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ミニ番外編
聖女リリス
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「王子殿下ぁ~♡デイビッド様とお呼びしてもいいですか~♡」
「ははは、ダメに決まってるだろう。何度言ったらわかるんだ?キミの頭の中はどうなっているんだ」
「いやん殿下ってば照れちゃってぇ~♡でもそんなツンデレなところも好きですぅ~♡」
「ははは、聖女は身も心も清らかでないと神聖力を保てないと聞くぞ。キミは明日にでも神聖力が枯渇するんじゃないか?」
「それは心配いりませんよ~♡恋する心は神聖なものなんですよぉ、逆にパワーアップですぅ。殿下にそんなに心配して貰えるなんて、ワタシってば愛されてるぅ♡」
「ははは、誰かこいつをなんとかしてくれ」
他国の教会にて偶然にも(らしい)聖女に認定されてしまったリリス=ジェンソンの学園での目付け役を大陸教会に押し付けられたデイビッド王子。
学園にいる間は側にいる事を強要されている聖女と、こんな会話が毎日繰り広げられていた。
聖女リリスは良く言えば天真爛漫、悪く言えばマナー知らずで怖いもの知らずの娘であった。
ひと目もはばからず身分差も考えず(まぁ聖女に身分は当てはまらないが)リリスはデイビッドに好意をぶつけまくっていた。
たとえデイビッドがまったく相手にしなくても、ポレットという婚約者がいたとしても彼女はお構いなしだ。
そして学園内の一部の大陸聖教信徒の生徒たちは「聖女様と王子の道ならぬ清らかな恋」などとありもしないラブロマンスを真しやかに囁いている始末だ。
それこそ、ポレットの耳に入るくらいに。
「殿下ぁ~♡カフェテリアで一緒にお茶しましょ~」
「ははは、私は忙しい。側近の一人を貸してやろう」
「え~!ワタシは殿下と一緒がいいんですぅ~殿下もホントはそう思っているんでしょ?」
「ははは、寝言は寝てから言え」
「あぁんもう!待ってくださいよぅ殿下~♡」
移動教室の為に護衛と側近一名ずつを連れたデイビッドと聖女リリスのそんなやり取りを校舎の窓から眺めていたポレットを気遣うようにミシェルが言った。
「……ポレット、大丈夫?」
「?なにが?」
心配そうに表情を曇らせるミシェルにポレットはきょとんとして返した。
「だって……ずっと聖女様が王子殿下の側にいるから……」
「仕方ないわ。自国から聖女が出た場合は王家の者が聖女の後見人または目付け役となるのがしきたりだもの。妃教育で学んでいる王家の規範にもそう記されているわ」
「そう……なのね……」
それでもミシェルは不安に感じていた。
聖女リリスが現れてからというもの、明らかにデイビッド王子と会える回数も時間も減っている。
加えて聖女の隠しもしない王子ラブアピールにそれを後押しするかのような一部生徒の聖女信仰。
いくらポレットとデイビッドが相思相愛で互いに強い絆で結ばれているとしても、やはり内心穏やかでいられないのではと心配で堪らないのだ。
まぁ今のところポレットがダメージを受けている感じはしないのが救いだが。
ミシェルもポレットと同じように窓の外に視線を向け、中庭を歩くデイビッドとリリスを見る。
デイビッドの腕に絡まろうとするリリスを、デイビッドはするりと躱していた。
その時、ふいにデイビッドが校舎の方を見た。
ポレットがいる校舎を。
そして彼はすぐに窓辺にいるポレットを見つける。
「あ……」
ミシェルは思わず小さな声をあげた。
デイビッドがポレットへ向け愛しげに微笑んだのを目の当たりにしたからだ。
王子としての作られた表情を見る事が多いが、初めて見るその柔らかな表情にミシェルは驚いた。
「ふふ。デイ様ったら」
中庭からポレットを見上げて嬉しそうにデイビッドが小さく手を振る様を見て、ポレットも柔らかな笑みを浮かべながら手を振り返した。
ミシェルは二人を見て思った。
この二人の間には、きっと誰も入り込めないのだろうと。
デイビッドの様子に気付いたリリスも校舎の方を見る。
そしてデイビッドと見つめ合うポレットを見つけ、一瞬憎らしげな表情を見せたのをミシェルは見逃さなかった。
──聖女さまって………
リリスから感じたあからさまな敵意。
それは間違いなくポレットへと向けられていた。
そしてその敵意すらもリリスは隠そうともせずにポレットへと向けてきた。
それから数日後、ある日のランチタイム。
カフェテリアで昼食を摂っていたポレットとミシェルに向けて聖女リリスがいきなり言い放った。
「ポレット様!いい加減王子殿下を解放してあげてくださいっ!」
いつもデイビッドにべったりなくせに、この時だけは一人でポレットに文句を言いに来たようだ。
ポレットは冷静にリリスに返した。
「解放、とは一体どういう事ですの?」
「決まってます!ご実家の力を利用して……「シャラップですわっ!そこの小娘!!」
リリスの言葉を遮り、彼女の金切り声を上回る凛とした高めの声がカフェテリアに響き渡った。
「小娘の戯言にはこのわたくし、イヴェット=ワイズが受けてたちますわ!!」
細い腰に手を当て仁王立ちで立つ、
イヴェットの姿が、そこに在った。
