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特別番外編 僕のアメリ
やっぱ誘拐じゃないのっ!!
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「アメリ」
青年になり、低く落ち着いた声になったというのにどこか幼い頃から変わらないように感じる自分の名を呼ぶその声。
6歳で出会った頃から何度この名を彼に呼んで貰ったのだろう。
小さい頃は嬉しくて、
少し大きくなってからはくすぐったくて、
今では少し胸が苦しくなる彼の声。
あとどれくらいの時が、私たちに残されているのだろう。
いずれ、いやそう遠くない将来、その優しい声で彼は他の女性の名を呼ぶようになるのだ。
アメリはそんな悲しい思考を悟られないようにニッコリと微笑んで振り返った。
「ご機嫌よう、ルイス様」
視線を合わせた瞬間に、こちらが気恥ずかしくなるくらい甘い笑みを向けてくれるルイスに毎度戸惑いながらもアメリは負けじと微笑み続けた。
「あら?今日はイグリード様とご一緒ではないのですか?」
アメリが尋ねるとルイスは何か含みがあるような声で答えた。
「あぁ、バルちゃんならおじい様に用事があるとかいって、ランバードの屋敷の方へ行ったよ」
「そうなのですね。ではルイス様、ご一緒にお茶でも如何ですか?」
アメリがいつも通りにお茶に誘うとルイスはゆっくりと首を横に振った。
「いや、今はやめておくよ。今日はいつもみたいに只キミに会いに来たわけじゃないんだ」
他の者なら気付かないかもしれないルイスの小さな変化に、アメリは気付く。
「何かあったのですか?」
「何事も起こらないかもしれないし、起こると言えばこれから起こるかな」
「え?」
要領を得ない言い方をするルイスにアメリが訝しげな顔をする。
「アメリ」
ルイスは一歩、アメリに近付く。
「ルイス様?」
「アメリ」
そしてもう一歩近付いた後、ルイスは片膝を付き、アメリの前で跪いた。
「……!」
アメリが息を呑む。
「アメリ、子どもの頃から今までもう何十回言い続けたかわからないけど、僕は何度でも言うよ」
ルイスはそっとアメリの手を取った。
「アメリ、僕の妃はキミしか考えられない。どうか、どうか僕と結婚してくださいっ……」
アメリ自身ももう何十回と聞いたプロポーズの言葉に、そっと目を閉じて応えた。
「……出来ません、ルイス様。私ではあなたの妃に相応しくありません。もう何度もそう申し上げているではないですか」
アメリが言うとルイスは頷いた。
「うん、もう何十回も聞いてるね」
「ではいい加減、ご理解いただけませんか?私も毎回同じ返事を繰り返すのは辛いのです」
「じゃあ同じ返事をしなければいい」
「ルイス様っ……」
ルイスは立ち上がってじっとアメリを見下ろした。
子どもの頃は一時アメリの方の背が高い時もあったのに、今では頭一つ分以上ルイスの方が高くなっている。
見つめられるだけでドキドキした。
アメリは本当はずっとルイスのその瞳に自分を映してして貰いたかった。
だけどアメリは視線を逸らす。
その時、ルイスが「ふっ」と小さく笑ったのがわかった。
それがなんだか妙に気になってアメリはルイスを見直す。
ルイスは何か達観したような表情でアメリを見ていた。
「アメリ、知っていた?僕って姿形も性質も、本当に父上にそっくりなんだ」
