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第四章

これからも共に

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「……リ、……ジュリ」


ふふふ……

必ず来ると思っていたわよイグリード。


「わぁ待ち伏せされてた!?」


だってこのままお別れ、なんて事にはならないと思ったもの。


「さすがはジュリ、僕のコトちゃんとわかってくれてるね。8年という月日のキズナは深いよネ」


何言ってるの、
わたし達で壮大な暇つぶしをしたくせに。


「あはは!ごめんごめん。500年も生きてると、なんか普通の感覚が無くなるみたい」


でも貴方は人間よ?
それは忘れないで欲しい。
忘れたくないから人間に構うんでしょ?


「どうしてそう思う?」


うーん…どうしてかしら……
だって人間に興味がなかったら、
貴方ほどの人ならさっさと精霊界に行っちゃうと思うのよね。
それでもそうしないのは、人間界ここに居たいから、人間が好きだから、そうじゃない?


「……かもしれないね」


ねぇイグリード。


「何?」


わたし、嬉しかったのよ。


「何が?」


自分の信じた心の鍵を使って
未来へと進むようにと言ってくれた事。


「そんな事が?」


うん。
だって寂しいとか疲れたとかもう嫌だとか言ってる大賢者が、
わたし達の未来を応援してくれているのよ?それが嬉しくないわけないじゃない。


「そうなの?」


そうなのよ。
貴方のためにも面白い世界を作る一人として、頑張らなきゃって力が湧いてくる。



「ジュリが作る世界ならホントに面白そうだね」


ねぇイグリード。


「何?」


王都に引っ越して来ない?


「!」


ランバード領内でもいいって
お父さまも行ってたわ。

ジェスロも素敵な街だったけど、
近くに居てくれたらしょっ中会いに行けちゃうもの。


「……もしかして僕が寂しくないようになんとかしようなんて考えてる?」


考えてるわ。
昔ね、お父さまにお願いされた事があったの。


「ローガンに?」


もしイグリードが寂しい思いをしていたら、楽しい事をいっぱい教えてあげて欲しいって。その時はわからなかったけど、今思えばあの時からお父さまは貴方の事を心配していたのよ



「ローガンめ」


ねぇイグリード。
みんなで一緒に生きていきましょうよ。
きっと毎日楽しいわ。


「ジュリ、キミは優しいね」


イグリード?


「優しくて、そして残酷だ。
ジュリ、僕は死ねない人間なんだよ。キミと楽しい時間を過ごして、いずれキミがこの世を去った時、僕はまた孤独になる。一度味わった温もりから再び冷たい孤独な時間に叩き落とされる僕の気持ちなんて、キミには想像もつかないんだろうね」


イグリード……


「そんな思いをするくらいなら、これからも僕は一人でいいんだよ」



イグリード…………あなたもポンコツなのね。


「ポ、ポンコツ!?
 そんなの初めて言われたよっ!?」


だってそうじゃない。
どうして関わるのがわたしだけなの?
わたしの周りの人とは関わらないつもりなの?
わたしがこれから沢山生むだろう子ども達とは遊んでくれないの?
そしてその子ども達が大きくなって親になった時、またその子ども達と遊んでやってはくれないの?


「ジュリ……」


わたしは永遠には生きられないけど、
わたしは子どもを沢山生むつもりだから、わたしの生きた証は続いてゆくわよ~。
だから結果的にはずっと貴方と一緒にいる事になるわね。
半分はジノン様の成分だけど。


「ぷっ…あはは!そうなるね!」


でもジノン様成分が入ってるなら絶対面白い人間になると思うのよ。
だからイグリード、もう退屈しないと思うわよ?


「うん……そうだねジュリ、
 ありがとう……ジュリ」


イグリード……


「何?」


だからもう
これからは夢に出てくるのじゃなくて、
ちゃんと昼間の明るい時間に訪ねて来てね。
安眠妨害反対!
やっぱり眠りが浅くなって次の日ボ~っとするのよ。
これからは王太子妃として公務が増えるからしっかりしないといけないの。
ポンコツ王太子妃なんて言われたくないもの!


「……ハイ、わかりました。
 今までゴメンなさい」


ふふふ、よろしい。





結果としてイグリードは

王都には引っ越して来なかった。

ランバード領内にもだ。


ジェスロのあの家は師匠と暮らした大切な思い出のある家で、師匠のお墓もあの庭の一画にあるそうだ。

だからあの家からは離れたくないと
イグリードは言った。


でも神出鬼没、転移魔法が使えるイグリードは気が向いた時にしょっ中、
王宮やランバード邸に遊びに来るようになった。

彼特製の沢山のスイーツを携えて。




そうそう、
わたしがオリビア姫に呈した予言(?)の内容に、
『誠の道が開かれ、新たな日の光がさすであろう』とあったけど、
あの後グレイソンでは歴史的な遺跡が見つかったそうだ。
その遺跡は太古に使われていた塩を運ぶ道、『ソルトロード』というらしく、古い文献には残されていても今まで実物は発見されて来なかったそうだ。
それがついに見つかって、今やグレイソンは各国から訪れた学者や考古学マニアでごった返す、一大観光地へと変貌を遂げつつあるそうだ。
これでグレイソンの窮地も救われるだろう。
オリビア姫のほくそ笑む顔が目に浮かぶ。

……イグリードが何かしたのかしら?

それともやっぱり予言は正しく予言だった……?



そんな事を考えながらも
ドタバタと日々は過ぎてゆき、

明日はとうとう
わたしとアルジノン様との結婚式の日となった。




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