3 / 14
無意識に帰宅
しおりを挟む
タレコミがあった写真に写っていた店、
『3匹の白猫亭』に入って行く婚約者クラムから遅れること10分。
ようやく決心がついたジュジュが店の扉を開けた。
「た、たのもーーっ」
自分を奮い立たせるために力強く入店したジュジュ。
しかし目の前に飛び込んできた光景にジュジュは一瞬で固まってしまった。
店の中央、常連であろう数名の客が見守る中でクラムがピンクブロンドの女性の前に跪いている。
その手には一輪の花を持ち、やや緊張した面持ちでクラムは一心にピンクブロンドの女性を見つめていた。
そしてピンクブロンドの女性がクラムに言う。
「クラム!さぁ言って?このボクに!ありったけの想いを込めてっ……♡」
「……あ、あ、あ、あっ……愛してるっ!俺と結婚してくださいっ……!」
フッ………
その瞬間、ジュジュの目の前の景色が一変した。
そこは入店したばかりの食堂ではなく、先程身を潜め自分に変身魔法をかけた街路樹の側に立っていたのだった。
どうやら無意識に転移をして逃げ出したらしい。
自分の婚約者であるはずの男が他の女性に求婚している姿を目の当たりにしてしまったのだ、無理もないだろう。
「………」
ジュジュは茫然自失としたままノロノロと来た道を戻るために歩き出す。
それもきっと無意識のうちの行動だろう。
ジュジュは焦点の合わぬ視界で歩き続けていた。
頭の中では先程のクラムの声がこだましている。
愛してるいると、結婚してほしいとクラムはピンクブロンドに言っていた。
「あいしてる………」
ラブ……ラブだ。クラムはピンクブロンドにラブなのだ。
ジュジュのことを好きだと言ってくれたが、所詮はライク。
ラブには敵わない。
でも確かにジュジュにライクと言ってくれた時のクラムは真剣そのものであった。
生真面目でただでさえ口数が少ないクラムが軽はずみな気持ちでそんな事を言うはずがない。
きっとあの時は本気だった。
───だけど……ライクよりももっとラブな人にクラムは出会ったんだわ。
“素敵な出会い”
あのタレコミの通りだったわけだ。
クラムは新たな出会いにより、ライクからラブへと心変わりをしたのだ。
「なんてこったい……」
ジュジュはその後も心ここに在らずで、ただ帰巣本能の赴くままにとぼとぼと歩いて行き、気がつけば古の森の自宅へと帰っていた。
「はっ?い、いつの間にっ……?」
自分でもビックリである。
ジュジュは無意識の内に三度ほどの転移魔法を行い、王都から森へと帰っていたのだ。
しかも手にはしっかりとお土産を携えて。
せっかく王都に来たのだからと、帰る時には絶対に買おうと決めていたカボチャのガトーショコラとパンプキンミルフィーユとカボチャのバゲットを無意識ながらもちゃっかりと買って帰ったようだ。
───我ながら恐ろしい食い意地……
しかし住み慣れた家についた途端、張り詰めていた糸が切れてしまったのだろう。
ジュジュは椅子に腰かけ、そのままテーブルに突っ伏した。
やがてジュジュから小さな嗚咽が漏れ出す。
なんてこったい。
いつの間にか、ジュジュはクラムに心変わりをされ、いつの間にか失恋していたのだ。
本当になんてこったい。
薄暗くなり始めた室内で、ランプに明かりを灯す事もなくジュジュは涙を流し続けた。
そしてそのまま泣き疲れ、眠ってしまったのだろう。
気がつけば次の日の朝になっていた。
ジュジュの家と森の中を行き来して気ままに暮らしている黒猫のネロがテーブルに上がり、そのヤスリのような舌でジュジュの顔を舐める。
「痛い……ネロ、涙の塩っ気を舐めるのはやめて……」
ジュジュはのそりと起き出す……も、テーブルに突っ伏したまま寝たせいで体がバキバキになっていた。
「くっ……か、肩と腰がっ……」
這う這うの体で薬棚の所て行き、作り置きしていた疲労回復薬を服用する。
古の魔女特性の魔法薬だ。
飲んだ瞬間から元気ハツラツになれる。
気持ちの回復までは無理だけど……。
そしてジュジュはそのままキッチンへ行き、ネロの食事の用意をして食べさせてやった。
ネロは特別な黒猫だ。