「え?それって……
“どういう事?”とは言わせて貰えなかった。
その瞬間、視界がふわっとぼやけて、アメリは意識を失う。
完全に目を閉じる間際に、悲しそうな目をしたルイスを見たような気がした。
次にアメリが目を覚ましたのは………
「ここ、どこかしら……?」
見事な意匠の施された見慣れぬ天井と、何から何まで質の良い物とわかるような調度品に囲まれた部屋の中だった。
自分は一体どうしたのだろう。
たしかルイスと話をしていた筈だ。
まだぼんやりする頭で考える。
そして自分の手が他の誰かの手に取られるている事にようやく気付いた。
「………ルイス様」
ベッドの横に椅子を置いて座り、
アメリの手を大切そうに包みこんでいるルイスがそこにいた。
「手荒な真似をしてゴメン。
でも僕はもう待てない。本当はキミにきちんとプロポーズを受け入れて貰ってから城に迎えようと思ってたんだけど……ホントにゴメンね」
ルイスのその言葉にアメリはぎょっとした。
「ゴ、ゴメンって何をですか?ま、待てないって何ですかっ?」
「そのまんまだよ。アメリ、僕たちはもう18だ。そろそろこれからの事を考えなくてはならない。わかるよね?これからの事とはもちろん結婚の事だよ?僕は6歳の頃から婚約者の座をアメリ専用でリザーブしてるんだよ?」
「勝手にリザーブされても困りますっ、私には王太子妃なんて、ましてや未来の王妃なんて務まりませんっ、もっと高位の、貴方に相応しいご令嬢を選んでくださいっ……」
「いやだ」
「ルイス様っ……」
アメリの懇願にも即答で否を返すルイスにアメリは頭を抱えた。
「……もしかしてここは王城ですか?」
「そうだよ。僕の住む家。そしてこれからはキミの家でもある」
「そんな無茶な……」
「アメリ、僕は父上に似て我慢スキルゼロなんだ。それでも12年も我慢したんだ、偉いと思わない?」
12年我慢したならこれからもそうして欲しいと思ったアメリ。
それを口に出そうか迷ったその時、突然イグリードが転移して来た。
「ルイ坊っ!来たっ!来たよっ!地獄の門番が来たよっ!」
ルイスはその言葉を振り返らずに背に聞き、アメリに告げた。
「アメリ……」
「は、はい」
「また後でゆっくり話そう。とりあえず今は……」
「今は?」
「……僕が殺されない事を祈ってて!」
「えぇっ?」
物騒な言葉を情けない顔で告げたルイスを見て、アメリは何事かと心配になった。
地獄の門番とは?殺されるって何?とアメリが思った次の瞬間、城中が震撼したのではないかと思うくらい大きな音を立てて部屋の扉が開かれた。
「ル゛イスっーーーー!!!」
ぶち壊すほどの凄まじい勢いで扉を開け、中に入って来たのは、アメリも幼い頃からよく知っているこの国の王妃でありルイスの生母であるジュリであった。
「は、母上っ!これには深い訳がっ!聞いて下さいっ、拳で語るのではなく口で語り合いましょうっ!!」
「お黙りっ!!あなた、とうとうやりやがったわねぇぇっ!!」
ジュリは息子の胸倉を掴み、ギリギリと締め上げた。
「ちょっま……苦っ……は、母上っ……!」
「侍従長から聞いたわよっ!アメリを誘拐して来たんですってぇぇっ!?」
美しい額に青スジを立てて怒りを露わにするジュリにイグリードが慌てて取りなす。
「ジュリ!ジュリ待って!ルイ坊が死んじゃうっ!」
「どこぞの暇人が授けた加護があるのにこのくらいで死ぬわけあるかぁっ……!
