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第四章

ジュリさん、やらかしてました

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「ねえ、いつから?
いつからジノン様たちがニセ者に入れ替わったの?
もしかして最初にあの門扉をくぐった時から?」


アルジノン達がニセモノだと
気付いたジュリがイグリードに問いかける。



「どうしてそう思ったの?」


「門扉をくぐって庭に足を踏み入れた途端、何かが変わったと思ったのよ。身を置く世界が変わった?みたいな感覚がしたの」

「へぇ、キミにはそういうのがわかるんだね。ますます面白いなぁ。そうだよ、あの瞬間から、キミだけ違うフェーズへ飛ばした。
それにしても、どうしてニセ者だってわかったの?精霊絡みの完璧なイミテーションだよ?」


「だって、冷めたお茶を飲んだのよ?
我儘ジノン様は絶対にそんなお茶は飲まないもの。一番初めにもすぐにお茶に手を付けるし、その時からおかしいなとは思っていたの。
ねぇ、それよりみんなは!?ジノン様は無事なの!?」


ジュリは堪らずイグリードを問い詰めた。


「お茶の飲み方でバレるとはなぁ。なんか妬けるなぁ。他のみんななら大丈夫だよ。もとの世界でもう一人の僕が相手してるから」



「もう一人のイグリード?」


「魔術の方の力でね、分身したんだ♪意識は繋がってるから僕には向こうの様子がわかるよ、ってぶはっ!王子もキミがニセモノだって気付いた。でもその理由が匂いが違うだって!あはは!」


「………」

おいアルジノン。

だからいつも匂いを嗅ぐのはやめてくれって言ってるのに。

恥ずかしい……。



「キミたちはお似合いだね、来年には挙式だったっけ?」



「ええ、そうなの。何も起こらなければ」


「何?なんか含みを感じる言い方だね?」


「ねぇイグリード」

「何?」


「予言は正しく伝えられた、運命の鍵を握る王子はちゃんと貴方の元へ辿り着いた。それなら貴方は世界を壊すのをやめた、という事でいいのよね?」


「ふふ」

「……いいのよね?イグリード?」
 


「残念だけどジュリ、予言は正しく伝えられてないよ」


「えっなぜ?そんなはずは……」


「ジュリ、思い出して。僕は最初、キミになんて言った?」


「ええと……たしか……正しい時に正しい相手に予言を渡すように言われて……それと…王子の運命の相手を導き、その運命の相手が予言を渡すのを見届け……!あ」


「あ、だよネ☆
キミは、オリビア姫が王子に予言を渡している姿を見届けていない」


「で、でもアレは仕方ないと思うの、オリビア姫はジノン様と二人きりで予言を告げるのを望まれたし…!」

「僕と交わした最初の約束よりも優先すること?」

「……!」

「僕は言ったよね?
予言を正しく渡さないのもアウトだよって」


「アウ……ト?」


「そう、アウト」


〈わたし、やってしまった……?


わたしのせいで世界は終わってしまうの?

わたしのせいで、みんなが……?〉


ジュリは自分の唇から血の気が引いていくのを感じていた。


〈どうしよう。どうすれば。どうすればみんなを助けられる?〉



「キミは予言を正しく渡せなかった。

だから3人目は現れない。どうする?ジュリ」


〈どうするって……?どうすれば……?〉



ジュリは必死に考えた。

ぐるぐるぐるぐる考えた。


〈ダメだ、ショックで頭が働かない……。

どうすればいい?

