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リリーは模索した
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一念発起して職業婦人を目指す事にしたリリー。
しかしどんな仕事が自分に向いているか全く見当もつかないリリー。
ヘイワードが行き当たりばったりのノープランと言ったのはあながち間違いではない。
だけどリリーなりに考えての決心だった。
〈グレインと婚約解消になって、
すぐに次の嫁ぎ先が決まるとは思えないのよね……
もう19歳になっちゃったし、それにグレインに気持ちが残ったままで結婚したら相手の方に失礼じゃないかしら。でも婚約者でも親戚でもないライト家にこれ以上お世話になり続けるわけにもいかないし、解消後はすぐにここを出て自活しなくちゃ。その為にはやっぱり仕事を持たなくてはいけないわよね〉
リリーはとりあえずジョゼットが何冊か取り寄せてくれた、女性が就ける仕事について書かれた本を片っ端から読みまくった。
読み終わった本を机に置いた時、手紙の束が目につく。
グレインから貰った手紙だ。
どれもリリーには大切な宝物で、綺麗な柄の焼き菓子の空き箱に入れて大切に保管していたのだ。
しかし婚約が解消となるなら未練がましく持っていても仕方ない。婚約解消手続きの書類と共にグレインに返そうと思って出しておいたのだ。
その内の一通に久しぶりに目を通す。
この手紙が届いたのはまだ彼が王太子殿下の騎士になって日が浅い頃だ。
同僚の騎士が王宮の屋上から婚約者に向けて一世一代の大告白をして、それが上手くいったと書いてある。
王太子殿下も仲間の自分たちも己の事のように喜び、みんなでその騎士を揉みくちゃにした様子などが楽しげに書いてあって、手紙を読みながら笑った記憶が蘇った。
「婚約者に大告白……」
いいなぁ。
リリーは自分のキャラメルブラウンの髪を指先で巻き取った。
くるくる指先で髪を弄ぶ。
グレインの恋人の髪はとても鮮やかな赤だった。
あんな綺麗な赤い髪は見た事がない。
あまりに髪色の印象が強烈過ぎて恋人の顔をよく見ていなかった。
どんな顔だったんだろう。
きっと髪色に負けない、美しい人だったんだろうな。
リリーは自分の髪を見てため息を吐く。
「平凡な髪色……」
わたしの髪色が好きだと言ったくせに。
嘘つき。
グレインは嘘つきだ。
「……………美容師はどうかしら?」
髪繋がりで思いついた。
いつも髪を結うのはメイドではなく自分でやっているし、我ながら手先は器用な方だと思う。
リリーは早速、美容師について書かれた項目を開き、読み耽った。
「…………美容師は無理ね」
資格を取る為に勉強するのも、どこかの美容室で修行するのもやぶさかではない。むしろやってみたいくらいだ。でも、貴族女性を見習いとして雇い入れる店は皆無らしい。
リリーはもう貴族女性とは言えないのだが、だからこそ余計にそんなややこしい人間を雇いたがる所は無いそうだ。
まぁ確かにそりゃそうか。
「うーん……わたしに出来る仕事ってあるのかな?あるとすれば一体なんだろう……」
こんな事になるのなら、花嫁修行ではなくどこかの貴族の家に奉公にでも出れば良かった。
リリーが出来る事といえば簡単な家政とパーフェクトな成績で修めた基礎学習を子どもに教える事くらいだ。
あ。
「…………そうよ、なぜ今まで思い付かなかったのかしらっ」
女性家庭教師だ。
それなら住み込みが殆どだから住む所にも困らないし、没落だろうが天涯孤独の元貴族令嬢だろうが関係なく雇い入れて貰える!
女性家庭教師リリー!!
カッコいい!
