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そしてやって来た元妻
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今回はアシュリとメラニー、それぞれの視点で進みます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「シグルドから聞いてると思うけど、ワタシが彼の元妻だからって気にしないで仲良くしてくれると嬉しいわ、アシュリさん」
その夜、仕事が終わってから大きな荷箱三つとトランク一つを携えて、メラニー=オーウェンさんが202号室に入居してきた。
「はい。こちらこそよろしくお願いします、オーウェンさん」
わたしがそう挨拶すると、オーウェンさんは笑顔で告げた。
「メラニーと呼んで♪ワタシもアシュリさんと呼ばせて貰うから」
「はい。ではメラニーさん、困った事があったら何でも言って下さいね……って、シグルド!目の前に壁の様に立たれたら話し辛いわよっ」
わたしを背に庇うようにメラニーさんとの間に立ち塞がる夫シグルドに抗議する。
今までのやり取りはシグルドの背中から顔をひょこひょこ出してやっていたのだ。
シグルドは情け無い表情をしながら答えた。
「ダメだよアシュリ。メラニーには半径10メートル以上離れて接しないと」
「半径10メートルも離れたら家から出ちゃうわよ」
「そうだね、メラニーを外に追い出そう」
「どうしてそうなるの」
「だって俺とアシュリの愛の巣にこんな異物……」
わたしとシグルドのやり取りをもの珍しそうに繁々と見ていたメラニーさんが驚いたようにシグルドに言った。
「ちょっと……!アンタ誰?ホントにシグルド=スタングレイ?」
「他に誰がいるんだよ」
「だって別人みたいじゃないっ!ナニそのデレデレな態度!」
「愛する妻にデレるのは当然だろ」
「ワタシにはそんな風に接してくれた事なんてなかったじゃない」
「だってお前は“愛する妻”ではなかったからな」
「えーヒド~っ」
「とにかく!極力俺のアシュリに近づくな、分かったな!イヤなら出て行けっ」
そう言い捨てて、シグルドは大家の部屋の扉をバタンと閉めた。
◇◇◇◇◇
「な、な、なんなのっ!?アイツ、あんな性格だったっけっ!?」
ワタシ、メラニー=オーウェンは早速入った部屋でトランクを投げ捨てて唸った。
ワタシの知ってるシグルドは子どもの頃から無愛想で可愛げのない、顔の作りが良いだけのつまんない男だった。
親を亡くして始めて実家に連れて来られた時も、父親にワタシとの婚約を言い渡された時も、十八歳直前に契約結婚を結んだ時も、離婚する時も感情を表に出す事もなく淡々としていたのに。
今妻にはあんな甘い声を出してあんな優しい顔を向けてるなんて……
なんか無性に腹が立つ。
またアイツを利用するのに丁度良かったからこのプロジェクトを受けたのに。
これじゃあ簡単に首を縦に振らないんじゃないかしら……
困ったわ。
絶対に協力して貰わなくてはいけないのに。
「……今妻が邪魔ね……シグルド次第では排除もやむなし、か」
ワタシは安易にコトが成せると思っていた考えを改めて、どうするべきか思案した。
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「シグルドから聞いてると思うけど、ワタシが彼の元妻だからって気にしないで仲良くしてくれると嬉しいわ、アシュリさん」
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「ダメだよアシュリ。メラニーには半径10メートル以上離れて接しないと」
「半径10メートルも離れたら家から出ちゃうわよ」
「そうだね、メラニーを外に追い出そう」
「どうしてそうなるの」
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「だってお前は“愛する妻”ではなかったからな」
「えーヒド~っ」
「とにかく!極力俺のアシュリに近づくな、分かったな!イヤなら出て行けっ」
そう言い捨てて、シグルドは大家の部屋の扉をバタンと閉めた。
◇◇◇◇◇
「な、な、なんなのっ!?アイツ、あんな性格だったっけっ!?」
ワタシ、メラニー=オーウェンは早速入った部屋でトランクを投げ捨てて唸った。
ワタシの知ってるシグルドは子どもの頃から無愛想で可愛げのない、顔の作りが良いだけのつまんない男だった。
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