森の魔力を栄養源とすることが多い。
でも時折こうやってフラリと戻って来てはジュジュが作る食事を食べるのだ。
チキンのスープ煮を美味しそうに食べるネロをぼんやりと見ながらジュジュは考える。
これからどうすればいいのだろうと。
クラムの心変わりを知り、これからジュジュはどうすればいいのか。
ジュジュはそれをまだ覚めきらぬ頭で考えていた。
───────────────────────
次の更新は明日の夜です。
よろしくお願いします。
『3匹の白猫亭』に入って行く婚約者クラムから遅れること10分。
ようやく決心がついたジュジュが店の扉を開けた。
「た、たのもーーっ」
自分を奮い立たせるために力強く入店したジュジュ。
しかし目の前に飛び込んできた光景にジュジュは一瞬で固まってしまった。
店の中央、常連であろう数名の客が見守る中でクラムがピンクブロンドの女性の前に跪いている。
その手には一輪の花を持ち、やや緊張した面持ちでクラムは一心にピンクブロンドの女性を見つめていた。
そしてピンクブロンドの女性がクラムに言う。
「クラム!さぁ言って?このボクに!ありったけの想いを込めてっ……♡」
「……あ、あ、あ、あっ……愛してるっ!俺と結婚してくださいっ……!」
フッ………
その瞬間、ジュジュの目の前の景色が一変した。
そこは入店したばかりの食堂ではなく、先程身を潜め自分に変身魔法をかけた街路樹の側に立っていたのだった。
どうやら無意識に転移をして逃げ出したらしい。
自分の婚約者であるはずの男が他の女性に求婚している姿を目の当たりにしてしまったのだ、無理もないだろう。
「………」
ジュジュは茫然自失としたままノロノロと来た道を戻るために歩き出す。
それもきっと無意識のうちの行動だろう。
ジュジュは焦点の合わぬ視界で歩き続けていた。
頭の中では先程のクラムの声がこだましている。
愛してるいると、結婚してほしいとクラムはピンクブロンドに言っていた。
「あいしてる………」
ラブ……ラブだ。クラムはピンクブロンドにラブなのだ。
ジュジュのことを好きだと言ってくれたが、所詮はライク。
ラブには敵わない。
でも確かにジュジュにライクと言ってくれた時のクラムは真剣そのものであった。
生真面目でただでさえ口数が少ないクラムが軽はずみな気持ちでそんな事を言うはずがない。
きっとあの時は本気だった。
───だけど……ライクよりももっとラブな人にクラムは出会ったんだわ。
“素敵な出会い”
あのタレコミの通りだったわけだ。
クラムは新たな出会いにより、ライクからラブへと心変わりをしたのだ。
「なんてこったい……」
ジュジュはその後も心ここに在らずで、ただ帰巣本能の赴くままにとぼとぼと歩いて行き、気がつけば古の森の自宅へと帰っていた。
「はっ?い、いつの間にっ……?」
自分でもビックリである。
ジュジュは無意識の内に三度ほどの転移魔法を行い、王都から森へと帰っていたのだ。
しかも手にはしっかりとお土産を携えて。
せっかく王都に来たのだからと、帰る時には絶対に買おうと決めていたカボチャのガトーショコラとパンプキンミルフィーユとカボチャのバゲットを無意識ながらもちゃっかりと買って帰ったようだ。
───我ながら恐ろしい食い意地……
しかし住み慣れた家についた途端、張り詰めていた糸が切れてしまったのだろう。
ジュジュは椅子に腰かけ、そのままテーブルに突っ伏した。
やがてジュジュから小さな嗚咽が漏れ出す。
なんてこったい。
いつの間にか、ジュジュはクラムに心変わりをされ、いつの間にか失恋していたのだ。
本当になんてこったい。
薄暗くなり始めた室内で、ランプに明かりを灯す事もなくジュジュは涙を流し続けた。
そしてそのまま泣き疲れ、眠ってしまったのだろう。
気がつけば次の日の朝になっていた。
ジュジュの家と森の中を行き来して気ままに暮らしている黒猫のネロがテーブルに上がり、そのヤスリのような舌でジュジュの顔を舐める。
「痛い……ネロ、涙の塩っ気を舐めるのはやめて……」
