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偉大な魔術師
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力の全てを解放した瞬間、
全てが真っ白になった。
何も無い空間。
だけど虚無とはまた違う。
無というよりは始まり。
まだ何も始まっていない、だけどこれから無限に広がってゆく新しい世界。
その一番始まりの瞬間に居る、そんな感覚だった。
その白く何も無い空間にわたしは一人で立っている。
もちろん足下にも何もなく、でも見下ろした自分の靴の小ささに驚いて思わず両手のひらを広げて見つめた。
手も小さい。
まるで子どもの頃に戻ったみたい。
タルバートおじさんに外の世界へ連れ出された、あの頃の自分だ。
ーーアシュリ
タルバートおじさんの声が聞こえた。
「おじさん?どこ?」
ーーアシュリ。よく頑張ったね。私が居なくなっても、しっかりと強く生きて来たね。
姿は見えないけれど、おじさんの声がすぐ近くで聞こえた。
わたしはおじさんに答える。
「そう出来るようにおじさんが色々と教えてくれたもの」
ーーそうだね、でも彼のおかげでもあるよね。
「彼?シグルドの事?」
ーーそうだよ。私は嬉しいんだ。私が望んだ通りに、愛し愛される人と出会ってくれた
「でも……でもおじさん、わたしは彼を失ってしまうかもしれない……シグルドがわたしの事を忘れて、わたしの事を知らない別人になってしまうかもしれない……」
ーー大丈夫だよ、大丈夫。
「でも……おじさん……」
ーーアシュリの旦那さんはちょっと凄い人だね。
おかげで安心してお前の事を任せられるよ。
「どういう意味……?」
ーーすぐに分かるよ。目を開けて、しっかりと前を見てごらん。
きっと大丈夫だから。
「大丈夫……?」
ーーアシュリ、幸せになるんだよ。
「おじさん?」
ーーいつも見守っているからね。
「待っておじさんっ……!わたし、おじさんになんの恩返しも出来なかったっ……助けて貰ったのに、愛して貰ったのにっ……まだなんのお返しも出来ていないのっ」
ーーお返しならもう貰ったよ。
「……え?何を……?」
ーー愛しいアシュリ。お前と共に暮らした日々が何よりも宝物だった。だからもう、恩返しをして貰ったようなものさ
「おじさんっ……!」
ーー元気でなアシュリ。
幸せに、どうか幸せに………
「おじさんっ……おじさんっ!!
おじさんっ!!」
自分のその大きな声で、
わたしの意識は覚醒した。
そこは白い世界ではなく、球体と対峙した王宮の一室だった。
球体は影すら残さず消え去っていた。
ただ虚無の魔力の球体が消し去った、抉り取られたような跡が残っている事が、アレが現実に起きた事なのだと物語る。
国王陛下や師団長さん、そしてこの部屋に居た人たちが皆倒れていた。
ぴくぴくと瞼が痙攣しているのを見て、生きているのだと安堵する。
「っ!シグルドはっ?……シグルドっ!」
隣に居た筈のシグルドの姿が無い事に気付き、慌てて辺りを見回した。
「シグルド!シグっ……
魔術が暴発したであろう地点に立つ彼の姿を見つけて、わたしは思わず息を呑んだ。
こちらに背を向けて、一人佇んでいる。
じっとしたまま、一向に動く気配がなかった。
「シグル……
わたしが彼に声を掛けようたしたその時、倒れていた人達が次々に目を覚ました。
「アレ……一体どうなったんだ……?」
「確か新術の試験展開が失敗して、暴発してそれで……ダメだ、その後の事が思い出せないっ……」
「あの球体はどうなったんだ?消えている?」
「スタングレイ卿?彼が封じてくれたのかっ……?」
「何故こんな所に一般女性がいるんだ?」
誰もが状況を判断出来ずにいる。
……わたしに関する記憶の消去は……
どうやら上手くいったようだ。
指先と唇が氷のように冷えてゆくのを感じる。
言い様のない焦燥感がわたしを包んだ。
夫は、シグルドは、
彼らと同じようにわたしを忘れてしまっているのか……
例外はない。
分かっているのだ。
わたしにピンポイントで記憶を消したり消さなかったりする技術はない。
間違いなく、シグルドの記憶からもわたしが消去されているはず……
それでも、
それでも、また一から始めたい。
何度でも出会い直して、
何度でもあなたを愛したい。
たとえあなたがわたしを忘れてしまったとしても、
もう一度好きになって貰えるように努力したい。
あなたの居ない人生なんて、わたしにはもう考えられないから。
わたしはゆっくりと夫の方へと向かい、声を掛けた。
「……シグルド……」
わたしが名を呼ぶと、シグルドの肩がぴくりと跳ねた。
「シグルド」
もう一度その名を呼ぶ。
彼はゆっくりと振り返った。
そしてわたしの顔をじっと見つめる。
また「はじめまして」のわたしの顔は、
シグルドにはどう映っているのだろう。
また一目惚れをして貰えるだろうか……
怖い。でもわたしは彼へのありったけの想いを込めて、微笑んだ。
その瞬間、名を呼ばれた。
「アシュリ」
「………!」
変わらない、優しくて愛に溢れた眼差しを、シグルドがわたしに向けてくれている。
「アシュリ」
もう一度名を呼ばれる。
呼び捨て……プロポーズを受けるまで、シグルドはわたしを「アシュリさん」と呼んでいた。
「シグルド……?」
ーーまさか……まさか、
呆然と立ち竦むわたしに、シグルドは両手を広げた。
「おいでアシュリ。俺の可愛いお嫁さん」
その瞬間、足を踏み出していた。
両手を広げた彼の胸の中に、吸い込まれるように飛び込んでいた。
「シグルドっ、シグルドっ……!」
涙も言葉も想いも溢れてぐちゃぐちゃになる。
「アシュリ……」
シグルドが力強くわたしを包み込んでくれた。
「シグルドっ……どうしてっ?わたしの事、忘れていないのっ……?」
「忘れてないよ」
「なぜ?どうして?」
「試験展開もせずに、初めて使う術式だったからね。ちょーーっと自信が無くて種明かしが出来なかったんだ。だけどやっぱり俺のアシュリへの愛は偉大で、そして俺はやっぱり、偉大な魔術師だったよ」
「何それっ、何よそれっ……」
わたしはシグルドの腕の中で泣きじゃくった。、
わたしを抱きしめながらシグルドは答えてくれた。
任された新術の開発を進めてゆく上でわたしの出自に気が付き、そしてこの術の危うさを悟った。
その為に予め魔術の効果を反対のものにして相殺する反転魔法の術式を構築していたそうなのだ。
残念ながら虚無の魔力には力及ばず施術する事は敵わなかったが、記憶の消去から自分自身の身を守る事は可能である筈だと考えたらしい。
だからわたしに全員の記憶の消去をするように言ったのだそうだ。
でも反転術式を成功させる100%の自信はなかった。
だから変に期待をさせるような事は出来ないと、打ち明けられなかったんだとシグルドは言った。
「……よかったぁ……」
「うん、よかった……俺、術式を唱えると同時に絶対忘れたくない忘れたくないって、それこそ術式のように思い続けたんだ。それのおかげかアシュリの事を、大切な妻の事を忘れずにすんだ……」
「シグルド……わたしの為に頑張ってくれてありがとう」
互いに安堵と喜び分かち合い、噛み締め合うわたし達の後ろでは、意識を失ったままの国王陛下が侍従達によって運ばれて行く。
突然跡形もなく消え去った暴走魔力の事や、
犠牲となった魔術師達の死体の片付けなどで騒がしくなり、誰もわたし達の事を気にする余裕はないようだった。
シグルドはわたしに言う。
「帰ろう、アシュリ」
「うん、帰りましょう。我が家へ」
わたしは頷きながら彼のローブをきゅっと掴んだ。
その途端、体がどこかへ引っ張られる感覚がして、シグルドがわたしを抱いたまま転移魔法を用いたのだと分かった。
そして次に着地した場所は住み慣れた我が家、
魔術師専用の下宿“変人の魔窟”……じゃない“賢人の洞窟”だった。
二人で帰れた事が奇跡のように感じる。
いえ、実際に奇跡は起きたのだろう。
誰が起こした奇跡なのかはわからない。
わたし?
