だから言ったのに! 〜婚約者は予言持ち〜

キムラましゅろう

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番外編

ジュリはどこだ!

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「ジュリ!ジュリはどこにいる!?」


アルジノンがジュリの自室へと
飛び込んで来た。


「……ジュリ様なら只今食後のお散歩に行かれました」

タバサが絶対零度の眼差しを向ける。


「うっ……何故知らせない?一人で散歩などと転んだらどうするのだ!」


「大賢者が一緒なのです。転ぶ筈がありません」

「またあの暇人と一緒なのか!ジュリは俺の妻なのに!」


アルジノンがソファーにあったクッションを殴って八つ当たりをしている。


「その妻より娼婦に夢中なくせに」

「ん?何か言ったか?」

「いえ、わたしは何も」

タバサがしれっと言った。


本当はジュリはこの部屋の中にいる。

食後のお茶を飲みながら

心穏やかに読者をしているのだ。


認識阻害魔法のために

ふたりは同じ空間にいても互いを認識出来ないのだ。


「なんかおかしくないか?一昨日から全然ジュリの顔を見ていないのだぞ?いつ訪れても何かしらの用事でいない。どう考えてもおかしいだろ!」


クッションに一発、
強烈な八つ当たりパンチが炸裂する。


「夜は普通に寝室で眠っておられますよ。
 あら殿下?ご存知ないのですか?」


「うっ……!」


何も言えないアルジノン。


それもそのはず、
愛妾疑惑が浮上する前からアルジノンは毎夜遅くに帰城して、
そのまま執務室横の仮眠室で眠っているのだから。


「殿下、近頃随分お忙しそうではないですか。
どこで、をなさっているのかは存じませんが、
誠意ある態度をお示しにならないと、
永遠にジュリ様にはお会い出来ないかもしれませんよ?」


「どういうことだ?誠意?」

「さあー?」


アルジノンは首を傾げながら
執務室へと戻って行った。


「ジュリ様」

「ん?どうしたのタバサ」

「殿下がお見えになってましたよ」

「……へぇそうなの」

「いつまでこのような事を
 続けるおつもりなのですか?」

「もちろん、出産するまでよ。もし出産してもジノン様の娼館通いが辞められなかったらもう一生かもね」

「ジュリ様……」

心配そうなタバサの顔。


ジュリはかなり意地になっていた。

アルジノンが娼婦の元に通っていたという事実が
まだ受け入れられていない。


顔を見れば絶対に酷い言葉で詰ってしまう。

もしかしたらそれで決定的な亀裂が生じてしまうかもしれない。

それが怖くもある。


〈あらあら
わたしも意外とヘタレチキンだったのね。
まぁ、いずれは嫌でも向き合ってやるわよ〉



でも……


やっぱり本当は寂しい。


顔を見たいし声も聞きたいし、
触れたいし触れて欲しい。


アルジノンの気配すら感じない世界に身を置き、
ジュリは初めて孤独というものを感じた。


でもまだ無理だ。


自分以外に肌に触れる事を許した彼を、まだ許す事が出来ない。


もしかしてこの先ずっと許せないかもしれない……。


王族が側妃や愛妾を持つなど
当たり前の世界なのに、
自分にはそれが受け入れられない。

〈わたしは、妃に向いていないのかも……〉


アルジノンを認識出来なくなって

不快な思いをしなくて済むようになったのに、

ジュリの心はますます曇ってゆくだけだった。



その頃、
アルジノンはイライラしていた。

とてつもなくイライラしていた。

何故ジュリに会えないのか。

城に居る事は間違いないらしい。

でも全く気配すら感じないのだ。

おかしい、何かがおかしい。

もしやあの暇人大賢者が何かしたのか。


かしたのは自分でしょ☆」

「わあっ!!」


その暇人大賢者が突然現れ、
アルジノンは思わず飛び上がった。


「あはは!凄い跳躍力!」

「笑うな!」

「どうしたの?イライラして」

「やかましい」


「アメリア準男爵未亡人」

「!!」

「キミが足繁く通ってるご婦人の名前だよね」

「な、な、何故それを!?」

「僕は大賢者だよ?なんでもお見通しさ」

「ぐぬぬ……大賢者めぇ」

「どうしてジュリに何も話さないの?」

「!ジュリはこの事を知ってるのか!?」

「さあ?でも知られたところで彼女に会うのはやめないんだろ?」

「……今の俺の状態には必要な女性ひとだからな」

「ふーん……、ま☆別にいいけどね、面白いから」

「お前っ…!やはり何かしているな!?」

「だってジュリに頼まれたんだもーん」

「ジュリに?ジュリが何を?」

「さあねー☆」

「あ!コラ待てバルク=イグリード!」


突然現れ突然消えたイグリードに
アルジノンは地団駄を踏んだ。

「何をしに来たんだあいつは!!」















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