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ミニ番外編
過去を振り返って…… 卒業式の翌日の朝 ハノンside
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今回は本編で描かなかった卒業式の翌日のハノンの心情について触れてみようと思います。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
まだ仄暗い早朝。
ハノンは思いがけず一夜を過ごした図書室を後にした。
まだ眠るフェリックス=ワイズに図書室で本を読む生徒の為に用意してあるブランケットを掛けてやり、筆跡が分からないように魔術を用いた手紙を残して。
精悍な顔立ちの中に僅かにあどけなさが残る寝顔を心に焼き付けて、図書室の扉をそっと閉じた。
たった一夜。
それだけで一生分の思い出を貰った。
醜い魔障の傷の為に結婚を諦め生涯独り身を覚悟していたハノンにとって、命の恩人であり初恋の人でもあるフェリックス=ワイズとまさかこんな事になるなんて夢にも思わなかった。
まさか自分があんな大胆な提案をするなんて……。
堅実をモットーとする自分の中に、あんな刹那的な感情があるなんて。
だけど微塵も後悔の念はない。
少しでも命を救われた事への恩返しとなっただろうか……。
ーーでもきっと、彼にとっては忘れたい過去になるのでしょうね。
ハノンは自嘲した。
おそらく信頼していたであろう者から媚薬と催淫剤を盛られ生命の危機に晒された。
それだけでも本人にとっては耐えがたい屈辱であろうに止むを得ずどこの誰だか分からない女と関係を持ったなんて……。
ーー……うわー……気の毒過ぎる……。
せめて相手の女の痕跡を一切消して、この件を闇に葬れるようにしてあげよう……。
そう思ってハノンは魔術で置き手紙の文字を書き、人知れずこっそりと図書室を去ったのだ。
ハノンは在学中はずっと寮で暮らしていた。
ルーセル領は王都から遥か遠く、借金の為にすでに売却している。
その寮も卒業の為に今日で退出する事になっている。
幸いハイレンの西方騎士団の医務室に就職先が決まっているので、今日にでもあちらに向かうつもりだ。
ほぼ一晩中、互いを求めた名残りが体の至る所に感じる。
魔法薬剤師になるハノンだが、簡単な治療魔術も習得しておいて良かった。
おかげで痛みや倦怠感は直ぐに治療出来る。
ーーこれから寮に戻って部屋の片付けと退寮の手続きと、荷物を送る手配と……
頭の中は今日する予定でいっぱいだ。
体が辛いからと休んでいる暇はない。
それで良かった。
考える時間なんてあったらきっとどうしても彼の事ばかり考えてしまうだろう。
もう会う事はないと思うが、
もたもたして学園で鉢合わせでもしたら平常心でいられる気がしない。
向こうはハノンの事など知らないのだから無用の心配だと分かっていても、一人勝手に狼狽えて挙動不審になってしまうだろう。
ーーさっさと雑事を終わらせてハイレンへ向かうべきね。
ハノンはそう思いながら寮への帰路を急ぐ。
同時刻ではフェリックスが目を覚まし、
ハノンが残した置き手紙を読んでいたのだった。
そしてハノンは昼過ぎには学園を出てハイレンへと旅立った。
フェリックスとの縁は完全に断ち切れたと思いながら。
しかしその縁は切れるどころか更なる縁を結ぶ事になるのだ。
たった一夜関係を持っただけで妊娠すると思わなかった訳ではない。
そうなっても一人でも産み育てる覚悟は出来ている。
だけどまさか本当に妊娠するとは……
この日からひと月半後に、
ハノンはあの夜に宿った宝物の存在を知るのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次回の更新は木曜日です。
卒業式の翌日。
次はフェリックスsideです。
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まだ仄暗い早朝。
ハノンは思いがけず一夜を過ごした図書室を後にした。
まだ眠るフェリックス=ワイズに図書室で本を読む生徒の為に用意してあるブランケットを掛けてやり、筆跡が分からないように魔術を用いた手紙を残して。
精悍な顔立ちの中に僅かにあどけなさが残る寝顔を心に焼き付けて、図書室の扉をそっと閉じた。
たった一夜。
それだけで一生分の思い出を貰った。
醜い魔障の傷の為に結婚を諦め生涯独り身を覚悟していたハノンにとって、命の恩人であり初恋の人でもあるフェリックス=ワイズとまさかこんな事になるなんて夢にも思わなかった。
まさか自分があんな大胆な提案をするなんて……。
堅実をモットーとする自分の中に、あんな刹那的な感情があるなんて。
だけど微塵も後悔の念はない。
少しでも命を救われた事への恩返しとなっただろうか……。
ーーでもきっと、彼にとっては忘れたい過去になるのでしょうね。
ハノンは自嘲した。
おそらく信頼していたであろう者から媚薬と催淫剤を盛られ生命の危機に晒された。
それだけでも本人にとっては耐えがたい屈辱であろうに止むを得ずどこの誰だか分からない女と関係を持ったなんて……。
ーー……うわー……気の毒過ぎる……。
せめて相手の女の痕跡を一切消して、この件を闇に葬れるようにしてあげよう……。
そう思ってハノンは魔術で置き手紙の文字を書き、人知れずこっそりと図書室を去ったのだ。
ハノンは在学中はずっと寮で暮らしていた。
ルーセル領は王都から遥か遠く、借金の為にすでに売却している。
その寮も卒業の為に今日で退出する事になっている。
幸いハイレンの西方騎士団の医務室に就職先が決まっているので、今日にでもあちらに向かうつもりだ。
ほぼ一晩中、互いを求めた名残りが体の至る所に感じる。
魔法薬剤師になるハノンだが、簡単な治療魔術も習得しておいて良かった。
おかげで痛みや倦怠感は直ぐに治療出来る。
ーーこれから寮に戻って部屋の片付けと退寮の手続きと、荷物を送る手配と……
頭の中は今日する予定でいっぱいだ。
体が辛いからと休んでいる暇はない。
それで良かった。
考える時間なんてあったらきっとどうしても彼の事ばかり考えてしまうだろう。
もう会う事はないと思うが、
もたもたして学園で鉢合わせでもしたら平常心でいられる気がしない。
向こうはハノンの事など知らないのだから無用の心配だと分かっていても、一人勝手に狼狽えて挙動不審になってしまうだろう。
ーーさっさと雑事を終わらせてハイレンへ向かうべきね。
ハノンはそう思いながら寮への帰路を急ぐ。
同時刻ではフェリックスが目を覚まし、
ハノンが残した置き手紙を読んでいたのだった。
そしてハノンは昼過ぎには学園を出てハイレンへと旅立った。
フェリックスとの縁は完全に断ち切れたと思いながら。
しかしその縁は切れるどころか更なる縁を結ぶ事になるのだ。
たった一夜関係を持っただけで妊娠すると思わなかった訳ではない。
そうなっても一人でも産み育てる覚悟は出来ている。
だけどまさか本当に妊娠するとは……
この日からひと月半後に、
ハノンはあの夜に宿った宝物の存在を知るのであった。
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次回の更新は木曜日です。
卒業式の翌日。
次はフェリックスsideです。
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