リリーは自分の思いつきに悦に浸りながら女性家庭教師の項目を開いた。
◇◇◇◇◇
グレインに会いに王都へ行っていたヘイワードが帰って来たのは皆が寝静まった真夜中の事だった。
家令から知らせを受け、ジョゼットは急ぎ迎えに出た。
「おかえりなさいヘイワード。どうしたの、酷く疲れた顔をしているわ、グレイン様には会えたの?」
「ただいまジョゼ。……リリーは?」
「リリーなら当然もう休んでいるわ。何かあったの?」
ヘイワードは上着を脱ぎながら大きくため息を吐いた。
「あったも何も、グレインには会えなかった……」
「え?何故?寮の方にまで行ったんでしょう?」
「その寮に帰っていないようなんだ。それならばと思ってリリーがグレインを目撃したというアパートまで行ってみたが、アパートには老夫婦と壮年の夫婦が住んでいるだけで、あとは空き家だった」
「まぁ……それは一体どういう事なの?」
「さっぱりわからない……だからもう直接王宮騎士団の詰め所に行ってみたんだが、任務中で王都に居ないと言われた」
「……お手上げですわね……」
「全くだ」
「どうするつもりなの?」
ジョゼットの問いかけに、ヘイワードは顎に手を当て思案した。
「……どう転んでもいいように、とりあえず婚約解消に向けての必要書類は用意しておく。あいつがホントに不貞を働いたのなら即解消すればいいし、そうでないのなら使わないまま破棄すればいい」
ジョゼットが頷きながら同意する。
「そうね。書類を整えておくだけでもリリーは安心するだろうし、時間稼ぎにもなるわね」
「キミにも心配をかけてすまないな」
「何を言うの。リリーは私にとって実の妹も同然の存在なのよ。グレイン様は貴方の弟だし。家族なんだから心配するのは当たり前の事よ」
「ありがとう、ジョゼ……」
ヘイワードは妻を優しく抱き寄せた。
その明くる朝、共に朝食を食べている時にヘイワードは王都でグレインに会えなかった事をリリーに告げた。
「……そうですか……」
リリーはポーチドエッグの黄身をソースのようにベーコン絡ませながら返事をする。
なんだかもうよくわからない。
まるでグレインが酷く遠い異国の人のようだ。
物理的にもそして気持ちの上でも、果てしなく距離のある遠い存在であると感じてしまう。
リリーはカトラリーを置いてヘイワードとジョゼットに告げた。
「ヘイワード様、ジョゼット様、わたし決めました」
その言葉を聞き、ヘイワードは手にしていたカトラリーでガシャンと皿に音を立ててしまう。
テーブルマナーのきちんとしたヘイワードらしからぬ所作だ。
「な、何を決めたんだい……?」
リリーの「わたし決めました」はもはやヘイワードにとって爆弾発言の前フリ以外何物でもないようだ。
「わたし、女性家庭教師になろうと思います!」
「「女性家庭教師!?」」
ヘイワードとジョゼットの声が重なる。
「わたしのような者でも子どもに勉強を教える事は出来ます。寝食付きだしお給金もいい、女性家庭教師協会に登録を済ませておけば、婚約解消後すぐにここを出て働く事が出来ますもの」
「ここを……出る?」
ヘイワードの顔に影が落ちる。
ジョゼットがリリーに言った。
「リリー……グレイン様との婚約が解消されたからといって、あなたが出て行く必要はないのよ?あなたはこの家から、本当に幸せになれそうな相手に嫁げばいいの。だからそれまでここに居て頂戴」
「ありがとうございます。お二人ならそう言ってくれるだろうと思っていました。でもそれでは筋が通りません。いつまでもわたしがここにお世話になるわけにはいかないんです」
「リリー……」
ジョゼットが泣きそうな顔をしたのと同時にヘイワードの低い声が室内に響いた。
「ダメだ」
「ヘイワード様?」
地を這うようなヘイワードの低い声にリリーは目を見張った。
「そんな理由でここを出て行くなんて許さないよ。リリーはずっとここに居ていいんだ。もしグレインと顔を合わせる事が嫌で出て行こうとしているのなら、アイツには二度とこの家の敷居は跨がせない」