ジュジュはのそりと起き出す……も、テーブルに突っ伏したまま寝たせいで体がバキバキになっていた。
「くっ……か、肩と腰がっ……」
這う這うの体で薬棚の所て行き、作り置きしていた疲労回復薬を服用する。
古の魔女特性の魔法薬だ。
飲んだ瞬間から元気ハツラツになれる。
気持ちの回復までは無理だけど……。
そしてジュジュはそのままキッチンへ行き、ネロの食事の用意をして食べさせてやった。
ネロは特別な黒猫だ。
森の魔力を栄養源とすることが多い。
でも時折こうやってフラリと戻って来てはジュジュが作る食事を食べるのだ。
チキンのスープ煮を美味しそうに食べるネロをぼんやりと見ながらジュジュは考える。
これからどうすればいいのだろうと。
クラムの心変わりを知り、これからジュジュはどうすればいいのか。
ジュジュはそれをまだ覚めきらぬ頭で考えていた。
───────────────────────
次の更新は明日の夜です。
よろしくお願いします。
135
お気に入りに追加
2,202
あなたにおすすめの小説
貴方に私は相応しくない【完結】
迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。
彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。
天使のような無邪気な笑みで愛を語り。
彼は私の心を踏みにじる。
私は貴方の都合の良い子にはなれません。
私は貴方に相応しい女にはなれません。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
お飾り王妃の愛と献身
石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。
けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。
ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。
国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。
釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません
しろねこ。
恋愛
幼馴染と婚約を結んでいるラズリーは、学園に入学してから他の令嬢達によく絡まれていた。
曰く、婚約者と釣り合っていない、身分不相応だと。
ラズリーの婚約者であるファルク=トワレ伯爵令息は、第二王子の側近で、将来護衛騎士予定の有望株だ。背も高く、見目も良いと言う事で注目を浴びている。
対してラズリー=コランダム子爵令嬢は薬草学を専攻していて、外に出る事も少なく地味な見た目で華々しさもない。
そんな二人を周囲は好奇の目で見ており、時にはラズリーから婚約者を奪おうとするものも出てくる。
おっとり令嬢ラズリーはそんな周囲の圧力に屈することはない。
「釣り合わない? そうですか。でも彼は私が良いって言ってますし」
時に優しく、時に豪胆なラズリー、平穏な日々はいつ来るやら。
ハッピーエンド、両思い、ご都合主義なストーリーです。
ゆっくり更新予定です(*´ω`*)
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

今夜で忘れる。
豆狸
恋愛
「……今夜で忘れます」
そう言って、私はジョアキン殿下を見つめました。
黄金の髪に緑色の瞳、鼻筋の通った端正な顔を持つ、我がソアレス王国の第二王子。大陸最大の図書館がそびえる学術都市として名高いソアレスの王都にある大学を卒業するまでは、侯爵令嬢の私の婚約者だった方です。
今はお互いに別の方と婚約しています。
「忘れると誓います。ですから、幼いころからの想いに決着をつけるため、どうか私にジョアキン殿下との一夜をくださいませ」
なろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる