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第三章
王太子、強か姫と渡り合う
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視察旅行3日目
アルジノンはグレイソン公国の姫、
オリビア=グレイソンを連れて視察途中で立ち寄る事になっていたハイラム最大の湖へと来ていた。
前日にジュリが消えたと報せを受け、
本当ならば今すぐにでもジュリの元へ駆けつけてスライディング土下座で許しを請いたいアルジノンだが、
彼にはオリビア姫から予言を受け取るという使命があった。
もうすぐにでもとっちめて
締め上げて予言を吐かせたいところだが、
強かなオリビア姫の事だ
予言の内容を偽られても厄介だし、ハイラムに不利な条件を突きつけられても困る。
王太子であるからには国益を損なう事態は避けねばならない。
(ジュリに対してはポンコツなアルジノンだが、政務に関してはちゃんと王太子しているのだ☆)
昨日、
側近のセオドアとも色々と策を練ったが
結局はオリビア姫が予言に対してどんな考えをもっているのかがわからなければ策の打ちようがないという結論に至った。
話し合う中で道を見つけてゆくしかない。
〈さてどう切り出すか……〉
アルジノンは機を伺っていた。
「アル!見てください!今魚が跳ねましたわ」
オリビア姫は湖面を見て無邪気にはしゃいでいる。
アルジノンはそれを後ろで笑みを貼り付けて見ていた。
〈……“アル”と呼んでいいと許した覚えは一度もないんだが〉
「グレイソンにも湖はあるのでしょう?」
「グレイソンは山国ですから、ここまで規模の大きい湖はありませんの」
アルジノンはとびっきりの王太子スマイルを貼り付けて言った。
「そうでしたか。それではこの交換大使の良き思い出として、しっかりと目に焼き付けてグレイソンにお持ち帰りください」
〈もう脅しに怯える必要はないからな!〉
その言葉を聞き、
オリビア姫は泰然として言った。
「わたくし、このままハイラムに残っても良いと考えておりますのよ」
「……それは何故かお聞きしても?」
「だって、わたくし達は運命で結ばれた者同士なのですもの。これからは大使としてではなく、将来の妻として接して下さってもよろしいんですのよ」
オリビア姫はアルジノンの隣に立ち、そっと腕に手を回す。
アルジノンの肩に頭を寄せ、上目遣いで見つめてくる。
それをアルジノンは笑顔を貼り付けたままそっと腕を外し、オリビア姫から離れた。
「……何故、貴女を将来の妻として接せねばならないのです?私には婚約者がいるというのに」
アルジノンが身を離した事を不思議そうに見ていたオリビア姫だが、
誰もが見惚れるであろう微笑みでアルジノンに告げた。
「だってわたくしはアル、貴方の運命の相手なのでしょう?わたくし達は結ばれるべくして出会ったのですわ」
「それは誰が決めた事です?」
「それはもちろんイグリードが。彼がそう言っていたらしいではないですか」
「ではそのイグリードは何者です?彼は神ですか?」
「か、神ではないでしょうが、大賢者と呼ばれる人ですし、何より500年も生きているのよ、人智を超えた、神に近い力があるのでしょう」
それを聞き、アルジノンは首を振った。
「彼は元々は一介の魔術師に過ぎません。それが精霊に見染められ、力を与えられた。朽ちない体と魔術プラス精霊の力。確かに彼は万能かもしれない。でも、神ではない」
「……何が言いたいのです?」
「彼に先見の明があり、それを実行に移せる異能があるのは認めます。でも、だからといって、人の心まで意のままにする事は出来ない」
アルジノンは遠く湖を見つめた。
「私にはジュリしかいない。彼女を本当に愛してる。それは何年経とうとも、運命の相手と呼ばれる貴女と会っても変わる事はなかった。きっとこれは、イグリードも予言出来なかった事だ」
今ちょっと失いかけてるが。(泣)
「……!」
「私との婚約を嫌がる彼女を口説き落とす時に言ったのですよ、予言なんか覆してみせると。そしてそれは現実となった、と私は思っています」
「……わたくしとの運命を選ばないということ?」
「はい」
「それに気を悪くしたわたくしが予言を渡さない、とは思いませんの?」
「思いませんね、あなたは祖国思いの人だから」
「どういうことです?」
「オリビア姫の夢の中にイグリードが出て来た事はありますか?」
「あるわけありませんわ、貴方は?」
「私もありません、
でもジュリは一度だけあるそうです」
「そうなんですの?」
「ジュリはイグリードが予言の日を忘れていないかを確かめに来たと言っていました」
「確かめ……そんな事までされるんですの?」
「ジュリはそそっかしいですからね、
イグリードも心配になったのでしょう。しかしそれは、それだけ予言の事をイグリードが重要視しているという事です。
もし、それほど重要な予言を告げなかったり、内容を偽ったり、尚且つ私的な交渉の手段なんかに用いれば……それこそ人智を超えたイグリードの報復があるかもしれない。それがグレイソン国土や国民に害が及ばないとは言いきれない」
「!……わたくしを脅す気ですの?」
「脅す?おかしな事を仰る。誇り高きグレイソンの姫君が予言を偽るなんて詐欺紛いの事はなさらないでしょう。それなら何を恐れる事があるのです」
「と、当然ですわね」
「ジュリが貴女に呈した予言の内容は私にはわからないが、彼女はきちんと役目を果たした。グレイソン公国公妹である
貴女もそうだと信じてもよろしいですよね」
「も、もちろんですわっ」
ここへきてアルジノンは
今日一番の笑顔を見せた。
「ではイグリードの予言、私に呈していただけますね?」
勝ったと思った。
上手くいったと思った。
プライドの高いオリビア姫の事だ
この後に及んで偽りを述べたり、交渉の材料にしたりはしないだろう。
しかし次に発したオリビア姫の言葉に、
アルジノンは肩を落とす事になる。
「今、予言を呈する事は致しません」
「え?何故です!?」
「だって、予言を呈する日が定められておりますもの。他ならぬ貴方のジュリ様がわたしに告げたのよ。4月末日、それまでは申し上げられませんし、もちろん国には帰りません。このままハイラムに滞在させていただきますわ」
「…………え“」
オリビア姫が満面の笑みを浮かべる。
ヘタレチキン、
現状の打開ならず☆
アルジノンはグレイソン公国の姫、
オリビア=グレイソンを連れて視察途中で立ち寄る事になっていたハイラム最大の湖へと来ていた。
前日にジュリが消えたと報せを受け、
本当ならば今すぐにでもジュリの元へ駆けつけてスライディング土下座で許しを請いたいアルジノンだが、
彼にはオリビア姫から予言を受け取るという使命があった。
もうすぐにでもとっちめて
締め上げて予言を吐かせたいところだが、
強かなオリビア姫の事だ
予言の内容を偽られても厄介だし、ハイラムに不利な条件を突きつけられても困る。
王太子であるからには国益を損なう事態は避けねばならない。
(ジュリに対してはポンコツなアルジノンだが、政務に関してはちゃんと王太子しているのだ☆)
昨日、
側近のセオドアとも色々と策を練ったが
結局はオリビア姫が予言に対してどんな考えをもっているのかがわからなければ策の打ちようがないという結論に至った。
話し合う中で道を見つけてゆくしかない。
〈さてどう切り出すか……〉
アルジノンは機を伺っていた。
「アル!見てください!今魚が跳ねましたわ」
オリビア姫は湖面を見て無邪気にはしゃいでいる。
アルジノンはそれを後ろで笑みを貼り付けて見ていた。
〈……“アル”と呼んでいいと許した覚えは一度もないんだが〉
「グレイソンにも湖はあるのでしょう?」
「グレイソンは山国ですから、ここまで規模の大きい湖はありませんの」
アルジノンはとびっきりの王太子スマイルを貼り付けて言った。
「そうでしたか。それではこの交換大使の良き思い出として、しっかりと目に焼き付けてグレイソンにお持ち帰りください」
〈もう脅しに怯える必要はないからな!〉
その言葉を聞き、
オリビア姫は泰然として言った。
「わたくし、このままハイラムに残っても良いと考えておりますのよ」
「……それは何故かお聞きしても?」
「だって、わたくし達は運命で結ばれた者同士なのですもの。これからは大使としてではなく、将来の妻として接して下さってもよろしいんですのよ」