ていうかイグリード、あなたも共犯者でしょうがっ!!」
ジュリは両手で締め上げいた手を片方外し、イグリードの胸倉も掴んだ。
「きゃーっ!ジュリさんっ、ジュリさんちょっとタンマっ!!」
「や゛かましいっわっ!!」
ベッドに座っていたアメリは、その修羅場をただ呆然として見ている事しか出来なかった。
そしてその後、ルイスとイグリードはジュリにこの自体に至った経緯を説明させられた。
もちろん、正座で。
「……という訳で、ルイ坊は覚悟を決めてアメリちゃんをお城に招待したという訳なんだ☆」
「招待じゃねぇ、誘拐でしょう、これは」
「う゛っ」
イグリードのルイス擁護の説明をジュリはバッサリと切り捨てる。
ルイスは慌てて補足した。
「誘拐だなんて!ちゃんとアメリの母君の承諾は得ましたよっ?結婚まで節度ある距離で接してくれるなら構わないとっ……」
その言葉にベッドの方からアメリの「えっ?」という声が聞こえた。
「アニスさんの?じゃあアメリちゃん本人の了承も得て城に連れて来たの?」
「……それは、ちょっと、魔法で眠らせてその隙に……」
「それを誘拐と言うんですっ!!」
「痛っ!」
ジュリは持っていた扇子でルイスの頭を叩いた。
そして大きくため息を吐いてアメリの元へと行った。
「ごめんなさい、アメリちゃん……とんでもないバカ息子で本当にごめんなさい……」
項垂れながら謝るジュリにアメリは慌てて言った。
「そんなっ、王妃様が謝られる事ではありませんっ……少し、いえかなり驚きましたけど……」
「そうよね、わたしも心底たまげたわ。
まさかこんな強硬手段を取るとは……あのバカ王子とバカ賢者は後で責任を持って始末しておくわね」
「「ヒィっ」」
ジュリの言葉にルイスとイグリードが震え上がった。
それを無視してジュリはアメリに言った。
「でもアメリちゃん、王都は3年ぶりくらいじゃない?せっかく来たんだからゆっくりしていって欲しいわ。娘たちも喜ぶし……どうかしら?」
アメリは考えた。
勝手に連れて来られたのは困るが、母もこの事を知っているなら余計な心配を掛ける事もないだろうし、もしかして王都に来るのはこれが最後になるかもしれない。
いや最後とは大袈裟かもしれないが、辺境のランバード領から王都にくる事はきっともう早々ないはずだ。
幼い頃から仲良くして貰った王妃や姫達と最後の交流をしてから帰っても遅くはないはずだと。
「はい、わかりました」
アメリの返事を聞き、ジュリは喜んだ。
そして今いる客間ではなく、最もルイスの私室から離れた部屋へと移された。
それに対してルイスが小さく抗議する。
(怖くて強くは言えない)
「母上っ!アメリと引き離されては彼女にプロポーズを受け入れて貰おう大作戦がし難くなるではないですかっ」
「同じ城に居るんだからいいでしょう。
そこは自分なりに頑張りなさい」
ジュリのその物言いに含みを感じたルイスがそっと尋ねる。
「母上、もしかして協力してくれようとか考えてます?」
ジュリはジト目で息子を見ながら答えた。
「…………わたしだってあなたの嫁は、あの子がいいとずっと思ってきたのよ」
「母上っ……!」
思いがけない母の言葉にルイスは感激した、が、釘を刺すように扇子でぺしりと頭を叩かれる。
「でもあなた、もう一つ、覚悟しておいた方がいいんじゃない?」
「へ?な、何をですか?」
「向こうのお父様、今は遠征中だけど、帰って来て娘が拉致られたと知った時には……怖いわねぇ~~?」
「ヒィっ!!」
それに対してイグリードが声高らかに告げた。