シグルド?
それとも、タルバートおじさん?
もしかしたら、みんなの強い思いが奇跡を起こしたのかもしれない。
今はただその奇跡に、わたしは感謝した。
ありがとう……
チュ♡
ホントにありがとう
チュ♡チュ♡
チュ♡
「っもう!シグルド!少しくらい感傷に浸らせてよ!」
下宿に戻った途端にシグルドからキスの嵐が降り注いでいた。
頬に、瞼に、こめかみに。
つむじや頸、そして鼻先に、シグルドは啄むようなキスを落としてくる。
「だって……!あの時のアシュリがホントもう可愛い過ぎてっ……俺の事忘れたくないって、イヤって泣きじゃくって……もう愛しくて抱きしめたくてキスしたくて可愛がりたくて、辛抱堪らなかったんだっ!!」
「あ、あの瞬間にそんな事を考えてたのっ?あんな大変な時にっ!?」
「仕方ないよアシュリ。俺はいつだってどんな時だって、アシュリとイチャイチャして全身可愛がりまくりたいと思ってるんだからっ!」
「恥ずかしい事を威張って言わないで!」
「ムリだっ!好きだっ!愛してるっ!」
「きゃあっ!シグルドっ!?」
シグルドはいきなりわたしを横抱きにしてスタスタと急ぎ足で歩き出した。
行き先は……………寝室のようだ。
「ちょっ……?ウソでしょ?シグルド、いきなりっ!?」
「うん♡愛してるよアシュリ♡」
「ちょっと待って、偉大な魔術師サマ!?」
わたしの抗議する声も虚しく、
バタンッ!と無情な音を立てて寝室の扉は閉じられた……
そしてそれからひと月後に、
わたしの妊娠が判明した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次回、最終話です。
昨日のお話では雰囲気を壊してはいけないと思って我慢してましたが……
虚無の魔力に手を繋いで向かい合うアシュリとシグルド……
思わず「バ○ス!」と言いたくなりました……☆
二人はパズ○とシ○タか!!
全てが真っ白になった。
何も無い空間。
だけど虚無とはまた違う。
無というよりは始まり。
まだ何も始まっていない、だけどこれから無限に広がってゆく新しい世界。
その一番始まりの瞬間に居る、そんな感覚だった。
その白く何も無い空間にわたしは一人で立っている。
もちろん足下にも何もなく、でも見下ろした自分の靴の小ささに驚いて思わず両手のひらを広げて見つめた。
手も小さい。
まるで子どもの頃に戻ったみたい。
タルバートおじさんに外の世界へ連れ出された、あの頃の自分だ。
ーーアシュリ
タルバートおじさんの声が聞こえた。
「おじさん?どこ?」
ーーアシュリ。よく頑張ったね。私が居なくなっても、しっかりと強く生きて来たね。
姿は見えないけれど、おじさんの声がすぐ近くで聞こえた。
わたしはおじさんに答える。
「そう出来るようにおじさんが色々と教えてくれたもの」
ーーそうだね、でも彼のおかげでもあるよね。
「彼?シグルドの事?」
ーーそうだよ。私は嬉しいんだ。私が望んだ通りに、愛し愛される人と出会ってくれた
「でも……でもおじさん、わたしは彼を失ってしまうかもしれない……シグルドがわたしの事を忘れて、わたしの事を知らない別人になってしまうかもしれない……」
ーー大丈夫だよ、大丈夫。
「でも……おじさん……」
ーーアシュリの旦那さんはちょっと凄い人だね。
おかげで安心してお前の事を任せられるよ。
「どういう意味……?」
ーーすぐに分かるよ。目を開けて、しっかりと前を見てごらん。
きっと大丈夫だから。
「大丈夫……?」
ーーアシュリ、幸せになるんだよ。
「おじさん?」
ーーいつも見守っているからね。
「待っておじさんっ……!わたし、おじさんになんの恩返しも出来なかったっ……助けて貰ったのに、愛して貰ったのにっ……まだなんのお返しも出来ていないのっ」
ーーお返しならもう貰ったよ。
「……え?何を……?」
ーー愛しいアシュリ。お前と共に暮らした日々が何よりも宝物だった。だからもう、恩返しをして貰ったようなものさ
「おじさんっ……!」
ーー元気でなアシュリ。
幸せに、どうか幸せに………
「おじさんっ……おじさんっ!!