「そ、そんなっダメですよ!グレインはヘイワード様のたった一人の弟じゃないですか!わたしの為にそれな事をする必要はありません!」
「自分の婚約者を捨てて他の女に走るような奴を弟とは思わない!そんな情けない奴よりリリーの方がよっぽど大切だ!」
「ヘイワード様……」
〈普段温厚なヘイワード様がこんな堅い表情で声を荒げるなんて……〉
リリーは驚きを隠せなかった。
そして心がじんわりと温かくなる。
あぁ…この人達は本当にわたしの事を家族として大切に思ってくれてるんだなぁと。
でも、だからこそ。
いつまでも迷惑をかけるわけにはいかない。
ここに居続ける限り、ヘイワードにはリリーに対する責任が生じる。
婚約解消となった女の次の嫁ぎ先を見つけるのも、その所為で跳ね上がる持参金を用立てるのもみんなヘイワードの負担になるのだ。
亡き両親が遺してくれた遺産も多少はあるが、
良縁を望むならそれを全部注ぎ込んでも足らないだろう。
だからこそリリーは女性家庭教師になって自活する事にしたのだ。
さらに結婚しなければ持参金の必要はなくなる。
黙り込むリリーにジョゼットが言った。
「リリー、もう少しだけ私達に時間を頂戴。婚姻約定書の差し戻しにも時が掛かるし、婚約解消の届出を国に受理して貰えるように取り計らいもしなくてはいけない。ね?お願いよ、リリー……」
ジョゼットのその言葉にリリーは頷いた。
二人を困らせたいわけではないのだ。
「……わかりました」
「リリー……」「ありがとうリリー……」
ヘイワードとジョゼットが言う。
でもリリーの真意は本当は違った。
来週にでもまた王都へ強行突破をして、女性家庭教師協会へ行こう。
そして登録等をして、婚約解消に備えよう。
二人の優しさと責任感の上に胡座をかいているわけにはいかない。
自分に出来る事をやろう、リリーはそう思った。
一方ヘイワードは今の話を受けて、もしもの時の覚悟を決める。
今の状況から考えてグレインには何か事情があるのではないかとも思える。
だがしかし、
もしグレインが本当にリリーを裏切り他の女と結婚しようと言うのなら、ライト伯爵家の籍から外し縁を切る。
グレインは騎士で男でどこだろうと勝手に生きていける。
だけどリリーは違う。
亡き父やリリーの両親に代わり自分がリリーを必ず守るとヘイワードは固く決意した。
…………皆の思惑が相手不在でどんどん勝手に進んでいく……。
しかしどんな仕事が自分に向いているか全く見当もつかないリリー。
ヘイワードが行き当たりばったりのノープランと言ったのはあながち間違いではない。
だけどリリーなりに考えての決心だった。
〈グレインと婚約解消になって、
すぐに次の嫁ぎ先が決まるとは思えないのよね……
もう19歳になっちゃったし、それにグレインに気持ちが残ったままで結婚したら相手の方に失礼じゃないかしら。でも婚約者でも親戚でもないライト家にこれ以上お世話になり続けるわけにもいかないし、解消後はすぐにここを出て自活しなくちゃ。その為にはやっぱり仕事を持たなくてはいけないわよね〉
リリーはとりあえずジョゼットが何冊か取り寄せてくれた、女性が就ける仕事について書かれた本を片っ端から読みまくった。
読み終わった本を机に置いた時、手紙の束が目につく。
グレインから貰った手紙だ。
どれもリリーには大切な宝物で、綺麗な柄の焼き菓子の空き箱に入れて大切に保管していたのだ。
しかし婚約が解消となるなら未練がましく持っていても仕方ない。婚約解消手続きの書類と共にグレインに返そうと思って出しておいたのだ。
その内の一通に久しぶりに目を通す。
この手紙が届いたのはまだ彼が王太子殿下の騎士になって日が浅い頃だ。
同僚の騎士が王宮の屋上から婚約者に向けて一世一代の大告白をして、それが上手くいったと書いてある。
王太子殿下も仲間の自分たちも己の事のように喜び、みんなでその騎士を揉みくちゃにした様子などが楽しげに書いてあって、手紙を読みながら笑った記憶が蘇った。
「婚約者に大告白……」
いいなぁ。
リリーは自分のキャラメルブラウンの髪を指先で巻き取った。
くるくる指先で髪を弄ぶ。
グレインの恋人の髪はとても鮮やかな赤だった。
