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第四章

四月末日

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アルジノンはランバード領で一泊した後、ジュリを連れて城へと戻った。


別れの手紙まで書いて皆と別れたというに
すんなり出戻って来て、
ジュリは少々気不味さを感じていたがそんな事は
杞憂に終わった。

城の皆が歓喜の声を上げてジュリを出迎えてくれたのだ。

拍手喝采、万歳三唱、恐縮してジュリが居た堪れなくなるほどの歓待だった。


でも本当にありがたい。

それにやっぱり城の中は落ち着く。

あぁ、
もう自分の家はここなんだなと強く思わされる。


帰ってこれて本当に良かった、

アルジノンが迎えに来てくれて本当に嬉しかった、

ジュリは心からそう思った。


タバサはアルジノンの様子からジュリが絶対に戻って来ると確信し、

部屋を変わらず整えて待っていてくれた。

そしていつもと変わらず温かく迎えてくれる。

それが嬉しくてジュリは思わずタバサに抱きついた。

後ろでアルジノンが
「うわっ俺を差し置いて…おのれタバサ……」

と唸っていたが無視した。


失ったと思っていた日常が戻り、

ホっとしている間もなく

放置されていた結婚式の準備に追われたが

それはそれでやっぱり幸せだった。



オリビア姫は

出戻ったジュリを見て、

表立ってはただ笑顔で
「お早いお戻り、心からお喜び申し上げますわ」
とだけジュリに告げた。

〈内心どう思っているのかはわからないけど、心配したほどは憎まれていないのかも。よくわからないけど〉




城に戻ってからのアルジノンは
鬱陶しいくらいにジュリの側から離れない。

しかも執務室のデスクをジュリの部屋に運ぼうとしたので
丁重に足で追い返した。


双眼鏡で人を覗くのも相変わらずで
一向にやめようとしないので、
今度は対物レンズを黒く塗って何も見えなくしといてやった。


全てがかけがえのない愛おしい日々。


そんな日々をドタバタと過ごしているうちに
四月末日が訪れた。




オリビア姫の希望で
予言を呈する場所はオリビア姫が滞在する客室で、という事になったようだ。


ジュリは気になって仕方ないが、
こればかりは出しゃばれない。

何か忘れているような気もするが、

落ち着かない気持ちの方がまさって
深く考えられなかった。


そろそろアルジノンが
オリビア姫の部屋へ向かう頃だ。

どんな予言なんだろう。

世界の存亡に関わる予言よね?


そわそわと落ち着かないジュリのために

タバサがカミツレのお茶を淹れてくれたので、
有り難く戴いて気分を鎮める事にしたジュリであった。





その頃、

アルジノンはオリビア姫の部屋の扉の前で立っていた。


〈これが済めばオリビア姫は帰国してくれるだろうか……〉


予言についてではなく
そんな事を考える。


セオドアがアルジノンの前に先ん出て扉をノックすると、

ややあってオリビア姫の侍女の一人が扉を開ける。


促されてアルジノンが入室すると、

オリビア姫は全員に退室を命じた。



「なぜ皆を?」

アルジノンが眉を顰めると


「予言は他者には聞かせられない内容です」


と言われたので、それに従うしかなかった。




皆が退室し、

部屋にはアルジノンとオリビア姫の二人だけとなる。



不用意に距離を詰めまいと気を使うアルジノンにオリビア姫は
ふ、と微笑んだ。



「そんなに警戒なさらずとも、何も企んでなどおりませんわ。わたくしとて、イグリードに選ばれた者。務めは誠実に果たしたいと思います」


「それは重畳」


「でも……」


こういう時の女の「でも」に碌なものはない。

しかしそれを知っているほどアルジノンは永く生きているわけではなかった。


わかっていれば、
オリビア姫が言い出す前に打開策や迂回ルートを用意出来たであろう……。



「でも、わたくし、アルジノン様の事を本当にお慕いしてしまいましたの」


「え?」


「貴方がジュリ様の事を心から愛している事は理解いたしました。されど、理解したからといって、この気持ちが消えて無くなるわけではありませんわ」


「何が言いたいのです……?」


アルジノンが身構える。


オリビア姫は綻ぶような美しい微笑みを浮かべながらアルジノンの元へと歩み寄ってくる。



「せめて美しい思い出が欲しいのです」


「思い出?」



「わたくしにキスをしてください。大人の男女がするような。そうしたら予言をお渡しいたしますわ」



「…………は?」




アルジノンの額にじわりと汗が滲んだ。












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