「大丈夫だよジュリ!もちろんルイ坊もそれは覚悟の上での決行だったんだから!例え腕の1本や2本を失おうとも、きっと立派に親父さんと対峙して漢を見せてくれるさっ☆」
「ヒィっ!?」
「……イグリード、今もしかして娘を嫁に出す父親の描いた小説とか読んでる?」
「あはは☆当たり!さすがはジュリだね。今は後宮の戦慄シリーズよりもホームドラマシリーズにハマってるんだ☆」
他国の王女が仕出かした呪いの一件から、ドロドロとした小説ばかり読んでいたイグリードだが、最近は趣向が変わったらしい。
まぁ要するに全て面白がっているのだった。
こうしてルイスのアメリを妃に迎えるぞ大作戦は始まったわけだが、
まだまだ乗り越えねばならない壁や解決せねばならない問題もあり、なかなか前途多難な様子であった。
青年になり、低く落ち着いた声になったというのにどこか幼い頃から変わらないように感じる自分の名を呼ぶその声。
6歳で出会った頃から何度この名を彼に呼んで貰ったのだろう。
小さい頃は嬉しくて、
少し大きくなってからはくすぐったくて、
今では少し胸が苦しくなる彼の声。
あとどれくらいの時が、私たちに残されているのだろう。
いずれ、いやそう遠くない将来、その優しい声で彼は他の女性の名を呼ぶようになるのだ。
アメリはそんな悲しい思考を悟られないようにニッコリと微笑んで振り返った。
「ご機嫌よう、ルイス様」
視線を合わせた瞬間に、こちらが気恥ずかしくなるくらい甘い笑みを向けてくれるルイスに毎度戸惑いながらもアメリは負けじと微笑み続けた。
「あら?今日はイグリード様とご一緒ではないのですか?」
アメリが尋ねるとルイスは何か含みがあるような声で答えた。
「あぁ、バルちゃんならおじい様に用事があるとかいって、ランバードの屋敷の方へ行ったよ」
「そうなのですね。ではルイス様、ご一緒にお茶でも如何ですか?」
アメリがいつも通りにお茶に誘うとルイスはゆっくりと首を横に振った。
「いや、今はやめておくよ。今日はいつもみたいに只キミに会いに来たわけじゃないんだ」
他の者なら気付かないかもしれないルイスの小さな変化に、アメリは気付く。
「何かあったのですか?」
「何事も起こらないかもしれないし、起こると言えばこれから起こるかな」
「え?」
要領を得ない言い方をするルイスにアメリが訝しげな顔をする。
「アメリ」
ルイスは一歩、アメリに近付く。
「ルイス様?」
「アメリ」
そしてもう一歩近付いた後、ルイスは片膝を付き、アメリの前で跪いた。
「……!」
アメリが息を呑む。
「アメリ、子どもの頃から今までもう何十回言い続けたかわからないけど、僕は何度でも言うよ」
ルイスはそっとアメリの手を取った。
「アメリ、僕の妃はキミしか考えられない。どうか、どうか僕と結婚してくださいっ……」
アメリ自身ももう何十回と聞いたプロポーズの言葉に、そっと目を閉じて応えた。
「……出来ません、ルイス様。私ではあなたの妃に相応しくありません。もう何度もそう申し上げているではないですか」
アメリが言うとルイスは頷いた。
「うん、もう何十回も聞いてるね」
「ではいい加減、ご理解いただけませんか?私も毎回同じ返事を繰り返すのは辛いのです」
「じゃあ同じ返事をしなければいい」
「ルイス様っ……」
ルイスは立ち上がってじっとアメリを見下ろした。
子どもの頃は一時アメリの方の背が高い時もあったのに、今では頭一つ分以上ルイスの方が高くなっている。
見つめられるだけでドキドキした。
アメリは本当はずっとルイスのその瞳に自分を映してして貰いたかった。
だけどアメリは視線を逸らす。
その時、ルイスが「ふっ」と小さく笑ったのがわかった。