あんな綺麗な赤い髪は見た事がない。
あまりに髪色の印象が強烈過ぎて恋人の顔をよく見ていなかった。
どんな顔だったんだろう。
きっと髪色に負けない、美しい人だったんだろうな。
リリーは自分の髪を見てため息を吐く。
「平凡な髪色……」
わたしの髪色が好きだと言ったくせに。
嘘つき。
グレインは嘘つきだ。
「……………美容師はどうかしら?」
髪繋がりで思いついた。
いつも髪を結うのはメイドではなく自分でやっているし、我ながら手先は器用な方だと思う。
リリーは早速、美容師について書かれた項目を開き、読み耽った。
「…………美容師は無理ね」
資格を取る為に勉強するのも、どこかの美容室で修行するのもやぶさかではない。むしろやってみたいくらいだ。でも、貴族女性を見習いとして雇い入れる店は皆無らしい。
リリーはもう貴族女性とは言えないのだが、だからこそ余計にそんなややこしい人間を雇いたがる所は無いそうだ。
まぁ確かにそりゃそうか。
「うーん……わたしに出来る仕事ってあるのかな?あるとすれば一体なんだろう……」
こんな事になるのなら、花嫁修行ではなくどこかの貴族の家に奉公にでも出れば良かった。
リリーが出来る事といえば簡単な家政とパーフェクトな成績で修めた基礎学習を子どもに教える事くらいだ。
あ。
「…………そうよ、なぜ今まで思い付かなかったのかしらっ」
女性家庭教師だ。
それなら住み込みが殆どだから住む所にも困らないし、没落だろうが天涯孤独の元貴族令嬢だろうが関係なく雇い入れて貰える!
女性家庭教師リリー!!
カッコいい!
リリーは自分の思いつきに悦に浸りながら女性家庭教師の項目を開いた。
◇◇◇◇◇
グレインに会いに王都へ行っていたヘイワードが帰って来たのは皆が寝静まった真夜中の事だった。
家令から知らせを受け、ジョゼットは急ぎ迎えに出た。
「おかえりなさいヘイワード。どうしたの、酷く疲れた顔をしているわ、グレイン様には会えたの?」
「ただいまジョゼ。……リリーは?」
「リリーなら当然もう休んでいるわ。何かあったの?」
ヘイワードは上着を脱ぎながら大きくため息を吐いた。
「あったも何も、グレインには会えなかった……」
「え?何故?寮の方にまで行ったんでしょう?」
「その寮に帰っていないようなんだ。それならばと思ってリリーがグレインを目撃したというアパートまで行ってみたが、アパートには老夫婦と壮年の夫婦が住んでいるだけで、あとは空き家だった」
「まぁ……それは一体どういう事なの?」
「さっぱりわからない……だからもう直接王宮騎士団の詰め所に行ってみたんだが、任務中で王都に居ないと言われた」
「……お手上げですわね……」
「全くだ」
「どうするつもりなの?」
ジョゼットの問いかけに、ヘイワードは顎に手を当て思案した。
「……どう転んでもいいように、とりあえず婚約解消に向けての必要書類は用意しておく。あいつがホントに不貞を働いたのなら即解消すればいいし、そうでないのなら使わないまま破棄すればいい」
ジョゼットが頷きながら同意する。
「そうね。書類を整えておくだけでもリリーは安心するだろうし、時間稼ぎにもなるわね」
「キミにも心配をかけてすまないな」
「何を言うの。リリーは私にとって実の妹も同然の存在なのよ。グレイン様は貴方の弟だし。家族なんだから心配するのは当たり前の事よ」
「ありがとう、ジョゼ……」
ヘイワードは妻を優しく抱き寄せた。
その明くる朝、共に朝食を食べている時にヘイワードは王都でグレインに会えなかった事をリリーに告げた。
「……そうですか……」
リリーはポーチドエッグの黄身をソースのようにベーコン絡ませながら返事をする。
なんだかもうよくわからない。
まるでグレインが酷く遠い異国の人のようだ。
物理的にもそして気持ちの上でも、果てしなく距離のある遠い存在であると感じてしまう。
リリーはカトラリーを置いてヘイワードとジョゼットに告げた。
「ヘイワード様、ジョゼット様、わたし決めました」
その言葉を聞き、ヘイワードは手にしていたカトラリーでガシャンと皿に音を立ててしまう。
