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変わらず接します
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「……いらっしゃいクラム」
週に一度の非番の日、朝早くに古の森へ転移魔法を用いてクラムはジュジュの家へとやって来る。
休みの日は騎士団のシフトによってまちまちだが、その月のシフト表をいつもクラムに渡されているのでジュジュはクラムがいつ来るのか把握している。
だってクラムは休みの日には必ずジュジュの家へとやってくるから。
今週の非番もこうして変わらずやって来たクラムをジュジュは迎え入れた。
もしかして今日は来ないのではないかと思っていたが、二年間続いている習慣をいきなり変える気はないのかクラムは律儀にやって来た。
「おはよう」
そう言って、クラムは両手に荷物を抱えながら入ってくる。
先週来た時に頼んでおいた買い物をしてきてくれたようだ。
「いつもありがとう。あ、テーブルの上に置いて?」
「ん」
ジュジュがそう言うとクラムは素直に従った。
そして袋の中から買ってきたものを取り出す。
インク壺に紅茶の茶葉にコーヒー豆だ。
それから王立図書館で予約しておいた数冊の本。
それと……
「今日は何を買ってきてくれたの?」
ジュジュはいい香りを放つ袋の中をのぞきこむ。
袋の中には騎士団寮の近所にあるベーカリーで買ったパンが入っている。
クラムは端的に答えた。
「蒸し鶏のサンド」
「わ、美味しそう♪早速食べましょう。かぼちゃのスープを作ったの、食べる?」
「食べる」
「すぐに用意するね」
ジュジュはそう言ってキッチンに入って行く。
───大丈夫。普通に接する事ができている。クラムも変わらない様子だし……
そんな事を考えながらジュジュはかぼちゃのスープをスープマグによそう。
ジュジュの自慢のかぼちゃ畑で育てたかぼちゃから作ったスープ。
かぼちゃを玉ねぎや人参とニンニク、保存しておいたチキンのガラと一緒に煮込む。
ガラを取り出したら魔法でポタージュ状にして、ミルクと塩コショウで味を調えたら出来上がり。
かぼちゃの甘みがほんのりと滋味深い、ジュジュお得意のかぼちゃ料理のひとつだ。
「美味そうだ」
クラムがテーブルの椅子に座りながらスープを見ての言う。
表情筋が仕事してないがこれは喜んでいる、というのがジュジュにはわかる。
「さ、食べましょ」
「いただきます」
クラムが買ってきてくれた朝ごはんをジュジュが作ったスープと一緒に食べる。
そして食事をしながらジュジュがこの一週間の出来事を話すのだ。
黒猫のネロの友達は可愛いネズミだとか、
別のフェーズからユニコーンが森の中央の泉に来たとか、
収穫したかぼちゃを煮たらほくほくでホクホクしたとか。
主に話すのはジュジュでクラムは相槌をうつだけだが、それでも十五で婚約を結んだ時から続くこの朝の穏やかな時間がジュジュは大好きだった。
こうして二人でいつもの休日の朝をすごしていると、王都でのあの出来事が嘘だったのではないかと思えてくる。
クラムは本当は心変わりなんてしてなくて、ピンクブロンドの女性騎士にプロポーズなんかしていないと……。
でもあれは紛れもない事実なのだと引き出しにしまった手紙と写真が物語っている。
変わらないルーティンのような朝の始まりも以前とは確実に違う、変わってしまったのだ。
そのひとつとして……
スープを食べながらクラムが言う。
「ニンニク、効いてるな」
「……スタミナをつけて欲しくって」
と、ジュジュはニッコリと微笑んで答えた。
ニンニクは精がつく食材のひとつだ。
そう精がつく……。
お互いの人生のために、一日でも早く子どもが出来る方がよいのだ。
以前クラムは半年後にジュジュが十八になってから籍を入れようと言っていたが、この国では女性は十六から婚姻が認められている。
当然、出産もまた然りだ。
婚・前・交・渉✧キラン
ジュジュの頭の中には今、この言葉が燦然と光り輝いている。
クラムと婚前交渉をして子供さえ授かれば入籍をする前に別れる事が出来る。
クラムの戸籍にバツを付けずに済むのだ。
というか、今の状況で入籍して妊娠するまでクラムに捨てられない保証はどこにもない。
むしろ今すぐ別れを告げられて婚約を解消されてもおかしくはないのだ。
(魔術師協会が煩いから簡単には出来ないだろうけど)
───それは困る!それだけは絶対に困るのだ。
その最悪の状況を打破するためには一日でも早くクラムと婚前交渉をして子供を授からねばならない。
「……クラム、スープ美味しい?」
「ん、美味い」
「そう、よかった♡」
ニンニクがたっぷり入ったスープ(魔法で食後の匂いは防いでいる)を食べるクラムを見ながら、ニッコリと微笑むジュジュであった。
───────────────────────
