して愛して愛しまくる事!! だって昔から大好きなんだもん! 諦めていた初恋をなんとか叶えようとするヒロインが奮闘する物語です。 いつもながらの完全ご都合主義。 ノーリアリティノークオリティなお話です。 誤字脱字も大変多く、ご自身の脳内で「多分こうだろう」と変換して頂きながら読む事になると神のお告げが出ている作品です。 菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。 作者はモトサヤハピエン至上主義者です。 何がなんでもモトサヤハピエンに持って行く作風となります。 あ、合わないなと思われた方は回れ右をお勧めいたします。 ※性別に関わるセンシティブな内容があります。地雷の方は全力で回れ右をお願い申し上げます。 小説家になろうさんでも投稿します。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで

雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。  ※王国は滅びます。

そう言うと思ってた

mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。 ※いつものように視点がバラバラします。

やり直し令嬢は本当にやり直す

お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。

いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた

奏千歌
恋愛
 [ディエム家の双子姉妹]  どうして、こんな事になってしまったのか。  妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。