それがなんだか妙に気になってアメリはルイスを見直す。
ルイスは何か達観したような表情でアメリを見ていた。
「アメリ、知っていた?僕って姿形も性質も、本当に父上にそっくりなんだ」
「え?それって……
“どういう事?”とは言わせて貰えなかった。
その瞬間、視界がふわっとぼやけて、アメリは意識を失う。
完全に目を閉じる間際に、悲しそうな目をしたルイスを見たような気がした。
次にアメリが目を覚ましたのは………
「ここ、どこかしら……?」
見事な意匠の施された見慣れぬ天井と、何から何まで質の良い物とわかるような調度品に囲まれた部屋の中だった。
自分は一体どうしたのだろう。
たしかルイスと話をしていた筈だ。
まだぼんやりする頭で考える。
そして自分の手が他の誰かの手に取られるている事にようやく気付いた。
「………ルイス様」
ベッドの横に椅子を置いて座り、
アメリの手を大切そうに包みこんでいるルイスがそこにいた。
「手荒な真似をしてゴメン。
でも僕はもう待てない。本当はキミにきちんとプロポーズを受け入れて貰ってから城に迎えようと思ってたんだけど……ホントにゴメンね」
ルイスのその言葉にアメリはぎょっとした。
「ゴ、ゴメンって何をですか?ま、待てないって何ですかっ?」
「そのまんまだよ。アメリ、僕たちはもう18だ。そろそろこれからの事を考えなくてはならない。わかるよね?これからの事とはもちろん結婚の事だよ?僕は6歳の頃から婚約者の座をアメリ専用でリザーブしてるんだよ?」
「勝手にリザーブされても困りますっ、私には王太子妃なんて、ましてや未来の王妃なんて務まりませんっ、もっと高位の、貴方に相応しいご令嬢を選んでくださいっ……」
「いやだ」
「ルイス様っ……」
アメリの懇願にも即答で否を返すルイスにアメリは頭を抱えた。
「……もしかしてここは王城ですか?」
「そうだよ。僕の住む家。そしてこれからはキミの家でもある」
「そんな無茶な……」
「アメリ、僕は父上に似て我慢スキルゼロなんだ。それでも12年も我慢したんだ、偉いと思わない?」
12年我慢したならこれからもそうして欲しいと思ったアメリ。
それを口に出そうか迷ったその時、突然イグリードが転移して来た。
「ルイ坊っ!来たっ!来たよっ!地獄の門番が来たよっ!」
ルイスはその言葉を振り返らずに背に聞き、アメリに告げた。
「アメリ……」
「は、はい」
「また後でゆっくり話そう。とりあえず今は……」
「今は?」
「……僕が殺されない事を祈ってて!」
「えぇっ?」
物騒な言葉を情けない顔で告げたルイスを見て、アメリは何事かと心配になった。
地獄の門番とは?殺されるって何?とアメリが思った次の瞬間、城中が震撼したのではないかと思うくらい大きな音を立てて部屋の扉が開かれた。
「ル゛イスっーーーー!!!」
ぶち壊すほどの凄まじい勢いで扉を開け、中に入って来たのは、アメリも幼い頃からよく知っているこの国の王妃でありルイスの生母であるジュリであった。
「は、母上っ!これには深い訳がっ!聞いて下さいっ、拳で語るのではなく口で語り合いましょうっ!!」
「お黙りっ!!あなた、とうとうやりやがったわねぇぇっ!!」
ジュリは息子の胸倉を掴み、ギリギリと締め上げた。
「ちょっま……苦っ……は、母上っ……!」
「侍従長から聞いたわよっ!アメリを誘拐して来たんですってぇぇっ!?」
美しい額に青スジを立てて怒りを露わにするジュリにイグリードが慌てて取りなす。
「ジュリ!ジュリ待って!ルイ坊が死んじゃうっ!」
「どこぞの暇人が授けた加護があるのにこのくらいで死ぬわけあるかぁっ……!