ジノン様……〉




「ジュリ」

イグリードが呼んだ。



「とりあえず、王子やみんなの所に戻ろうか」



「……え?」とジュリがつぶやいた瞬間、またあの感覚がした。


次元が変わったというか

空間が変わったというか


まただ……

と思ったその時、



ガシャンバリーンッ
陶器のような物が激しく打ち付けられて、粉々に割れる音がした。


「!?」


ジュリは思わずビクッと肩を竦める。


よく見ると床には

水玉模様のティーカップが落ちて、

無残に割れて粉々になっていた。


〈水玉模様のティーカップ……!〉



そしてその後アルジノンの怒り狂う声がジュリの耳に届いた。



「っふざけるなっ!!そんな条件、認められるわけがないだろうっ!!」

「殿下っ……!!落ち着いてください殿下っ……!!」



怒りで逆上したアルジノンと、それを必死に止めようとしているセオドアの姿が
ジュリの目に飛び込んで来た。


〈ジノン様どうしたの?何をそんなに怒っているの?〉


「予言が正しく渡されなかったからといって!世界を滅ぼさない条件としてジュリを差し出せなんてっ!許せるわけがないだろうがっ!!」


〈……!〉



イグリードは笑いながら言う。

「だって仕方ないじゃないか、そういう賭けだったって言っただろ?でもジュリを僕にくれれば世界は滅ぼさないって言ってるじゃないか」

「それが許せないって言ってるんだっ!!」


アルジノンは今にもイグリードに飛び掛かりそうな勢いだった。
怒りで髪が逆立ちそうなくらいだ。


〈怒ってる。ジノン様が怒ってる。
わたしを渡したくないって怒ってくれてる〉


こんな時なのに
少し嬉しいなんて、
わたしもバカだなぁとジュリは思った。



「!ジュリ様っ……!」

タバサがジュリに気づいて駆け寄って来た。


そしてジュリの手を握ってくれる。



「っ!ジュリ……!」

アルジノンがジュリを見た。


「……ジノン様」

アルジノンの名を口にした瞬間、

ジュリはもうダメだった。


ジュリの目からぼろぼろと涙が溢れ出る。


アルジノンは何も言わず

ゆっくりジュリの側まで歩いてくる。


そしてそっと抱きしめてくれた。


ジュリもゆっくりと抱きしめ返す。


「ジノン様、ごめんさない。わたし、失敗してしまいました…っごめんなさい」


「何を言うっ、ジュリはいつでも正しいぞ!失敗は俺の専売特許だっ、ジュリはいつも正しくて偉いんだ!だから謝る必要はないっ……!」


「ジノン様ぁ……」

ジュリは泣いた。

わんわん泣いた。

自分のせいで世界が終わるなんてダメだ。

でもやっぱり、結ばれるならアルジノンが良かった。


だけど、自分のミスは自分で責任を取らなくてはいけない。

そして自分のミスで他者が犠牲になる事なんてあってはならない。


これが国境騎士団の正騎士たちの矜持だ。

ジュリもいつもそれを心に刻んで生きてきた。


イグリードの元に残ろう。

それで許して貰おう。

これからも
みんなの暮らしが変わらずあるように。


わたしもここで、見つめてゆこう。



そう覚悟を決めてアルジノンから身を離そうとした。

が、アルジノンがジュリをぎゅうぎゅう抱きしめてきて身動きが取れない。



「ちょっ……ジノン様っ、苦しいです、離して下さいっ……!」

「嫌だ!!離すものか!離したらジュリを失うんだろ!?だったら絶対に離さないぞ!イグリードが世界を滅ぼすように、俺だってジュリを失ったら大陸中の国を蹂躙してやる!!」

「ちょっ……苦し過ぎて、今すぐわたしが天に召されますっ……!」


「嫌だ!絶対に嫌だ!!俺に我慢スキルはないと言ってるだろう!!」

「王太子が自慢する事ですか!」

「知るか!ジュリがここに残るなら俺も残る!!王太子なんか辞めてやる!!」

「何が王太子を辞めるですか!じゃあ次の王様は誰がなるんです!?」

「安心しろ!我が王家には傍系もある!
優秀なイトコ達がわんさかだ!!」

「ちゃんと直系のジノン様がいるのに許されるわけないでしょう!」

「許すも許されるもない!俺は押し通すぞ!!」

「もう!我儘王子!!」

「我儘上等!!真の我儘道を貫いてやる!!」

「なんだそれは!」

「鍵は俺の心の中にあるんだろ!?その鍵を使って半身ジュリと共に未来への扉を開くんだろ!?だったら俺は、俺の心のままに動く!!」



その時
堪らず、といった笑いが吹き出された。

「ぶはっ!!
あーはっはっはっ!面白い、面白いよ二人とも……!」


イグリードがジュリとアルジノンのやり取りを見て大笑いし出したのだ。


くっくっくっ…!
ひっひっひっ…!
どわーーーっはっはっ!

と、実に豊富な笑いのバリエーションを披露してくれた。

そしてひとしきり笑い終えた後、
イグリードは二人に向かって言った。


「いいよ、いいよ、二人セットでここに居なよ。そういえばジュリが最高に面白い時って、いつも王子が側に居たもんね。毎日僕に夫婦マンザイを見せてよ」


イグリードはかなりご満悦な様子だ。



マンザイ……なんだソレは?と問い正そうと思ったその時、


聞き覚えのある声が聞こえた。



「我が国の次期国王を唆すのはやめていただきたい。彼は見えても優秀な世継ぎなんだ」



まさか……

何故ここに?


ジュリはその声の主の姿を見ても俄には信じられなかった。


「バルク、調子にノリ過ぎじゃないか?
娘を泣かせるなんて、ひと言も聞いてなかったぞ」


アルジノンの声と同じく、

その声を聞くだけで安心する。


ジュリの大好きな声、大好きな人。


「お父さま……?」



ジュリの父親

ランバード辺境伯ローガン、その人の登場に

誰もが呆然と立ち尽くすしかなかった。




























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