おじさんっ!!」
自分のその大きな声で、
わたしの意識は覚醒した。
そこは白い世界ではなく、球体と対峙した王宮の一室だった。
球体は影すら残さず消え去っていた。
ただ虚無の魔力の球体が消し去った、抉り取られたような跡が残っている事が、アレが現実に起きた事なのだと物語る。
国王陛下や師団長さん、そしてこの部屋に居た人たちが皆倒れていた。
ぴくぴくと瞼が痙攣しているのを見て、生きているのだと安堵する。
「っ!シグルドはっ?……シグルドっ!」
隣に居た筈のシグルドの姿が無い事に気付き、慌てて辺りを見回した。
「シグルド!シグっ……
魔術が暴発したであろう地点に立つ彼の姿を見つけて、わたしは思わず息を呑んだ。
こちらに背を向けて、一人佇んでいる。
じっとしたまま、一向に動く気配がなかった。
「シグル……
わたしが彼に声を掛けようたしたその時、倒れていた人達が次々に目を覚ました。
「アレ……一体どうなったんだ……?」
「確か新術の試験展開が失敗して、暴発してそれで……ダメだ、その後の事が思い出せないっ……」
「あの球体はどうなったんだ?消えている?」
「スタングレイ卿?彼が封じてくれたのかっ……?」
「何故こんな所に一般女性がいるんだ?」
誰もが状況を判断出来ずにいる。
……わたしに関する記憶の消去は……
どうやら上手くいったようだ。
指先と唇が氷のように冷えてゆくのを感じる。
言い様のない焦燥感がわたしを包んだ。
夫は、シグルドは、
彼らと同じようにわたしを忘れてしまっているのか……
例外はない。
分かっているのだ。
わたしにピンポイントで記憶を消したり消さなかったりする技術はない。
間違いなく、シグルドの記憶からもわたしが消去されているはず……
それでも、
それでも、また一から始めたい。
何度でも出会い直して、
何度でもあなたを愛したい。
たとえあなたがわたしを忘れてしまったとしても、
もう一度好きになって貰えるように努力したい。
あなたの居ない人生なんて、わたしにはもう考えられないから。
わたしはゆっくりと夫の方へと向かい、声を掛けた。
「……シグルド……」
わたしが名を呼ぶと、シグルドの肩がぴくりと跳ねた。
「シグルド」
もう一度その名を呼ぶ。
彼はゆっくりと振り返った。
そしてわたしの顔をじっと見つめる。
また「はじめまして」のわたしの顔は、
シグルドにはどう映っているのだろう。
また一目惚れをして貰えるだろうか……
怖い。でもわたしは彼へのありったけの想いを込めて、微笑んだ。
その瞬間、名を呼ばれた。
「アシュリ」
「………!」
変わらない、優しくて愛に溢れた眼差しを、シグルドがわたしに向けてくれている。
「アシュリ」
もう一度名を呼ばれる。
呼び捨て……プロポーズを受けるまで、シグルドはわたしを「アシュリさん」と呼んでいた。
「シグルド……?」
ーーまさか……まさか、
呆然と立ち竦むわたしに、シグルドは両手を広げた。
「おいでアシュリ。俺の可愛いお嫁さん」
その瞬間、足を踏み出していた。
両手を広げた彼の胸の中に、吸い込まれるように飛び込んでいた。
「シグルドっ、シグルドっ……!」
涙も言葉も想いも溢れてぐちゃぐちゃになる。
「アシュリ……」
シグルドが力強くわたしを包み込んでくれた。
「シグルドっ……どうしてっ?わたしの事、忘れていないのっ……?」
「忘れてないよ」
「なぜ?どうして?」
「試験展開もせずに、初めて使う術式だったからね。ちょーーっと自信が無くて種明かしが出来なかったんだ。だけどやっぱり俺のアシュリへの愛は偉大で、そして俺はやっぱり、偉大な魔術師だったよ」
「何それっ、何よそれっ……」
わたしはシグルドの腕の中で泣きじゃくった。、
わたしを抱きしめながらシグルドは答えてくれた。