明日の朝も更新ありまするぞ。
週に一度の非番の日、朝早くに古の森へ転移魔法を用いてクラムはジュジュの家へとやって来る。
休みの日は騎士団のシフトによってまちまちだが、その月のシフト表をいつもクラムに渡されているのでジュジュはクラムがいつ来るのか把握している。
だってクラムは休みの日には必ずジュジュの家へとやってくるから。
今週の非番もこうして変わらずやって来たクラムをジュジュは迎え入れた。
もしかして今日は来ないのではないかと思っていたが、二年間続いている習慣をいきなり変える気はないのかクラムは律儀にやって来た。
「おはよう」
そう言って、クラムは両手に荷物を抱えながら入ってくる。
先週来た時に頼んでおいた買い物をしてきてくれたようだ。
「いつもありがとう。あ、テーブルの上に置いて?」
「ん」
ジュジュがそう言うとクラムは素直に従った。
そして袋の中から買ってきたものを取り出す。
インク壺に紅茶の茶葉にコーヒー豆だ。
それから王立図書館で予約しておいた数冊の本。
それと……
「今日は何を買ってきてくれたの?」
ジュジュはいい香りを放つ袋の中をのぞきこむ。
袋の中には騎士団寮の近所にあるベーカリーで買ったパンが入っている。
クラムは端的に答えた。
「蒸し鶏のサンド」
「わ、美味しそう♪早速食べましょう。かぼちゃのスープを作ったの、食べる?」
「食べる」
「すぐに用意するね」
ジュジュはそう言ってキッチンに入って行く。
───大丈夫。普通に接する事ができている。クラムも変わらない様子だし……
そんな事を考えながらジュジュはかぼちゃのスープをスープマグによそう。
ジュジュの自慢のかぼちゃ畑で育てたかぼちゃから作ったスープ。
かぼちゃを玉ねぎや人参とニンニク、保存しておいたチキンのガラと一緒に煮込む。
ガラを取り出したら魔法でポタージュ状にして、ミルクと塩コショウで味を調えたら出来上がり。
かぼちゃの甘みがほんのりと滋味深い、ジュジュお得意のかぼちゃ料理のひとつだ。
「美味そうだ」
クラムがテーブルの椅子に座りながらスープを見ての言う。
表情筋が仕事してないがこれは喜んでいる、というのがジュジュにはわかる。
「さ、食べましょ」
「いただきます」
クラムが買ってきてくれた朝ごはんをジュジュが作ったスープと一緒に食べる。
そして食事をしながらジュジュがこの一週間の出来事を話すのだ。
黒猫のネロの友達は可愛いネズミだとか、
別のフェーズからユニコーンが森の中央の泉に来たとか、
収穫したかぼちゃを煮たらほくほくでホクホクしたとか。
主に話すのはジュジュでクラムは相槌をうつだけだが、それでも十五で婚約を結んだ時から続くこの朝の穏やかな時間がジュジュは大好きだった。
こうして二人でいつもの休日の朝をすごしていると、王都でのあの出来事が嘘だったのではないかと思えてくる。
クラムは本当は心変わりなんてしてなくて、ピンクブロンドの女性騎士にプロポーズなんかしていないと……。
でもあれは紛れもない事実なのだと引き出しにしまった手紙と写真が物語っている。
変わらないルーティンのような朝の始まりも以前とは確実に違う、変わってしまったのだ。
そのひとつとして……
スープを食べながらクラムが言う。
「ニンニク、効いてるな」
「……スタミナをつけて欲しくって」
と、ジュジュはニッコリと微笑んで答えた。
ニンニクは精がつく食材のひとつだ。
そう精がつく……。
お互いの人生のために、一日でも早く子どもが出来る方がよいのだ。
以前クラムは半年後にジュジュが十八になってから籍を入れようと言っていたが、この国では女性は十六から婚姻が認められている。
当然、出産もまた然りだ。
婚・前・交・渉✧キラン
ジュジュの頭の中には今、この言葉が燦然と光り輝いている。
クラムと婚前交渉をして子供さえ授かれば入籍をする前に別れる事が出来る。
クラムの戸籍にバツを付けずに済むのだ。
というか、今の状況で入籍して妊娠するまでクラムに捨てられない保証はどこにもない。
むしろ今すぐ別れを告げられて婚約を解消されてもおかしくはないのだ。
(魔術師協会が煩いから簡単には出来ないだろうけど)
───それは困る!それだけは絶対に困るのだ。
その最悪の状況を打破するためには一日でも早くクラムと婚前交渉をして子供を授からねばならない。
「……クラム、スープ美味しい?」
「ん、美味い」
「そう、よかった♡」
ニンニクがたっぷり入ったスープ(魔法で食後の匂いは防いでいる)を食べるクラムを見ながら、ニッコリと微笑むジュジュであった。
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明日の朝も更新ありまするぞ。
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