───────────────────────
次回、転生夫人対転生聖女
「ははは、ダメに決まってるだろう。何度言ったらわかるんだ?キミの頭の中はどうなっているんだ」
「いやん殿下ってば照れちゃってぇ~♡でもそんなツンデレなところも好きですぅ~♡」
「ははは、聖女は身も心も清らかでないと神聖力を保てないと聞くぞ。キミは明日にでも神聖力が枯渇するんじゃないか?」
「それは心配いりませんよ~♡恋する心は神聖なものなんですよぉ、逆にパワーアップですぅ。殿下にそんなに心配して貰えるなんて、ワタシってば愛されてるぅ♡」
「ははは、誰かこいつをなんとかしてくれ」
他国の教会にて偶然にも(らしい)聖女に認定されてしまったリリス=ジェンソンの学園での目付け役を大陸教会に押し付けられたデイビッド王子。
学園にいる間は側にいる事を強要されている聖女と、こんな会話が毎日繰り広げられていた。
聖女リリスは良く言えば天真爛漫、悪く言えばマナー知らずで怖いもの知らずの娘であった。
ひと目もはばからず身分差も考えず(まぁ聖女に身分は当てはまらないが)リリスはデイビッドに好意をぶつけまくっていた。
たとえデイビッドがまったく相手にしなくても、ポレットという婚約者がいたとしても彼女はお構いなしだ。
そして学園内の一部の大陸聖教信徒の生徒たちは「聖女様と王子の道ならぬ清らかな恋」などとありもしないラブロマンスを真しやかに囁いている始末だ。
それこそ、ポレットの耳に入るくらいに。
「殿下ぁ~♡カフェテリアで一緒にお茶しましょ~」
「ははは、私は忙しい。側近の一人を貸してやろう」
「え~!ワタシは殿下と一緒がいいんですぅ~殿下もホントはそう思っているんでしょ?」
「ははは、寝言は寝てから言え」
「あぁんもう!待ってくださいよぅ殿下~♡」
移動教室の為に護衛と側近一名ずつを連れたデイビッドと聖女リリスのそんなやり取りを校舎の窓から眺めていたポレットを気遣うようにミシェルが言った。
「……ポレット、大丈夫?」
「?なにが?」
心配そうに表情を曇らせるミシェルにポレットはきょとんとして返した。
「だって……ずっと聖女様が王子殿下の側にいるから……」
「仕方ないわ。自国から聖女が出た場合は王家の者が聖女の後見人または目付け役となるのがしきたりだもの。妃教育で学んでいる王家の規範にもそう記されているわ」
「そう……なのね……」
それでもミシェルは不安に感じていた。
聖女リリスが現れてからというもの、明らかにデイビッド王子と会える回数も時間も減っている。
加えて聖女の隠しもしない王子ラブアピールにそれを後押しするかのような一部生徒の聖女信仰。
いくらポレットとデイビッドが相思相愛で互いに強い絆で結ばれているとしても、やはり内心穏やかでいられないのではと心配で堪らないのだ。
まぁ今のところポレットがダメージを受けている感じはしないのが救いだが。
ミシェルもポレットと同じように窓の外に視線を向け、中庭を歩くデイビッドとリリスを見る。
デイビッドの腕に絡まろうとするリリスを、デイビッドはするりと躱していた。
その時、ふいにデイビッドが校舎の方を見た。
ポレットがいる校舎を。
そして彼はすぐに窓辺にいるポレットを見つける。
「あ……」
ミシェルは思わず小さな声をあげた。
デイビッドがポレットへ向け愛しげに微笑んだのを目の当たりにしたからだ。
王子としての作られた表情を見る事が多いが、初めて見るその柔らかな表情にミシェルは驚いた。
「ふふ。デイ様ったら」
中庭からポレットを見上げて嬉しそうにデイビッドが小さく手を振る様を見て、ポレットも柔らかな笑みを浮かべながら手を振り返した。
ミシェルは二人を見て思った。
この二人の間には、きっと誰も入り込めないのだろうと。
デイビッドの様子に気付いたリリスも校舎の方を見る。
そしてデイビッドと見つめ合うポレットを見つけ、一瞬憎らしげな表情を見せたのをミシェルは見逃さなかった。
──聖女さまって………
リリスから感じたあからさまな敵意。
それは間違いなくポレットへと向けられていた。
そしてその敵意すらもリリスは隠そうともせずにポレットへと向けてきた。
それから数日後、ある日のランチタイム。
カフェテリアで昼食を摂っていたポレットとミシェルに向けて聖女リリスがいきなり言い放った。
「ポレット様!いい加減王子殿下を解放してあげてくださいっ!」
いつもデイビッドにべったりなくせに、この時だけは一人でポレットに文句を言いに来たようだ。
ポレットは冷静にリリスに返した。
「解放、とは一体どういう事ですの?」
「決まってます!ご実家の力を利用して……「シャラップですわっ!そこの小娘!!」
リリスの言葉を遮り、彼女の金切り声を上回る凛とした高めの声がカフェテリアに響き渡った。
「小娘の戯言にはこのわたくし、イヴェット=ワイズが受けてたちますわ!!」
細い腰に手を当て仁王立ちで立つ、
イヴェットの姿が、そこに在った。
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次回、転生夫人対転生聖女
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