テーブルマナーのきちんとしたヘイワードらしからぬ所作だ。
「な、何を決めたんだい……?」
リリーの「わたし決めました」はもはやヘイワードにとって爆弾発言の前フリ以外何物でもないようだ。
「わたし、女性家庭教師になろうと思います!」
「「女性家庭教師!?」」
ヘイワードとジョゼットの声が重なる。
「わたしのような者でも子どもに勉強を教える事は出来ます。寝食付きだしお給金もいい、女性家庭教師協会に登録を済ませておけば、婚約解消後すぐにここを出て働く事が出来ますもの」
「ここを……出る?」
ヘイワードの顔に影が落ちる。
ジョゼットがリリーに言った。
「リリー……グレイン様との婚約が解消されたからといって、あなたが出て行く必要はないのよ?あなたはこの家から、本当に幸せになれそうな相手に嫁げばいいの。だからそれまでここに居て頂戴」
「ありがとうございます。お二人ならそう言ってくれるだろうと思っていました。でもそれでは筋が通りません。いつまでもわたしがここにお世話になるわけにはいかないんです」
「リリー……」
ジョゼットが泣きそうな顔をしたのと同時にヘイワードの低い声が室内に響いた。
「ダメだ」
「ヘイワード様?」
地を這うようなヘイワードの低い声にリリーは目を見張った。
「そんな理由でここを出て行くなんて許さないよ。リリーはずっとここに居ていいんだ。もしグレインと顔を合わせる事が嫌で出て行こうとしているのなら、アイツには二度とこの家の敷居は跨がせない」
「そ、そんなっダメですよ!グレインはヘイワード様のたった一人の弟じゃないですか!わたしの為にそれな事をする必要はありません!」
「自分の婚約者を捨てて他の女に走るような奴を弟とは思わない!そんな情けない奴よりリリーの方がよっぽど大切だ!」
「ヘイワード様……」
〈普段温厚なヘイワード様がこんな堅い表情で声を荒げるなんて……〉
リリーは驚きを隠せなかった。
そして心がじんわりと温かくなる。
あぁ…この人達は本当にわたしの事を家族として大切に思ってくれてるんだなぁと。
でも、だからこそ。
いつまでも迷惑をかけるわけにはいかない。
ここに居続ける限り、ヘイワードにはリリーに対する責任が生じる。
婚約解消となった女の次の嫁ぎ先を見つけるのも、その所為で跳ね上がる持参金を用立てるのもみんなヘイワードの負担になるのだ。
亡き両親が遺してくれた遺産も多少はあるが、
良縁を望むならそれを全部注ぎ込んでも足らないだろう。
だからこそリリーは女性家庭教師になって自活する事にしたのだ。
さらに結婚しなければ持参金の必要はなくなる。
黙り込むリリーにジョゼットが言った。
「リリー、もう少しだけ私達に時間を頂戴。婚姻約定書の差し戻しにも時が掛かるし、婚約解消の届出を国に受理して貰えるように取り計らいもしなくてはいけない。ね?お願いよ、リリー……」
ジョゼットのその言葉にリリーは頷いた。
二人を困らせたいわけではないのだ。
「……わかりました」
「リリー……」「ありがとうリリー……」
ヘイワードとジョゼットが言う。
でもリリーの真意は本当は違った。
来週にでもまた王都へ強行突破をして、女性家庭教師協会へ行こう。
そして登録等をして、婚約解消に備えよう。
二人の優しさと責任感の上に胡座をかいているわけにはいかない。
自分に出来る事をやろう、リリーはそう思った。
一方ヘイワードは今の話を受けて、もしもの時の覚悟を決める。
今の状況から考えてグレインには何か事情があるのではないかとも思える。
だがしかし、
もしグレインが本当にリリーを裏切り他の女と結婚しようと言うのなら、ライト伯爵家の籍から外し縁を切る。
グレインは騎士で男でどこだろうと勝手に生きていける。
だけどリリーは違う。
亡き父やリリーの両親に代わり自分がリリーを必ず守るとヘイワードは固く決意した。
…………皆の思惑が相手不在でどんどん勝手に進んでいく……。
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