だから言ったのに! 〜婚約者は予言持ち〜

キムラましゅろう

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特別番外編 僕のアメリ

夕景を背に

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お茶会の席からアメリを奪還したルイスは彼女の手を引きながらゆっくりと廊下を歩いていた。

「アメリ、疲れた?」

「ふふ、少しだけ」

「あの親子は陰湿だからね」

ーー侯爵夫人、ご令嬢、本性を見抜かれてますよ……
アメリは心の中で合掌した。

「気分転換にテラスに出ない?この時間は夕景が素晴らしいんだ」

一応尋ねてくれてはいるが、ぎゅっと握られた手が離す気はないと物語っている。

「ふふ」

「アメリ?」

突然微笑んだアメリをルイスは不思議そうに見つめた。

「なんでもありません。是非ご一緒させてください」

アメリのその返事に一瞬目を見開いたルイスだったがすぐに嬉しそうな顔をしてアメリの手を引いて再び歩き出した。

そのテラスは王都の街を一望出来る位置にあり、
遠くに水平線も望める。


日没まであと1時間。

王都の街がオレンジ色に包まれる、この時間の景色が一番好きだとルイスは言った。

父王が大切に守り、そして繁栄へと導いているこの国を受け継ぎ、自分も良き王として正しく治めてゆきたいと、遠くを眺めながら言うルイスの横顔をアメリはじっと見つめていた。

父と母と自分の家族を恥じた事は一度もない。
だからといって自分のような者がゆくゆくはこの国の王妃になるなんて、とてもじゃないが許されないと思っていた。

でも今日のお茶会を省みて、そんな自分に違和感を感じた。

自分は何に対して許されないと思っていたのか。

陛下や王妃様?
それとも貴族や国民たち?

足りないものが多いからダメだと思った。
相応しくないからダメだと思った。

その所為でルイスの将来が危ぶまれるなら、
この想いを押し殺して身を引く覚悟は変わらずある。

自分は一体何に許されたいのか。

そんな事を考えるアメリの頬をルイスの手の平が包み込む。

「アメリ、何を考えていた……?」

「……ルイス様の事を……そして自分の事を」

「アメリ」

ルイスの瞳が自分を映している。

ーー彼の瞳はこんなにも深いブルーだったかしら……

アメリはここ数年、
ルイスの目を見ているようでちゃんと見ていなかった事に気付く。

彼から目を逸らし、想いを逸らし、答えを逸らす。

本当にルイスと結ばれたくないのなら
祖母の国に逃げる等、色々と手はあった筈だ。

それでもそれをしなかったのはルイスと離れたくなかったから。

ーーこのままでいいの?

繋がれたこの手を離すという事は、
彼の瞳にはもう自分は映らなくなるという事だ。
聞き慣れた大好きなその声でもう名を呼んで貰えないという事だ。

ーーそれでいいの?


「……よくない、よくないわ……」


知らず、涙が溢れていた。

「アメリ……?」

ルイスがアメリの涙を拭う。
そしてそっと自身の元へと引き寄せ抱きしめた。

「ごめん、ごめんアメリ。キミを泣かせても、困らせても、どうしても離してやれない。どうしてもキミが欲しいんだ……」

あぁ…そうね、困ったわ。本当に困った。

「困ります。泣くほど困ります。
だって……わたしもどうしてもルイス様の側を離れられないから」

「!……それなら離れなければいい。ずっと、一生側にいればいい」

「そんな事、許されるのでしょうか……」

「誰に許しを乞いたいの?周りにいる皆が認めてくれている。認めないと言う一部の部外者なんて取るに足らない連中だ。アメリ、キミは誰に許されたいの?」

「わたしは……」

アメリはルイスの瞳に映る自分を見た。

そして理解する。

「わたしは、わたしに許されたかった。
ルイス様を想う事を、あなたの側に居続ける事を……」

そうか。そうなのだ。
自分の自信の無さが、自分で許せなかったんだ。

でも自分の側には正しく評価してくれる人がいる。
卑下するなと諭してくれる人がいる。

そして、

そんな弱い自分を全て受け入れてくれる人がいる。

「ルイス様……わたしを、あなたの妻にして下さい……。何も持たないわたしですが、あなたを想う心だけは誰にも負けません。国を支えてゆくあなたを、わたしに支えさせてくださっ…