オリビア姫はアルジノンの隣に立ち、そっと腕に手を回す。
アルジノンの肩に頭を寄せ、上目遣いで見つめてくる。
それをアルジノンは笑顔を貼り付けたままそっと腕を外し、オリビア姫から離れた。
「……何故、貴女を将来の妻として接せねばならないのです?私には婚約者がいるというのに」
アルジノンが身を離した事を不思議そうに見ていたオリビア姫だが、
誰もが見惚れるであろう微笑みでアルジノンに告げた。
「だってわたくしはアル、貴方の運命の相手なのでしょう?わたくし達は結ばれるべくして出会ったのですわ」
「それは誰が決めた事です?」
「それはもちろんイグリードが。彼がそう言っていたらしいではないですか」
「ではそのイグリードは何者です?彼は神ですか?」
「か、神ではないでしょうが、大賢者と呼ばれる人ですし、何より500年も生きているのよ、人智を超えた、神に近い力があるのでしょう」
それを聞き、アルジノンは首を振った。
「彼は元々は一介の魔術師に過ぎません。それが精霊に見染められ、力を与えられた。朽ちない体と魔術プラス精霊の力。確かに彼は万能かもしれない。でも、神ではない」
「……何が言いたいのです?」
「彼に先見の明があり、それを実行に移せる異能があるのは認めます。でも、だからといって、人の心まで意のままにする事は出来ない」
アルジノンは遠く湖を見つめた。
「私にはジュリしかいない。彼女を本当に愛してる。それは何年経とうとも、運命の相手と呼ばれる貴女と会っても変わる事はなかった。きっとこれは、イグリードも予言出来なかった事だ」
今ちょっと失いかけてるが。(泣)
「……!」
「私との婚約を嫌がる彼女を口説き落とす時に言ったのですよ、予言なんか覆してみせると。そしてそれは現実となった、と私は思っています」
「……わたくしとの運命を選ばないということ?」
「はい」
「それに気を悪くしたわたくしが予言を渡さない、とは思いませんの?」
「思いませんね、あなたは祖国思いの人だから」
「どういうことです?」
「オリビア姫の夢の中にイグリードが出て来た事はありますか?」
「あるわけありませんわ、貴方は?」
「私もありません、
でもジュリは一度だけあるそうです」
「そうなんですの?」
「ジュリはイグリードが予言の日を忘れていないかを確かめに来たと言っていました」
「確かめ……そんな事までされるんですの?」
「ジュリはそそっかしいですからね、
イグリードも心配になったのでしょう。しかしそれは、それだけ予言の事をイグリードが重要視しているという事です。
もし、それほど重要な予言を告げなかったり、内容を偽ったり、尚且つ私的な交渉の手段なんかに用いれば……それこそ人智を超えたイグリードの報復があるかもしれない。それがグレイソン国土や国民に害が及ばないとは言いきれない」
「!……わたくしを脅す気ですの?」
「脅す?おかしな事を仰る。誇り高きグレイソンの姫君が予言を偽るなんて詐欺紛いの事はなさらないでしょう。それなら何を恐れる事があるのです」
「と、当然ですわね」
「ジュリが貴女に呈した予言の内容は私にはわからないが、彼女はきちんと役目を果たした。グレイソン公国公妹である
貴女もそうだと信じてもよろしいですよね」
「も、もちろんですわっ」
ここへきてアルジノンは
今日一番の笑顔を見せた。
「ではイグリードの予言、私に呈していただけますね?」
勝ったと思った。
上手くいったと思った。
プライドの高いオリビア姫の事だ
この後に及んで偽りを述べたり、交渉の材料にしたりはしないだろう。
しかし次に発したオリビア姫の言葉に、
アルジノンは肩を落とす事になる。
「今、予言を呈する事は致しません」
「え?何故です!?」
「だって、予言を呈する日が定められておりますもの。他ならぬ貴方のジュリ様がわたしに告げたのよ。4月末日、それまでは申し上げられませんし、もちろん国には帰りません。このままハイラムに滞在させていただきますわ」
「…………え“」
オリビア姫が満面の笑みを浮かべる。
ヘタレチキン、
現状の打開ならず☆
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