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プロローグ リリーは見た
しおりを挟む自分の目で確かめるなんて言わなければよかった。
噂が真実かなんてそんな事、
他の誰かに確認して貰えばよかった。
心の底ではそんなバカな、彼に限ってそんな筈はないと高を括っていたのだ。
だけど……目撃証人もいる、複数の噂もある。
尚且つあんなに頻繁に届いていた手紙の回数が減り、わたしに会いに来なくなった彼の行動が全てを裏付けしていたというのに。
それでもわたしはどこかで彼がわたしを裏切る訳がないと信じきっていたのだ。
だけど、現実は残酷だった。
火のない所に煙は立たず。
なんの根拠もない噂が、遠く離れた領地にいるわたしの所まで届くわけがない。
『グレイン=ライトが王宮の薬剤師と恋仲になったらしい』
『王太子の専属護衛騎士と平民の薬剤師との道ならぬロマンス』
『哀れグレイン卿は親が生前に決めた婚約者と真実の愛との間で板挟みにされている』
『グレイン卿の婚約者は元宮廷貴族の娘で引きニート☆』
(4番目の噂を流した奴出て来いや!)
三つの噂が真実かを確かめる為に勇んで王都に来たものの……
今、わたしの目の前にある光景が、
それが単なる噂では無かったと物語る。
夕方の街の喧騒の中、彼は彼女の肩を抱き、小さなアパートに入って行った。
グレインは王城内の寮に住んでいる筈だ。
という事はこのアパートは薬剤師の彼女が住むアパートなのだろう。
手慣れた様子で肩を抱く姿も、彼女の代わりに郵便受けを開けて手紙を取り出す仕草も手慣れたものだった。
そして二人、楽しそうにアパートの階段を上がって行く……。
そこまでで充分だった。
わたしはとてもその場に居られなくて走り去る。
来なければ良かった、見なければ良かった。
何も知らず彼が迎えに来るのを待っていれば良かった。
……迎えに来る?誰が?
彼はもう、わたしとの結婚を望んでいないだろう。
「そっか……そか、そうか……」
むしろわたしとの婚約を解消したいと思っているのだろう。
その後のわたしの記憶は曖昧だった。
ショックが大き過ぎてあちこちに思考が散乱し、霧散する。
気付けば宿屋の部屋の中だった。
せっかく王都に来たのだから一目会って帰ろうと思っていたけど、会わずに帰ろう。
そして帰ったら、お義兄様に全てお話して婚約解消の手続きを取って貰おう。
彼を……自由に、本当に愛する人と結ばれる事が出来るようにしてあげよう。
当たり前だけどその夜は眠れなかった。
彼との、グレインとの幼い時からの思い出がぐるぐると頭の中を駆け巡り、その度にわたしは涙を流した。
大好きだった。
初恋だった。
……幸せだった。
次の朝、わたしは目がぱんぱんに腫れた最高にブスな顔で王都を後にした。
頭の中には婚約解消の算段が、
胸の中には彼との思い出が
そして鞄の中には居候先のライト家へのお土産の『王都マンジュウ』が詰まっている。
わたしは大好きな故郷の領地へと帰路に付いた。
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