最後までは言わせて貰えなかった。

言葉ごとルイスの唇に塞がれたから。

優しく、だけど衝動的に。

初めての口付けは、今までのルイスの想いが全て込められた情熱的なものだった。

そしてルイスがアメリの前に跪く。

「アメリ、何度でも跪いてキミを乞うよ。
どうか僕の妻になって下さい。一生誰よりも近くキミの側にいる権利を僕に下さい」

「じゃああなたが跪くのはこれが最後ね……はい、ルイス様。喜んでお受けいたします」

「っアメリっ!!」

ルイスはがばりと立ち上がり、再びアメリに口付けをした。

夕景を背に重なる二つの影。

アメリはこの日の夕空を
一生忘れないだろうと思った。





「ヤレヤレ、やっと纏ったか☆ホント世話が焼けるなぁ」

ルイス達の姿など全く見えない城内の離れた所で
イグリードはひとり言ちた。

「若いっていいよネ~熱量が違うよね☆その熱を魔力に変換したらもの凄いだろうなぁ~」

そう言いながらスキップして廊下を進んでゆく。

そして行き着く先にいた、一人の男に声をかける。

「やぁご苦労様。僕の居る所にもキミの吟詠うたが聞こえてきたけど、さすがは吟遊詩人!上手だったね~!」

その男は先ほどジュリ達の前で吟詠した、ヴァンサン侯爵夫人が連れて来た者だった。

「……畏れ入ります。貴方は……?」

「僕?僕は通りすがりのパティシエさ☆今日のお茶会のお菓子は作ってないけどね」

「そのパティシエの方が何かご用で……?」

「うん、コーシャクフジンが何を依頼したのかなんて正直どーでもいいけど、何をしてもムダだよって伝えに来たんだ♪」

「……はて?何の事やら……」

「あはは!とぼけちゃんうんだ☆まぁいいよ。
ふ~ん東方の古い呪詛だね。知ってる?キミがさっき吟じてた悲恋の男も全く同じ呪詛で最後は命を落としたんだよ。僕は丁度その時かの国にいたんだけどさ、遺体は指一本しか残ってなかった。どんな英雄も最後は女の呪詛によって死ぬなんて呆気ないなって思ったんだよね~」

「は?300年前の話だぞ?お前、頭おかしいんじゃないか?」

「あ、それよく言われる☆」

「フン、多少は魔術を嗜むようだが、死にたくなければ黙ってる事だな。どうせそんじょそこらの西方の魔術師には解けない分類の重い呪詛だ」

「そんな凄い呪詛をたった一人のか弱いご令嬢に?」

吟遊詩人と名乗る男は肩を竦めて嘲笑した。

「そのご令嬢が邪魔なんだと。自ら手を下すわけじゃないから恐ろしい事でも平気でやれという。やんごとなき人種っていうのは魔物と一緒さ」

「そうでない人間もいるけどネ」

「どうでもいいさ。俺は受けた依頼を果たすのみ。呪詛を受けるご令嬢には気の毒だが、明日には遺体も残らず消え去っている」

「だからそれがムダだって言いに来たんだって☆」

「は?ムダだと?」

「だって呪詛は発動しないもん」

「なんだと?かなり高度な呪詛だぞ?」

「あれで?まだまだ修行が足りないんじゃない?
っていうか才能ないよキミ。いつか自分が施した呪いに殺されるよ?」

「何をバカな事をっ……

男は最後まで言葉を発する事は出来なかった。

気がつけば地面にのめり込まされている。

「っぐあっ…はっ……!」

「この城で、いやこの国でオイタはさせないよ。
僕の大切な人たちがいるこの場所ではね」

イグリードは指をパチンと鳴らした。

すると途端に城の中のとある場所で青白い炎が上がり、何やらを燃やす。

その何やらが燃え尽きると青白い炎は消えた。

「呪物は全部バーベキューにしたからネ♪ハイお疲れ様~!」

そう言ってイグリードは再び指をパチンと鳴らした。

すると今まで地面に這いつくばっていた男の姿が消えた。

「ふふ☆人を呪わば穴二つ、いや穴三つだよ☆」

そう言ってまた、イグリードはスキップしながら来た道を戻って行った。

次の日、早くも王都中がその話題で騒然となった。

ヴァンサン侯爵夫人と令嬢が突然屋敷から姿を消したというのだ。

夫であり父親であるヴァンサン侯爵が血眼になって妻と娘を探しているという。

屋敷の使用人の話では、夫人と令嬢が消える瞬間に指パッチンのような音が聞こえたとか……。

この事件は怪奇現象として、しばらく王都中その話題で持ちりきとなった。

そしてその話題が忘れ去られようとしていたニ年後、大陸から遠く離れた無人島にて夫人と令嬢と吟遊詩人を名乗る男が見つかったという。

発見時、夫人も令嬢も貴族女性とは思えないほど逞しく、そして清廉な人格に変わっていたという。

サバイバルを生き抜き、価値観も考え方も変わったのだろう。


話は逸れてしまったが、
ルイスがアメリを王城へと勝手に連れ帰って7日後。

とうとう彼が到着した。

ランバード領から王都までは馬車で一週間、駿馬を駆って5日である。

遠征地から帰り、娘が連れ去られた事を知った父親が馬を乗り継ぎ5日で王都の地を踏んだ。

アメリの父親、セルジオ=ローバン。

娘を奪還すべく王城の城門を通過したと、急ぎルイスの元へと知らせが入った。

「とうとう最後の関門だ……!」

アメリにプロポーズは受けて貰えたが、
その父親にはまだ許しを得てはいない。

娘は嫁にやらんと豪語する国境騎士団の最精鋭の一人と、ルイスは男として立ち向かわねばならなかった。


そしてその展開を喜ぶ暇人が一人。


「あはは☆ホームドラマの最骨頂だ!!」




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イグリードさん、ポップコーン片手に見学するそうです☆

次回、特別番外編の最終話です。
























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