任された新術の開発を進めてゆく上でわたしの出自に気が付き、そしてこの術の危うさを悟った。
その為に予め魔術の効果を反対のものにして相殺する反転魔法の術式を構築していたそうなのだ。
残念ながら虚無の魔力には力及ばず施術する事は敵わなかったが、記憶の消去から自分自身の身を守る事は可能である筈だと考えたらしい。
だからわたしに全員の記憶の消去をするように言ったのだそうだ。
でも反転術式を成功させる100%の自信はなかった。
だから変に期待をさせるような事は出来ないと、打ち明けられなかったんだとシグルドは言った。
「……よかったぁ……」
「うん、よかった……俺、術式を唱えると同時に絶対忘れたくない忘れたくないって、それこそ術式のように思い続けたんだ。それのおかげかアシュリの事を、大切な妻の事を忘れずにすんだ……」
「シグルド……わたしの為に頑張ってくれてありがとう」
互いに安堵と喜び分かち合い、噛み締め合うわたし達の後ろでは、意識を失ったままの国王陛下が侍従達によって運ばれて行く。
突然跡形もなく消え去った暴走魔力の事や、
犠牲となった魔術師達の死体の片付けなどで騒がしくなり、誰もわたし達の事を気にする余裕はないようだった。
シグルドはわたしに言う。
「帰ろう、アシュリ」
「うん、帰りましょう。我が家へ」
わたしは頷きながら彼のローブをきゅっと掴んだ。
その途端、体がどこかへ引っ張られる感覚がして、シグルドがわたしを抱いたまま転移魔法を用いたのだと分かった。
そして次に着地した場所は住み慣れた我が家、
魔術師専用の下宿“変人の魔窟”……じゃない“賢人の洞窟”だった。
二人で帰れた事が奇跡のように感じる。
いえ、実際に奇跡は起きたのだろう。
誰が起こした奇跡なのかはわからない。
わたし?
シグルド?
それとも、タルバートおじさん?
もしかしたら、みんなの強い思いが奇跡を起こしたのかもしれない。
今はただその奇跡に、わたしは感謝した。
ありがとう……
チュ♡
ホントにありがとう
チュ♡チュ♡
チュ♡
「っもう!シグルド!少しくらい感傷に浸らせてよ!」
下宿に戻った途端にシグルドからキスの嵐が降り注いでいた。
頬に、瞼に、こめかみに。
つむじや頸、そして鼻先に、シグルドは啄むようなキスを落としてくる。
「だって……!あの時のアシュリがホントもう可愛い過ぎてっ……俺の事忘れたくないって、イヤって泣きじゃくって……もう愛しくて抱きしめたくてキスしたくて可愛がりたくて、辛抱堪らなかったんだっ!!」
「あ、あの瞬間にそんな事を考えてたのっ?あんな大変な時にっ!?」
「仕方ないよアシュリ。俺はいつだってどんな時だって、アシュリとイチャイチャして全身可愛がりまくりたいと思ってるんだからっ!」
「恥ずかしい事を威張って言わないで!」
「ムリだっ!好きだっ!愛してるっ!」
「きゃあっ!シグルドっ!?」
シグルドはいきなりわたしを横抱きにしてスタスタと急ぎ足で歩き出した。
行き先は……………寝室のようだ。
「ちょっ……?ウソでしょ?シグルド、いきなりっ!?」
「うん♡愛してるよアシュリ♡」
「ちょっと待って、偉大な魔術師サマ!?」
わたしの抗議する声も虚しく、
バタンッ!と無情な音を立てて寝室の扉は閉じられた……
そしてそれからひと月後に、
わたしの妊娠が判明した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次回、最終話です。
昨日のお話では雰囲気を壊してはいけないと思って我慢してましたが……
虚無の魔力に手を繋いで向かい合うアシュリとシグルド……
思わず「バ○ス!」と言いたくなりました……☆
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