上 下
33 / 43
番外編

ジュリはどこだ!

しおりを挟む
「ジュリ!ジュリはどこにいる!?」


アルジノンがジュリの自室へと
飛び込んで来た。


「……ジュリ様なら只今食後のお散歩に行かれました」

タバサが絶対零度の眼差しを向ける。


「うっ……何故知らせない?一人で散歩などと転んだらどうするのだ!」


「大賢者が一緒なのです。転ぶ筈がありません」

「またあの暇人と一緒なのか!ジュリは俺の妻なのに!」


アルジノンがソファーにあったクッションを殴って八つ当たりをしている。


「その妻より娼婦に夢中なくせに」

「ん?何か言ったか?」

「いえ、わたしは何も」

タバサがしれっと言った。


本当はジュリはこの部屋の中にいる。

食後のお茶を飲みながら

心穏やかに読者をしているのだ。


認識阻害魔法のために

ふたりは同じ空間にいても互いを認識出来ないのだ。


「なんかおかしくないか?一昨日から全然ジュリの顔を見ていないのだぞ?いつ訪れても何かしらの用事でいない。どう考えてもおかしいだろ!」


クッションに一発、
強烈な八つ当たりパンチが炸裂する。


「夜は普通に寝室で眠っておられますよ。
 あら殿下?ご存知ないのですか?」


「うっ……!」


何も言えないアルジノン。


それもそのはず、
愛妾疑惑が浮上する前からアルジノンは毎夜遅くに帰城して、
そのまま執務室横の仮眠室で眠っているのだから。


「殿下、近頃随分お忙しそうではないですか。
どこで、をなさっているのかは存じませんが、
誠意ある態度をお示しにならないと、
永遠にジュリ様にはお会い出来ないかもしれませんよ?」


「どういうことだ?誠意?」

「さあー?」


アルジノンは首を傾げながら
執務室へと戻って行った。


「ジュリ様」

「ん?どうしたのタバサ」

「殿下がお見えになってましたよ」

「……へぇそうなの」

「いつまでこのような事を
 続けるおつもりなのですか?」

「もちろん、出産するまでよ。もし出産してもジノン様の娼館通いが辞められなかったらもう一生かもね」

「ジュリ様……」

心配そうなタバサの顔。


ジュリはかなり意地になっていた。

アルジノンが娼婦の元に通っていたという事実が
まだ受け入れられていない。


顔を見れば絶対に酷い言葉で詰ってしまう。

もしかしたらそれで決定的な亀裂が生じてしまうかもしれない。

それが怖くもある。


〈あらあら
わたしも意外とヘタレチキンだったのね。
まぁ、いずれは嫌でも向き合ってやるわよ〉



でも……


やっぱり本当は寂しい。


顔を見たいし声も聞きたいし、
触れたいし触れて欲しい。


アルジノンの気配すら感じない世界に身を置き、
ジュリは初めて孤独というものを感じた。


でもまだ無理だ。


自分以外に肌に触れる事を許した彼を、まだ許す事が出来ない。


もしかしてこの先ずっと許せないかもしれない……。


王族が側妃や愛妾を持つなど
当たり前の世界なのに、
自分にはそれが受け入れられない。

〈わたしは、妃に向いていないのかも……〉


アルジノンを認識出来なくなって

不快な思いをしなくて済むようになったのに、

ジュリの心はますます曇ってゆくだけだった。



その頃、
アルジノンはイライラしていた。

とてつもなくイライラしていた。

何故ジュリに会えないのか。

城に居る事は間違いないらしい。

でも全く気配すら感じないのだ。

おかしい、何かがおかしい。

もしやあの暇人大賢者が何かしたのか。


かしたのは自分でしょ☆」

「わあっ!!」


その暇人大賢者が突然現れ、
アルジノンは思わず飛び上がった。


「あはは!凄い跳躍力!」

「笑うな!」

「どうしたの?イライラして」

「やかましい」


「アメリア準男爵未亡人」

「!!」

「キミが足繁く通ってるご婦人の名前だよね」

「な、な、何故それを!?」

「僕は大賢者だよ?なんでもお見通しさ」

「ぐぬぬ……大賢者めぇ」

「どうしてジュリに何も話さないの?」

「!ジュリはこの事を知ってるのか!?」

「さあ?でも知られたところで彼女に会うのはやめないんだろ?」

「……今の俺の状態には必要な女性ひとだからな」

「ふーん……、ま☆別にいいけどね、面白いから」

「お前っ…!やはり何かしているな!?」

「だってジュリに頼まれたんだもーん」

「ジュリに?ジュリが何を?」

「さあねー☆」

「あ!コラ待てバルク=イグリード!」


突然現れ突然消えたイグリードに
アルジノンは地団駄を踏んだ。

「何をしに来たんだあいつは!!」















しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!

はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。 伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。 しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。 当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。 ……本当に好きな人を、諦めてまで。 幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。 そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。 このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。 夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。 愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。

ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて

木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。 前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

年下の彼氏には同い年の女性の方がお似合いなので、別れ話をしようと思います!

ほったげな
恋愛
私には年下の彼氏がいる。その彼氏が同い年くらいの女性と街を歩いていた。同じくらいの年の女性の方が彼には似合う。だから、私は彼に別れ話をしようと思う。

もう尽くして耐えるのは辞めます!!

月居 結深
恋愛
 国のために決められた婚約者。私は彼のことが好きだったけど、彼が恋したのは第二皇女殿下。振り向いて欲しくて努力したけど、無駄だったみたい。  婚約者に蔑ろにされて、それを令嬢達に蔑まれて。もう耐えられない。私は我慢してきた。国のため、身を粉にしてきた。  こんなにも報われないのなら、自由になってもいいでしょう?  小説家になろうの方でも公開しています。 2024/08/27  なろうと合わせるために、ちょこちょこいじりました。大筋は変わっていません。

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

処理中です...