ていうかイグリード、あなたも共犯者でしょうがっ!!」
ジュリは両手で締め上げいた手を片方外し、イグリードの胸倉も掴んだ。
「きゃーっ!ジュリさんっ、ジュリさんちょっとタンマっ!!」
「や゛かましいっわっ!!」
ベッドに座っていたアメリは、その修羅場をただ呆然として見ている事しか出来なかった。
そしてその後、ルイスとイグリードはジュリにこの自体に至った経緯を説明させられた。
もちろん、正座で。
「……という訳で、ルイ坊は覚悟を決めてアメリちゃんをお城に招待したという訳なんだ☆」
「招待じゃねぇ、誘拐でしょう、これは」
「う゛っ」
イグリードのルイス擁護の説明をジュリはバッサリと切り捨てる。
ルイスは慌てて補足した。
「誘拐だなんて!ちゃんとアメリの母君の承諾は得ましたよっ?結婚まで節度ある距離で接してくれるなら構わないとっ……」
その言葉にベッドの方からアメリの「えっ?」という声が聞こえた。
「アニスさんの?じゃあアメリちゃん本人の了承も得て城に連れて来たの?」
「……それは、ちょっと、魔法で眠らせてその隙に……」
「それを誘拐と言うんですっ!!」
「痛っ!」
ジュリは持っていた扇子でルイスの頭を叩いた。
そして大きくため息を吐いてアメリの元へと行った。
「ごめんなさい、アメリちゃん……とんでもないバカ息子で本当にごめんなさい……」
項垂れながら謝るジュリにアメリは慌てて言った。
「そんなっ、王妃様が謝られる事ではありませんっ……少し、いえかなり驚きましたけど……」
「そうよね、わたしも心底たまげたわ。
まさかこんな強硬手段を取るとは……あのバカ王子とバカ賢者は後で責任を持って始末しておくわね」
「「ヒィっ」」
ジュリの言葉にルイスとイグリードが震え上がった。
それを無視してジュリはアメリに言った。
「でもアメリちゃん、王都は3年ぶりくらいじゃない?せっかく来たんだからゆっくりしていって欲しいわ。娘たちも喜ぶし……どうかしら?」
アメリは考えた。
勝手に連れて来られたのは困るが、母もこの事を知っているなら余計な心配を掛ける事もないだろうし、もしかして王都に来るのはこれが最後になるかもしれない。
いや最後とは大袈裟かもしれないが、辺境のランバード領から王都にくる事はきっともう早々ないはずだ。
幼い頃から仲良くして貰った王妃や姫達と最後の交流をしてから帰っても遅くはないはずだと。
「はい、わかりました」
アメリの返事を聞き、ジュリは喜んだ。
そして今いる客間ではなく、最もルイスの私室から離れた部屋へと移された。
それに対してルイスが小さく抗議する。
(怖くて強くは言えない)
「母上っ!アメリと引き離されては彼女にプロポーズを受け入れて貰おう大作戦がし難くなるではないですかっ」
「同じ城に居るんだからいいでしょう。
そこは自分なりに頑張りなさい」
ジュリのその物言いに含みを感じたルイスがそっと尋ねる。
「母上、もしかして協力してくれようとか考えてます?」
ジュリはジト目で息子を見ながら答えた。
「…………わたしだってあなたの嫁は、あの子がいいとずっと思ってきたのよ」
「母上っ……!」
思いがけない母の言葉にルイスは感激した、が、釘を刺すように扇子でぺしりと頭を叩かれる。
「でもあなた、もう一つ、覚悟しておいた方がいいんじゃない?」
「へ?な、何をですか?」
「向こうのお父様、今は遠征中だけど、帰って来て娘が拉致られたと知った時には……怖いわねぇ~~?」
「ヒィっ!!」
それに対してイグリードが声高らかに告げた。
「大丈夫だよジュリ!もちろんルイ坊もそれは覚悟の上での決行だったんだから!例え腕の1本や2本を失おうとも、きっと立派に親父さんと対峙して漢を見せてくれるさっ☆」
「ヒィっ!?」
「……イグリード、今もしかして娘を嫁に出す父親の描いた小説とか読んでる?」
「あはは☆当たり!さすがはジュリだね。今は後宮の戦慄シリーズよりもホームドラマシリーズにハマってるんだ☆」
他国の王女が仕出かした呪いの一件から、ドロドロとした小説ばかり読んでいたイグリードだが、最近は趣向が変わったらしい。
まぁ要するに全て面白がっているのだった。
こうしてルイスのアメリを妃に迎えるぞ大作戦は始まったわけだが、
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