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第三章

王太子、半月板など気にならないほど後悔する

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「は?……ジュリが城からいなくなった?」


視察旅行2日目

城から火急の報せを受け、

俺の目の前は真っ暗になった。


「な、な、な……何故だ……どういう事だ?」


俺は力無く城からの使者にそう言った。

人間、あまりにもショックな事が起きるとパニックを起こす力も無くなるらしい。


「誘拐か……?何か事件に巻き込まれたのか?」

さっきから己の鼓動がうるさい。

嫌な汗も次から次へと吹き出してくる。


俺の問いかけに返事をしたのは

既に先に使者から事の次第を事細かに聞いたであろう、
俺の側近のセオドアだった。

「ジュリ様は婚約解消の為の法的手続き関係の書類や、各方面への自筆の手紙などを残されておられます。これはジュリ様のご意志で出て行かれたのかと……」


ジュリの意思?

何故だ、どうして?

オリビア姫が運命の相手だとジュリには気付かれていないはずだ。

それなのに何故消える必要がある?

婚約解消の書類?

ジュリの意思?

何故だ……何故だ。


何の言葉も出て来ない俺に
セオドアが冷静な声で話しかける。


「丁度都合が良いではありませんか。殿下は既にオリビア姫と相思相愛なのでしょう?こちらから婚約解消を言い渡す手間が省けて良かったではありませんか」


温度を全く感じないセオドアの声に、
俺は疑問を投げかける。


「丁度よい……?相思相愛?何の事だ?」

「殿下、隠さなくてもよろしいのです。私は既にジュリ様から全てお聴きしております。私個人としての考えではありませんが、オリビア姫様が殿下の運命のお相手であるなら、心変わりもいた仕方ないないのではないでしょうか」


は?心変わり?

いやちょっと待て、

それ以前に

「っジュリから聴いた!?ジュリはオリビア姫が俺の運命の相手だと言ったのかっ!?」

急に声を荒げた俺に
セオドアは驚いていたが、すぐに返事を返してきた。


「は、はい。ジュリ様はイグリードから殿下の運命のお相手の容貌を告げられていたそうです。髪の色と瞳の色、そして同じ年の生まれ、オリビア姫が運命の相手だと判断するには十分かと。ですのでジュリ様は……っ殿下っ!?」


俺は膝の半月板が砕け散る勢いで
膝から崩れ落ちた。


な、な、何てことだ……

ジュリは最初からわかっていた……?


それなら俺がやっていた行動は

ジュリからすればただの裏切り行為ではないか。

[ジュリを避け、

オリビア姫を保護し、

いつも見守るように側に寄り添う]

でも真実は、

[ジュリに悟られないように逃げ回り、

オリビア姫を隔離し、

勝手に暴露しないか常に見張る]

なのに!!


……詰んだな、俺。


ジュリがこんな状況の中でいつまでも我慢している筈がない。

役目の為に我慢して城に居ただけで、

役目が終わればさっさと俺を見限って次へ進むに決まってる。


いや、待てよ、


ジュリが城から去ったというならば
既に役目を終えた……?

ジュリがイグリードの予言を呈するのは
俺の運命に関わる相手だと言っていた、
それすなわちオリビア姫……。


ジュリは既にオリビア姫に
予言を呈した!


あぁぁぁぁ!
これはいかん、これはいかんぞ。

それならもう既にジュリの中では
“終わった事”カテゴリーに分類済みだ!


マッハで見つけ出して
史上最高の土下座をして許しを請わねばならん!!

足にしがみ付いて泣き喚いて縋りついて捨てないでくれと頼まねばならん!!

靴を舐めろと言われたら舐めるし、
3回回ってギャオスと鳴けと言われればギャオスと鳴く!

ヤキソバパンを買いに行けと言われた買いに行くし、
世界の中心で愛を叫べと言われたら……以下略

なんとしてでも
ジュリを取り戻す所存!!



……でもその前に片付けてなければならない案件がある。


あの女の事だ。

素直に従ってくれればいいが。

ここは一つ、

策を立てて挑まねばならん。


ていうか、
失敗して時間をかけてる場合じゃない。


速攻で終わらせて速攻でジュリを探す!



「セオドア、二人だけで話がある。人払いを」

「?……は、はい」



待ってろジュリ。
いえ、待っていてくださいジュリ様。

お願いします、

どうか俺を見捨てないでくれぇぇ…!










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