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見なかったことにしよう
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婚約者クラムの心変わりを知ったジュジュ。
彼女は今、猛烈に思い悩んでいた。
他に結婚したい相手がクラムに出来たと知りながらこのまま彼と婚約を結んでいていいのだろうかと。
この婚約は、希少血統保護のために古の森の魔女であるジュジュとちょうど年齢的にも釣り合いが取れる、これまた優秀な血統の末息子であるクラムを魔術師協会が定めたものであった。
当然、簡単に婚約解消は認められないだろう。
もちろん人間同士だ。
性格の不一致などの理由は考慮される。
しかしそれはあくまでも初期の段階での話だ。
婚約して二年以上も経ち、今さら性格が合いませんでしたでは理屈が通らない。
ならば他の理由で……。
「でも、考えみれば何故わたしがこんなに頭を悩ませなければいけないの?」
勝手に心変わりをして婚約関係を続けられないような状況にしたのはクラムの方である。
この婚約を解消したいのであれば、クラムがその方法を考えて魔術師協会を黙らせればいい。
「あーあ……今さら別の人と婚約を結び直すのかぁ……なんか、めんどくさぁ………」
面倒くさいし、嫌である。
ほぼほぼ表情筋は仕事しないし必要以上に喋らないクラムだが、彼の穏やかで優しい性格が大好きだったのだ。
この森から王都への転移魔法を、連続は無理でも一日に往復出来るほどの魔力を持っている、そんな凄いところも尊敬していた。
食いしん坊でジュジュの作った食事をいつも美味しいと全部食べてくれるところも、ジュジュが暮らし易いように身の回りのことを気にかけてくれるところも全部好きだった。
きっともう、絶対にクラム以上に好きになる人なんて現れない。
それに……
「クラムの赤ちゃんを産むのを楽しみにしていたのに……」
古の魔女として後継を残す義務というか使命があるジュジュが、それとは関係なく好きな人との間に生まれる子供を育てるのを楽しみにしていたのだ。
「クラム以外の人の子を産むなんて……嫌だなぁ」
それ以前にクラム以外の男性に触れられるなんて耐えられそうにない。
それなら………
「それなら、子供だけでも授けてもらえないかしら?」
他に愛する人のいるクラムを縛りつける事など出来ない。
でも一度は縁あって婚約者同士となったのだから、せめて別れる前に種だけ頂いて彼を解放してあげればよいのではないだろうか。
ジュジュが後継さえ残せば、魔術師協会も文句はないだろう。
クラムとのお別れは辛いが彼の子供を育てられるなら、あとはそれを心の支えとして生きてゆける。
ジュジュはそう思った。
「………よしっ、アレは見なかったことにしよう」
ジュジュは王都で見た全てのことを見なかったこととして処理することに決めた。
クラムの心変わりを知りながら、それに気づかないふりをして、子供が出来るまで彼とは別れない。離れない。婚約した責任をとってもらう。
ジュジュはそう決めたのであった。
「勝手はお互い様よクラム」
そうひとり言ちた、ジュジュの声が部屋の中に落ちて消えた。
彼女は今、猛烈に思い悩んでいた。
他に結婚したい相手がクラムに出来たと知りながらこのまま彼と婚約を結んでいていいのだろうかと。
この婚約は、希少血統保護のために古の森の魔女であるジュジュとちょうど年齢的にも釣り合いが取れる、これまた優秀な血統の末息子であるクラムを魔術師協会が定めたものであった。
当然、簡単に婚約解消は認められないだろう。
もちろん人間同士だ。
性格の不一致などの理由は考慮される。
しかしそれはあくまでも初期の段階での話だ。
婚約して二年以上も経ち、今さら性格が合いませんでしたでは理屈が通らない。
ならば他の理由で……。
「でも、考えみれば何故わたしがこんなに頭を悩ませなければいけないの?」
勝手に心変わりをして婚約関係を続けられないような状況にしたのはクラムの方である。
この婚約を解消したいのであれば、クラムがその方法を考えて魔術師協会を黙らせればいい。
「あーあ……今さら別の人と婚約を結び直すのかぁ……なんか、めんどくさぁ………」
面倒くさいし、嫌である。
ほぼほぼ表情筋は仕事しないし必要以上に喋らないクラムだが、彼の穏やかで優しい性格が大好きだったのだ。
この森から王都への転移魔法を、連続は無理でも一日に往復出来るほどの魔力を持っている、そんな凄いところも尊敬していた。
食いしん坊でジュジュの作った食事をいつも美味しいと全部食べてくれるところも、ジュジュが暮らし易いように身の回りのことを気にかけてくれるところも全部好きだった。
きっともう、絶対にクラム以上に好きになる人なんて現れない。
それに……
「クラムの赤ちゃんを産むのを楽しみにしていたのに……」
古の魔女として後継を残す義務というか使命があるジュジュが、それとは関係なく好きな人との間に生まれる子供を育てるのを楽しみにしていたのだ。
「クラム以外の人の子を産むなんて……嫌だなぁ」
それ以前にクラム以外の男性に触れられるなんて耐えられそうにない。
それなら………
「それなら、子供だけでも授けてもらえないかしら?」
他に愛する人のいるクラムを縛りつける事など出来ない。
でも一度は縁あって婚約者同士となったのだから、せめて別れる前に種だけ頂いて彼を解放してあげればよいのではないだろうか。
ジュジュが後継さえ残せば、魔術師協会も文句はないだろう。
クラムとのお別れは辛いが彼の子供を育てられるなら、あとはそれを心の支えとして生きてゆける。
ジュジュはそう思った。
「………よしっ、アレは見なかったことにしよう」
ジュジュは王都で見た全てのことを見なかったこととして処理することに決めた。
クラムの心変わりを知りながら、それに気づかないふりをして、子供が出来るまで彼とは別れない。離れない。婚約した責任をとってもらう。
ジュジュはそう決めたのであった。
「勝手はお互い様よクラム」
そうひとり言ちた、ジュジュの声が部屋の中に落ちて消えた。
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